12話 QUARTER外伝 ~絢音Side 兄は……~
今回は、妹の絢音ちゃんの回です。
先生が教科書を音読する声が教室中に響き渡り私は、給食を食べた後ということもあり少しウトウトしていた。何で今日はあんなに早く起きちゃったんだろ……重い瞼を必死に開けるがどうしても重力に抗えない。外からは激しい雨音と雷鳴、そしてまどろむ意識。うん、寝るのも悪くないかも……私が長い眠気から解放されようとした時、先生の声の雨が私に降りかかる。
「はい、それじゃあ。そこで、眠そうにしている九十九さん。先生の続きから一段落大きな声で音読しなさい」
「ふぇえ……」
私は、教科書を見てみるが授業が開始してからページをめくっていないために何処から読めば良いかわからない。仕方ないよね~眠かったもの!
「先生、ごめんなさい何処から読めば良いですか?」
というわけで私は諦めて先生に聞いてみると先生は若干怒りながら私に読む場所を教えてくれる。
って、一段落長!!何行有るんだよ!
私は、そんなふうに思いながら教科書を音読する。実は言うと私はそこまで音読とかは得意では無い。文学作品なんて難しい漢字も多くて途中途中、先生に読み方を教えてもらいながら何とか読みきった。
読み切ると雨の勢いも落ち着いて来ており、もう少ししたら晴れそうな感じだ。先生は私の続きからまた、音読を始める。先生の指名のお陰で眠気も吹き飛んだ私は、本文を目で追いながらわからない漢字や語句にマーカーを引く。
淡々とした作業……晴れ渡る空……雨が降ったせいで湿度が急激に上がり蒸し暑く気持ちが悪い。雨は嫌いじゃないが真夏日の雨は勘弁してほしいものである。先生の音読も終わり、先生は黒板に小説の登場人物を書きはじめる。先生は私たちに登場人物の心情の付いて問い掛ける。
登場人物の心情ねぇ……そんなの何処にあっただろ?私は、ページを前後しながら丁寧に読み解いていく。正直、国語は嫌いだ。友達に何でこんなの答えになるか聞いても感覚だ、と答えるばかりだし先生に聞こうものなら、ここに書いて有るだろう、だけで終わってしまう。
──そういえば、お兄ちゃんが何かテクニック教えてくれたような……
つい昨日、教えてくれたお兄ちゃんの国語テクニックを私は思い出す。
そんなの時だった。
授業中だと言うのに教室の扉が教頭先生に開けられる。教頭先生は、教室を見回し私と目が会うとすぐにこういうのだ。
「九十九さん直ぐに職員室に来なさい。話が有ります」
私は困惑したのだが、疚しいことも無いので了承し教室を後にする。クラスはいきなりのことで騒然としていた。後で何を聞かれたか友達に取り調べされそうである。教室を出て暫く経った時だ。先生は私にこういった。
「君のお兄さんが病院に搬送されたそうだ。詳しいことは私には、わからないが陣内先生が今、駐車場で待機しているから彼女の車に乗って直ぐに病院に向かいなさい」
え?今、先生何て言った?私は教頭の突飛な発言に頭が真っ白になる。お兄ちゃんが病院……どゆこと?お兄ちゃんは今頃、授業中なわけで授業をサボる様な人でも無い。それこそ教室に飛行機でも突っ込んで来ない限りは怪我などしようが無いわけだが。
「先生……兄に何があったんですか?」
「悪いが九十九さん、私も君のお兄さんに何があったか把握出来なかったんだ。魂換師が連絡をくれた以外は……」
魂換師……一体お兄ちゃんに何があったんだろ……
私は、教頭の言葉にともかく病院へ向かうことにした。
教員の駐車場の奥に、まだ若い私の担任の陣内先生が待っていた。陣内先生の軽車に乗り私は病院へ目指す。何とも言えない嫌な予感と胸騒ぎが鼓動を早くさせる。
陣内先生がカーナビをテレビに切り替える。テレビからは主婦向けの情報やバラエティー番組紛いの企画がなされている。すると昼番組の司会が緊急ニュースを知らせる。
途端にカメラが切り替わりニューススタジオの様な殺風景な所だった。女性のアナウンサーが原稿を読み上げる。
「番組の途中ですが、先ほど大規模な狂魔事件があったため、緊急のニュースをお伝えします」
女性のアナウンサーの後ろには慌ただしく人が走り回っており、ガヤガヤとした声がスピーカーからこぼれ出る。アナウンサーは出来たての原稿に目をやりながら画面越しの私に目掛け情報を伝える。嫌な予感が外れる事を願いながら私は画面を睨みつける。
「先ほど十三時五十分頃、県立六金高校で大規模な狂魔事件が発生。魂換師が事件現場にて現在も校舎内の狂魔を掃討中との事です。死者、行方不明共に多数との事で近隣住民は屋内に避難または、シェルター等への避難をしてください」
はぁ?どういうことだ?校舎に狂魔……一体どゆこと??頭の動きが鈍る。兄の高校がテレビ越しから映し出され、校舎の前には多数の魂換師らしき人が集まっている。一部、地面に血痕らしき跡もあり私のネガティブなイメージを加速させる。先生はそんなニュースを聞いたためか若干アクセルを深く踏み付け、エンジンを更に蒸す。制限スピードギリギリで走る車が病院へ走り抜ける。
今の私には、この画質の悪いテレビだけが情報源なのだ。私は食い入る様にテレビ画面を見つめる。テレビは以前として事件現場を映すだけだ。事件のあった校舎体育館の屋根は無惨にも吹き飛ばされており、事件で発生した狂魔の凄まじさがよくわかる。
教頭先生の言うことには兄は病院に搬送されたといっていた。多分兄は無事なはずだ。そうは思うのだが安心等は全く出来ず私の鼓動の鐘は先生に聞こえてしまいそうな位激しく鳴っている。後少しで兄の居る病院なんだ。どうやら、悪いニュースは続くようで校舎内にはまだ多くの狂魔が残っていて魂換師が今もなお戦っているらしい。
ニュースを見続けると何か嫌な事が重なりそうな気がしてしまい、私はそっとカーナビのテレビ機能をオフにして本来のナビゲーションに切り替える。
カーナビの機械的な抑揚の無い冷静な声が病院へ向けて先生を指示していく。私は、そんなの声を耳に流しながら外を見る。湿った蒼い空に赤い太陽。私は何故か戦慄してしまった。私が見ているその世界は──
──紛れも無い日常だった。
明日からは、事件直後のストーリーを3話して兵科学校編です。閑話が入ったらごめんね。




