きゅうけいさんは休憩が報酬
ぐでーん。
ぐでぐでー。
えっとねー。なにをしているかといいますとねー。
マルティーナさんの家のカーペットにねてまーす。
どこかの卵の黄身ゆるキャラだよってぐらい、ぐでぐでにねてまーす。
シーナさんが困ったように声をかけるけど、私はもうぐでぐでなので、大した反応できないでーす。
「……ええっと……きゅうけいさん……」
「せつめー、よろしくー、おねがいー」
「……はあ……了解っす……ほんとお疲れっした……」
初めて町長のマルティーナさんに会ったときの、おそとむけの挨拶なんてなかった。
なぜなら今の私は、プライドもなにもかも投げ捨てて寝ているのだからっ!
私は、全てのクリアエリクサーを作り終わった後、自分で『休憩を希望』と叫んだ。
叫んだ瞬間に思ったのだ。
————ほんと、まじで、ちょー疲れた……。
それこそきゅうけいさんがベルフェゴールのきゅうけいさんになる前に、ワーカーズ・ハイだっけ? でかろーししちゃって転生した時と同じだねこれ。
ブライトエルフの皆さんは絶対に助けるぞーっと気合いを入れて集落を回ったはいいんだけどさ……ここまで多いとは思ってなかった……。
家の数はもちろんのこと、一家も結構な人数いたりしたね。
それでも走り始めた勢いで、休まずガンガン薬作って治すことができたわけです、いぇいっ。
そして全てが終わって『休憩』と叫んだ瞬間に、自分の言葉が自分への言霊となり、思い出したように一気に疲れが襲ってきた。
やっぱ休憩は大事。無理しちゃ駄目。人類は怠惰になるべき。
ってわけで、私がカーペットに寝そべっているのは必然なのです。
あーもーマルティーナさんの、ロッティ家絨毯マジさいこー。床でぐったりするのさいこー。
子供の頃、フローリングの日光が当たった部分とかあると、ぐでーっと寝そべってしまったりしたこととかない?
そしてそのまま寝るの。……寝るまでいくのは私だけの気がするけど、でも寝そべるのは絶対みんなやってる。
大人になっても、フローリングの日向部分には足を入れてじっとしたりね。
そんなわけで、今の私はカーペットに寝そべってます。
ブライトエルフ、土足じゃないからね。ふかふか気持ちいい。
「まったくもう……って、エッダ?」
「えへへぇ〜」
シルヴィアちゃんの呆れ声と、肩を揺らして笑うビーチェさんと、エッダちゃんの声が……あっエッダちゃんが一緒に寝そべりにきたっ!
私は角があるからあんまり動けないけど、エッダちゃんはうつ伏せになって肘を立てて、こちらの顔をのぞき込む。
エッダちゃんにこうやって上から覗かれるの、新鮮。
「えいえい」
「ひゃんっ! お返しですぅ」
エッダちゃんの耳ふにふにしてたら、エッダちゃんが私のほっぺつんつんしてきた!
つんつんくすぐったい。ちょっと気持ちいい。ていうかエッダちゃんのおっきい耳ほんと触るのたのしい、気持ちいい。
あーもー最高ー。
「……のところが最後っス。そんでユグドラシルからこっちまで直行して帰ってきたっつーわけっすね」
私とエッダちゃんがのんびりいちゃついてたら、シーナさんの報告が終わっていた。
うぇーい、お疲れ様でーす。
「……なるほどねえ……」
あ、マルティーナ村長の方も私をのぞき込む。
のぞき込むというか、その、腰を曲げた姿勢を取られると……マルティーナさんの身体すごい……し、視線が吸われちゃう……!
ちょっと気まずい、逸らそう。いや絶対一瞬チラ見してたって思われてるね。
女子同士ではあるのだけれど、ちょい恥ずかしい。
「照れてる……? ふふ、ほんとに不思議な魔王なのね」
「そっすねー、私が質問して働き見た限り無害っす」
お、シーナさん分かってますね。そうです私は無害さん、またの名をきゅうけいさんです。
「初めて聞きましたよ、きゅうけいさん……」
シルヴィアちゃんの呆れ気味な溜息が聞こえてきて……わっ! 肩を持ってぐいっと起こされたっ!
ビーチェさんはずーっと、床に座ってこちらを見て笑ってる。
お、おもしろいかな……?
「でも、本当にお疲れ様でした。シーナさんから報告を聞きましたが、倍以上いたんですね。見切り発車で治療を任せきってしまってごめんなさい」
「あっいいよいいよー、助けられなかったら絶対もっと後悔するもん。だから今日はがんばったよー。疲れるのとみんな治すの天秤にかけたら、迷うまでもなく後者になっただけだよー。これからも私が必要なら、シルヴィアちゃんはなんでも言ってねー」
シルヴィアちゃんは私の返答を聞くと、
「……こういうところが、本当に、きゅうけいさんだなあ……」
優しい声色の、ちょっと聞き取りづらい小声で喋って……わわっ。
肩。
肩もみもみされてる……!
「これ、効果あります?」
「(ハイドレベル【6176】)……うん、おっけー、ありますありますっていうか超きもちいいです最高……」
「ふふっ、良かったです。続けますので、しばらくじっとしていてくださいね」
……お、お、おう……うお、おお……おうっ。
……んん、んんんん……んふぅ〜……。
気持ちいい。シルヴィアちゃんのマッサージやばいぐらい気持ちいい。
ほんっとリーダー何でもできるのすごい、知識も技術も万能すぎ。
あー。今日の報酬がこれだと思うと、もー満足しちゃーう。
「…………」
……あの、えっと、ビーチェさん?
興味深そうにのぞき込んでますけど……駄目ですからね?
ほんとに、マジで、ビーチェさんは駄目ですからね!?
だってゴブリンキングをビンタ一発で吹き飛ばすマッチョ人魚ビーチェさん、私のレベルをどれぐらいに調整すればいいか全くわからないですからねっ!?
「……すごいっす、古竜が魔王にマッサージしてるっす……」
シーナさんの驚きに見開かれた青い目へ手をひらひら。
いいでしょー。
「……そういえば、シーナ。彼女は報酬に『休憩』を希望したいという話だったわね」
「そっすね、マルティーナさん」
「その要望は聞くとして、金貨はいくらぐらい必要かしら?」
「あ、それは後でリーダーかルフィナさんに。私は特にお金とかはいいです」
口を挟んでおことわり。
この姿だと、お金は使えないからね。リーダーかグランドギルドマスターが適切な価格を提示した方がいいと思う。
ただしパーティ組んでギルド登録して、みんなを働かせている以上、私の判断で全くのタダ、ということは言わない。
きゅうけいさんは、パーティメンバーのためにも無茶ぶり営業部みたいなことはしないのだ。
「きゅうけいさんは、ほんとにそれでいいの?」
「いいよー、おやすみできる報酬があれば、きゅうけいさんはもんだいないよー」
「それじゃあ……あれはどうかしら」
おっ、何かあるんでしょうか……!
シルヴィアちゃんのマッサージは最高だけど……報酬としては十二分に満足だけど……!
それはそれ!
これはこれ!
わくわくしながら口角を上げる私の期待のまなざしに、マルティーナさんは苦笑しながら提案。
「私のベッドで寝てもらう、というのは?」
……。
えっなにそれめっちゃ興味あります。
「うお、マルティーナさんが自分の使わせるとかマジっすか」
「ええ、ええ。これだけお休みするのが好きなら、今日は4人とも、普段私が使っているベッドで眠ってもらうのは? とても大きくて気持ちいいけど、普段ちょっと大きすぎて持て余しているのよね」
「いいんですかっ!?」
「ええ。私は客間の布団を使うわ。それでも十二分に大きいもの、折角だからそちらをどうぞ」
「やったー!」
そして私はガッツポーズです!
-
軽くお夜食食べて、お布団のところにやってきたんですが……。
「すっごい……」
「大きいですね……」
「ふわぁ……」
「いいわねー」
なんか、こう、キングサイズみたいなとんでもないベッドがあった。
身長三メートルはカバーできそうなベッド。
横にはもう四、五人どころじゃないぐらい並ぶんじゃない?
部屋はきらきらした飾り付けとか沢山ある。
ロベルトさんのシンプルモダンデザインみたいなのとはちょっと違って、ちょっぴりお貴族様って感じの素敵なお部屋であった。
これはまたこれで、いやいやいや、いいですね〜。
私はいそいそと入る。
そして、ずっしり重い感じのもこもこ毛布を被る。
冬のおふとんが重いの、好きな方です。
何の毛布なのかわかんないけど、もちろんこの毛布も好き。
「んふ」
にやついてると、隣にシルヴィアちゃんとエッダちゃんがやってきて、私を挟む。
今日はビーチェさんもご一緒。エッダちゃんの後ろにやってきた。
そして……隣の二人は私と手を繋いで、寄り添うように近づく。エッダちゃんの上からビーチェさんの手が伸びて、私の頭をわしゃわしゃ。
ビーチェさんのお姫様の顔が、『にーっ』と笑う。
……うわー、すごく幸せ。
「みんな、おつかれさま……」
「はい……お疲れ様でした……おやすみなさい……」
「えへ……おやすみなさぁい……」
「沢山動けて……楽しかったわ……」
うん……。
「……異種友、最高のパーティだよ……」
私の最後の呟きに、皆の頷きを感じながら……。
……ほんとに、みんな素敵で、幸せだなあ……。
おつかれさま……おやすみなさい……。
…………。






