きゅうけいさんはブライトエルフと組む
なんとも楽しそうな顔で、森に差す光を浴びながらぴょんぴょん飛び跳ねるビーチェさん。
もうなんていうか、容赦なく揺れてる。
シーナさんがカストさんの方をじろっと見て、カストさんがあわてて目を逸らしている。
……彼は悪くないので手加減してあげてほしいです。そして二人の関係もちょっと見えてくるね、良きかな良きかな。
外のビーチェさんを迎えに三人で家の外へと出ると、玄関で腰に手を当てて立っているビーチェさんがいた。
「よっ! おはよ、怠惰の魔王きゅうけいさん」
「あはは……ほんと返す言葉もないです。おはよ、ビーチェさん。それに二人も」
「うっす、はよっす。きゅうけいさんは昨日働きづめっしたからね、そんだけ休む権利あるっスよ」
優しく返事をしてくれて私もすっかりスマイル。一日で一気に距離縮まって、頑張った甲斐あるってものです。
それだけ、初対面のシーナさん……というか、ブライトエルフ全体がちょいと壁を感じたからね。
「それで、なんですが……」
ここでシルヴィアちゃんが一歩出る。
「……どうだった? 魔物はどれぐらいいたか、聞いてもいいかしら」
「了解っす。えーと、けっこー回って……いくらぐらいだっけ」
「村の外周100メートル四方です」
「そうそう。っと、そんぐらいの範囲になんもなかったっすね」
「なるほど。……きゅうけいさん」
シルヴィアちゃんがこっちを向く。
「【レーダー】をお願いしても?」
「わかった!」
ここでのレーダーということは……【レベルリリース】での【レーダー】だね。
ってわけで頭の中で唱えて、集落の周りをぶわーっと観測する。
……おお……。
「近くには、まるでいないね」
「魔族はどうですか?」
「実際のところ、昨日の時点でいなかったんだよね。でも今日は……」
海岸のあたりに、魔物が沢山集まっている。
このパターン、覚えてる。
「いる。以前と同じ場所」
「……どういう、意味ですか?」
「ダークエルフの集落の時と同じ。海岸で、魔族と魔物が私を待っている。……そして」
よーく意識を集中する。
集中して、集中して……。
「見つけた」
「何をですか?」
「……蝿だよ」
「————ッ!」
シルヴィアちゃん達が目を見開くも、ブライトエルフの面々はあまり反応が薄い。
「エッダちゃんとビーチェさんは、一応話していたよね」
「マモンさんのとき、見ましたからねぇ」
私はブライトエルフの皆にも、ベルゼブブの蝿————盗撮用の魔物————がいることを伝えた。そして、それがダークエルフの集落を壊滅寸前まで追い込んだ相手であることも。
「我々も向かっても、いいっすか?」
「できれば私一人で行きたいんだけど」
「……魔族狩りとして、そういうヤツはほっておけないっす。皆様からしたら、自分ら弱いって分かってるんスけど……黙ってみてはいられないっす」
どこか軽薄な印象の喋りとは裏腹に、その美貌に刻まれた眉根の皺と青い目の眼光は、彼女の敵魔族への憎悪と、一族への愛情を表していた。
「……分かった。私が責任を持って守ります。ついてくるのはシーナさんだけでいいですか?」
「俺も行かせてください、きゅうけいさん」
「カストさんもですね、わかりました」
私は二人に目を合わせてしっかり頷く。
エッダちゃんがぽつりと、家の方を向いてこぼす。
「誰か、マルティーナさんを守っておいてほしいですねぇ……私が残りましょうかぁ」
えっ、まさかのエッダちゃんがついてこないの?
それはちょっと寂しいかも……と思ったところで、横からずいっと身を乗り出すビーチェさん。
「じゃあ私、蝿に見られるのも嫌なのでやめておくわ。村の守りもしないといけないし」
「はわ、ほんとですかっ! ビーチェさん、助かりますぅ!」
「いーのいーの。暴れるのは昨日十分やったし、町長さんのところに戻ってるわね」
ビーチェさんが交代で家の中に入ったのを見届けて、私を含めて五人のパーティで海岸へと向かうことになった。
シルヴィアちゃんが、竜の姿ではなく話をしながら歩きたいと提案してきたので、私たちは歩いて北の海岸へと向かう。
相手はどうやら、まだ動かない……待っているみたいな感じかな? 襲撃のタイミングを計っているのなら、ゆっくり向かいますかねー。
むしろ森にけしかけてくれると、探して迎撃する手間が省けていいよ。こっちからばんばん魔法撃つからさ。
「それはいいですね。相手側は、きゅうけいさんが人間の味方をしているということを知っていますし、それ以外にもマモンさんが味方になったり、ビーチェさんが味方になったり、何件か知ってはいます。ですが、あの蝿……ベルゼブブも見ていないことは多い」
「けっこー見られたと思うけど……例えば?」
「きゅうけいさんのレーダーの観測範囲です」
「あっ」
そっか、そういえば私のレベル九京レーダーがどれほどのものか、ベルゼブブは知っていない。
「だから、警戒する必要はないはずです。こちらは相手を把握していても、相手はこちらの動きを把握してないですから」
なるほどなるほど……じっくり考えてなかったけど、そういう側面もあるんだ。さすがリーダー、頼りになる。
「少し気がかりなのは……」
「ん?」
「どうして、ダークエルフの集落では同じことをやって失敗したのに、こんなに全く同じようなことをブライトエルフに対してやったか、ですね」
……それは、確かに。
相手がどんな魔王なのかは知らないけど、ベルゼブブがよっぽどの馬鹿でもない限り、このパターンで襲いかかってきても、私にやられるって分かるはずだ。
私たち『異種友』の能力が高かったからあまり意識しなかったけど、歩くとやっぱちょいと遠いね。そして今は緩やかな山をぴょんぴょん登ってます。
さすがエルフ、私とシルヴィアちゃんはともかく、レベル一桁違うはずの皆も木とかひょいひょい上って木から木へと飛んでいく。
うーん、ニンジャのアニメみたいに優雅だ。
「そういえば」
ふと、エッダちゃんが口を開く。
「お二人……と、あとファビアさんの三人ですね。三人は無事だったんですよねぇ」
「はい、エッダさん。俺たち三人は全くの無事だったようです」
「自分はたまたま外に出てたから問題ないっす。カストとファビアも、そだっけ?」
「俺とファビアは集落近くにはいましたけど、うまいこと感染しなかったみたいですね」
シルヴィアちゃんが、その言葉を聞いて、ふと足を止める。
「……シルヴィアちゃん?」
「あ、いえ何でもありません。すぐに向かいましょう」
一瞬考え込んだようだけど、再びシルヴィアちゃんが動き出したところで、皆で移動を開始した。
そしてシルヴィアちゃんは、私を追い抜く……って、シルヴィアちゃん場所分からないよね?
「……きゅうけいさん」
……? 近づいて声をかけられた。
何か、こう、内緒話みたいな形だ。
「……お願いしたいことがあるのですけど、いいですか?」
「もーちろんっ。なんでも言ってね!」
私はシルヴィアちゃんのお願いに頷き、シルヴィアちゃんは減速してエッダちゃんのところに戻ってしまった。ああんもっと会話引っ張ればよかった……。
先導している側って、こういうとき損だよね。
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緩やかな山を登り切って、海岸側まで出てくる。
私はまだ山の中で森に隠れているうちに、じっくり相手の方角を見る。
……いた、赤茶色の魔族。横にでかいっつーかオークよりでかい。
暴食の眷属というか、肥満の眷属だね。OL時代の怪しくなってきたお腹を思い出してちょっと戦慄します。
食べ過ぎ、ダメ絶対。
そして、この場所から……あまり使っていないけど、この魔法。
「……【セイントビーム】」
使えるかどうかわからなかったけど、発動した。よっしよっし。
超高速で放たれた魔法は、魔族……ではなく、その上の蝿を貫通させる。
低威力の高速魔法。いくら威力が低いとはいえ、蝿を倒せないほどではない。
そして、攻撃が外れたと思った魔族が、一斉に山の方……こちらを見る。
相手からは何も見えないはずだけど、間違いなく私たちがここにいると気づいたはずだ。
さて、ご対面といきますかね。






