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きゅうけいさんはエルフ全員と友達になる

 ブライトエルフの町長マルティーナさんに、これまであったことをお話しした。


 海岸の魔族が、ベルゼブブの呪いの魔石『暴食の吐息』を持っていたこと。

 最大HPを減らす大罪の魔王専用魔法を使われていたこと。

 そして、感染していなかったのはシーナさん一人で、ファビアさんとカストさんは呪いにかかっていたこと。

 その時限式かスイッチ式の性格豹変発動も、クリアエリクサーで同じように解除したこと。


 そして、最後に。


「……ユグドラシルが、狙われていた!?」

「はい。ファビアさんかカストさんの役割はそれだったのだと思います」


 あの、よくわからない嫌な感じのした魔石もといマナドレインの魔石。

 それがユグドラシルの近くに置いていたこと。

 私がその石を回収して相手の魔族に無理矢理飲ませて、そのまま魔族は消滅し、島に投げた魔石から巨人が現れたこと。

 その巨人を、私が倒したこと。


 全てを聞き終えて、マルティーナさんはその身体をずぶりと沈めた。


「……私たちは……とんでもない危機に見舞われていたのね……」

「はい。でも大丈夫! とりあえずみんなやっつけたんで、後は」


 私はクリアエリクサーを二本出す。


「これを飲んでください。あとシーナさんも」

「あ、保険っすね」

「……」


 シーナさんは受け取ってぐびり。いい飲みっぷり。


「あ、おいしっすね」

「でしょー」


 清涼飲料水のおあじ、気に入ってもらえてにっこり。


「今日お疲れだったでしょ、もうちょっと飲みます?」

「いいんすか? 欲しいっす!」


 なんだかすっかり気安い感じになってくれて、私もうれしい!


「そーだ、シーナさん友達なってくれません? エッダちゃんとか、みんななってるし」

「お! もちろんいっすよ!」


 わーっ! すっごく軽くオッケーしてくれた! とってもうれしい!

 うへへへへ……。


「お、いいのみっぷり! もう一杯いかがです?」

「マジすか、いいんすか? いやー嬉しいっす!」


 何やらマルティーナさんがそわそわしてるけど、とりあえずシーナさんに三本目。


「いやー、いい飲みっぷりです! マルティーナさんも欲しい感じです?」

「……」


 マルティーナさん、目頭を押さえて沈黙。

 ……あ、あれ……?

 何かやらかしました?

 これはまさかの、ナチュラル私何かやっちゃいましたパターン?


「うおっ、なんかめっちゃ元気になったっす!」

「あ、やっぱり! お疲れかなと思って、そういう飲み物にしてみました!」

「きゅうけいさんいいやつっす! もうすっかり気に入ったっスよ!」


 横からシーナさんの言葉が来てすっかりニヨニヨ。

 してると、ついにマルティーナさんから声がかかってきた。


「きゅうけいさん」

「はいはいっ!」


 マルティーナさんは、手元の瓶を指差した。


「これの名前を、言ってもらっても?」

「これ? クリアエリクサーだって言いましたよね?」

「ええ。そしてシーナが今のんだそれは?」

「エリクサーのことです?」


 私が答えると、シルヴィアちゃんが頭を押さえて、あちゃー、みたいなリアクションをしてる。

 ……。

 なんだか、予想が出来たぞ……?


「シーナ」

「……な、何スか……」

「あなたの飲んだエリクサー、先日の月頭にヴェアリーノへ赴いた際に、教会で現在の取引価格を見ました」


 ああっ! や、やっぱり……!

 これ、聞かないといけない流れだ!

 聞くのが怖い!


「え、いや、だってきゅうけいさんは、たくさん作って……」

「ええ、ええ。そうね、沢山作っていたわね。……はぁ~っ……。それでは覚悟して聞きなさい」


 大きく息を吐いて、マルティーナさんはシーナさんを見る。


「……白1飛んで小金3。それが現在の取引価格です」


 ……。

 え、ええと……?


 前にシルヴィアちゃんから聞いた価格からすると、恐らく小金貨は1万円。金貨が10なら、白金貨は……100万?

 103万円? 一本で? マジで?


 いつも気楽なシーナさんも、さすがにその価格を聞いて震えだした。


「……まさか、さっき自分が二本目特に何の疑問も持たずに、テキトーに喉を潤すために飲んだものも……」

「ええ、白金貨が必要よ。一本あたり、ね」


 さすがのシーナさんも、それを聞いて卒倒。

 文字通り白目をむいてふらっと倒れて、それからすぐに起き上がって私に詰め寄ってきた。


「な、な、なな、なんてもんのませてくれたんスか……!?」

「いや、だって」


 私は再び、ぽぽんと手元からクリアエリクサーを出す。


「いくらでも出せますし」

「とんでもない価格破壊魔族ですね……」

「あ、でもこのことは秘密ね。融通するのは友達限定。それに、人間社会を壊したいわけじゃないから。そこは絶対ね。……それとは別に、お願いがあるのだけれど」

「……!」


 マルティーナさんが、こちらを向いて息を呑む。


「その、えっと、マルティーナさんも私と友達になってくれませんか……?」

「……友達? きゅうけいさん、と、ですか?」

「はいっ!」


 私の要求に対して、マルティーナさんは即答せずに、考え込んだ。

 ……あ、あれ?

 最近こういうのって結構すんなりいってたけど、もしかして今回駄目な流れだったりしますか?


 しゅん……。


「あ、ちなみにロベルトさん含めてダークエルフの集落はみんな友達で――――」

「なります、友達なります。そうだ、友達記念に今度みんなでご一緒しましょうそうしましょう」


 シルヴィアちゃんの、特効一言が炸裂したーっ!

 食い気味にオッケー出したところでタイマーストップ。シルヴィアちゃんRTAはいつも最速記録更新中です。


 それにしても、そこまで一緒になりたがっちゃうマルティーナさんかわいすぎ。

 なんかもう、ロベルトさん相手だとむちむちボディの恋に恋する後輩乙女って感じで。


「今更ですが、断る気はなかったんです。実際にこうして治していただいてますし、能力的にできたとしても皆を治して回るのは大変だったでしょう」

「あはは、大変でした……いやーそこを理解していただきありがとうございます」

「原因不明の病気は、本当に恐ろしかったですから。だからきっと集落の皆も、きゅうけいさんのことを信頼しているはずですよ。まずは私が友人になったと伝えれば、皆も心を許すでしょう」

「いいんですか? うへへ、友達ふえちゃうねー」

「よかったですねぇ!」


 とっても嬉しくて、エッダちゃんと顔を合わせてニコッ。ハイ今日も幸せです。

 でれでれして油断しきっていたから……それは不意打ちだった。


「……秘薬が効かなかったとき、救援を依頼しておきながら、私はほぼ諦めていました。滅ぶ運命を、完全に受け入れてしまっていたのです。だから」


「きゅうけいさん。この町に来てくれたのが、あなたでよかった」

「――――」


 ……あの、ね。

 そういう言葉突然言うの、ずるいと思うの。


 私は慌てて後ろに向く。

 れ、冷静に、冷静に……。


「わりときゅうけいさんって涙もろいですよね」

「……わ、わかってるよぉ……」

「ふふ……そういうところも、魅力的ですよ。きっと他の皆にも、ね?」


 更にシルヴィアちゃんは、容赦なく私に一番効きそうな台詞を畳みかけながら、頭を優しく撫でてくれる。

 それが、あまりにも心地よくて、優しくて……。

 涙腺バリケードは、またもやシルヴィアちゃんの言葉の特効攻撃に一瞬で決壊してしまうのは必然なのであった。


 その日のうちに帰ろうかと思ったけど、せっかくなのだからと呑んで食べてして楽しんだ。

 ブライトエルフはイメージと違って、お肉もお酒も嗜む一族だった。

 提供してくれるってことだったけど、せっかくなので私もぱぱーっと料理を振る舞ったりしたよ。作るのは楽しいからね。

 その料理も喜んでもらえて、とっても幸せな勝利の晩餐であった。




 レイドボスの、単独討伐。

 きっと世界で私しかできないことを、ちゃんとこなすことができたことを、私自身とても嬉しく思う。

 このレベルを持っても、人の輪に入っていくのにはあまりにもハードルが高い。

 それぐらい、種族が魔王というのは難しいのだ。


 それに。


 シルヴィアちゃんの、天才的頭脳と空の旅。

 エッダちゃんの責任感と、圧倒的レベルアップ。

 そして……ビーチェさんの魅力たっぷりの大活躍。


 みんながみんな、本当に素敵だった。

 とても有意義で、得られた結果も上々。いい時間だったと思う。

 帰ったらルフィナさんにもお礼を言いたいな。


 -


 そして迎えた三日目の朝。

 私たち三人は同じ時間に起きてのんびりしていたところで、寝室の扉を勢いよくドンドンと叩かれる。

 お急ぎっぽいので、驚きつつも勢いよく返事。


「はいはーい!」

「し、失礼します!」


 入ってきたのは、緑の髪を振り乱したファビアさん。

 その顔には焦燥感が隠しきれておらず、嫌な予感がする。


「ど、どうしたの?」

「救援をお願いしていた人間のパーティが来ています、きゅうけいさんはお隠れに!」


 びっくりおったまげて、私は慌ててベッドの下に潜り込む。

 毛布の隙間から、ちらちらっと外の光景が見える。


 それに代わってシルヴィアちゃんが立ち上がったところで、ファビアさんの後ろから、人間の男たちががわらわらとやってきた。

 赤い髪の男が、金髪ロングの男に声をかける。


「隊長、問題はないようです」

「そうか、わかった」

「……ちょっと、レディの寝室に入ってきて随分な態度じゃない?」


 シルヴィアちゃんはお怒り。いいぞーもっといってやってー!

 ていうか下覗かれそうでこわい! かなりベッドの下暗いから大丈夫だとは思うけど!


「失礼した、緊急の任務と聞いて気が立っていてな」

「それじゃあまり見ないでちょうだい、本当に失礼よ」

「あ、ああ……すまなかった」


 後ろで茶髪のマスク男が、めちゃめちゃじろじろ見てきている。

 さすがに嫌な感じだったので、シルヴィアちゃんのきつめの追い出しで退散してくれて一安心。


 そういえばそもそも集落がやられてるのに気づいたのはエッダちゃんなのだ。そうやって考えると、やっぱりエッダちゃんの勘ってすごいなーって思う。

 シルヴィアちゃんもすっかり忘れていたみたいだしね。


 今日のことはちょっとした事故、なんとかエンカウントは防げて安心だ。私が見られるのはひっじょーにまずいからね……。

 冒険者パーティに見られたことは忘れて、帰ろう帰ろう。

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