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きゅうけいさんは仲間と魔族を討伐する

 さーて……集中しつつ、相手のところに顔を出しましょうかね。

 まずは私が先行。


「いちおー話をするつもりだけど、襲ってきたら遠慮なくばしばし倒していってね。みんなには絶対怪我させないので、あの食べ盛り魔族と魔物は『経験値がおいしい!』ぐらいに思ってくれたらいいよ」

「冗談のようで、本当にそれで済むのがきゅうけいさんのすごいところですね……」

「でも、きゅうけいさんがいてくれたら安心ですぅ!」


 シルヴィアちゃんの緊張知らずの苦笑と、エッダちゃんの気楽そうな姿を見て、シーナさんとカストさんも楽な顔になった。

 よしよし。


 私は森の葉っぱが重ならなくなり、幹の間から目が合うぐらいの場所に来る。

 相手は私を認識して……特に驚いている様子はないみたい。


「なるほど、さすがリーダー。予想通り、私が敵になることは知っているって顔だね」


 悠々と、相手のところまで近づく。

 魔物の集団が私の方を向いているけど、動く気配はなし、と。




 なんか声かけてくるかな。

 と思ってたら、案の定あちらからお話があるみたい。


「ホッホウ、ベルゼブブ様の予想した通りですねえ。青い魔族が、敵に回ると予告なさった通りだ……さすがベルゼブブ様」

「うんうん、そうだねー。私は人類の味方なので、君たちの敵だよー」

「……何故、我々の敵に回るか……などということを聞くのは野暮ですかねえ。ベルゼブブ様が敵と認定したのなら、吾輩にとっても敵。そしてもちろん、吾輩を寄越した以上は、勝てる見込みを持っているはずなのです。丁重にもてなして差し上げますよお」


 なんともねちっこい喋りで、くぐもった声が聞こえてくる。

 にや〜っと三日月型になった目で、私を見て、視線を左右に……シルヴィアちゃんとエッダちゃん、そしてシーナさんとカストさんを見る。

 ブライトエルフの二人に視線を向けたときは、何が嬉しいのか一層目が細くなっていた。


 うーん、苦手!

 なんだっけ、ダイヤモンドゲイザーじゃなくて……軟水みたいな名前の以前会った魔族と同様、なんともいえない嫌悪感がある。

 こいつはこいつで、別パターンのいやらしさ。


 以前のヤツがチャラい同期だとすると、今回のヤツはセクハラメタボ上司ってところかな。

 文字に直すと余計に無理って感じだ。


 それにしても……私の情報は言ってないようだね。

 やはり、こいつも使い捨てってところか。


「……一応確認するけどさ。あなたは魔道具か何をブライトエルフの集落に使った、ってことでいいんだよね」

「ウム、慧眼感心であるな。そうとも、魔王ベルゼブブ様直々の、最凶の大罪魔法を封じ込めた、とっておきの石ですよおホホホ……」


 うーん、どうやって相手からもうちょっと情報を引き出そう。

 これじゃあ前回の焼き増しって感じ。


 私が悩んでいると、後ろから声が上がった。


「へえ。そのとっておきの石って、よっぽどすごいのかしら?」

「……竜族ですか、厄介ですねえ。正面の魔族だけならまだしも……ま、アナタのような幼子程度、この吾輩の敵ではありませんが、ホホ」


 ……シルヴィアちゃんの方を、私より上とみている。

 そしてシルヴィアちゃんが、ただの幼い竜族だと思ってる。


 うーん、同情しちゃうほどなんも情報もらってないね、こいつ。

 だめだこりゃ。


 そしてシルヴィアちゃんは煽られた結果……煽り返した。


「でも、その石って魔王が作れるようなものなんでしょ? 大罪魔法を封じ込めるっていっても量産品。じゃああんたは捨て駒ってことになるわね」

「————ッ、言ってくれますね小娘風情が……! あの『暴食の吐息』は魔王謹製であり、元になる石も特別製なのですよお嬢ちゃん。年に一つ、多くて二つほどの生産量ですからねえ!」


 だんだんと声が調子に乗ってきて、声色のテンションがぐんぐん上がる!


「それだけでも! この吾輩に対するベルゼブブ様の! 信頼ィ〜……いえ、愛ッ! 愛を感じますねえッ!」

「年に二つが限界、ね。どうせあんたみたいな鈍そうな魔族に渡すぐらいなんだから、在庫とか山ほどあって、適当に渡されているんじゃないの?」

「愚かしい! 実に愚かですなッホホホ……! ベルゼブブ様は、魔力の必要なあの石を、めったに作りません。ですので在庫はゼロ、完成次第に吾輩がお呼びされて、あの石をお任せされたのですよお!」

「……ふむ」


 シルヴィアちゃん、さらっと今のやり取りで、相手の『暴食の吐息』の数と生産速度を聞き出した。

 さすが相手の急所にピンポイントで狙うの得意なシルヴィアちゃん! 以前受けたのは私なので、その効果は実によくわかりますっ!


「フホホ……ですから、あの呪いには薬など効きません。集落はおしまいですよお……」

「ふん……それで、ブライトエルフの集落を滅ぼした後はどうするつもり?」

「どうするって、そんなの決まってるじゃないですかお馬鹿さん」


 再び満足そうに、ニィ〜っと口を開けて笑う肥満魔族。

 露骨にシルヴィアちゃんを見下した顔だ。


「ユグドラシルをいただきます」

「ユグドラシル……あの樹を!?」

「そう! そして気づいたところでもう遅いのです! さすが知略の吾輩、小童どもより圧倒的に上を行く……そう、他の眷属より、力だけの狗よりも……! 次の筆頭眷属は私がさせてもらいますよおお!」


 おしゃべりは終わったとばかりに両手を持ち上げ、指揮するようにこちらへ指を向けるキザったらしい(しかし横幅食べ過ぎスーパーサイズなので全くかっこよくない)手の動きで、魔物に指示を送る。

 海岸の魔物が動く! というタイミングで、オークの頭がずばんずばん吹き飛び、ニードルピューマの牙がぼきぼき折れてはじけ飛ぶ!


「はぁ……口先が滑らか魔族さんでしたねぇ」

「そっすね。おしゃべりすぎて馬鹿丸出しっす」


 エルフの弓術コンビ!

 さすが『魔族狩り』の二人、なんつーかもうめっちゃつよい。

 エッダちゃんがやっていた矢に魔法エンチャントするの、当たり前のようにシーナさんもやってる。

 光属性エンチャントの超高速の矢を、とんでもない連射してるので。素早く動くニードルピューマもそこら中から血が吹き出て、秋に取り残された夏の虫の息のごとし。


 もちろんエッダちゃんパワーも健在。

 オークのシールダーが盾を構えるも、エッダちゃんの闇魔法エンチャントをした『重い』矢を受けて盾が腕ごと大きくはじかれる。

 がら空きの胴へ一発矢が当たれば、100kg以上は間違いなくあるシャドウオークの巨体が空高くに打ち上がる。

 その空中で無防備になったオークの頭へ、再び矢がズドン! 厄介な防御型の盾持ちオークも、エッダちゃんにかかれば一瞬だ。


「な、んですと……。憎きトスカニーニ一族はわかる、しかし、このダークエルフは有り得ない……何者……」

「私の名前はエッダ・モンティ。あなたは分かりますかねぇ」

「ぐうッ……! こんなところに、テオドロの娘がいるとは……!」

「孫ですよぉ。妹だし、シーナさんより弱いし。私もまだまだ発展途上ですから、その私に負けるようじゃ全然ダメですねぇ」


 おおっ、今日はエッダちゃんも煽る煽る!

 って、リーダーで仲良し友達のシルヴィアちゃんをあそこまで罵詈雑言でコケにされたら、そりゃあほんわか天使のエッダちゃんでもキレますよね。

 むしろ情報引き出すまで、よく我慢しててくれました。


「仕方ありません……。ふ、フフフ……!」

「……何笑ってんだろ、こいつ」

「【発動】ッ!」


 あいつは今、後ろに回した手を動かしている。

 私はそれを見て、すぐに思い当たった。


 シルヴィアちゃん、さすがだよ。

 恐らく————ここが、()()だね!

 

「【クリエイト:クリアエリクサー】!」


 私はその薬を作ると、意識を集中して周りの時間を止める。

 そして、私が向かった場所は……カストさんのところだ。


 一瞬でカストさんの大柄な身体に取り付いて、後ろからエリクサーを流し込む。

 シーナさんの方を向いて気絶したカストさんの手から……見覚えのある毒タイプのナイフが落ちる。


「…………。…………は……?」


 こちらを見て、間抜けな顔をしたベルゼブブの眷属と、口角を上げて勝ち気に頷くシルヴィアちゃんの顔が視界に入る。


 そう。

 ブライトエルフの集落で呪いを受けていないのは三人と思い込んでいたが、違ったのだ。


 先ほどの会話で、シルヴィアちゃんは、カストさんが呪いにやられていた可能性があることを察知していた。

 最大HPが落ちていなかったのは、呪いをはじいたからではなく、別の呪いにかかっていたからなのだ。

 私は先ほど、そのことを伝えられた。だから相手がぼろを出すタイミングに完璧に合わせることができたのだ。


「シルヴィアちゃんは、ここまで読んでいたよ。……本当に知略に長けている人はね、相手の思考を二手三手先まで読んでいても、べらべら自慢げに喋らないんだ。勉強になったねー?」


 気絶したカストさんを地面に横たえて、相手の顔がすっかり絶望に染まる。

 その表情を見て、私は確信した。


 ————この勝負、シルヴィアちゃんの勝ち。

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