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きゅうけいさんは人魚の過去に感銘を受ける

 意識を集中して、周りの草木が風の揺れを失ったのを確認する。

 よし、意識上のスピードがレベル九京になった証拠だ。魔物はこれで足止めしたも同然。


 森を突っ切る。そして走った先には、森の中をうろつく黒い影。

 一年ぶりだね、君たち。


 この森はエッダちゃんの住んでいた森とは違って、太陽が地面にものすごく入り込み、きらっきらしている。木と木が間隔を開けて、草もしっとりした高さまでしか伸びていない。

 なるほど、これがブライトエルフの森。ダークエルフとは全く違う。

 爽やかで、綺麗でいい森。でももちろん、エッダちゃんの故郷も暗い森なりの工夫で美しさを出していて好きだけどね。


 そしてそんな森に、こいつら……シャドウオークはよく見えた。

 それはもう、不自然なぐらい黒い塗りつぶしがいるのだ、目立つものである。


「よっと」


 私はそいつらを後ろから、バッサバッサ斬っていく。

 集落までは距離があるけど、集落付近で守りの任務をしているエルフが少ない。ダークエルフの集落の『エッダちゃん以外全滅』みたいな状況にはなっていないようだけど、それでもこれはまずいね。


 私はしっかりと、シャドウオークとシャドウウルフを仕留めていく。

 めんどくさがってはいられない、レアドロップ回収のアイテムマラソンという、同じところをぐるぐる回るプレイの気分で、虱潰しに倒していこう。


 右手のショートソードで、相手の首を切る。

 っていうか私、当たり前だけど筋力めちゃくちゃあるので、もうちょっと大きな剣とか槍とか持ってくればよかった。

 てゆーかマモンさんにねだればよかった。ルチル魔石あげたときにちょちょいとお願いすればよかったーっ。


 ま、いいや。

 結構アクションゲームってさ、いろんな武器を装備してプレイしてみるのはいいんだけど、最終的に操作感がいい一番最初の武器に戻る、なんてことあるよね?

 ショートソード、取り回しがいいのでしばらくこいつでがんばろう。


 シャドウオークの集団の先頭に立って、敵の首を切った瞬間に————世界へ意識を向ける。

 オークが視界で動き出し、私の姿をその目に捕らえる。


「わっはっは! かかっておいで!」


 いちいち追っかけてたら面倒なので、相手をたっぷり呼び寄せる! シャドウオークたちが、エルフの集落に向かわずこちらへやってきたので、内心ガッツポーズ。

 これでもう、動かなくていいから楽だね! スピードに自信の狼さんも、私に近づいてはなすすべなく斬られていきます。


 それからしばらく戦っていると、何やら奥の方でどかんどかん音が鳴り出す。

 何か強い敵でも見逃したのかと思って警戒していると、聞こえてきた声にすぐに私は納得した。


「【アイスニードル】!」


 その声とともに、視界の中でオークの頭がいくつか吹き飛び、森の木々より高い跳躍をしてこちらにやってきた影が一つ。


「ビーチェさん!」

「ほんときゅうけいさん速すぎよっ! でも、先行してくれて助かった! 二人もすぐ来るだろうけど……」


 ビーチェさんが、シャドウオークの振り下ろしてきた両刃の斧を……片手で握った。

 そして勢いよく、蹴り上げて破壊!

 さすがマッチョ人魚のおてんば姫。斧とかって武器なしでも破壊できるんですね……。


「みんなに比べて、動き足りないの。ここは私に任せて!」


 そしてジャンプして、叩き込むは虎のマスクをつけたプロレスラーの初手オハコの、ローリングソバットォ!

 シャドウオークの首から上が、どこに行ったか分からないぐらいのスピードで消し飛ぶ!


 途中からシルヴィアちゃんとエッダちゃんがやってきたものの、ビーチェさんの圧倒的な強さと「一人でやらせて!」という発言に唖然としながらも頷き、私の隣で見てます。


 そして、私の初日とは比べものにならないカンフーアクションをして敵を倒していくビーチェさん。

 カンフーなのか、テコンドーなのか、もしや空手……?


 手で魔法撃ってるから、格闘はほとんど足技ばっかり使ってる。その効率の良さはすごいもので、魔法と格闘技両方で常に魔物を倒し続けている。

 私のレーダーの中にある魔物、すぐに全部なくなってしまった。


「ふー、いい汗かいたぁ!」


 あのね……言わせてください。


 つっよ!?

 いや強いのは知ってるけど、それはそれとしてこの人つっよ!?

 でも、でも……なんか戦い方おかしくないですかっ!?


 そして、疑問はもちろんシルヴィアちゃんが持たないはずがなかった。


「ビーチェさんに質問があるわ」

「ええ、何かしら」

「なんでそんなに足技豊富なの? マーメイドの姿でしか普段戦ったりしてないわよね?」


 そう、この人はマーメイド。人魚である。普段『足を使ったことがない』はずの人なのだ。

 それなのに、ここまで自由に足技を駆使するのは驚きしかない。


 ビーチェさんは、恥ずかしそうに笑った後、その事情を話してくれた。


「これは、レヴィアタン様との繋がりのうちの、一つなのよ」




 マーメイド。人魚姫。


 その作家の書いた話の核になる設定は、人魚姫は王子様とは、足がないから交流できないというものだ。

 それを無理してまで、足を欲したのが人魚姫。

 その結末は悲恋で終わるけど、実はあの後もちょっと展開があるんだよね。でも今回それはまあ置いておいて。


 つまり人魚姫は、人間の足がうらやましいのだ。人間の足がほしいのだ。人間が努力なく、手に入れているもの。それはもちろん……『嫉妬』の対象となる。


「レヴィアタン様は、それはもう私に人間の足の良さのことを語ってね……」


 そこで身内にもドSのレヴィアタン様、本をいくつかかっぱらってきた。

 その中に書かれているのは……足があればできること。

 カルチョ(サッカーの原型ね)、そして……なるほど、サバット。ソバットの語源の、足をメインに使った格闘技。

 なんでそんな本があるのかって思ったけどまあ忘れかけてるけどここ二十一世紀のゲームの世界だからね。


 その本をビーチェさんに読ませた。


「羨ましかったわ。それはもうめちゃくちゃ羨ましかった! レヴィアタン様はふつーに足ある魔王様だから、余計に見せびらかしてくるのがね!」


 ゲーム中に登場していた髪も肌も青い巨乳美女のレヴィアタン、なかなかに意地が悪い。

 うーん、いい性格してる……。お話したかったなあ。こっちは本格的に、滅ぼされているのが確定している。


「で、私はマーメイドの姿からヒューマンフォームを獲得するまで、かなり長い年月をかけたのよ」

「そんなに大変だったの?」

「十年はかかったわ」


 ……思った以上に大変だった。

 そうか、それだけ長い間、ずーっと人魚でい続けて……。


「娯楽はその足技の本ばかり。毎日それを読んでは魔法の練習をしたわ」

「ああ……それで」

「そう。念願のヒューマンフォームを得てからは、もう嬉しくてね!」


 本に書いてあった格闘技を真似した。

 もう本を見なくても同じようなポーズをできるぐらい、徹底的に覚えていた。

 そして真似してアレンジして、連日連夜たくさん足を動かしまくって……。


 その結果誕生したのが、足技おてんば姫のビーチェさんである。


「ちなみに私が人間の足を手に入れた瞬間、レヴィアタン様は心底がっかりした顔をしたわ」


 ……ほんといい性格してるよレヴィアタン。


 そしてビーチェさんの話から、ようやくこの人のことが分かった。

 この人は『悲恋の人魚姫』じゃなくて『嫉妬の魔王の人魚』なんだ。

 嫉妬、つまり羨望の人魚は、何よりも人間に憧れた。

 だからその嫉妬する材料を手に入れて、うらやんだ能力を存分に楽しんで、今のビーチェさんが形成されているんだ。


 『人間の足がなかったのに、格闘技が上手い』じゃない。

 『人間の足を得ることができたから、格闘技が上手い』のだ。

 人間とは、足に対する有り難さが根本的に違う。


 今のビーチェさんを見てると、思う。

 普段当たり前のように持っている自分の足。そして手や声に限らない、五感の全て。

 そういうものがどれだけ特別で素晴らしいものなのと。

 今の自分を構成する全てが、とても尊いものに感じられるようになるね。

 いい話だった、聞けてよかった。


 ————同時に思ったのだ。

 なるほど、レヴィアタンが『相手の良いところばかり見つける魔王』って表現されてたの、分かるなあって。




 と、お話ししているとエッダちゃんが後ろを振り向いて木の上の方を見上げるように向く。

 そして……両手を振ってる?


「え? 何やってるのエッダちゃん……って」


 私は、そのエッダちゃんが手を振っている方向に、レーダーの反応があることに気づいた。

 ……いや、遠くないですか? 50メートル以上は距離ありますよね?

 何が遠いって、木の葉っぱが重なってるところなのです反応。エッダちゃん、このふさふさの木々に重なった先が見えるの? あっちは手を振ったところでこっち見えてないんじゃないの?


 なんてこと思ってたら、木の上に待機していた反応が降りてきた。

 ……すげー、あっちも見えてるよ。

 エルフみんな森での視力いいなあ……。


 しばらく待っていると、草に隠れているであろうエルフが……あれ、反応が止まった。

 エッダちゃんが首を傾げて、そして私の方を見る。


 エッダちゃんに向かってにこっ。

 エッダちゃんもにこっ。

 ハイ幸せ。


「……きゅうけいさん。あとエッダ」

「はいっ!」

「ひゃうっ!?」


 シルヴィアちゃんから、呆れ気味の声が届いた。

 な、なんでしょうか……?


「私からは何をやってるか見えないけど、きゅうけいさんの見た目に警戒しているんじゃないですか? っていうかエッダは真っ先に気づくべきだと思うわよ……」

「はうっ、そうでしたぁ……!」


 あっ、そりゃそうですね! 私めっちゃ青いですからね!

 敵と同じ見た目してますからねほんと悲しいことに!


 エッダちゃんは、私にしがみつくと、再び手を振って私を指さしたりして、大丈夫アピール。

 それから数秒すると……恐る恐る歩いてくる、緑のロングヘアの女の子。


 出た……! ブライトエルフだっ!

じわ伸びして点数が13000台に乗りました! なかなか一度ランキングから外れると伸びないと聞いていたのでとても嬉しいです。

いつも更新の元気をいただき、ありがとうございます!

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