きゅうけいさんは信頼してもらえた
意気揚々と立ち上がり、集落の皆へとおくすり配る作業開始!
「町の案内は……そうね、やっぱりエッダさんがいるのなら、シーナが一番かしら」
「うい、了解っす」
見た目は全身青いキリっと生真面目淑女ながら、軽いノリの後輩みたいな独特の喋りをするアルフォンシーナさん!
ブライトエルフの集落の魔族狩り、家名持ちの戦士かあ。
「それじゃ皆さん、ついてくるっすかね?」
「以前は私一人で移動したけれど、今回はどうしよう。エッダちゃんもビーチェさんも、一緒に来てもいいけど」
「私は相手側からの襲撃がある可能性を考えて、マルティーナさんのところで待機します。ビーチェもそれでいいかしら?」
「ええ、いいわよ。魔王本人以外なら負けるつもりはないわ」
はっきり断言したビーチェさん、さすがです。
正直筆頭眷属の中でも、『種族:マーメイドという固定観念』を取り外したビーチェさんの怪力サバットガールとしての貫禄は、間違いなく群を抜いている。
「エッダは、きゅうけいさんと一緒に行ってくれるかしら」
「きゅうけいさんとですか? わかりましたぁ」
おや……シルヴィアちゃんは、エッダちゃんをこちらで一緒に行動させるつもりみたい。
リーダーの判断なので、何か考えあってのことと思って従いますとも。
それから緑のファビアさんと金髪カストさんの二人は外の見回りへと戻り、私は二人とともに集落へと向かおう。
広い町並みを見ながら、まずはどーしよっかなーと当たりを見回す。ついでに【レーダー】を頭の中で使っているんだけど……反応がとにかく広いんだよね。三桁はいます。
なんてこたあない、ダークエルフの集落がめちゃんこ小規模だったってだけですね。一種族と考えると、一つの町ならこのぐらいは普通かなって思う。
「そっすね、それじゃあ……入り口付近から虱潰しに回りますか。少し走るっす」
「わかりましたっ」
そして南の方へと走り出す三人。
ゆっくり町を見て回りたかったけど、まあ後々かな?
一応走りながらも周りを見ての感想だけど、本当に普通の人間の町ですね。ちょっと木が多いかなってぐらいで、普通に石とか敷き詰めて舗装されているし、建物も綺麗。
併走していると、シーナさんがこちらを向いた。
「ところで、きゅうけいさん……でいいんすよね」
「うん!」
シーナさんから話しかけてもらえたっ!
きりっとした青い目が、こちらを向く。うーん、おめめきれい。ゲームにいた性格キツいエルフと比べると、こちらもツリ目だけど、タカビーエルフの時みたいに見下すような嫌な感じはしないね。
……ただ、少し視線の温度は低いなあって感じはする。
「シルヴィアさんには、かなり軽い感じで喋るんすね。シルヴィアさんもきゅうけいさんには丁寧な感じなんで、そういう上下関係なんかなと」
「あ、ああー、成り行きでね。上下関係というわけではないけど……当たり前だけど、最初から知り合いってわけじゃなかったから」
「……なんか勝負でもして、今の関係が決まったんすか?」
「勝負……じゃないと思うなあ。私が怒ったぐらいだし」
シーナさんが片眉ぴくり。
「怒った? きゅうけいさんって怒ったりするんスか」
「あはは……ロッキングチェア壊された時に、頭に血が上っちゃってね……」
「……じゃあベッドとか破壊しても怒りそうっすね」
「友人はもちろん、知り合った人とかには怒らないよー」
にへらと笑いながら手をぱたぱた振る。
と、ここで会話に入ってくるのはエッダちゃん。
「きゅいけいさんは、とっても優しいんですからっ。悪い奴らにしか怒らないですし、むしろいきなり攻撃されても全く怒ったりしないし、怒鳴られても言い返したりしないんですよぉ」
「マジすか」
「それどころか、しゅんってなっちゃったり、泣いちゃったり。反撃したらどんな相手も一撃で殺せるぐらい強いのに、私はきゅうけいさんが言い返したことなんて一度も見たことないですねぇ。敢えて言うなら……サタンの時?」
あわわ、恥ずかしいところの紹介はやめてっ!
そりゃもう最初にパオラさんに断られた時とか、弥々華さんに怒られた時とか、すっごくへこみまくってたけどっ!
てゆーか最初に会った日にはエッダちゃんだって泣いてたじゃん! もーっばらしちゃうよーっ!?
と私が頭の中でぷちおこ状態の最中、エッダちゃんと会話していたシーナさんが、再びこちらを見る。
「サタン、倒したんすか……?」
「あ、えっと、そだね。獣人の優しい少年を殺されそうになって、思いっきり挑んで無傷の完全勝利してきたよ」
少し考えるようなそぶりを見せて、立ち止まる。
当然町を案内してもらう以上、シーナさんを置いて動くわけにはいかない。
エッダちゃんと私は立ち止まって、シーナさんのところまで戻ってくる。
「……きゅうけいさんって、種族は何なんスか? ステータス、見せてもらっても」
「むーっ、疑ってますね!? じゃあシーナさんが先に見せるべきですよっ!」
お……おお……! エッダちゃんが私を疑っていることに対して、代わりに怒ってくれている……!
大変うれしい! 後ろでにやにやしてしまいますっ!
にやにや。
「む……そうっすねぇ。じゃあ【ステータス】。これで見えるっすかね?」
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ALFONSINA TOSCANINI
Bright Elf
LV:400
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お……おお……!
今回も、これを、言うしかない……!
つっよ! この人が村の守りってすごいですね!
眷属とかが襲ってきても、大丈夫なんじゃないでしょうか!
改めて言っときますけど、人間だとレベル99が上澄みのよーなもんなんです。
そこを超える人は勇者とかその世界だけ。
「むう、相変わらずシーナさん強いですねぇ……」
「エッダさん、どれぐらいなんスか?」
「うう……250です……」
「————は!? 250!? いや以前会ったときめちゃめちゃ子供だったじゃないスか!? マジかー、完全に抜かれそうっすね……」
「子供の頃は仕方ないじゃないですかぁ。今のレベルになれたのは、きゅうけいさんのおかげなんですよぉ〜!」
こ、子供……! そんなに今のエッダちゃんから比較しても子供ってぐらいの頃のエッダちゃん……!
気になるっ!
そして同時に分かったけど、やっぱアルフォンシーナさん多分年上っすね。会話も見た目もエッダちゃんと同学年ぐらいかなって感じがしたけど、エルフとなると三桁とか可能性もあるわけだし。
「で、肝心のきゅうけいさんスね」
「うん。一応毎度確認しているけど、私は全面的に人類の味方だからね。これ絶対」
「そりゃまあ、エッダさんも洗脳されてる感じじゃないし、分かるっすよ。その確認いるんスか?」
「いるよー、ちょーいるっすよー。それじゃ……【ステータス】!」
私の目の前に現れるステータス。
レベルはもちろん、9999に下げてます。
「ベルフェゴール……。やっぱり、魔王の一人なんスね」
「……え? やっぱり? って、もしかして私のこと知ってた?」
な、なんでなんで?
この種族名出して相手が驚かなかったの初めてだよ。いや目は見開いて驚きはしているけど、動揺がなさすぎる。
私がかえって動揺しちゃってるよ!?
「いや、当たり前っすよ。さっきサタン倒したつってたじゃないスか。サタンっつったら人間の最強勇者を殺した最悪の魔王。その討伐を別の魔王所属の上級魔族程度がやってたら、そっちの方が大騒動っすよ」
「あ」
そ、そーでした! 自分で魔王倒したって言ってました!
むしろ予想としては、魔王が魔王倒す方がオッズ等倍でしたね!
「しかし、そうか……あのサタンは、もう滅んだんスね」
「うん。私を怒らせるためだけに、少年を……あの優しい孤児のマイケル君を毒のナイフで自殺させようと操ったりしたからね。もう本気で頭きちゃって、徹底的にやってやったよ」
「……なるほど……」
静かに頷くと、シーナさんの目がこちらを再び向いた。
私はその瞬間に、先ほどとは違うものを感じたのだ。
「すみません、長話に付き合ってもらって。それじゃ最初に家に案内するっす」
「おっけー!」
「わかりましたぁ!」
そしてシーナさんは、再び走り出す。……先ほどとは別の道へ。
やっぱり、最初は私のことをまだ疑っていたのだろう。
だから、最初は人通りの少ない、空き家や広場のあるところ……レーダーで生命反応が少ない場所に行って、私のことを聞いたのだ。
シーナさんは、いきなり村に現れた魔族……私が信用できる相手か、嘘をついていないか、ちゃんと確認したのだ。
すぐに受け入れられなかったのはもちろん少し寂しくはあるんだけど、それも当たり前だと思うし、むしろマルティーナさんといい、皆しっかりしているなあって思う。
それから……この件は、それだけじゃない。
私はエッダちゃんを同行させたシルヴィアちゃんのことも考えていた。
もしかしたらシルヴィアちゃんは、私とシーナさんがこうなることを予想していたのかもしれない。
村の守り手『魔族狩り』トスカニーニ家のアルフォンシーナさんを納得させるには、同じ村の守り手『魔族狩り』モンティ家のエッダちゃんに説得させるしかないって。
古竜の自分では、種族やレベルに差異があって、脅迫になりかねないからって。
……本当に、シルヴィアちゃんは最高のリーダーだ。押しつけがましくなく、さり気なく私のことを常に気に掛けてくれている。
それだけで、もうあったかいよね。
たとえこの集落のエルフがみんな敵対感情だらけだったとしても、意地でも助けるぞ、って気持ちになる。
それから私は、しっかり一人一人の家に入って、薬を作って治していった。
人数は多かったし、反応はダークエルフの集落の時よりも良くはない家もあったけど……エッダちゃんはもちろん、シーナさんも擁護してくれた。
しっかり一人に一人に説明し、私が信頼できる人だと……そして自分自身も信頼していると、はっきりその場で言ってくれた。
うん、シーナさんとっても責任感があって優しくていい人。
私、この人とも友達になりたいな。






