10話 QUARTER ~Part6 朱い月の夕焼けの下で~
祝10話!
やったぜ。
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少年は必死に追いかける。
「また、明日遊ぼう」と言い、目の前から去ろうとする友人の背中を。
少年は必死に追いかけるのだが彼の背は離れて行くばかりで追いつける気配が無かった。
今、追いつけなければ二度と逢うことは出来ない。そんなふうに思えた少年は大きな紫色の頭を振りながら全力で走る。まだ小学校の一年生になって間もない少年はその大きな頭を支える程の体も出来いなかった。
そのためか、少年はバランスを崩し何も無い場所で派手にすっ転んでしまう。顔を上げるといつも遊んでいた友達は居なくなっていた。急に悲しくなった少年は、涙を流しながら夕日の中をトボトボと家に帰るのだった。
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真が目を開けるとそこは夕焼けの平原だった。体を起こし辺りを見回せば周りには何もなく地平線の彼方まで平原は続いていた。そこに、気持ちのよい風が真の頬を撫で高まっていた鼓動を落ち着かせる。鼻を擽る緑の香りに気持ちのよい風に真はもう一度、次は大の字になって草原に寝転ぶのだった。
空を見れば沈んでいる最中の太陽は見当たらず何故か朱い大きな月が天頂にいた。それを見ると何故か胸が温まり不思議な落ち着きを持ってきてくれる用に真は感じたのだ。
真はそれに手を伸ばし小さく呟く、
「大きいな……俺には勿体ない位だ……」
どうして自分にとって勿体ないのだろうか……と真が悩んでいると
頭の中に一つのフレーズが流れ込んできた。
真はその言葉を呟こうとした時だった。
「何で、私が先なのよ!!」
「ブッフォ!!」
大声でそう言うやいなや彼女は真の頭を蹴り飛ばす。真は完全にリラックス状態にあったためにこれに対応することも能わず、蹴りの衝撃でゴロゴロと草原を転がる。
真は暫く転がった後に頭に残る激痛にみっともない声をあげながらのたうち回る。
「何で、姉様ではなく私が先なのかって聞いているのよ真!!」
「え?」
真は、痛む頭を押さえながら涙目で自分を蹴った犯人を見る。
その娘は、ルビーのような紅い瞳を持ち、燃え上がる用に紅い髪をツインテールにまとめている少女だった。
見た目から察するに、真より年下の小学生の中学年位の少女が紅いドレスを着こなして立っていたのだった。顔は幼さは残るものの、夕焼けに照らされた肌はきらきらと輝いておりとても可愛らしい。
真は、そんな少女に不思議そうな表情をして話す。
「お前は、何を言っているんだ?俺には分からないぞそんな事を言われても……」
「アンタねぇ……」
少女は、怒りに肩を震わせる。少女はもう一度真を蹴り飛ばそうかと思うが、深く深呼吸をすることで気持ちを抑えて真に怒りの篭った口調で言い放つ。
「今、貴方に何を言っても無駄なようね!……大体、お姉様も悪いのよ自分の記憶をいつも丁寧に消すから……」
「??」
最後の部分がボソボソと話しており真には聞こえず、またも真は不思議そうな表情をする。少女はそんな真に気がつき早口に言うのだった。
「そ、そんな事より質問を変えるわ……」
少女は、一呼吸おいて真に問う。
「貴方、さっきまで一体何をしていたのかしら?」
「俺は……っ!!」
真は、物凄い頭痛と共に先程自分が戦っていたことを思い出すのだ。
死んだクラスメイトの臭い、修羅に囚われた魂魄、蹴り殺した狂魔の感触。
そして、自分に突き刺さる刃物の痛みと絶望が一つの疾風となって真の脳内を駆け巡り、真は思わず吐き気をもよおす。
しかし、吐こうとしても胃からは胃液すら零れずにただスッキリとしない嘔吐感だけが真に残るだけだった。
そんな、真を少女は哀れむように見つめていた。
「俺は、死んだのか?」
真の顔は絶望に暮れ、その色は周りの景色とは裏腹に青白く染まっていた。
少女はそんな真を、哀れみの目で見つめながら言うのだった。
「貴方は、まだ死んで無いわ。ただ、危険な状態なのよ……」
「そうか……」
真は、ただそう答えるとまた仰向けに大の字で草原に寝転んだ。真は、少女の言葉を疑う事も無ければこれ以上口を挟むことも無かった。
頬を撫でる風が気持ちいい。ただそう思いながら寝転んでいた。
すると少女は真の横に座り、真と同じように風を感じる。二人は静かに草原に存在するのだった。
耳からは、風と草原の演奏が響き二人を包み込む。空には今も雄大な朱い月がそこからじっと動かずに世界を支配する。
──時はゆったりと流れる。
どれくらい経ったのだろうか、真の顔色も戻り不思議な落ち着きが戻って来たように真は感じた。真はまたも月に手の平を重ねるように腕を伸ばす。そして、真は少女にギリギリ聞こえる様な弱々しい声で話し出す。
「俺は、守れなかったんだ……どんな手段を使ってでも、って思っても何故か失敗しちまう。今回は俺が最初にパニクっちまって……そのせいで皆……死んじまった……」
真は自分の手の平だけでは重なりきらない月を見つめながら続ける。
「俺は、俺は……情けない奴だ。どうしようもない、奴だ。皆で生きるって約束したのにアイツを助けるって約束したのに……そんな俺が、一番……『これ以上、言わなくても良いわよ!!』」
真の言葉は、少女の叫びに似た声に遮られる。それに真は話すことを止めて少女の方へ視線を向ける。少女は泣いていた。大粒の涙を双方から溢れさせていた。
真は月に重ねていた手を少女の頭に添えて親指で涙を拭う。それでも少女の涙は溢れつづけていた。
「何故、お前が泣く……」
「そ、そんなの……あ、アンタの変わりに……き、決まってんじゃない!」
泣きながら話すせいで少女の言葉は何処か拙い。真は少女の頭を撫でる。すると、少女はそんなの真の手を払いのけ、立ち上がり大声で言うのだった。
「私が呼ばれた理由くらい解るわよ!!」
その言葉に真は少し微笑み上体を起こし右手を少女に差し出しながら言うのだった。
「ありがとう、夕月」
夕月と呼ばれた少女は、まだ瞳に大粒の涙を溜めながらも真の手を握る。 涙のせいで顔がクシャクシャで折角の可愛い顔が台なしになっていた。
夕月は、真に問い掛ける。
「後のやり方は解るわよね?」
「ああ、塩タイムはもう終わりだ!」
そこには先程までの自棄な物影は無く彼女の知っているゲス顔を浮かべている主の姿が有った。
「じゃあ、行ってきなさい!」
夕月の言葉と共に世界は暗転する。一瞬の浮遊感と共に真の意識も暗転するのだった。
「ニンゲンよ、もう死んだのか?面白くない……そうだ!最後は美味しく頂くとしよう!」
そう元気良く修羅は言い放つと手に持っていたクナイを霧散させて真を喰らうべく右手を突き出すと……
「ああ?」
倒れ臥し死んでいると思っていたニンゲンが急に動きだし掴もうとした手の感覚が無くなる。
ぼとり、という生々しい音をたてて修羅の腕が落ち、それと共に修羅の絶叫が体育館に響き渡る。
真は血溜まりから一気に飛び上がり修羅から距離をとる。そして今、絶叫する声の主の後ろで泣き続ける魂魄に優しく言う。
「待ってろ。今、助けてやるから」
そんな、真からは燃え盛るように紅い霊気が溢れ出しており、真の右手には、紅い霊気を纏う一尺七寸程の長さの脇差しが握られていた。
その真の姿に、修羅は痛む右腕を押さえる仕草をしながら恍惚とした目を浮かべている言う。
「その土壇場でそれを発動させるか!そしてその霊気!実に面白い!実に興味深い!そして、そんな君に逢えて私は嬉しい!」
「そうか……行くぞ!」
真は、狂いながら喜ぶ修羅に短く告げると修羅に目掛けて一気に駆け出す。修羅の投擲するクナイを手に握る脇差しで叩き落としながら突き進む。そんな真を迎え撃とうと修羅はクナイを片腕で投擲し続ける。
「っ!!」
すると真は巧みな太刀さばきでクナイを修羅の顔に目掛けて弾き返す。修羅もそれを、上体を捩りながら反らす事で回避する。そして、真の方へと視界を戻した時にはその姿はもう居なくなっていた。
「しまっ!!後ろかぁぁぁぁ!」
修羅は、真が後ろへ来ているのだと当たりをつけて後ろに目掛けてクナイを振るうが虚しくもそれは空を切る。
「居ない……だと……」
「上だぜ……」
すると修羅の後方上方から真の声が聞こる。修羅が上を見上げた頃には既に真は脇差しを修羅の首へ目掛けて横なぎにしていた。
修羅は回避が間に合わない事を察知し右腕を刀の軌道に持って行きわざと斬らせる事で軌道をずらし体を床に転がるようにして回避する。これにより修羅の右腕は肩から先を失う。
「ふははははははははは!凄いぞニンゲン!修羅にここまで傷をつける一般人が居ようとは!!」
一気に修羅は真から距離をとり、高笑いを上げながらクナイを投擲する。それは、今までのどの攻撃よりも鋭く、速く、そして鋭い物だった。
「これが、お前の全力って奴か……なら俺も全力を出さないとな。」
真から爆発的に紅い霊気が溢れ出し修羅に向かって駆け出す。
修羅から投擲されるクナイを走るスピードを殺さずに弾く。
弾かないで良いものは極力弾かず、掠るクナイにも目もくれずただ修羅の攻撃の為に真はクナイの弾幕の中を駆け抜ける。
真が、修羅の胸を貫こうと肉薄したときだ。
修羅は、左手にクナイを召喚し真の首へ目掛けて振るう。真は、右手に持っている脇差しを左手に猛スピードで持ち替え修羅の腕を掴み攻撃を無力化する。そして、左手に握られた刀は修羅の胸を貫き纏う紅い霊気を修羅の体に注ぎ込む。
「いやぁ……その霊気は凄いね……いや、これは君の魂の在り方か……ガハっ!!」
修羅は口から大量の血を吐き、苦しげに息を荒げながら真に言う。しかし、真はゴミを見るような目で修羅を見ながら修羅に言い放つ。
「お前、そういう苦しそうな演技しなくて良いから。てゆうかお前、手落とした時のあの絶叫も演技だろ?」
あららバレたか、と舌を出し笑う姿に真は更に霊気の出力を上げる。そして、顔をしかめながら、
「お前を、ぶっ殺してやりたいのは山々何だが如何せん、こいつを助けないといけないんでな!」
と悔しそうに言い放つ。すると修羅は微笑みながら馬鹿にするように言う。
「君は甘いねぇ。今、私の魂魄を殺ればもう二度とこういう事が起きないかも知れないのに」
「生憎様、俺はかもしれな物に賭けるよりも目の前にある確実な物に賭ける派なんでね。」
真は、ニヤリと笑いながら返す。すると、修羅は顔をしかめながら嬉しそうに返事をする。
「君は、本当に面白くない」
自分の思った通りに行かない存在を面白く感じつつも同時に修羅はそう感じてしまうのだ。
紅い霊気が二つの魂魄を分離させていく。それに従い少年の姿の修羅も少しづつ消えていく。
修羅はそんな中「おっといけない」と言い真に話しかける。
「君の名前を聞いていなかった。私に教えてくれまいか?」
「九十九 真だ。」
「私は、修羅型第三位種王 ロキ=ルーザウスだ!」
そして、二人は同時に口を開く。
「次に、逢うことを楽しみに待っているよ」
「お前には、もうぜってぇ逢いたくねぇ!」
重なった真の言葉にロキは「ふっ」と鼻で笑いその魂魄は完全に消えてしまう。
(やべぇ……血……流しすぎた。)
真の体からは止めどなく血が滴り足元には大きな血溜まりを作っていた。
カラン、という音が鳴り響き同時に真の視界は白く染まる。立ち続けようと踏ん張るが力が入らずに真はそのまま崩れ落ちる。
『ワンッ!キャン!!』
耳元から犬の心配するような泣き声が聞こえる。
(あれ……こんな所に……犬なんて居たっけ……)
これを最後に真の意識はプツリと途切れた。
読んで下さり有難うございました!
QUARTERシリーズは次回で終了する筈です……だぶん。
明日も、投稿します! よろしければ感想等もお願いします。




