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夏休みは危険がいっぱい?!

作者: Lunatic Rune


知り合いからの頂き物です。

本人に了承を得て投稿させてもらいました。


登場人物たちの設定として、

『全キャラ名無し』

『当て馬のような巻き込まれ五人組』

『異世界の王様はダメな人』

『主人公の正論攻め』

『“天才”で“腹黒”な変態エルフの筆頭魔術師』

などがあります。

(筆頭魔術師殿は設定要素ほぼ皆無ですがwww)




 夏休み。


 世間一般ではバカンスだのなんだのと浮かれる人が多いが、自分にとっての夏休みは地獄意外の何ものでもない。何せ、夏休みは毎年、親戚に拉致られて彼らが経営する海の家の手伝いをさせられるからだ。連日、猛暑日が続く中、何が嬉しくて灼熱の砂浜をデカいクーラーボックスぶら下げて売り歩きなどせねばならないのか。しかも、バイト代が出るわけでもない無賃労働である。違法だ。立派な労働法違反である。

 そして何が一番意味がわからないって、毎年そんなことを呪詛のように繰り返しながらも律儀にちゃんと労働している自分が一番意味がわからない。きっと暑さで頭がイカれてしまっているんだ。そう、きっとそうだ。決して親戚の兄たちに逆らえないからではない。決して。




 そう。そうだ。

 暑さで頭がイカれてしまっているんだ。だからこんな可笑しな夢を見てしまっているんだ。

 だって、こんな―――



「どうか、我が国をお救いください、救世主様!」



 ――こんな、アホな場面に出くわしているのだから。






「アホか。寝言は寝て言え」


 思わず反射的にそう返してしまってからマズイと思った。

 目の前でアホなことを抜かし、こちらに駆け寄って来ようとした美人さんが目をまん丸にしてフリーズした。その美人さん、ドレスなんだよ。


 そう、ドレス。

 わかる?ドレスだよ、ド・レ・ス。

 こう、ヒラヒラビラビラしたフワフワな感じのドレスなんだよ。…うん、自分でも何言ってるかわからんデス。


 そこまで考えて、「ああ、自分、思った以上に混乱してるな」と思った。妙に冷静な部分の自分がゆっくりと周辺を観察し始める。

 地下なのか、石造りの室内はひんやりとしていて、先ほどまでの灼熱の炎天下で焼かれた肌に心地好い。小さな体育館ほどの広さに、高さは四、五メートルくらいあるだろうか。家具などはなく、がらんとしたその中央に自分は立っていた。そこに目の前の美人さんをはじめ、自分を取り囲むように多くの人たちがずらりと居並んでいるが、どうやら一定の距離より近付いて来ないらしい。不思議に思ったが、すぐに眼下、足下で徐々に光を失いつつある…魔法陣?の内側には入って来れないらしいと気付いた。

 しかしこの安全地帯がいつまで有効なのかわからないし、何よりこのままではどうすることもできないだろう。

 そう考えて、できるだけのことは足掻いてみるか、と口を開きかけた時だった。



「アンタ、そんな言い方はないでしょう!?」



 後方から上がった非難の声にぐるりと振り返る。そこにいたのは五人の男女だった。

 皆が皆、露出度の高い服装――ぶっちゃけて言えば水着だ。海に来ていたんだから当たり前――をし、そしてなぜか嘘臭い金髪や茶髪、中には青い目の奴までいる。顔立ちは日本人のそれでこってりと陽に焼かれた肌と別に鍛えられてもいない貧相な体がアンバランス過ぎて残念さ感がハンパない。少なくとも男どもよ、そーゆー「オレ、イケてんだぜ」って雰囲気を出したいなら少しくらい体を絞って来い。ウチんとこの(アン)ちゃんたちみたいに。…いや、アレはちょっとマニア入ってるかも知れないから除外すべきだな。

 取り敢えず、これは…アレか。長期休暇による「はっちゃけ過ぎ」の部類か。ホント残念さ加減がハンパないわ。髪は染めてるんだろうし、後、海に来るのにカラコン付けてんじゃねーよアホゥ。失明したいのか。


 …と、心の中だけで色々突っ込んでおく。勿論、口には出さない。後が面倒そうだし。

 そうそう、自分の言葉に非難の声を上げた人ね。まあ恐らくは先頭に立ってこっちを睨み下ろしている安っぽい金髪のビキニのおねーさんだろうけど。他のにーさんやおじょーさんも困惑気味ながら似たような、つまりは「話ぐらい聞いてやれよ」っていう自分を非難するような視線を向けている。こっちとしてはアンタらのそのスカスカの頭ん中を非難してーよ。


 視線を正面に向け直し、未だフリーズしたままの美人さんに問いかける。背後で「ちょっ、無視とかなんなの!?」とか言ってるが取り敢えず放置。


「一応、確認なんだけど、さっきのセリフって自分に()った?それとも後ろの人たちに言った?」


 言葉とともに自分と後方を指差しながら声をかけるとようやくやっと美人さんが再起動した。


「は、はい。その、あなたさまにお声をおかけしました」


 美人さんはしっかりと自分を見ながらそう答えてくれる。それにひとつ頷き返してから美人さんの隣、ずっと黙ったままのなんか偉そうなおやっさんに視線を向けた。視線だけで「アンタら誰よ」と問うとおやっさんはぴくりと眉を動かして、やや間を置いてゆっくりと――この場合は厳かに、とでも言うべきか――口を開く。


「我はロンドローグ王国の国王である。これは我の娘で第一王女だ」


 なんか偉そうなおやっさん改め国王サマ(自称)の言葉に美人さん改め王女サマ(他称)が見事なカーテシーを見せてくれた。おお、リアルお姫様キタコレ。

 まあそれはイイとして。


「あー、えー、ロンドローグ国王陛下?今のこの状況について幾つか質問したいんデスが」


 自分がそう言った途端、周りの人たちが騒つく。なんだよ。これはアレか。「尊きお方に直接声をかけるとはっ!」とかってヤツ?知るかンなモン。王サマ(自称)だって騒つく周囲にも聞こえるように「直接の質疑応答を許す」って言ってんじゃん。聞けよ家臣。

 まあいいや。


「えーっとですね、まずひとつめに、ここがどこで、なぜ自分はこの場にいるんでしょうか?」


 背後から妙な念が飛んできた気がするが無視しとこう。


「ここはロンドローグ王国の王都、パラパオスにある王城の地下深くだ。其方(そなた)がここにいる理由は、我らが其方を召喚術で喚んだからだな」

「召喚…」

「そうだ。異界より救世主たる者を喚び寄せた。それが其方だった」


 そう当たり前のように答える王サマ(自称)の言葉に頬が引きつりそうになったのは仕方ないと思う。


「あー、じゃあ、その召喚とやらをして、自分が召喚されたのは理解しましたが、なぜ、自分がその“救世主”とやらだとわかるんで?その召喚術とやらで引っかかったのは自分以外にもいるみたいなんですけど」


 言いながら後方をちらりと見遣ると同じくそちらを一瞥した王サマ(自称)はなぜか汚いモノでも見るように顔を歪ませた。


「文献によれば“救世主”は黒い瞳と同色の髪をしているとある。あの者たちの中に黒い瞳の者は()るが、黒い髪の者は居らん。そもそもに、あのような品位に欠ける装いの者が救世主たるはずがなかろうて」


 王サマ(自称)の言葉に思わず後方を振り返る。

 …うん、“品位に欠ける装い”…ね。ただの水着なんだけど。まあ、知らなければ下着姿に見えても可笑しくはない、か。

 今の会話をバッチリ聞いていたらしい五人組はどこかバツが悪そうな、或いは釈然としないといった様子で顔を顰めている。


「………」

「何よ!その憐れみのような目はっ!」

「ああ、気に(さわ)ったならスンマセンシタ」


 さっさと視線を外して正面に向き直るが、なんか後ろがうるさい。まあ放置だけど。


「自分が“救世主”とやらだと言うのは…まあ、納得はでき兼ねますが、理解はしました。で、国を救え、と言われたと思うんですが、具体的には?」

「うむ。現在、我が国は魔物の異常繁殖により、甚大な被害を受けておる。魔物どもの質が低くとも圧倒的な物量でジリジリと追い詰められている状況だ。また、この期に乗じて周辺諸国が我が国を乗っ取ろうと画策しておるようでな」


 …何その無理ゲー…。え?これって既に詰んでんじゃね?


「…時に、その依頼を引き受けたとして、その間の自分の身分はどのようなものになるんでしょうか」

「うん?身分も何も、救世主は救世主だ。そのような(くく)りはないぞ?」


 ………。


「では、その依頼を引き受け、達成したとして、その後の自分はどういう立場になるんでしょうか?何か地位に就くことになるんですか?報酬はどのように?そもそもに、自分は還れる(、、、)んですか?」

「……………」


 矢継ぎ早に問えば返ってきたのは沈黙だった。思わず出そうになる溜め息を堪えているとお姫様が一歩進み出る。


「我が国は今、滅亡の危機に瀕しています。魔物の出現で民は傷付き、そしてまた飢えています。王都の民も明日は我が身かと怯え、国内は大変不安定な状態なのです。お願いします、救世主様。我々を、我が国をお救いくださいっ。どうか、どうか我が民たちに救いの手を―――」


「Shut up!」


 感情のままに大声をお姫様に叩き付ける。走り寄り取り縋ろうとしていたお姫様がびくりと肩を震わせて再度フリーズした。恐らくは冷然とした目をしているのだろう。視線の先のお姫様がやはりびくりと肩を震わせるのを見て、その視線を王サマ(もう“自称”いいや)へと向ける。こちらも驚いた様子で目を丸くしているがお姫様のようにビビったりはしていない。腐っても“上”の人間、と言うことか。


 一度大きく深呼吸をして―――




「…お話しはよぉくわかりました。あなた方がどれほどの窮地に立たされ、どれほど困窮し、どれほど救いを求めているか。ええ、それはもうイヤと言うほど理解しましたとも」

「で、では…!」


 怯えの色を見せていたお姫様が、それはもう「花が咲くように」という表現ぴったりの様子でぱあぁっと顔を輝かせる。顔にはっきりとは出さないまでも、王サマもほっとしたように小さく息を吐く。

 そんな彼らに自分は、自分の中でも最上級の笑顔を浮かべ、



「ふざけんな。寝言は寝て言えっつたろーが。もうな、死ね。滅べ。もしくは召されろ。或いは消え去れ」



 心からの本音をブチまける。






 思いもしなかった罵詈雑言に周りの人たち皆が皆、ぽかーんと間抜け面を晒した。そんな面々を総無視して自分は青筋が浮かびそうな笑顔のまま言葉を続ける。


「ヒトサマをいきなり拉致っといて無理難題を押し付けたかと思えば極め付けには元居たところに還せないのにアフターケアはノープランだと?ふざけんのもいい加減にしろよ?テメェら何様だよ。ああ、国王サマとお姫サマでしたね。なるほどなるほど。この世界の、この国の最高権力者はなんの力も持たない、ましてこの世界、この国に一切の関わりを持たない一般市民を拉致って死地に送り出してはいサヨウナラと平気で言える、人として最低な人物なんですね。よぉく理解しましたとも、ええ」


 自分が喋っている間にそれぞれが我に返ったのか、青くなったり赤くなったり怒鳴ったりと、もうこの場は収拾がつかない状態になりつつある。しかし、


「ふざけんじゃねぇよッ!!」


 怒りに任せた自分の怒号に場がしんっと静まり返った。


「何度でも言ってやる。ふざけてんじゃねぇよ!!魔物の異常繁殖で国が窮地?しかも周りの国々が敵っぽい?んなこと全部知ったこっちゃねーんだよ」

「なっ…!?あ、あなたには人としての、慈悲の心がないのですかっ!」


 そう喰ってかかるお姫様にじろりと視線を向ける。やはりびくりと身を震わせたがキッと睨み返された。…まあ、怖くはないけど。だって涙目だし。


「じゃあ聞くげど、お姫サマ?アンタはウチの世界のウチの国が戦争して負けそうだ、じゃあ異世界人喚んで助けてもらおう、ってなって、快く引き受けてくれるってゆーの?しかも事前通達とかナシ、いきなり拉致って「はい、アンタ召喚したから戦場行ってね」って言われて「勿論です」って言えるの?」

「そ、それは…」

「召喚術とか言うからにはこっちの世界には魔法とじゃあるんだろうけど、ウチの世界、ンなモンねーよ?科学っていう技術が発達して、下手し数万とか数十万とかって単位で人を殺す兵器がある世界で、「この戦争、アンタにかかってるから!」って言われてお姫サマ、「よし、じゃあちょっと行って来ます」って言えるの?」


 返って来たのは沈黙。お姫様はもう泣きが入ってるけどまだ終わってはやらない。


「それにさ、自分がそんな魔物の大群と殺り合えるように見えるわけ?生憎と召喚されたからって特別な力に目覚めた様子もなければ、元の世界より体が軽くなったとかないよ?下手したら自分よりお姫サマの方が強そうなんだけど。んでもってウチの国、“戦争の放棄”を掲げててさ、国家による武力は持ちません、って世界に喧伝してるようなところだよ?往来でそこの人たちみたいに武装してたら普通に捕まって刑務所…牢屋行き確定なんですけど?自分だって料理するために包丁持つくらいしか刃物なんて持った試しがないわけよ。

 …で、もっかい言うけど。自分を戦場に送り出して、どうしろと?…あ、死ねって言いたいの?見ず知らずの異世界の、これっぽっちも関わりのない国のために、家族や友人知人たちから無理やり引き離されたこの現状で死んで来いって言いたいわけですか!いやあ凄いね!全く以って血も涙もない、清々しいほどに非道な行いだよ!」


 満面の笑顔で言ってやれば先ほどこちらを罵倒していた人たちも気まずそうに視線を逸らした。しかし何を思ったのか、ひとりの男が進み出てくると腰に提げた剣の柄に手をかけた。


「黙って聞いて居ればなんと無礼千万っ。貴様などが救世主なものか!この場で叩っ斬ってやるわ!」


 そう言って剣を抜き放ち上段に構える男に一歩近付く。


「殺したけりゃ殺せよ」


 淡々と告げれば男は目を見張ってそのまま硬直した。


「ほら、どうした?無礼者として成敗するんだろう?叩っ斬るんだろう? ――殺せよ。どうせ自分の未来に代わりはないんだろう?今ここでアンタに斬り伏せられて死ぬか、後で魔物の大群の中にほっぽり出されて死ぬか、ふたつにひとつなんだろう?だったらまだアンタに斬られる方が楽に死ねそうだ。

 そうやって自分がダメだったら今度は後ろの人たちか?それとも、またどこの誰かもわからない異世界人を召喚する?ああもう何度でも言ってやるさ。――ふざけんじゃねぇぞ?」


 目の前の男を無視して王サマをぎろりと睨み付ける。


「いいか?アンタがしてることは国を救うことなんかじゃない。なんの罪もない、なんの関係もない異世界人にこの現状の責任転換をしてるだけだ。

 そもそも魔物の異常繁殖ってなんだよ。こうなる前に、その予兆はなかったのか?他国の情勢についてもそうだ。乗っ取られそう?んなもんスキを見せたアンタが悪い。アンタがもっとしっかり国の舵取りをしていれば今のこの事態だってもっと早くにカタが付いたかも知れないこと、わかってんのか?

 さっきアンタはこう言ったな?「質は低いが量が多く、ジリジリと追い詰められている」と。それはつまり、「物量差さえどうにかできれば勝てる」ってことじゃないのか?物量差がネックなら全体の量を減らすことばかり考えず、確実に各個撃破していけば自ずと全体の量は減るだろうが。質が低いと言うならできないことじゃあないだろう?それに、「ジリジリ追い詰められている」って言うのは、魔物たちの進行速度は遅いってことだろう?だったらこんな困窮する前に他国に「手を貸してください」って頼めばここまで悪化することはなかったんじゃねーの?」

「なっ…!貴様は他国に頭を下げろと言うのかっ!?」


 驚愕を顔面に張り付けた王サマに思わず胸ぐらを掴み上げた。


「おい、アンタ今なんつった?国の危機に、頭を下げられないだと?ふざけんじゃねぇよ。アンタ何様だよ?国王サマだろ?国を、国民を守るのが仕事だろうが。そのためにアンタの頭くらい下げてみせろや」

「し、しかし国の代表である我が他国の王族であろうと頭を下げるわけには…」

「何もおべんちゃら言ってぺこぺこしろって言ってんじゃねーんだよ。必要な時に必要な行動ができねーから今みたいに自分で自分の首を絞めることになってんだろうが。おい、その頭は飾りか?国のために何が最良の選択か、考えることもできねーのか?考えることすら放棄したなら国王なんてもん辞めちまえ。トップがお飾りでも組織が回るのは下が優秀な場合のみだ。そしてこの現状がアンタの部下どもは優秀には程遠いと証明してるようなもんなんだよ」


 捨てるように胸ぐらを解放しながら突き飛ばせば王サマはふらふらと後退り、仕舞いにはへたり込んでしまった。なんと情けない。

 腰の抜けた王サマを見下すように見下ろし、次いでお姫様へと視線を転じる。…あ、こっちは既にへたり込んでた。


「お姫サマ?アンタもアンタだ。どこの誰ともわからん奴に「救いの手を」ってのたまう前に政略結婚でもして相手の国に戦力を出させるくらいやったらどうよ?嫁入りして来た相手の国が困窮してるってなったら婿さんの国もこっちの救援を突っぱねられないだろうさ。王族として生まれたからには、そーゆー覚悟もできてたんじゃねーの?」

「それは…」

「お姫サマも王サマも、責任放棄して、逃げて、この世界にすら関係のない相手に責任転換する前にさ、現実を見て、やれることやって、それでもダメだってなって縋ってくるならまだしも、アンタら、何もしてないだろう?お姫サマがさっき、「国民は傷付き、飢えている」って言ってたけど、ここにいるアンタらはどうなんだよ。王侯貴族として戦地に行くことはないだろうけど、国民が飢えに苦しんでる時、何をした?魔物に襲われ、明日死ぬかも知れない恐怖に震える国民に、何をした?保護したか?傷の手当てをしたか?食事を与えたか? ――何もしてねーだろ。アンタらの服や顔色を見てればンな苦労してねーの丸わかりなんだよ。さっきアンタらはヒトのこと散々罵倒してこき下ろしくれたけどなあ、そーゆーこと言いたけりゃまずテメェらが行動してからにしろ。国民からの信頼を勝ち取ってみせろや。何もかも全部、話しはそれからだろうが」






 言いたいこと言ってようやく頭が冷えてきた時、場違いな拍手の音が辺りに響いた。視線を巡らせ、音の発生元を見つけ…思わずぱちぱちと目を(またた)く。

 視線の先にいるのは、「これぞ魔法使い!」といった感じの、ローブにフードを目深に被った人物だった。辛うじて見えている口元はなぜか楽しげな弧を描いている。

 その人物は拍手をしながらこちらへとやって来て目の前で立ち止まった。


「いやはや、これぞ正に愉快痛快。とても楽しく拝見させていただきました」


 本当に楽しげにそんなことを言う相手に自分も含めてみんなぽかーんとしている。


「…誰?」


 思わず警戒心バリバリで問いかけると、目の前の人物は芝居がかった動作で腰を折り、丁寧に礼をした。


「申し遅れました。わたくし、この王宮に勤める筆頭魔術師でございます。あなた様におかれましては、この度、あなた様を召喚した張本人、と言う方がお解り頂けるかと」


 そう言いながらその筆頭魔術師はフードを後方へと落とし、その晒された顔を見て目を見張る。


「…エルフ…?」

「おや、エルフをご存知で?」


 どこか人を食ったような笑みを浮かべている相手の、その長く尖った耳に視線が引き付けられ目が離せない。それと同時に、「ああ、ここは本当に異世界なんだ」とようやくやっと理解した。


「この度は王を始め、彼らの暴走を止められず、こうしてあなた様を召喚してしまったこと、深くお詫び申し上げます。そして、重ねて恥知らずなことではありますが、どうかあなた様のお力をお貸しください」


 エルフの筆頭魔術師は深々と頭を下げながらも続ける。


「先ほど、あなた様は自分にはなんの力もないと仰っておられましたが、そんなことはありません。ここに居並ぶお歴々を前に怯むことなく己を示した勇気、この窮地における具体的な打開策を見出せる知略、そして何より、我々にはない異世界故の知識。それら全てを以ってあなた様は救世主たり得るのです。

 ですのでどうか、我々にそのお力をお貸しください」


 「お願いします」と重ねて言う相手に困惑するしかない。


「力を貸せって言われても…」

「あなた様の持つ知恵を…そう、例えば、先ほどあなた様のお話しには数万や数十万の人を屠る兵器に触れておられましたが」

「核兵器は無理。ってゆーか、知ってても教えられないってあんな物騒なモン。…でも、そうか。化学反応を利用すれば…」

「ほう…それはどういったもので?」

「そう…だなあ…水蒸気爆発、粉塵爆発、電磁誘導…は自分がしっかり理解してないな。後は感電、気圧と気流に作用できれば乱気流(タービュランス)…ああ、火災旋風も殲滅力はあるなあ…」


 色々と物騒なアイデアがぽんぽんと湧いてくる自分にやや呆れつつ、ふと下がっていた視線を上げると、ニヤリ、という表現のよく似合う笑みがすぐそこにあった。


「お力を、お貸し頂けますか?」


 問いかけのようでいてその実、確認に近いニュアンスで言われ、降参、とばかりに両手を顔の横でヒラヒラと降ってやる。


「どこまで力になれるかはわかんないけど、やれることがあるならやるよ。死にたくはないしね」


 諦めの境地でそう答えると、エルフの筆頭魔術師はにんまりと口角を持ち上げた。






 その後、自分が教えられそうな知識は開示し、それを元にエルフの筆頭魔術師殿(色々とお世話になったため、敬意を表して“殿”を付けさせてもらった)が広範囲を含む殲滅魔法や一撃必殺の魔法などを開発し、その魔法により魔物たちとの戦況は容易くひっくり返った。

 また、それら新魔法開発によって他国との情勢も表面上は落ち着きを見せ、結果的には自分が召喚されてから半月ほどですべてのカタが付くこととなる。

 そうしてすべてが終わってから()の筆頭魔術師殿は今度は自分を元の世界、つまりは地球へ還すための魔法の研究をしてくれ、送還(帰還?)魔法が完成したのは更に一月後のことだった。




「お世話になりました」


 きっちりと頭を下げた自分に筆頭魔術師殿が苦笑を浮かべる。筆頭魔術師殿の後ろには王サマとお姫様が並び、自分の後ろにはいつぞやの、巻き込まれたらしい五人組。


「お世話になったのはこちらも同じですし、頭を下げなければならないのは寧ろこちらの方です。本当にありがとうございました」


 自分とは比べものにならないくらい丁寧な礼をしてくれる筆頭魔術師殿になんとなく居た堪れないような気分になって無意識に頬を掻く。それを見た筆頭魔術師殿にはくすくすと笑われ若干顔が熱い。


「そ、それじゃあ自分はこれで…」

「あ、ちょっと待ってください」


 逃げるように後方の送還用魔法陣へと足を向けようとすると筆頭魔術師殿に呼び止められる。斜に構えるような恰好で振り返ると筆頭魔術師殿は自分のその長く尖った耳に付けていたピアスの片方を外すとこちらへ差し出してきた。「?」を浮かべながら相手を見返すと片手を取られ、その手にピアスを握らされる。続けて「?」の数を増やした自分に筆頭魔術師殿はにっこりと微笑み、


「お礼のひとつです。エルフ族が愛用する特殊な耳飾りです。後、おまじない、のようなものですね」

「…よくわかんないけど、もらっておけばいいの?」

「はい、是非」

「じゃあ、有り難く」


 ぶっちゃけ、今回のこの騒動に関して自分は何か報酬を受け取ったり賠償をしてもらったりしたわけではない。金銀財宝を寄越せ、とは言わないが筆頭魔術師殿以外からの感謝や謝罪の一言くらいあってもいいと思うのだ。けれど結果はこのザマである。正直、自分の中でのこの国の印象は底辺どころかマイナスだ。その力があるならこの国を滅ぼしてもいいと思うくらいにはこの国とその中枢に対して腹に据え兼ねている。なので、


「テメェら筆頭魔術師殿に深く深く感謝しろよ!」


 ずっとだんまりを決め込んでいる王サマとお姫様にビシッ!と指差しながらそう告げるとなぜか目をまん丸にして固まっていたふたりが驚いたようにびくっと肩を揺らした。おい、王。アンタ前よりダメんなってんぞ。

 まあいいや。


「それじゃ」

「はい」


 送還用魔法陣に自分と例の五人組が入っているのを確認した筆頭魔術師殿が手にした長い杖でタンッ!と地面を突いた。すると足下の魔法陣が俄かに発光し始め、空間を塗り潰す勢いで輝きが増していき、あまりの眩しさにぎゅっと目を閉じる。


「あ、そうだ」


 唐突にそんな呟きを零した筆頭魔術師殿に思わず目を開けそちらへと視線を向け―――なぜか背筋がゾクリと震えた。


「救世主様」

「は、はい!」


 妖艶なほどの微笑みを浮かべる筆頭魔術師殿に呼ばれ咄嗟に姿勢を正してしっかりと返事をする。それが良かったのか筆頭魔術師殿は更に笑みを深め、


「必ず、か・な・ら・ず、お迎えにあがりますので…逃げないでくださいね?」


 「まあ逃しはしませんが」とにっこり微笑みながらの言葉にしばし放心する。


「………はい?」


 そんな自分の間抜けな声は視界を塗り潰す光の奔流の中に取り残され、それとともに意識が遠のいていった。




 次に目が覚めたのは親戚の家の自分に割り当てられている部屋だった。目覚めてすぐ親戚の兄たちが男泣きしながら取り縋ってきたのにびっくりして、ひとりには頬に肘を、ひとりには鳩尾(みぞおち)に膝を、そしてひとりには股間に(かかと)を喰らわせてしまった。

 うん、反省は、している。条件反射だったとはいえ、本当に申し訳ないことをした。反省は、しているが後悔はない。だってメッチャ怖かった。いろんな意味で。

 周りが落ち着いた頃に話しを聞くと、どうやら自分は浜辺の一角で倒れていたらしい。通りすがりの人が発見し、その人物が自分のことを知っていたそうで、兄たちの海の家に駆け込んできたんだそうで。自分が売り歩きをする時は薄手とはいえ長袖長ズボンにスニーカーが標準装備。故に熱射病か或いは脱水症状で倒れたのではないか。家に運んだはいいが病院に連れて行った方がいいんじゃないか、と話しているところに自分が目を覚ました、ということだそう。で、無事だったのにほっとして――ということらしい。


「もぅホントごめんな。お前が熱いのダメなのはわかってたのに…」

「いっつもお前、愚痴言いながらもちゃんと仕事してくれるから、俺たちそれに甘えてた」

「もっとちゃんとお前のこと気にかけてやんなきゃいけなかったのにな」


 そう口々に謝罪と心配したことを言ってくる兄たちに嬉しいやら恥ずかしいやら申し訳ないやらで顔が熱くなる。


「あ、ありがとぅ…もう、大丈夫だから。その…心配かけてゴメンなさい…」


 色々と思うところもあったが、取り敢えず心のままに告げると…なぜかぽかーんとされた。


「おい、コラ」

「あれ?可笑しいな。こいつがこんな可愛い反応するはずないんだが…」

「兄さんもそう思う?俺も同じこと考えたよ」

「うーん。僕もロリっ娘の趣味はなかったはずなんだけどなあ」

「オイこらテメェらヒトの精一杯の誠意を踏み(にじ)ってんじゃねーよッ。前言撤回する。感謝も謝罪もするかコノヤロウ!」


 結局はいつものじゃれ合いのようになってその日は終了した。


 夜、布団の中で、随分と壮大な夢を見たもんだ、とその内容を振り返っている間に眠ってしまい、次の朝。


「あ、丁度起きて来た。なあ、お前、倒れてる時にコレ握り締めてたんだけど、誰か知り合いの?」


 居間に下りてきた自分に兄のひとりがそう言って見せてきたのは、夢の中の、エルフな筆頭魔術師殿に渡された、彼の人物の瞳と同じ、青緑色の石が付いたピアスだった。


「………え?」


 …え?え??

 なんで?なんでソレ(、、)があんの?!え?アレは夢だったんじゃ??!


 誰でもいいから答えをくださいッ!

 切実に!!


 


自分と作者殿とのバカ話しから発展したお話だです。

作者殿曰く、主人公のモデルは自分だそうで。

側から見た自分ってこんなんなんだあ、としみじみ(遠い目)しました。

うん、自覚ありますwww

ちなみに、筆頭魔術師殿は作者殿がモデルらしいのですが、それっぽさが何ひとつ出てないwww

筆頭魔術師殿のアホさ加減と変態具合を知るために現在、続きを催促中です。

早ければ近日中に続きをUPします!

話し書くのは作者殿だけどwww


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