きゅうけいさんは受け入れられた理由を見つける
さてさて、正面にいらっしゃいますは、ブライトエルフ集落の長さん。
さっきまでかなりつらそうにしていたけど、すっかりクリアエリクサーで見ると健康そうな素肌になっている。
長さんは、金髪ゆるゆるウェーブヘアのロングで、こう、ゆったりとした人であった。いや、太くはないのだけれど、細くはなくて、むっちりしてる。
身体にぴったりフィットした服は、ちょっとぱつんぱつん。
全体的に雰囲気はほんわかにこにこしていて、言うなればオレスティッラさんタイプ。……そう、むちむちサキュバスさんと競えそうなタイプのグラマーおっとり美女さん。
もちろん……好きです! 包容力の塊って感じで!
————ただし。
エルフの長は、目を薄く開けている。
その眼力、めちゃんこ強い。
きゅうけいさん、そわそわしながらも正面で両手を前にして直立してます。
デキる美人社長を前にしている感じです。
これは……そう、ロベルトさんと対面したとき以来の緊張感っ!
「え、ええっと、まずはその、ええとあのその」
「きゅうけいさん、緊張しすぎですよぉ」
くすくす笑ってるエッダちゃんには悪いんだけど、今めっちゃ見られてるからね。
「ちょっと前後しちゃいましたが、マルティーナさん、お久しぶりです」
「エッダさん、来ていただきありがとうございます。すっかり集落がやられてしまって、私もあの体たらくで……」
エッダちゃんはお知り合いのように、長さんもといマルティーナさんと会話している。
さすがモンティ家の女の子、ブライトエルフの偉い人たちともかなり顔が広い。
「……お客人方、お待たせして申し訳ありません。マルティーナ・ロッティです。この『ブライトエルフの集落』……もしくは『ロッティの町』とも呼んでいただいていいですわ」
なるほど、町長さんがそのまま町の名前になってるんだ。国王が国の名前になってるようなノリだね。
マルティーナさんの挨拶に、シルヴィアちゃんが一歩前に出る。
シルヴィアちゃん、ちらりと一瞬こちらに視線が向いた。
「ありがとうございます。私は古竜シルヴィア・ドラゴネッティ。竜族の村、長の次女であり、今はこのSランク冒険者パーティ『異種族友の会』のリーダーを務めさせていただいています。皆は私の仲間であり、部下です」
「まあ……! 竜族の長の血筋の方が救援に来てくださったのですね!」
……おや……? シルヴィアちゃん、今回ははっきり部下と断言した。
私はきらきら天使ちゃんのシルヴィアちゃんの性格を知っているから、友人知人にそういう階級をつける表現をするのが好きな方ではないと知ってはいるけど、今回かなり強めの当たり方をした。
……あ、そっか。さっきのアイコンタクトのことを考えると私のことを考慮してるんだ。
シルヴィアちゃんは間違いなく、マルティーナさんの視線に疑いのまなざしが混ざってること、気づいてる。
だから私が警戒されないように、はっきり自分の部下だと言い切ったんだ。
じゃあ私がすることは、ただ一つ。
私はかちかちに直立して、両手を前にして一歩前に出た。
「初めまして、マルティーナ様。私は球惠・火神。見ての通り魔族の身ですが、リーダーであるシルヴィア様がグランドギルドマスターのルフィナ様から受注した任務、そして仲間のエッダ様たってのお願いとあって、集落をお救いできればと馳せ参じた次第です。集落のブライトエルフにかかった魔王の呪いは、全て私が治療できます。責任を持って皆の体調を看ますので、お任せいただければと思います」
そして腰を六十度、ふかーく曲げて、三秒。
腰を戻して一歩下がる。
ロベルトさんのところ以来の、すーぱーおそとむけきゅうけいさんです。
……おお、マルティーナさんの目がぱかーっと開いた。
「あ、ええっと……カガミ・タマエさん、ですね」
「はい」
「あ、マルティーナさーん。この人ほんとはもっとゆるいから、あんまり警戒しないでくださいねぇ」
ありゃーっ言われちゃったーっ!? なんか前にもこんな流れありましたね!
私がエッダちゃんの方を見ると、エッダちゃんにこっ。私も反射的ににこっ。ハイ幸せ。
……あっ、シルヴィアちゃんとビーチェさんがめっちゃ溜息ついてる。
「はあ……。でしたら、普段通りで構いませんよ」
「……そ、そーですか? ではお言葉に甘えて……。あでもマルティーナさんが警戒するのわかりますよ、私めっちゃ青いし角とか生えてるし、目とか真っ黒ですもんね!」
「……」
あっ、ブライトエルフのみなさん同士で、アイコンタクトしながら目を白黒させている。
……ど、どうでしょうか……?
こわくないよー。
「まあ……いいでしょう。お任せしてもよろしいですか」
「ほんとですか? よかった……。でも、やっぱり疑わしいって思ってましたよね。……変な意味じゃなくてあくまで興味本位で聞きますけど、どうして信じたのです?」
「それはもちろん、エッダさんよ。彼女は信用できるから」
うおお、ここでもエッダちゃんが!
きらきらエルフの皆さんに受け入れられるの、エッダちゃんのお陰だった。
「集落で魔族狩りのエッダさんが連れてきた以上は、問題のない人だとは思うのだけれど……さすがに驚きましたね。長としてどこまで心を許していいか判断に悩むところではありますけど……」
「むぅ〜っ、きゅうけいさんは悪い魔族じゃないんですっ! とってもとっても、世界一素敵な人類の味方なんですからぁっ!」
うへへ、そこまで言っちゃいますか! えへえへ……デレデレ顔で頭かいちゃう。すぐ隣からまた溜息が聞こえてきたけど、もう笑顔なりっぱなしになると戻りませんうへへ……。
でも……マルティーナさんの判断もそりゃそうか。魔族狩りなんて名前の戦士が魔族と一緒にいるんだから信頼できるけど、長としては集落全員の命を預かる身だ。
その判断の責任は重い。
「とほほ、まあじっくり信用を得ていくことにします。うーん、そういえば早い段階でお薬渡したからか、ロベルトさんはすぐに信用してくれたなあ」
「あっ信用します」
「うん……うん? うん!?」
なんか、今……マルティーナさんから食い気味に返事が来ました……?
「ロベルト様が信用なさったのですね。でしたら、でしたら、わたくしもあなたのこと、信じてあげなくてはいけませんね、ええ」
「…………」
「そう……ロベルト様もお元気なのね……」
なんだか、少し頬を赤らめているマルティーナさん。
私は、ちらりとエッダちゃんに視線を送った。エッダちゃんは満面の笑み。その後ろでビーチェさん、すっごくにやにやしてる。
そりゃもう、他人のコイバナで盛り上がるJKってぐらい、にやにやしてる。
分かった。よーく分かった。
そりゃあ、あの私に対してもスーパージェントルマンしていた究極紳士のロベルトさん相手なら、エルフの長であろうともこんな顔になっちゃいますよね!
恐らく長なだけあって年齢は高いだろうけど、きっと見た目からはロベルトさんより若いであろうマルティーナさん。
エッダちゃんと知己的な雰囲気なら、同じ長としてあの紳士のおじさまと交流しているのは間違いない。
ありがとうロベルトさん、あなたのいないところでも私めっちゃ助かってます。
あとマルティーナさん、大人の魅力たっぷりのむちむち美女さんが恋に恋する少女モードになって両手の指突き合わせてるの、正直超かわいいです。ハイもう好き。
私の中で、貫禄あるロッティ家の町長さん、ロベルトさんパワーでものの数分でかわいい系キャラにランクアップしました。
すごいぞロベルトさん。頻繁に会いに行ってあげてくださいねロベルトさん。
「……はっ! あ、ええっと、それではカガミ様に治療をお任せしますね」
「あー、名前はできれば『きゅうけいさん』って呼んでくれると」
「きゅうけいさん……ですか?」
「うん。シルヴィアちゃんもエッダちゃんも、みんな私のことそう呼んでるからね」
そういうことなら、とマルティーナさんも私のこと、きゅうけいさん呼びになりました。
うんうん、やっぱこっちで馴染んだ方が近い感じがしていいね。
「それと、お待たせしてすみません。もう一人は……」
「ええ。私もシルヴィアのパーティメンバー。名前はビーチェよ。今回は初任務なんだけど、格闘には自信あるし、実際敵の魔族が出してきた魔物は私が全部ふっとばしたから、安心なさい」
「まあ、お強いのですね」
ビーチェさん、長相手でも物怖じしない性格というか、かなり堂々としていた。まあご本人様が実際めちゃくちゃ強いし、実際魔王の副官みたいなものって聞くと滅茶苦茶偉いはずだし、レヴィアタンと同じ魔王格以外に敬意なんて払ったことないだろうからなあ。
まあ、そのうちの一人が私なんだけど……でも無理矢理お願いして、タメ語で話す友人になってもらった。やっぱり嬉しいね、特別な感じがあって。
「それにしても、あなたは『異種族友の会』の中でも人間なのね」
「ん? 魔族よ。シルヴィアと同じ『ヒューマンフォーム』になってるだけ。きゅうけいさんに近いわ」
この発言に、マルティーナさんだけでなくファビアさん、カストさん、アルフォンシーナさん三人も驚愕。って当たり前か、見た目ほんと人間だもんね。
後で説明する時に問題……いや、私が受け入れられる時点で大丈夫だろうね。
「っと、話し込んでしまいましたね。それでは、まだ集落で苦しんでいる者も多いです。早速お願いできますか?」
「はい! 任せられましたっ!」
よし、長からの許可をいただけた!
ブライトエルフの集落、たっぷり見ながら治療していこう!






