「雨粒や 古都を彩れ 秋の陣」
風は冷たし、雨も冷たし。今日も私は駅のホームに一人。
周りが山に囲まれ、近くには湖しかない。そんな場所に住む私は、湖を沿うようにして走る電車に何十分と揺られ、古都にある学校へ向かう。
だから、毎日、一人。
最近、帰る時間が暗い。まだ少し前までは、空が群青色をしていて、少し明るかった。
高校を出て、楽しそうな男女二人ペアを見ると、羨ましく感じる。
あんな風に、一緒に帰れればいいなと思う。でも、同じ方向に帰る人はいないから、夢のまた夢。
夕刻。この時間は帰宅ラッシュでホームに並ぶ人も多い。
東に向かう列車は、五分おきにホームに訪れ、並ぶ人をさらっていく。
しかし私は、自分が一番前になると、後ろの人に順番を譲る。
なぜなら、同じ東に向かう列車でも、行き先が違うから私は家に帰れない。
『湖西線』という列車に乗らなければならない。だから今日も順番を譲る。だから私は、いつも決まって列の一番前に立てる。
今日は私だけではないみたいだ。右隣に、全身黒でコーディネートされた若い男の人が立っている。左耳にピアス。両耳に白いイヤフォン。風貌はとても美しい。
左の列から少し右に寄る。寄ったらまた戻らなければならない。
電車が過ぎ去った。元に戻らねば・・・。
・・・戻れない。左の列にいたから、左に寄らなければいけなかったか・・・。
しまったと立ち尽くす私は、男の人と目が合う。
男の人は、私に手招きをした。
私はそれに従い、元の位置へ戻る。
「割り込むなよ。」
後ろの人から言葉をかけられる。
「あ、いや・・・。」
言葉が出ない。
「彼女、さっきからずっと並んでたよ。俺、一緒に並んでたから。」
「そーなの、じゃあいいや。」
男の人は、こちらを見てニコッと微笑む。
「よかったね。」
私はコクコクと頷いた。
すると、電車がホームに入ってきた。この電車で、家に帰る。
ドアが開くと、私はすぐに乗り込んだ。運転席のすぐ横の席。二人掛けの席に座る。
男の人は、この電車には乗らなかった。多分、次の快速電車に乗るのだろう。
ドアが閉まる。男の人と目が合うと、その人は手を振ってくれた。
電車は進む。あ、しまった。ありがとうを言うのを忘れていた。
いつか会えたら・・・。今度はありがとうと言おう。
そういえば、今日帰りがけにもみじをみた。美しく赤く色づいた紅葉を。
雨は葉を濡らし、しかしその水滴は葉を輝かせていた。
明日はもっと、この古都を彩る景色を見てみよう。
今の私の彩り鮮やかな色ならば、その景色はもっと美しい。