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きゅうけいさんは巨人に対する覚悟を見る

 レイドボス。


 分かる人にはよく馴染んだ名前。

 そして知らない人にはさっぱり意味のわからない名前。

 以前意味を調べたんだけど、結構調べないと出てこないんだよね。レイドボスが出るゲームの名前が出るばかりで。


 意味としては、急襲とか、そんな感じなんだけど。

 なんてことはない、レイドボスとは『マルチバトル=複数人戦闘』用のボスのことである。


 このゲームは基本的に一人プレイ専用。プレイヤーは敵を倒して、ボスを倒して、時々プレイヤー狙いの侵入者を倒したりするのみだ。

 しかしこのレイドボスの場合は、一体のボスが一つのHPを全ユーザーと共有して持っていて、複数人のユーザーでこのレイドボスを倒すこととなる。

 報酬は山分け式じゃなくて平等に機会がやってくるし、上位になるほど報酬は増える。

 当然他プレイヤーを狙っている暇なんてありゃしない。


 そうして裏ステージもクリアしたような熟練プレイヤーが山ほど集まって、長い時間をかけて、途方もないHPを削って削って、ようやく討伐完了するのがレイドボスである。


 ……もう一つ、このゲームはスマホゲーじゃないので、オンラインになれる環境や時間帯が限られてくる。

 そのため、一瞬でレイドボスが倒されてしまっては、人によっては報酬を得ることが出来ないのだ。

 だから、このボスのHPは連日かけて削るってぐらいに大きい。


 ————おさらいしよう。

 レベル数千のプレイヤーが全世界から数百数千以上。

 集まって連日かけて倒すボス。


 ……そう。

 もちろん、この世界に、オンラインネットワークに繋がったユーザーなんているわけがない。

 つまり……。


「こいつ、私が相手するしかないじゃん……」


 私は視線の先にいる、ゲームに出てきたボス『ウトゥック』のぼんやりとした巨体を見ながら思った。




 私の手を、弱々しく握る感触。

 後ろを振り向くと、不安そうな顔のシルヴィアちゃんがいた。

 ここまで不安そうな顔は初めて見たけど、さすがに今回ばかりはその気持ちもわかる。


「きゅうけいさん……あれは、間違いなく、あの魔族が魔石から呼び寄せた巨人、ですよね……」

「そだねー……」

「……どうにか……できるんですか……?」


 うーん。


 んー?


 ……レイドボスの説明を、いろいろやってみたはいいけど。

 私はふと思ったのだ。


 ————あいつ、あんなに色薄かったっけ……?


 そもそもあのでっかいやつ、ユグドラシルの魔力から作る予定だったんじゃないだろうか。


「ユグドラシルからの魔力を得ていないってことは、もしかしたらウトゥックは不完全体かもしれない」

「ウトゥック、というのですか……というか、待ってください。え? きゅうけいさんは、あの巨人を知っているんですか?」

「まーね」

「た、倒したことは……?」

「ベルフェゴールになる前だったけど、複数人で倒したよ」


 正確には、それぞれソロで削る、だけどね。

 だからまあ、多分いけるはず。


「シルヴィアちゃん」

「は、はい!」

「私をあの島まで連れて行って」

「……本気ですか」


 そんな呟きをしたシルヴィアちゃんの方を見ながら、親指を立てる。


「まあ任せてよ。なんとかなるって」


 私の返答にシルヴィアちゃんは、少し悩むように黙って、頷いた。

 その顔は、やや諦めが付いたような、呆れた笑顔だった。


「きゅうけいさんが大丈夫と言うのなら……大丈夫なのでしょうね。それでも、くれぐれも無理はしないようにお願いします」

「おっけー」

「本当に、緊張とは無縁な方で羨ましいです。そんなきゅうけいさんに、あたしは本当に救われてますよ。……【ドラゴンフォーム】」


 なんとも嬉しいことを言ってくれるシルヴィアちゃんの身体が、海岸で大きな古竜の姿になる。

 私はその背中に乗って飛び立とうとした。


「わ、私も行きます!」


 なんと……エッダちゃんが立候補した。


「エッダちゃん。正直ここから先は、かなり厳しいよ」

「……分かっています。分かっていますけど……でも……!」


 エッダちゃんは、ぐいっと身を乗り出して私の両肩を掴む。


「こういう場面で、いつもきゅうけいさんにお任せしてばかりだと、いつまで経っても私は成長できないんです……!」

「結構してる方だと思うんだけど……」

「いいえ、いいえ! きゅうけいさんがワープさせられた時、私は……きゅうけいさんでも相手に出し抜かれる可能性があるのを、完全に忘れていたんです。魔物の襲撃があって……パーティメンバーの平均レベルが上がった今、私は今のままではいけないと。せめてもう少しだけでも、皆の役に立てる私になりたいと思うんです……!」


 ……エッダちゃんは、そこまで……。

 この可愛い見た目と小柄な体格で、妹として生まれた女の子。

 だけど、その血には戦士としての誇り高い意志が宿っている。


 ここで断ることは、私にはできない。

 それに……。


「……分かった。ただし、くれぐれも矢だけね。格闘しようものなら、エッダちゃんを掴んで海に放り投げるよ」

「そ、それでいいです! ありがとうございます!」

「……お礼を言うのはこっちだって」


 エッダちゃんの頭をくしゃくしゃと撫でると、私はシルヴィアちゃんの背に乗った。

 そして、残ったシーナさんを見る。


「すみません、そういうわけでカストさんを起こして、集落に戻ってください!」

「……わかったっす。自分はさすがに、あれに挑む気にはなんねっすから。……町をよろしくっす」

「まーかせて!」


 シーナさんは、その青い目でエッダちゃんを見る。


「……エッダ・モンティ……やはり、テオドロ様の……英雄の血。テオドロ様に憧れて魔族狩りになった、うちのじじいとは違う、本物の血。追い抜かれるのなんて一日もあれば十分ってわけだ」


 小さく呟いたシーナさんは、そのまま何か眩しいものを見るようにふっと笑って、カルロさんを起こし始めた。


「……シーナさん、さっき何言ってました?」

「聞こえなかったよ。まあ大したことじゃないと思う」


 嘘だよ。デーモンマンの歌詞どおり、デーモンイヤーは地獄耳なので全部聞こえてたよ。

 だけどシーナさんのためにも秘密にしとこう。

 ……友人で、ライバルの子の成長を、あんなに優しい顔で見ることができる……。


 やっぱり私、シーナさんも好きだなあ。

 ちゃんと倒して帰って、友達になろう。




 シルヴィアちゃんが、相手の巨人にゆっくりと近づく。


「一応正面は避けてね。レーザー撃ってくるから」

『グル!』


 表情のない、ドス黒い魔力の人型。

 そいつののっそりとした動きを見ながら、後ろに回り込むようにシルヴィアちゃんは移動する。


 エッダちゃんとともに島に降り立ち、シルヴィアちゃんは空に再び上がった。


「近くで見ると……ほんとにおっきいなあ」


 この島自体がかなり大きかったけど、巨人はなんていうか、以前鉄塔を真下で見た時の気分ってぐらい、でかかった。

 ゲームでもVRで立体視していたわけじゃないから、間近で見るとほんと迫力すごい。ゲームではもう足をちゃきちゃき切って逃げて、そんでやられたらトータルダメージでランキング、って感じだったね。

 私はお仕事もあったので、上位100人にも入れてないけど。ちぇーっ。


「エッダちゃん。とりあえず矢を構えてて。先に私が相手してみるから」

「は、はいぃっ……!」


 声はびくびくしながらも、視線はきりっとしているエッダちゃん。

 ここに来る前は『はわわ』しか言ってなかったのに、こういう時に踏ん張れる辺りが、ただ可愛いだけじゃないエッダちゃんの魅力だなって思う。


「さーてと……いきますかね!」


 私はレベルリリースした全力ジャンプというのがどんなものかわからないけど、とにかく遠慮はいらないということで、思いっきり地を蹴って相手のボディへとキックした!


「とりゃあああ! う、うおお……!?」


 そして私の蹴りを受けた巨人は……なんと、思いっきり浮き上がった。

 あまりに驚いて変な声が出た。

 視線の先で、スローモーションでふっとぶ巨人が、たたらを踏みながら尻餅をつく。




 ……よ、予想外……。

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