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板倉くらら世界を救う

作者: Reddcherry

   1 板倉くらら腹が減る


 人は、腹が減ると車の鍵を探すか、留守電を聞くかの2つに分かれると昔からよく言われるが、万年筆屋店員の板倉くらら26才の場合は、その両方をこなす稀なタイプである。彼女は、今から30分程前に自分が腹の減っている事に気づき、餅でも食べようかしらと思い、普段餅のしまってある棚を開けるがストック切れ。ひぃぃと悲鳴を上げ、

 「買いに行かんと。餅買いに行かんと。」

 と、車の鍵を探し始めたのである。しかし、ガサガサ自分の部屋をあさる事30分、未だ見つからない。

 「何でよ!きのう乗ったじゃん!あたし!どこやったのよ、車のキー!ねぇ、アンタ知ってる?」

 くららは、たまたま目についた、ベッドの横の壁に貼ってあるジョー・ペシのポスターに尋ねた。しかし当然、ジョー・ペシは何も言わず、口をへの字に曲げ2時の方向を見据えている。

 「永井荷風かい!」

 と彼女は意味不明なツッコミをいれ、再びそこら中をあさりだした。

 しっかし見つからない。どこにも無い。腹は一段と減る。そこで彼女は、たははと一笑いし、留守電を聞く事にしたのである。一件の伝言が留守電に入っていた。再生ボタンをポチッと押す。

 「17日、11時22分の伝言です、…ピー…ちょっと!何よ!何なのよこれ!あー!もう!バーカバーカ!!ブチッ!…ツーツーツー……。」

 女の罵声。それだけが録音されていた。かの名俳優、松田優作ならば、何じゃこりゃあ~!と卒倒するところだが、板倉くららは違う。フッとまず軽く笑い、その後真顔に一旦戻るが、ププッと吹き出す。真顔に戻り、吹き出す。それを3回繰り返す。タバコを吸う。消す。そして、あ…と言い、アパートを出て駐車場にある自分の車に乗り込んだ。

 「やっぱりね。つけっぱだったわ。」

 ヌンチャクのキーホルダーのついている車の鍵は、当たり前のようにハンドル横にぶら下がっていた。くららは鍵をひねり、エンジンをブオンとかけ、ギアをいれ、餅を購入せんと、駐車場から発進したのであった。



   2 板倉くらら車を走らせる


 スモーキンスモーキーン!

 スモーキンスモーキーン!

 肺は真っ黒お先はまっくらー!

 それでもオイラにゃやめられない

 それでもオイラにゃやめられなーい!

 もっと汚い煙を僕にくれ!

 

 昭和の香りがプンプンする、白のマツダルーチェ。板倉くららは、ラジオから流れるロケンローに合わせ、咥えタバコで歌いながらその車を運転している。窓から入り込んでくる風が心地良い。くららは割と整った顔立ちで、アルプスの少女ハイジに出てくるクララにも似てない事も無い。入り込んでくる風に乱される髪の毛をかき上げるしぐさは、気の利いたBGMをかけ、スローモーションでみるとどうだい。なかなか様になる。髪の毛をかき上げながらくららはこう言った。

 「あ~。早く餅食いたい。」

 そして、彼女のルーチェは、程なく国道から一本はいった通りに面している小さな店に到着した。



   3 板倉くらら餅を手に入れる


 車を止め、板倉くららは『デパートメンツストア高橋』という看板の掲げてあるその店に入った。東京ドーム1350分の1の広さを誇るその店内。日用品はもちろん、食品、衣類、酒、タバコ。ここに来れば何でも揃うよ。と近所の人々は言う。店内では、ニーナ・シモンのリトルガールブルーが流れていた。いい曲だなぁとくららは思った。家に帰ったら掃除でもしようかしら、とも思った。彼女は、餅を1袋、ついでにクイックルワイパーを1つ手に取り、レジに持って行った。レジには、シガニー・ウイーヴァー似の色黒で背の低いおばさんが座っていて、横の棚に置いてあるテレビで、プロジェクトAのエンディングで流れるNGシーンを見て笑っていた。

 「すいませーん。」

 くららは餅とクイックルワイパーを台の上に置くと、こちらに気づかずテレビを見ているウイーヴァー似のおばさんを呼んだ。呼ばれたウイーヴァー似のおばさんは、まるでエイリアンでも見るような目つきでくららを見た後、無言でレジを打ち、560円ね、と言った。くららが、袋下さいと言うと、ウイーヴァー似のおばさん、今度は女王エイリアンにでも遭遇したかのような顔でくららを見た。3秒間2人は見つめ合った。そしてウイーヴァー似のおばさんは袋に商品を入れくららに渡し、くららは560円をウイーヴァー似のおばさんに支払い餅とクイックルワイパーの入った袋を受け取り、ニーナ・シモンから浅川マキに曲の変わった店内を出たのだった。



   4 板倉くらら告白される


 店を出たところで、向こうから男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。あれ?と板倉くららは思った。

 「やぁ。」

 と、にこやかにその男はくららに声を掛けてきた。

 「ごま団子先輩。」

 彼女は答えた。彼は、同じ万年筆屋で働く先輩だったのだ。

 「何?何何?買い物?いやぁ重そうだね。持とうか?あ、ごめん…。」

 プッ。

 この先輩は、表ではその坊主頭からごま団子先輩と呼ばれているが、裏では屁こき先輩もしくはオナラさんと呼ばれている。人前だろうが会議中だろうが生放送だろうが、ところかまわず屁をこくからである。しかも、プッと屁をこいた後に、あ、ごめん、と言うのならば分かる。が、この先輩は、あ、ごめん、と言った後にプッとこくのだ。確信犯である。

 「いえ、けっこうです。それにしてもごま団子先輩こそこんな休みの日にどうしたんですか?まさかデートとか?あ、分かった!待ち合わせでしょ?でしょ?」

 ごま団子先輩の屁には慣れているくららは、彼のこく屁には特別気にする事も無く、普通に会話する事ができた。

 「違う違うよ!そんなんじゃ…あ、ごめん。…無いって!困るなぁ。実はさ、君がここに入るのが見えたからさ、それでさ、僕もさ、家に豆腐が無い事を思い出してさ、寄ったってわけ。あ、ごめん…。いやぁ、はは。寒いね、今日は。あ、ごめん…。」

 と彼は、計3発の屁をこきながら言った。くららは、早く家に帰って餅が食べたかったので、そうですね、寒いですね、それじゃあ、また明日、と適当に切り上げ、車に向かおうとした。

 「ちょ、ちょっと…あ、ごめん…待って!実はさ、僕ね…」

と、ごま団子先輩は、プッと1発こき、帰ろうとするくららを呼び止めると、深呼吸をし、あ、ごめん、と更に1発かまし、

 「君がー好きだー!僕と付き合ってもらえないだろうか。」

 と、いきなり告白をしてきた。

 ごま団子先輩は、くららより2つ年上で、目を細めて見ると、シド・ヴィシャスにどこと無く似ている。顔面にホクロが散りばめられている。腕の血管が浮き出ている。カラオケが得意。英検3級。モスバーガーが嫌い。好物はキャベツ太郎。住んでいるアパートの一階はTSUTAYA。

 けっこうモテる。

 その彼が、唐突にくららに愛の告白してきたのだ。くららは、キョロキョロと周りを見渡すと、私?と自分の顔を指差した。プッとごま団子先輩は、無言でうなずきながらこいた。

 「ごめんなさい。無理です。」

 くららははっきりと答えた。それを聞いたごま団子先輩の坊主頭が、ガクンと前に垂れた。と同時に、スッスス~…。そんな音色が二人の間をすり抜けていった。

 「あの、ごま団子先輩。私そろそろドロンしますんで。餅を早く食べたいんで。じゃ、明日店で。」

 「…あ、あぁ。ははは。う、うん。そうね。また明日ね。うん。あ、ごめん…。じゃ、うん。うんうん。車気をつけてね。はは。あ、ごめん…。うん。僕も豆腐買って帰るよ。うん、じゃあね。」

 と彼は途中に2発混ぜ込んできたが、失恋のショックからか、どちらもスーかスッであった。

 ごま団子先輩の泣きそうな笑顔に見送られながら、くららのルーチェはブオンとデパートメンツストア高橋をあとにしたのだった。



   5 板倉くららアクシデンツに見舞われる


 パンッとなった。

 餅を手に入れ、ウハウハで帰宅途中、ルーチェの下の方でパンッと音がした。と同時にルーチェがヘコへコへコへコしだした。え?何よ?板倉くららは車を左に寄せ停車させると、降りてルーチェをグルッとひと回り点検した。左の前のタイヤが見事にぺしゃんこになっていた。はっはーん。コレねコレ。パンクね。パンクロッカーだわ。ってタバコに火を付け一服。

パンクした車を無理に動かしてはいけない

21才の時、車の免許をとったばかりのくららに、彼女の父親が教えてくれた事だ。

「これはアクシデンツね。早く帰って餅を食べたいって事をふまえると、これはかなり重大なアクシデンツよ。」

 どないしょどないしょと辺りを見回すと、近くの草むらに2人の青年の姿が見えた。こちらに背を向けているが、とにかく助けを求めようと、くららは彼らの元へ近づいていった。近づいていく途中、彼らが今まさに、スタンディング・ションベーション(立ち小便)をしようとしている事が分かった。が、こちらは多分、彼らのスタンディング・ションベーション(立ち小便)より一大事。一刻を争えない。こう思ったくららは、臆する事なく前へ前へと足を進める。

 と、青年達の会話が耳に入ってきた。

 青年A「おい、寒いな。かはっ!手がかじかんでなかなか顔を出してくれないぜ。」

 青年B「うわっ!何だ!お前!ドリルじゃん!どうすんのよソレ。」

 青年A「寒い時期はみんななるもんさ。お前もそうだろ?」

 青年B「バカヤロー!俺はもう30になるんだぜ。小中学生かっつうんだよ!こうだろ…よいしょっと…あ゛っ!たっはーっ!見ろよこれ!お前よりもっとドリルってるぜ!」

 青年A「ほらね。そいつは多分、体の防衛機能なんだよ。おいおい!いそいでムクなよ。鈍痛がくるから。ゆっくりとな…。落ち着いて…。イージー…イィーズィィー…。そうそう、自分が爆弾処理班になったつもりで…一歩間違えるとボンッ!だ…。そうだ…そうそう…。」

 青年B「よいしょ、よいしょ…よいっしょっおっとぉ!出た!コンニチワしたぜ!そっちは?どうぞ?」

 青年A「俺も出た!どうぞ!」

 青年B「コングラッチュレイシャーンッ!隊長ぉーっ!俺達!俺達爆弾を見事に処理しましたー!」

 はははー!くははー!やっほおーう!などの2人の歓声が聞こえた。

 何よ?ドリルって…。ドリルって地面とか掘るヤツでしょ?何なの?何?男の考えてる事って、ホンッと理解不能だわ。と、呆れ顔で、何気に左に顔を向けたくらら。彼女の大きい目の中に、現在一番欲しているモノの姿が飛び込んできた。

 それは、車の整備工場であった。



   6 板倉くらら信号がオールレッド


 整備工場へ早歩き。入り口をぬけ受付。事情説明。修理開始。待合室にて待つ。タバコ5本吸う。立つ。座る。立つ。座る。タバコ1本吸う。修理完了。金を払う。ブオンと出発。

 「ロスだわ。40分ロス。あ~もう!餅!早く体内に餅を!」

 板倉くららは空腹からイライラしてきた。タバコもカラ。おまけに整備工場を出てからすべての信号機が赤。赤は止まれ。当然止まる。

 1つ目はノーリアクション。

 2つ目は苦笑い。

 3つ目は深呼吸。

 4つ目は無言。

 「何!何これ!ワザと!?何かした?あたし!?何も悪い事してないわよ!何で!?どうして!?」

 くららは5つ目の赤信号で爆発した。そして、慌てて自分のバッグからケータイを取り出し、自宅へかけた。当然本人不在なので留守電に切り替わる。しかしくららはそれを承知しているかのように顔色一つ変えない。そして、ピーの発信音の後、

 「バカ!バカバカ!バカバカバカバカ!赤信号ばっかり!一体なに!?何がしたいの?信号機は!何なの!?ほんとバカッ!バーカ!バカーッ!」

 と絶叫し、切った。

 この行動は一体何か?

 実は彼女、自分が怒ってるサマを自宅の留守電に録音し、それを後で観賞するのが好きだった。いや、大好きだった。なんだろう。この贅沢な気持ち。まるで神様のよう…。はすの葉の間から下界の様子をうかがう御釈迦様のよう…。それを聞いていると、こんな幸せな気持ちにくららはなるのだそうだ。

 そうこうしてる間に、オールレッド地獄を抜けたくららのルーチェ。彼女のアパートの駐車場。その決められているスペースである白線内にキキッと見事に納まった。



   7 板倉くらら時を忘れる


 餅とクイックルワイパーの入った袋を持ち、鍵を抜き、やや小走りで部屋に向かった板倉くらら。その時、駐車場の奥の壁に、何か落書きのようなものが書かれているのが彼女の目にはいった。何だろうと近づいてみると、そこには不細工な獅子女が描かれており、ふきだしで『朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これは何か?』と言っていた。

 「アラヤダ。これはこれは懐かしいクイズね~。確か小学生の頃聞いた覚えがあるわ。いやぁ懐かしい。最初は全然分からなくて泣き出しちゃったっけ、てへっ!で、答えを聞いたら、何だ、そんな事も分からなかったのかって大笑い。あぁ、思い出すわぁ~。懐かC~!あ、ちょっと解いてみようかしら。えぇっと…え?あれ?待って待って。朝だから…えっ?あれっ?何だっけ?4本足!?え?え?ちょ、ちょっとタイム!タイム!え~っ!?」

 あせったくらら。これはアカンと、袋を地面に置いた。置いてから、あ、そうだ!あそこに置こう!と、アパートの裏にある大きな木。その木の下に深さ30cm程の自然にできた穴があるのだが、かぶさった草が蓋の代わりになっており、人目につく事もなく絶好の隠し場所になっていた。これは、最近くららが偶然に見つけたものである。彼女はひとまずそこに袋を入れ、壁の前に戻り、落ち着いたところで謎を解明しだした。

 「え~とぉ…確かこれは方程式に当てはめるタイプのヤツでぇ~…。そうそう!えっと、4x+2y=3!そうよ!4x+2y=3なのよ!グラフにすると、縦軸がxで、横軸がyでしょ?とすると…、こうなるからここを四捨五入すると…」

 と彼女は、落ちていた石で壁に方程式やらグラフやら計算式やらをカリカリと書き始めた。

 ちょうどその時。くららがカリカリしてる時、彼女のすぐ近く、彼女の気づかないところで、ある事が行われていた。

 まず最初に、黒いスーツを着た男がいそいそとやってきて、くららの見つけた穴から餅とクイックルワイパーの入った袋を取り出し、ケータイで『確保』とボソッと言い、いそいそとどこかへ消えた。

 それから5分程経過したその次に、今度は赤いスーツを着た男が、これまたいそいそとやってきて、同じくくららの見つけた穴に、餅とクイックルワイパーの入った袋と似たような袋を入れた。そして、いそいそとどこかへ消えた。

 その間、くららはカリカリと計算していた。書いちゃあ消し、書いちゃあ消し。ああでもないこうでもない。無我夢中とはこの事だ。カリカリカリカリ……。

 そして遂に!

 「解けた!そうよ!これよ!久しぶりだったから手間くっちゃったわ、あはっ!え~と…え~っ!?5時20分って、1時間40分もかかったって事?アタシも年ね。頭が固いわ。あ~、お腹すいた。あ、そうだ!思い出した!餅よ餅!」

 くららは、壁に『答え 46』とガリガリッと書き、穴から袋を取り出すと、アパートの階段を駆け上がっていった。



   8 板倉くらら項垂れる


 「何これ何これ何これーっ!」

 部屋に戻り、さっそく袋から待望のモノを取り出したのだが仰天。それは、餅でもクイックルワイパーでも無かったのだ。板倉くららは、餅1袋とほぼ同じ大きさ、重さのそのモノを眺めながら、何これを連呼したのであった。エアーパッキンでぐるぐる巻きに包まれているソレ。くららは、そのエアーパッキンをぐるぐる取る。中からタバコの箱くらいのケースがでてきた。パカッとそのケースを開けると、そこには、スパイ映画とかによくでてくるマイクロティップのようなものが出てきた。それを見たくららは、

 ちょっとやめてよ…。

 と思い、

 「こんなの食べれるわけ無いじゃん。」

 と言った。

 何でこうなったのかしら、どこかですりかわったのかしら。くららは、餅を購入した時点からを振り返ってみる事にした。あの店で餅を買って、確かに受け取ったわ、あそこの愛想の悪いおばさんから。で、店を出たところにごま団子先輩でしょ。その間はずっと袋は抱えてたし。そんで、次に何だっけ?あ、パンクしたんだわ。助けを求めようとしたドリル男達は接触してないから関係ないわね。整備工場のオヤジ!一番怪しいわ!だってパンク治してもらってる間、車の中に袋置いたままだったんだもん。あ、でもお金払う時にバッグとろうとして袋がガサーッてひっくり返って、その時餅の袋が出てきたっけ。…違うか。それから…アパートに戻ってきて…落書き!クイズ!熱中してる間に?いやいやそれは絶対無いわ。あの穴に入れといたから。…はぁ~。何でだろう…。くららは、あの時のごま団子先輩のようにガクンと頭が前に垂れた。しばらくそうしていたが、やがて顔をあげ、タバコを咥えた。火をつけながら、ちょうど目線の先にあったジョー・ペシのポスターを見る。ん?とくららは思った。何か言ってる。ジョーが。

 マタカイニイケバイイジャン

 カタコトの日本語で、確かにこう言ったような気がした。くららはフッと笑い、タバコを消し、立ち上がった。そうよ、また買えばいいのよ。ありがと、ジョー。そうするわ。…ったく、何よこんなの!と彼女は、マイクロティップをパキッと2つに折り、ゴミ箱に投げ捨て、車の鍵をジャラッと持ち、部屋を出た。



   9 板倉くらら北へ


 ルーチェを飛ばしながら、ラジオのスイッチを入れると、ブッカー・T・ジョーンズの軽快なオルガンが流れた。ハンドルでリズムを刻みながら聞いていると、突然音楽が止まり、『臨時ニュースです』とアナウンサーの声がした。何よ?と板倉くららは臨時ニュースに耳を傾けた。

 『え~、先程入った情報によりますと、え~、世界的テロ組織の主犯兼実行犯である二人の男が、え~死体で発見された模様です。この二人は、各国大統領に全世界破滅テロを行うという予告状を送っていたそうであります。え~、世界各国にいる仲間に、テロ計画の内容及び指令などが詰め込まれたマイクロティップがリレー方式で渡り、え~、近々、え~最終地であるこの日本に到着するという情報を、警察当局はつかんでいたという事です。警察当局の調べによりますと、マイクロティップの受け渡しの途中で何らかのトラブルが起き、計画は失敗に終わったと見ているという事です。更に警察当局は、え~、マイクロティップの行方と、残りのテログループの逮捕にむけ各国と連結し、え~、完全撲滅に追い込みをかける模様です。ちなみに死体で発見された二人は、赤いスーツと黒いスーツをそれぞれ着ており、え~、黒いスーツの男は、左手に餅、右手にクイックルワイパーを握りしめていたという事です。え~、繰り返します。世界的テロリストのリーダー格の二人が死体で発見され、世界崩壊の危機は免れました。世界に平和が戻りました。え~、以上、臨時ニュースでした。』

 「天罰ね。天網恢々疎にして漏らさずとはこの事ね。餅とクイックルワイパーを握りしめてって、どんな死に方よ。間抜けよね。でもこの人、殺される前に餅が食べたかったのかしら?食べ終わった後に部屋でも掃除するつもりだったのかしら?ま、そんな事どうでもいいか。世界が平和になったんだし。この人の分まであたしが餅を食べて部屋を掃除してあげるわ。あ~、しっかし腹減ったわ。」

 くららはタバコに火をつけると、再び流れ始めたブッカー・T・ジョーンズをバックに、アクセルをブオンと吹かし、国道を北へとルーチェを飛ばす。

 信号は相変わらずオールレッドだった…。





                                                             完


 


 


 


 

 


 


 

 


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― 新着の感想 ―
[一言] いろいろロケンロー(他)が登場し、またBGMにザ50回転ズまで出てきた事で勝手にテンションが上がりました。 シド似の先輩がいろいろと残念設定ですが、そこがまた素敵かなと。 書き出したらキ…
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