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第9話 俺のプリン知らねえ?

 ワーム事件翌日のギルド会館内にて。


 「なあ、みんな! 俺のプリン知らねえ?」


 クロウのお昼休憩の最初の一声。

 各場所にいる三人の耳にも、その声が届いたが、誰も返事をしない。

 黙っている。


 「ちょっとシオン。俺のプリン知らねえ?」


 第一に聞くのはマスターの席の近くにいたシオン。

 クロウは彼女から問い詰めていく。


 「あんたのプリンなんて知らないわよ」

 「そんな事言って、お前が食ったんじゃねえの? 昨日の限定のを買ってさ。あそこの冷蔵庫に大切にしまってたんだよ。そしたら、さっき見たら無くなってたんだけど! 楽しみにしてたのにさ!」

 「あのね。勝手に私を犯人にしないで頂戴!」


 今の決めつけるような言い方で、シオンが怒った。

 でも、いつもの事でもあるので、誰も仲裁に入らない。


 「あれな。限定なんだよ。王都のお店が、わざわざこっちにまで来てくれた時にだけ買える奴なの。超珍しい奴なの! 美味しいんだぞ。たぶん」

 「あら、そうなの。でもその言い方だと美味しいかどうかは知らないみたいじゃない。ご愁傷様。食べてないようだけど、買えてよかったわね」


 呆れているシオンは、嫌味で返した。

 

 「お前。それ知って食べたんだろ。美味いからよ!?」

 「いい。クロウ。あたしはね。冷蔵庫にプリンがあったことも知らないの。最近使ってないの!」


 マスターの席の脇にある冷蔵庫は、氷魔法を補充することで使用するものだ。

 そこに、とっておきのプリンを大切にしまっていたのがクロウである。


 「そうなのか・・・じゃあ、あ! フラン君は知らねえか? もしかして食べた?」

 「プリンをですか?」


 トイレから出てきたフランは、ハンカチで手を拭きながらこの部屋に来た。

 先程の会話を聞いてなくても、クロウのプリンを探し出す声の大きさで、全てを察している。


 「うん」

 「まったく知りません。それに僕は、ここに就職してから、そこの冷蔵庫を開けた事がありませんので、食べるのもありえないですよ」


 とんでもない意見に返事をしたのはシオン。

 彼女は、フランには優しい。従来の彼女だ。


 「あらそうだったの。あなたも、冷蔵庫使ってもいいのよ」

 「ええ。承知してますよ。でも僕。基本的に温かいものを食べますし、お弁当もちゃんと朝に作ってくるので、今後も冷蔵庫はおそらく使用しません」

 「へえ。健康志向なのね」


 生活がしっかりしている。

 クロウとは正反対の男性だ。


 「んなことはどうでもいいの。シオンもフラン君も知らないのなら、どういうこった?」


 俺以外の職員でもわからないのか。

 じゃあ、あとは・・・我らの天使に聞くしかない。

 クロウが試しに聞いてみた。


 「リリちゃん。俺のプリン知らねえ!」


 バックヤードから大声で言えば、確実に聞こえるはず。


 「・・・・」


 いつもの元気な返事が返ってこなかった。


 「あれ? リリちゃん。休憩中だけど、忙しいの?」

 「あ、はい。だ、だ大丈夫です。今休みます。な、なな。なんでしょう。マスター」

 「ん?」


 だいぶ言葉がダブついている。

 怪しさ満点だった。


 「リリちゃんさ。ここの冷蔵庫にあったさ。俺のプリン知らねえ」

 「し、知りません・・・よ~~~」


 随分と間があるな。

 クロウは更に怪しんだ。


 「まさかね。リリちゃんが食べるわけないもんね!」

 「・・は、はい。そうです・・・よ~」

 

 嘘が下手だな。

 二人の会話を聞いて、シオンとフランも思っている。


 「だよね。あのリリちゃんが! 大天使のリリちゃんが、人様のプリンを勝手に食べるわけないもんね」

 「・・・は、はい! そうですよ。あははは」


 いつもよりもぎこちない笑いが聞こえる。


 「あれさ。超限定だったんだよ。食べた人、美味しかっただろうね」


 牽制の一撃。


 「そ、そうです・・・ね~」


 会話として、この同意はおかしくない。


 「どう。美味しかった?」


 揺さぶりの一撃。


 「え・・・な、何の事ですか。し、ししし知りませんよ~。冷蔵庫にプリンがあったなんてぇ」


 何とか持ちこたえた。


 「そっか。二段目に入れてたんだけどさ。見たかな?」


 緩急をつける。緩やかな質問で断りやすい。


 「い、いいえ。今日は扉を開けてないので、み、見てませんよ~」


 当然堪えられる。


 「へえ、そっか。あのさ。白いプリンだなんて珍しいよね?」


 まさかの色で攻めるのか。

 思った以上の急展開。

 質問の角度が違うのでポロっと言いたくなりそうだ。


 「そ・・・う・・・・・へ。へえぇ。めめめずらしいですね」


 なんとか耐えた。

 リリアナは、そうですよねと危うく言いかけた。

 動揺を隠せてはいないが、誘導尋問には引っ掛からなかった。

 ひとまず安心だ。

 

 『言質が取れない。中々粘るな』


 誘導質問をしているクロウ自身も感心してるが、二人のやり取りを聞いているシオンとフランも感心していた。


 「そっか。じゃあ、仕方ないか。リリちゃん。一緒にお昼ご飯を食べよう。こっち来てよ。皆いるよ。あんまり遅いと食べちゃうよ」


 表で仕事してないで、裏に来なさい。

 これには従わざるを得ない。

 

 「わ。わかりました。今、いきます」

 「早くしてね。休憩もあと五十分しかないよ」


 五十分もあれば、休憩には十分な時間だろう。

 会話の攻防を続けるつもりのクロウ。

 声色は優しいのだが、顔がまだ真剣だ。

 シオンとフランはお弁当を広げながら思った。


 リリアナが遅れて合流する。

 裏の職員の部屋と表の受付の間の廊下で、クロウが彼女の前に立ちはだかる。


 「ごめんね。リリちゃん」

 「え!?」

 「ちょいと失礼」

 「こ、これは?」


 クロウの手が青白い光を帯びていた。

 その光を彼女の頭の上に置く。


 「体験の追跡(メモリーストーカー)


 青白い光がリリアナを包み込んだ後、彼女の形をした光が飛び出した。

 彼女の姿を模しているのが分かる。服装などが似通っているのだ。


 「え。クロウ。これなに?」

 

 クロウが何をするんだろうと思って近くに来ていたシオンが聞いた。 

 

 「これはさ。その人の行動の追跡が出来んの。ただし一週間だけな。リリちゃんが、真っ白ならそれでいいんだけど、なんとなく怪しいから、魔法を使ったわ」

 「は? そんな魔法があるの? あたし知らないわよ」


 魔法学院を首席で卒業した自分。

 誰よりも勉強としたとの自負を持っているが、この魔法は知らない。

 口が開いたままになったシオンは驚きを隠せずにいた。

 

 「まあな。オレ以外だと、彼女だけが使える魔法だろうし、現代の子が知らなくても不思議じゃないだろう。シオンが知らなくてもしょうがねえよ」


 シオンの顔が悔しそうだったから、クロウは慰めていた。


 「彼女? 誰?」

 「まあな。とんでもない天才の子だ。あの子くらいじゃないと、これは扱えないだろう」

 「???」


 シオンは首を傾げた。


 「そんなことよりもだ。リリちゃん。覚悟するんだよ。今の内に謝っておかなくていい?」

 「え!?」

 「俺のプリン食べたよね?」

 「い、いいえ。た、たた食べてません」

 「駄目だよ。嘘ついたら。リリちゃんは大天使なんだからね」


 クロウの理由がよく分からないが、とにかくリリアナが嘘をつくことが許せないらしい。


 「スタートするぜ。追跡開始!」


 リリアナの姿を模した光が動き出した。

 彼女の行動を巻き戻すらしく、一旦仕事場に光が戻る。

 受付番号一番の席に戻って、仕事をしている。

 そこからしばらく止まっているので、クロウが光に命令を出す。


 「早送り!」


 光のリリアナが、素早い行動になり、仕事前の状態に入ろうとした。

 立ち上がって職員の部屋に移動する。

 次に、光のリリアナは、自分の席で何かを食べている。

 戻しているように見えるのは巻き戻しの状態だからだ。


 「なんか食べてたな」

 「あああ。だ、駄目ですよ。マスター。とととめてください」

 「慌ててるね。かなり怪しいよ」

 「ここここれは、嘘ですよ。この光が勝手に」


 リリアナの焦りが皆に伝わる。

 フランもシオンも、白い目で見ていた。


 「ほら。次の展開を見てよ。冷蔵庫に向かいました!」


 光が、冷蔵庫を開けた仕草をして、食べ物を持っていた手が、何かを置いたように伸びている。

 つまり、実際は何かを掴んだのだ。

 巻き戻しなので、皆には置いているように見えている。


 「二段目に手が伸びたね。リリちゃん!」


 手を伸ばしたのが、冷蔵庫の二段目。

 言い逃れ出来ない位置である。


 「ほら。ここ見て」


 プリンを置いた姿。

 つまり、プリンを手に取った瞬間の顔が見える。


 「犯人の顔です。笑顔いっぱいだ! 美味しそうなプリンをゲット出来て、喜んでいます!」

 

 クロウが嬉しそうに実況した。


 「ああああ。マスター・・・ああああ」

 「堪忍しなさい! リリちゃん。おじさんも、謝れば許してあげるよ」

 「ごめんなさい。マスター。美味しそうなプリンがあったから、朝一番でついつい食べちゃいました。朝ご飯抜いたのが間違いでした。我慢できず、本当にごめんなさい」


 朝ご飯を食べずに出社してしまった。

 そこで、たまたまプリンを見てしまったのだ。

 あまりに美味しそうなものを見てしまい、理性が吹き飛んだ。

 ダイエット中なのに、とんでもない誘惑の魔の手がそこに・・・。

 魔が差してしまったのだ!!!


 「そうか・・・・よく言ってくれたよ。リリちゃん!」


 目を瞑ってクロウがしみじみと言った。

 何らかの感情を噛み締めている。


 「ま、マスター・・許してくれますか?」

 「うん。リリちゃんが。正直に言ったんだ・・・それはもちろ・・・」


 クロウが止まった。


 「うわあああああ。俺のプリンを。よりによって、大天使のリリちゃんが食べたぁ・・・ありえねえ事態に大ショックだぁぁぁぁ・・・数日寝込まないとこれは・・・立ち直れねえぇぇぇええええああああぁぁぁぁぁぁぁぁ。今日は休む!」


 思いっきり泣いたので、後始末が大変となるのだった。

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