閑話:きゅうけいさんはクリスマス会をしたい
ちょっと時を遡って、みんながブライトエルフの集落に行く前の間のお話。
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「……今日の日付、ですか?」
「うん。冬なのは分かってるんだけど、具体的に日付が分かるものがあるかなーって」
肌寒い山間部の竜族の村でも、特に寒さを強く感じる季節。
もこもこコートが可愛らしいシルヴィアちゃんに、あまり意識しなかったけどふと気になったことを聞いてみた。
なんといってもこの世界、間違いなく日本のゲームから派生した世界。
日本語だし、メートル法だし、大さじ小さじだもの。
一日24時間なら、間違いなく一年は365日。カレンダーは普通の暦を使っているはずである。
そしてその予想は当たった。
「もちろんありますよ? 魔法で【カレンダー】です。むしろ知らないことに驚きました」
そのまんまカレンダーでしたーっ!
「わーっありがとう! 【カレンダー】っ!」
そして魔法を使用した私の目の前に、ステータス画面の要領で日付が表示された。
その日付が、不意打ちすぎてびっくりした。
『 2254年12月24日 』
「クリスマスじゃん!?」
「クリスマス? クリスマスって何ですか? 魔族か何かの……ああいえ、ヤマトアイランドあたりのイベントですか?」
ああそっか、いきなりクリスマスって言われてもキリスト教じゃないんだもの。そりゃわかんないですね。
しかし2254年ですか。当たり前だけどすんげー適当な数字というか、まあ現代日本の未来ってわけでもなんでもない世界観での年ってことだね。
「クリスマスっていうのはね、この世界を作った神様……えーっと、宗教的には……まあどっちでもいっか。とにかく人間の神様に、神様ありがとー! って気持ちを込めて、家族と一緒にお祝いする日なんだよ!」
恋人との夜という部分は伏せる。本来そんな意味じゃないらしいし、なんといっても元の世界でも縁なかったからね! まあ神様に感謝する日って、本来しっとりしてるもんだと思うし。
私にとってクリスマスイブってのは、ウィッシュリストにあるゲームのクリスマスセールがある日で、翌日ぐらいにケーキやチキンが安くなる日でしかないのだ。
「わぁっ、楽しそうですぅ!」
エッダちゃんが乗った! ニコニコエッダちゃんの満面スマイルをハグしながら、お腹に当たる柔らかさとともに私の中でクリスマス会を行うことが強い意志で決定されたのであった。
シルヴィアちゃんは、なんとも苦笑い。
「きゅうけいさんらしいというか、人間の神様に感謝を捧げる魔王って面白すぎますね……」
「まーまー、こういうのは口実なんだよ。なんでもいいから盛り上がれる日を作りたいの。だからクリスマスってのも、結構派手にハッピーな感じで町中で祝われたりしたよ。こっちの人間にはそういうのないの?」
「一月一日が『主顕拝』という、神への祈りを捧げるというものを人間の街で教会中心にやっているぐらいですかね」
「……国民全員のなんとか記念日みたいなのは? 祝日は?」
「記念日、ですか? ないと思いますけど……」
なんてこった。この世界には祝日がない!
オーノー! これでは働き過ぎになってしまう!
これは、人類の休憩時間を大切にする怠惰の女神きゅうけいさんとしては聞き逃せない話ですよ!
女神じゃなくて魔王だけど、それは誤差みたいなもん。
無理がある? ですよねー。
「もっとお休みする日がないと、みんな働き過ぎちゃう! 週五日働いて毎月残業で五百時間労働なんて、やっぱり多いんだよ! 休む口実が必要!」
「……え? 週にそんなに働く人いないですし、一日に働くのなんてダンジョン潜りでもしない限りは長くて六時間ぐらいじゃないですか? 毎月数百時間なんて仕事がないですよ」
「あ」
そ、そーでした、日本基準で考えちゃダメでしたね……。
やっぱ祝日なくてもこの世界は大丈夫でした。
「ってなわけで、エッダちゃんも乗り気だし、今日はクリスマス会をします」
「まあ、いいですよ、面白そうですし。あたしは何をすればいいでしょうか」
「なんもしなくていいよー。でも、そうだなあ……何かしてくれるというのなら、広い屋敷に知り合いを集めたいね。晩はそこで食べるから、んーと……」
私はリストアップした人たちをシルヴィアちゃんとエッダちゃんに言った。二人はそれを聞くと、一緒に仲良く手を繋いで歩き出した。
美少女の仲良し手繋ぎ、眼福眼福ありがたや……。
「あっ、また何やらあの妙なポーズを……」
「えへへ、なんでしょうかねぇ?」
エッダちゃんが楽しげに笑いながら、こちらに向かっておててをあわせてすりすりしてる。うへへ~ありがたがられちゃいましたね~。
あんなに可愛い子にお祈りポーズされております。やっぱり私、崇められる系女神様ってことでひとつ。
さてさて、ここでゆっくりオリーブオイルのセールスマンやってないで、自分の方の準備にとりかかりますかね。
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まずは食材になる鶏肉……ではなくて、せっかくなので七面鳥にしようそうしよう。本国の方ではターキーでするって聞いてた。
……そうしたいところなんだけど、似たような食材がないんだよねー。
牛肉とか豚肉とか、現実世界の動物がそのままあったり、魔物の肉が食用だったり、このあたりいろいろ混ざっててルールちょーっとわかんないね。全く同じ動物がピンポイントで存在しない場合も多い。
ま、こういうゲーム世界というか異世界、肉はばらばらだけど、野菜はないと成り立たない味が多いからちゃんと似たものあるもんね。よくある話。
だから鶏肉はあるし鶏卵もあるけど……七面鳥は完備されてない。
ってわけで、七面鳥の代わりに使うお肉をいくつか調達。
「しかしそれが、まさかまさかのワイバーンだったとは」
翼の生えた下位竜ことワイバーン。
化石の研究により恐竜が羽毛の生えていた生物だとか、やっぱり鱗だったとかそんな衝撃的な話は置いておいて。
鳥って結構恐竜っぽいというか、そんな見た目なんだよね。
そして、恐竜は爬虫類から鳥っぽい感じ。
つまり、そんな感じの味ってことなのだ。
北エイメラ大陸で獣人のパトリシアママも、時々のごちそうにしていただけあってワイバーン肉はとてもおいしい。
グレードアップした鶏肉って感じだ。
蛙肉とかも鶏肉っぽかったもんね。食べてみたけど意外と食べやすい味でびっくりしたよ。
動物、大体なんでも焼いたら食べられる説。
ちなみに竜族の人たちは、ワイバーンは同族という扱いではないみたい。
そのへんトゥーリアさんに聞いてみたんだけど、『人間だって二足歩行のミノタウロスとか食べるだろ?』という返事をもらった。
そっか、ミノタウロスと人間ぐらいの差なんだ、ワイバーンとドラゴン。
ちなみにミノタウロスは思いっきり黒毛和牛味でした。
だからワイバーン肉が好物のドラゴンの感性は普通です。
モンスター料理おもしろい、そのうちのんびり研究したい。
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さあて、巨大なワイバーン肉の中にナッツとかお野菜とかつめこんじゃうよ。ちょっとこのあたりイカめしっぽくてたのしい。
そしてバターとレモンと塩コショウ。後は以前作ったソースをどばどば。あとはまあイタリアだしバジルとかでいいっしょ。ローズマリーとかクローブとか、ハーブでソース分けて作ってみてもおもしろいかも。
あとは……チーズとかかけてるとおいしいかもね。明らかに七面鳥よりでっかいし、チーズフォンデュみたいなソースあるとおいしいかも。いろんな味付けで楽しみたい。
ワイバーン胴体肉はちょっと大きすぎて食べきれないかもしれないけど、きっとみんなで楽しく食べたらすぐになくなると思うんだよね。
それに、私には分かるのだ。
エッダちゃんの食べっぷりを見た後だと、確信を持って言える。
色欲魔王組の五人、絶対めっちゃ食べる……!
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「わあーっ! すっごいですぅ!」
「これは……見事なものね」
エッダちゃんの驚きに花開いた声が聞こえてきて、私はそりゃもー笑顔。
そしてばばーんと大きく切ったワイバーン料理で、みなさんをお出迎え。
「ますます不思議な感じよね、きゅうけいさん。私が料理を作ってもらう側になってしまうんだもの」
「うふふっ、今更よねー」
パオラさんとベルさんが、仲良く入ってくる。
ほんとにこの二人は、主従を飛び越えて姉妹のように仲がいい。
妹だけどしっかりものの格好良いパオラさんと、のんびり屋だけど包容力がある先輩魔王ベルさんの仲良しペア。
見てるだけでこっちまで幸せな気持ちになってくるし、その内面と辿ってきた生い立ちの過酷さを知ると、あまりにも尊い二人だなと思う。
「わあわあ! すごい! きゅうけいさんって、ほんとすごいね!」
「ふふっ、ミミったらすっかりきゅうけいさんお気に入りになっちゃって」
そしてミミちゃんイデアさんの、母娘みたいなペア。こちらもほんとに微笑ましい二人組。
さすがにミミちゃんはアスモデウス組でも小食だと思う。もしも大食いだったら将来すごいことになると確信できる。
子供の喜ぶ声ってなんでこんなに幸せな気持ちになるんでしょ。もう好き。
「う~む、下手に人間の街で珍しいものを漁るより、きゅうけいさんの方が目新しいものを見せてくれるんですから、この村に来た甲斐ありましたネ」
次はマモンさん。
口調も独特だし最初はおかしな人かと思っていたけど、結構几帳面な性格で堅実な倹約家というか、普通に商人みたいな魔王様である。
ちょっとこっちが困惑するぐらいの真っ当な強欲の大罪さん。
「私もいいんですかねー?」
「いいのいいの、きゅうけいさんなんだし」
「あはは、ちょっと職を飛び越えていただきすぎちゃいますね」
今度は、マーメイドのビーチェさんがギルドマスターのルフィナさんを連れてやってきた。
ちょっと珍しい組み合わせだけど、暇の多い冒険者ギルドの方に入り浸っているビーチェさんは、ルフィナさんの話し相手になっているみたい。
中身は活発で超絶強い二人なんだけど、見た目は清楚な王女様と聖女様ってぐらい綺麗なんだよね。
うーん、美人はいるだけで絵になるからずるい。ごちそうさまです。
「みな集まってきていたか。それにしても……本当にきゅうけいさんは、働きものだなあ。あなたに料理を任せてよかったよ」
「この村も住みやすくなりましたからね」
今度はトゥーリアさんとアウグストさん。
最近仲良しですね、というかまあ私が最初に来るまでは古竜同士の付き合いで一緒に食堂で食べてたりしたわけで。
二人の関係は友達とか幼なじみぐらいなのか、それともそれ以上なのか、一般的な女子としましてはその手の話題には興味津々です。上下関係はレベルも含めてめちゃめちゃハッキリしてるけど。がんばれアウグストさん。
「あらあら、これだけ沢山あるのなら遠慮しなくても良さそうね」
「最近お腹すいちゃうから嬉しいね!」
「ちょっ! いくら食べてもなくならなさそーじゃん!」
「まあまあ! きゅうけいさんって、素敵だわぁ~!」
そしてこの美女だらけの部屋の色気偏差値を、更に一気に10ぐらい余裕で上げてしまう人たちが来ましたーっ!
コートを着込んでも、でかいと露骨に分かるリリアーナさん、ヴァンダさん、ダフネさん、オレスティッラさんの最強セクシー組。
そして会話を聞いて確信した。
やっぱめっちゃ食うわこの四人。
みんなが席に座ったところで、私がぱーっと生活魔法でカットして、お皿にのせてみんなのところにお肉を配置する。
「それでは皆さん、えーっとえーっと……こういう音頭取るの慣れてないんだけど、えーっと……」
「きゅうけいさんがんばれーっ」
「思ったままでいいですよ」
「あはは、ありがとねエッダちゃん、シルヴィアちゃん。……えー、コホン」
思ったこと、思いついたまま……。
「……正直、こんな私にこんなに良くしてくれる人が多くて、ほんとに幸せもんだなーって思ってます。みんなありがとう。そんなみんなとの出会いに感謝して、この料理は本来神様に感謝するために家族で集まって食べるものなんだけど……今日はみんなに感謝して、みんなのことを神様みたいなもんだと思っちゃうよ」
言った。
言ったと同時に、シルヴィアちゃんが笑い出した……えっ!?
「もー、なんですかそれは」
「お、おかしかった!?」
「おかしいですよ。だって」
シルヴィアちゃんは、私を見て優しい目をして一言。
「みんな、きゅうけいさんに感謝しています。むしろあたしたちにとっては、きゅうけいさんがなんでもしてくれる女神様みたいなもんですよ」
うわっ、内心冗談としてネタで思っていた女神様認定、まさかの女神みたいな子に言われてしまった……!
「みんな……本当にみんながきゅうけいさんのお世話になって、助けてもらって。今日もこうやって料理を作ってくれて。だから」
シルヴィアちゃんが微笑む。
「ありがとうございます。あたしが料理を作ってきゅうけいさんに贈りたかったってぐらい、あたしたちはみんな、先に、きゅうけいさんに感謝していますよ。あなたの家族だと思ってもらえるのなら、こんなに幸せなことはないと思います」
……。
ほんとね、シルヴィアちゃんってこういうの、ずるいよね。
完全に私のこと落としにきてるもんね。
「ぐすっ……あ、ありがとう……ズズッ、うれしいよ……!」
「ふふっ、どういたしましてって言うのも勿体ないぐらいです。ありがとうございます。さ、料理が冷めないうちに食べましょう」
「うん……うん。……ふぅっ……おちついて…………よし。それじゃみんな、えーっと私に続いて言ってね! メリークリスマス!」
そして私にとって、人間時代含めて一番の大人数による、おいしくて幸せなクリスマス会が始まった。
ちなみにミミちゃんは見た目に似合わずめっちゃ食べたので、超絶セクシー色欲の魔王が顕現することが確定しました。
クリスマス話! 季節ものの話をやるのも久しぶり! メリークリスマス!
更新休止した分作業も間に合って、年末はコミックマーケット97にいってます!
きゅうけいさんに関して、活動報告に連絡事項があります。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/770648/blogkey/2470601/
また少し間が開くかもしれませんが、決まり次第更新を再開しますのでよろしくお願いします!






