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第7話 ギルドマスターでも冒険者よりも強い

 「あ、あなたは!? え、マスターさん??」

 「まあそうだね。おじさんはマスターと言われたらマスターだ」


 クロウは間違いなく辺境のギルドマスターである。


 「えっと君はたしか・・・・ネルフィ君じゃないか」

 「は、はい。そうです」


 いち冒険者クランの副団長の名を知るクロウ。

 仕事をしっかりしていると思いきや、彼は、ただ相手が女の子だと名前を覚えていられるらしい。


 「ワームが出たって聞いてね。俺がこっちに来たのさ」

 「マスターが?」

 「うん」 

 「た、戦えるんですか?」

 「うん」

 「え? シオンさんじゃなく・・・」

 「うん。そうだよ」

 「え・・でも、いや・・」


 元特級冒険者であったシオンであれば、ワームなんて楽勝だろうに。

 ・・・この考えが一瞬でもよぎっていた。

 苦い顔のネルフィは、マスターの救援に戸惑っていたのだ。


 「だよね。やっぱ不安でしょ。俺がここに来るとさ」

 「え・・い、いえ」

 「いやいや、正直に言ってもいいよ。実力の分からないおじさんよりもさ、あいつの方がいいでしょ。君たちも安心するよね」

 「そ。それは・・でも、せっかくマスターが来てくれていますし」


 しどろもどろのネルフィを見てクロウがため息をついた。


 「はぁ。だから俺はさ」


 彼女の顔がどんどん曇っていくので、クロウが愚痴を言う。


 「シオンに行けって言ったのにさ。あいつ、そういう所の配慮がないよね。新人の子たちを安心させるためにって意味で俺は言ったのにさ」 


 冒険者たちに安心感を与えるために助言したのに。

 クロウは意外と周りがよく見える男なのだ。


 「まあ、出会った時も世間知らずだったからな。今もまだ世間知らずの所があるんだろうな。うんうん。天才ゆえに凡人を知らぬってことかな」


 シオンが元特級冒険者だとしても、世間知らずだと説く。 

 そのクロウの実力はいかほどなのか。

 ネルフィは、ブチブチ言っているクロウに半信半疑であった。

 

 「さてさて。ここ、どうなってんの?」


 阿鼻叫喚となった現場を確認後。

 自分の首を回して、肩も回す。

 クロウが準備運動をし始めた。

 

 「まあ、見たら大体わかるよね」


 まだまだ弱いけど、一生懸命だ。


 「レオが漢を見せて、戦っているんだな。今はさ。もう見栄だけでやってるな。頑張りどころかな」

 「は、はい! そ、そうなんです。でも今はもうすでに食べられ・・・」


 口が閉じかけている。

 レオが飲み込まれようとしていた。


 「うん。食われるね」

 「ま、マスター。団長をお願いします。助けてください。我々の実力では」


 レオたちの最高討伐ランクはCクラス。

 三級冒険者の集まりで、クランもまだ駆け出しである。


 「まあそうだね。君たちじゃ無理か」

 

 実力差は一目瞭然。

 クロウの目は全てお見通しである。


 「・・・ネルフィ君。大丈夫だよ。心配しないで。その為に来たからさ」


 ネルフィの不安を払拭するために、クロウは指をパチンと鳴らした。


 「よいしょっと。まあ、しょうがねえな。ハーレム築いてる男でも助けてやるか。レオの為には頑張れんけど、こちらの美人に泣きつかれちゃな。俺だって断れんよね。女性と子供の涙には、流石の俺も勝てんのよ」


 魔力が一気に練り込まれる。


 「ほい。ファイアボム」


 狙いはワームの口だ。 


 ◇


 「の。飲み込まれる!?」


 ワームが口を閉じる。

 そこを必死に抗っていたレオは、あと少しで飲み込まれる運命だった。

 飲み込んで消化するための唾液のようなものが、奥から見える。

 

 「うおおおお。死にたくない。まだ彼女たちと何も成し遂げてないんだ。俺はまだ何も守れていない」


 という微妙にカッコいいセリフを口に出してはいるが、本当は女性たちにカッコよい姿を見せられなくなるのが悲しいと意味で言っている。 

 勇者見習いレオは、見栄っ張りである。


 そして・・・。


 嘆いているレオの目の前が突然光った。

 ワームから放たれるビームや、粘液でもない。

 ワームの舌あたりで、光が一点に集中して爆発する。


 「ぐあ!? な、なんだ。え、何が起こった」


 爆発によって閉じかけた口が開き、爆風によってレオが外に押し出された。

 尻餅をついた先の隣には、マスターがいた。

 レオを見ずにモンスターだけを見ている。


 「レオ君。よく頑張った。ここまでの大惨事。それを最小限にしたのはどうやら君のおかげらしいよ。よくやったよん」


 今回の事件。けが人は相当数いるが、レオの活躍のおかげで、死者はいなかった。


 「マスター?」


 ギルドマスターが救援?

 レオはそう思った。


 「だがね。レオ君・・・」


 次の展開の言葉が思い。

 何やら意味深だ。


 「はい」


 だから、即返事をした。


 「ズルいぞ君は!」 

 「え? ず、ズルい??」


 一生懸命戦っていただけだから、何の事だかわからない。

 レオは頭を悩ませた。

 

 「そうだ。見たまえ」

 「ど、どこを?!」


 マスターが、ワームを見ていない。

 周りの風景を見ているように思う。


 「ここにいる美女たちは君のクランのメンバーでいいんだな!」

 「は、はい。そうです」

 「そうか・・・・ってなぁ。観客じゃなかったのよ。この数の女性を侍らしてんのか。おい、ズルいぞ」

 「え!?」

 「とても綺麗な人たちに囲まれて最高の環境じゃねえか。それにみんな優しそうだ。この面子だったら、そうだ。君を甘やかしているな!」

 「え!? 甘やかしてる?」

 「だからズルいんだ。いいか。俺のそばにはな。スパルタ女で有名なシオンしかいないんだぞ。ああでもない。こうでもないと、いっつもいっつも怒られてんの。俺、可哀想じゃない」


 こちらのマスターは、サボってるから怒られてるだけです。

 普通に働いていたらシオンだって怒りません。

 以前のシオンは、気性が荒い人間ではありませんでした。

 穏やかとは言い難いが、我慢強い女性でした。

 彼女の性格変更の責任はクロウにある。


 「え?」

 「俺、可愛そうじゃない?」

 「それは、そ、そうですね」


 強引に同意させた。


 「だよね。優しい人がそばに・・・あ、リリちゃんがいた。俺にはリリちゃんという天使がいたんだ!」


 という無駄話をしていたレオとクロウは、二人で顔を見合わせていたので、敵の事を全く見ていなかった。

 その間にワームは姿を消していたのに、この余裕は余計だった。


 「団長。マスター。敵の姿がありませんからね。地面に潜りましたからね」

 

 ネルフィの声が届き、レオは前を向く。

 いたはずのワームが消えて、洞窟内が広く感じる。


 「え!? ほ、本当だ。まずい。どこに!!」

 「まあまあ、レオ君。慌てなさんなって」


 慌てるレオと、動じないクロウ。

 戦場に立つ二人は、対立構造の様に正反対だ。


 「マスターそんな悠長な」

 「大丈夫だって。Aランク位さ。俺だったら小指で十分だから、小指でさ。こんな感じでチョンと触れば砕ける感じだから」


 デコピンでもする感覚で、小指を動かした。

 

 「いや。しかし・・・て!? ま、マスター」


 クロウを見ていたレオ。隣にいたはずのクロウの姿が突然消えた。

 理由は、地面から浮き出たワームに飲み込まれたからだ。

 余裕であったのがいけない!


 「うああああああああ。ま、マスターが!?」

 「きゃあああ。し、死んだ!?」


 いとも簡単にマスターが死亡してしまった。

 阿鼻叫喚のダンジョン内に、明るい声が響く。


 「いやいや。生きてっからさ。こいつを粉々にするためにはこっちが都合がいいのよ」


 ワームの中から声が聞こえる。

 マスターが生きているのか!?

 皆が思った瞬間、巨大な火柱がワームから出てきた。


 「ディーヴァフレイム!」


 ワームのお腹の中心辺りから火が昇り、天井に当たって横に広がる。

 強烈な火魔法で、ワームが焼ける。

 こんがりどころか、内臓も皮膚も全てが消失した。


 「いやぁ。ワームの口の中、くせえ。この作戦失敗だわ」


 無傷のクロウが外に出ると、レオハーレムのメンバーの口が開いたままになった。

 この戦いぶりだと、あのワームがあまりにも弱く見えたのだ。


 「威力減衰を狙って成功したのはいいけど・・・やっぱ臭えわ」


 クロウは上の服を仰いだ。

 割れた腹筋に程よい胸筋の中肉中背の肉体を披露する。

 ついでにワームの臭いが体にも染みつきそうだと、嫌な顔をしている。


 「ねえ。そこの君。お名前は?」

 「わ、私ですか。み、ミリマリです」


 近くの冒険者に話しかけた。


 「あのさ。俺、臭い。どうよ」

 「え。そ、そんな事はないかと」

 「そう? そっちの君は」

 「い。いいえ」

 

 クロウはこの他にも別の子に聞いて、同じような答えを貰った。 

 だから最後にネルフィにも聞く。


 「ちょっと、ネルフィ君。俺、臭い?」

 「いえ。多分大丈夫かと」


 皆優しいだけか?

 クロウは自分を嗅いだ。


 「そうかな。くんくん。なんかくせえ気がするんだけど。どうしよう。おじさん臭じゃない匂いがここにプラスされたら・・・」


 おじさん臭パワーがダブルになっちゃう。

 クロウの懸念はそこだけだった。


 「なんか、臭くなったら嫌だよな。おじさんって匂いに敏感だから。周りと比較して、気にするんだよね。ねえ。ネルフィ君」

 「は、はぁ? そ。そうなんですか」


 まだ若い女性には、おじさんの生態は分からない。

 というか、クロウの生態が誰にも分からないのである。


 

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