きゅうけいさんはわりと綺麗好き
カストさんの呪いは解いた。シーナさんは怪我なし。
「……もしかして、狙われたの自分っスか……?」
「そだよ、暴いたのはシルヴィアちゃんなので、シルヴィアちゃんのおかげ!」
「そして、あたしの指示通りにデタラメな速度で瞬間移動してエリクサーをぽんぽん使えるきゅうけいさんのお陰ですね」
私はぐっと親指を立てて、シルヴィアちゃんもぐっと親指を立てて返す。
うん、いいコンビネーションでした。
「さて、次は何を用意してくれるのかな? なにもネタがないのなら、ファビアさんのところにすぐに戻るけど」
そう、シルヴィアちゃんの予想によると、あの緑髪の綺麗なファビアさんは恐らく呪いを受けたうちの一人だ。
何かやらかしてないか心配なので、確認に戻りたい。
「…………。……ふ……ふ……」
「————!」
あいつ、何か、笑い出している。
なんだ、まだ切り札があったというのか?
「ベルゼブブ様、言われたことは必ずやり遂げてみせますとも。吾輩の忠義を捧げます。————【発動】ッ!」
また、何かを発動した!
暴食の吐息だとするなら、ファビアさん……!
そう思った瞬間、何か身体の中から力が抜けていく。
「ユグドラシルの吸収を開始しました。これであの樹はもうすぐ枯れ果てます! 既に魔王様から預けていただいた種は撒いた! 吾輩は終わっても、これでブライトエルフの集落は終わりますよおおお」
「あ、これかな」
私は、手元からゴミを出した。
ゴミは捨てる場所がなければ持って帰りましょう。
きゅうけいさんは真面目なので、教えてもらった修学旅行の基本をしっかり覚えているのだ。
真面目な生徒は四六時中寝てたりしないって? あーあーきこえませんなー。
いやまあこんなこと思ってる間にも現在進行形で、なんか魔力吸ってるよ黒くてちょっと汚い魔力出してる感じのするゴミ。
そして目の前の魔族が、今まで一番ってぐらいに目をひん剥く。
「『マナドレインの魔石』がああああ何故ええええええ!」
「そういうやつなんだ。じゃあ返すね」
私は手元のゴミを……時間停止した世界で、叫んでいる魔族の口の中に突っ込む!
うわ、なんかねちょっとしてる!
ちょっとなまあたたかい!
うわああ無理!
生理的に! 無理!
とりあえず喉の方まで突っ込んで、飲み込ませる!
手を引き抜いて、生活魔法で洗う洗う洗う〜ッ!
そりゃもーテルマエを綺麗にしたときぐらい入念に洗う。
「————が、ングッ……今、何を……」
「さっき飲ませたよ」
「は」
最後にそんな声を出した瞬間……目の前の魔族は、なんと一気にダイエット! 背の高いガリガリの魔族へと変化する!
そして魔族は、灰になってぼろぼろと崩れた。
うわ……すっごいぞマナドレインの魔石。ダイエットにいかがでしょう、マナドレインの魔石。
副作用はSランク冒険者より強い魔族であろうと秒で枯れます。
ダメだね。ハイ。
「さて、と」
この魔石は壊した方がいいだろうか。
と思っていたら……黒い魔石がぴかーっと光り出した。
「うわ、まずいやつだこの流れ!」
私は慌てて、そのぴかぴか光った石を……九京レベルの全力で海へとぶん投げる!
飛んで飛んで、なんか町とか存在しない島のところまで飛んで……ホールインワン!
とはちょっと違うけど、うまいこと落ちた。
「……あれ、何も起きなかった?」
「だ、大丈夫なんですか、きゅうけいさん!?」
シルヴィアちゃんが慌ててやってくる。
「ん、何が大丈夫かって? いちおー石はあの島に投げたけど」
「そうじゃなくて! さっきまで『マナドレインの魔石』というものを持ってたじゃないですか! 身体は何ともないんですか!?」
あ、そうだそうだ、自分のことながらすっかり意識の外だった……。
「んー、【ステータス】。……ふむふむ……【ハイドレベル】……おおっ、MPが減ってる、かな?」
私は画面のMPをぼんやり眺める。
そのよくわかんない桁に表示してある数字は変わらなかったので調整すると、MPが一つ、下がっていた」
割合換算すると、結構な魔力……いや、切り上げでマイナスしてるだけって可能性も高い。なんてったって、MPは一番下の桁でも数十や数百兆とかそんな世界になるはず。
そりゃーまずい。
ていうか、けっこー吸われたってのまずいかも。
「一応まだ大丈夫だけど……でも、ユグドラシルを守れてよかった」
「……あたしでも、読めなかった……なんであの石を、きゅうけいさんは拾ってたんですか?」
「うーん、綺麗な樹に似合わない、嫌な感じのゴミだなーって思って拾ったよ。まあ、清掃活動の一環です! まちはきれいに! 大事だね!」
「……ユグドラシルは世界中の魔力を循環させているので、世界にとって大切な役割があるんですよ。まったく……そんな軽いノリで世界を救っちゃうんだから、きゅうけいさんは相も変わらずすごいですね……」
肩を上げてシルヴィアちゃんが笑う。
いやー、そんなに凄いことやっちゃってたんだ、まいったなー。
何がどう影響するかなんて分からない。
「うんうん、よかったよかった。きちんと意識して、いいことをしていきたいね。一日一善。みんなが意識すれば、もっと綺麗な世の中になるよ」
「そして相も変わらず、その見た目で出る台詞じゃないあたりもきゅうけいさんですね」
くすくす笑うシルヴィアちゃんも、相も変わらずすごい人だと思います。
私一人ではここまでうまく回せなかった。ていうか仲間がシーナさんとカストさんだけだった場合は想像するだけで怖い。
今回も、みんな無事。みんなが無事でさえいてくれたら、それこそが私の勝ち。
「恐らく、今回のトラブルはこれで全部でしょう。任務完了の報告をギルドマスターに伝えましょう」
「たくさん頑張ったからすっごく時間経った気分。ルフィナさんの声も、一日聞いてなかっただけで恋しいなあ!」
私がシルヴィアちゃんに笑い返したところで——。
————ものすっごい轟音と揺れが、海岸を襲う。
地の底から湧き上がるような低い音と、大きな風。
「……あ……ああ……」
私の視界の先で、エッダちゃんが尻餅をつく。
私の方を向いて……いや、私よりもちょっと上の……?
私は振り返る。
「えっ。……えっ? ええっ!?」
一瞬現状を理解できなかった。
だけど、それでも分かる。
そう。修学旅行でもこんな感覚を受けた。
大きな建物を遠くで見て、両の目が縮尺を全く理解できなくなってしまった感じ。
「……なんですか……あれは……」
シルヴィアちゃんの呟き。
恐らく言ったところで、分からないだろう。
しかし私は、目の前にある巨大で遠近感が狂う巨人を知っている。
私は、呟きが漏れるように答えた。
「『レイドボス』……」






