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樹海村  作者: UNNATURAL
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一章

 生い茂る木々の葉をすり抜け時折落ちてくる水滴が額を打った。

 目が覚めると雨が降っていた。

 ズキッ  頭が酷く痛む、いや頭だけじゃない意識すると体中がきしむように痛い。

 体を起こすと本当にギシギシと音が出そうだ。

 辺りを見回すと、木々が生い茂っていた。鼻につくのは森特有の匂い。


「いったいなにが起きたんだ……」


 ……


「記憶が無い……」


 正確には高校卒業してからの記憶が無かった。

 訳が分からない。今俺は何歳なんだ?ここは何所なんだ?

 服をさぐると財布が有ったので中を調べた、中には千円札一枚と、ポイントカードが数枚、名刺、免許証、…おれ社会人なのか?


 東○○会社、田中一郎


 携帯もあったが液晶が割れていて電源も入らなかった。一番新しいポイントカードの日付から計算して、24歳……。


 俺24歳なのか……。


 体を見るとスーツを着ていた。一様社会人としてやってるようだ。

 なんだか未来にタイムスリップしたようだ。ドラマなんかでしか見たことが無かった記憶喪失だが、なってみると、何とも不思議な気分だ。

 スーツは所々破れて泥がついていた、軽くはたいて改めてあたりを見渡すと、森だった。いや、ジャングル?辺りにはよくゲームや映画で耳にするような虫や鳥のさえづりが響いていた。


 どうしよう、これは遭難と考えていいのだろうか?

 なにぶん情報が少な過ぎてどうしようもない。今分かっていることは、俺は二十四歳会社員。これだけだ。ここが何所でどんな経緯でここに入ったのかも分からない。

 これはまずい、遭難した場合は動かずじっとしておくのが基本だが、それは救助体が動いているのが前提だ。こんな森の中にスーツ姿なんて普通じゃない。ここが日本だとしたら、歩いていれば道路に出るはずだ。幸い大きな怪我はしていない膝を少し擦りむいているだけだ。ひとまず歩こう。


 不思議と恐怖は無かった、恐らく混乱していたのだろう。


 歩き始めてすぐだった、目の前に鳥居が現れた。いや鳥居に見えたがこれは木だ。木が絡まって鳥居のような形になっている。一瞬人工物かと思ってしまうほどにそれは不自然だった。

 特に理由は無かったが、その鳥居のような木をくぐって先へ進んだ。

 なにか甘くていい香りがする。辺りを見回すと、ぽつぽつと見慣れない鮮やかな赤色の花が咲いていた。おかしな花だ、地面から直接花が生えている葉と呼ばれるものが無い。こんなのは見たこと無い。いま流行の外来種ってやつか?


 また少し進むとそこには落とし穴が有った。いや、正確には落とし穴と思われるものだった。まだ作動していない。しかし分かりやすい、誰もこんな分かりやすい落とし穴に落ちるはず無いだろっと考えていると、後ろで音がした。振り向くと少し離れたところに黒い固まりが有った。

「なんだ?」 

 いや、よく見ると動物…イノシシ?。

 ヤバい、ヤバい、本物のイノシシなんて初めて見た。なんてデカさだ、そしてこの威圧感、しかも興奮している?

 俺はこの時、動転していた。身構え一歩だけ後ろに下がった。しかしそれに気がついたイノシシがもの凄い勢いで近づいて来た。俺はイノシシに背を向け何も考えず走った。その時、いきなり足場が無くなった。


 記憶に有る限り生まれて初めて落とし穴に落ちた。



 黒くてサラサラしたものが頬を撫でた。くすぐったくて目を開けるとそこにはまるで人形のような黒い綺麗な目があった。

 ……人形だった。

 声にならない声を上げ飛び起きた。人形を持っているのは長い黒髪の小柄な女性だった。

 綺麗だった、可愛かった、良い匂いがした。

 どうやらここはテントの中のようだ。イノシシにあって……落とし穴に落ちたのか。


 1日に何回も気絶して俺の頭は大丈夫なのだろうか……。少し不安になった。

 黒髪の美人はこっちを不思議そうな目でじっと見つめていた。

 同時に人形もこっちを見ていた。異様に長い人形の髪の毛は少しぼさついていて、異様な雰囲気を醸し出していた。完全に話すタイミングを逃してしまった。聞きたいことはいろいろ有るのに言葉が出ない。その時、内蔵の叫びが沈黙を壊した。


 「……」

 「……」


 「お腹空いてるならまずご飯にしましょ」

 「私の名前はリゼっていうの。皆が待ってるから行きましょ」


 そう言うと黒髪美人改めリゼさんはそそくさと外に出て行ってしまった。リゼって名前、髪の毛は黒いけど外国の人なのか?続いて外に出てみると、夜になっていた。たき火の所にリゼさんともう一人ずんぐりとした人がいた。


 周りにはちらほら同じようなテントが有った。

「新入りの兄ちゃん目が覚めたんか」

「こっちに座ってご飯食べな」白いひげを蓄えた人が言った。

 あれだ、ケンタッキーのマスコットの眼鏡をかけていないバージョンだ。

「あの……」

 声を遮りずんぐりした男が言った。

「話は後でいいから早く食いな」

「腹が減ったら飯食うのが一番だ」

 当たり前のことを言っているはずなのだが、その言葉には言い表せない重みが有った。差し出された皿には豚汁のようなものがよそがれていた。

「ありがとうございます」

 箸は木を削って作られていた。お椀は傷だらけだった。具の沢山入ったその汁は旨かった。

 何も言わず食べた。正確には食べることに集中し過ぎて喋るのを忘れていた。それほどその汁は旨かった。




一章完


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