第6話 ワーム出没事件
ノール洞窟。
極東のロクサーヌから南西にある洞窟。
初心者帯がこぞって挑戦することになる洞窟型ダンジョンだ。
1層から10層までに出現するモンスターランクの最高がDとなっている。
そのため、初心者一人でも良い線までいけてしまうので、調子付いてさらに深くいってしまう事でも有名なダンジョンだ。
油断や慢心をしてしまう冒険者を狩るダンジョンとまで言われている。
冒険者に、冒険は付き物。
ただしそれは無茶な冒険ではいけない。
多少の無理をして、生きて帰って来られる冒険をしないといけない。
冒険者とは、無茶と無理の境目で生きていくのだ。
その絶妙な判断能力を養えないと冒険者として成長する事はないのである。
そして、今回。
ダンジョンの2層で事件が起きた。
新人冒険者たちが最も多くいると言われる階層が2層。
初めて挑戦する者でも、2層レベルのモンスターでは調子付いて長く居座ってしまうからだ。
出てくるモンスターはスライム。ビッツ。コボルト。エンダーの四種。
スライムは、初心者が最初に対戦すべき、お馴染みのモンスター。ここでのスライムは通常色は、緑。場所や強さで色が変わって登場する。
ビッツは、ラビット系モンスターの初級クラス。素早さに気をつければ、防御力はほぼないので簡単に倒せる。
コボルトは、ゴブリンの小型系でパワーが弱めだ。お鍋のふたでも、敵の攻撃がこちらに貫通する事はない。
エンダーは、蝙蝠型のモンスターで弱い事には弱いのだが、的が小さいために、初心者帯の実力で倒すのがやや難しい。武器命中率が必須となるから、弓や短剣などの命中率が必要な武器を持つ時は要注意だ。
これらのモンスターは雑魚中の雑魚の部類。冒険者じゃなくても、普通の村人でも倒せるくらいのレベル帯である。
だがしかし、今回出現したワームは、Aランク帯のモンスター。
一級冒険者じゃなければ倒すことが困難なレベルとなる。
だとすると、現在五級がメインである彼らでは、太刀打ちどころか、この場にいてはいけない実力差となる。
だから、彼は、ただちに逃げねばならなかったのだ。
◇
ワーム出現時。
階層にいた新人冒険者は、40名。
各々が受けたクエスト攻略を目指して、素材集めの任務やモンスター討伐の任務をこなしていた。
そんな中で、敵を最初に発見したのは、鉱物採取クエストの屑鉄を掘る作業をしていたアルトリーという青年である。
手で採取するよりも多くのものを得ようとして、『カツン』とピッケルを振り下ろした時に、カタカタっと揺れた。
自分が降ろしたピッケルにしては、ずいぶん揺れるなと、暢気な事を考えている間に、揺れが激しくなってきたので、慌てて屑鉄から離れて、洞窟でも比較的広い場所に出て安全を確保しに行くと、そこの近くの地面の硬い地盤が、緩い砂に変わっていった。
足を取られてバランスを崩していた所に、目の前に大きな口が出てきて、巨大なモンスターを見た。
よく見ると、ミミズのような肉体で、最初アルトリーは、呆気に取られてしまい、上手く脳がそのモンスターを認識できず、その場でぼうっと立ってしまった。
そして、次の瞬間。
『ウヤアアアアア ウヤアアアア ウヤアアア』
モンスターの威嚇の雄叫びが三回鳴る。
恐ろしさで足がすくみそうになったが、ここですくんでいては、命の保証はない。
彼は、自分では絶対に倒せない敵だと一瞬で悟り、真っ先に逃げることを選択した。
悲鳴をあげながら、出口を目指して走り続けることとなる。
すると、彼の行動というか、彼の悲痛な叫びが、たちまち冒険者たちに伝わった。
声だけでも必死なのに、実際に彼を見たら、周りは慌てふためく。
そして、一人の青年の必死の形相での逃走劇が広まると、彼と同じようにして彼らもまた必死に逃げ惑う事になってしまった。
ノール洞窟は、初心者帯でも、ダンジョン内で迷わないような構造をしていて、広い洞窟内が枝分かれになっていても、最終的にはどの道も次の階までいける簡単な作りだった。
だが、それが裏目に出た。
どこに行っても、どこにでも進めるので、アルトリーが逃げた先がパニックとなった。
こうなると、このパニック具合が、全体に波及していく事となり、2階層の冒険者らは、阿鼻叫喚の大混乱状態となったのだ。
◇
パニック状態になったノール洞窟2層。
この中で唯一。現状を落ち着いて確認できた中級冒険者たちがいた。
それが、ロクサーヌで一番の冒険者クラン『獅子一人』だった。
団長であるレオが戸惑う。
「な、何が起こってるんだ? この騒ぎは何だ?」
洞窟15層からの冒険帰りで、団長を中心にクラン行動を取っていた。
3層から2層へ移動した直後から、至る所から悲鳴が聞こえてくるから違和感だらけだった。
「団長」
「ネルフィ、なんだ? 事情が分かったのか」
先行部隊を指揮していた美しき副団長『ネルフィ』が本部隊に戻って来た。
団長に報告する。
「ワームが出没したようです。新人たちが慌てています」
「・・・わ、ワームだって!? 馬鹿な。そんな大物がここに?」
団長が驚くと、周りの子らもヒソヒソ話になる。
「うそ。ワーム?」
「信じられない。何が起こってるのでしょう」
「イレギュラーかな。だってワームなんて」
「ここに出没しないもんね」
団員たちも大小さまざまな反応をした。
「ワームなんて、この洞窟では、どんなに潜ろうとも出てこないはず」
ダンジョンの座学を取り入れて、事前に頭の中に叩きこんでいるレオは、ノール洞窟には、ワームが出てこないと知っていた。
でも、ここより西。
アルフレッド大陸の西の砂漠地帯になら、ワームは出没するはずだ。
知識もだいぶ蓄え始めた団長レオである。
「ですが、出ているようなんです」
「そんなわけが・・・いや、それよりも新人たちはどうなったんだ。ネルフィ」
「死傷者はわかりませんが、とにかく逃げてますね」
「助けよう。彼らでは太刀打ちできないはずだ」
冒険者になりたての子らで、Aランクを相手するなんて不可能。
むしろ、その場にいるだけでも偉い!
レオは先輩らしく、後輩たちを守ろうと必死だった。
「でも団長」
レオの後ろにいたミリマリが聞く。
「私たちも無理では?」
「そんな事は・・・ある!」
「え?」
そんな事はないじゃないの。
ミリマリも、団員たちも思った。
「でも俺は、ここで逃げない。皆を助けるのさ。だって俺は、これから勇者になるんだからな!」
レオのジョブは勇者見習い。
順当に成長できれば、勇者へと成れる。
今はまだその器を持っているだけで、階段を上がっている段階だ。
それでも彼は勇気をもって、皆の為にワームに挑む気であった。
「・・・わかりました。団長。いきましょう」
「「「私たちも!」」」
こうして、勇気ある者『団長レオ』を中心に獅子一人は、ワームに挑んだのである。
◇
金髪の鬣が靡く。
団長レオが、皆に指示を出す。
「最初に誘導をしよう。幹部以外は、慌てている子たちを上に逃がせ。新人たちをとにかく上にあげるんだ。頼んだぞ」
「「「はい団長」」」
ロクサーヌの新人冒険者たちを救う。
素晴らしい指示だった。
彼の指示に、返事をした声が黄色い。
「「「きゃあ。カッコいい」」」
女性陣の声を無視して、レオは立ち向かう。
「ミリマリ。君は俺に防御魔法を三重にかけてくれ」
「はい。団長。『リグルフィールダ』」
青い目の少女ミリマリは、団長に防御魔法を厳重にかける。
これにより、ワームの攻撃に耐えようとした。
「ルノー。君は、奴に攻撃魔法を。コリス。君は弓で。ファナ。君は・・・」
団長レオが告げる名が、全て女性。
そうお気づきかもしれないが、こちらの冒険者クラン。
獅子一人は、クラン名がそのままの意味である。
そうなのだ。
レオ以外の団員が女性というハーレムを帝国を築いているのだ。
男性の敵とも言える一国家だ・・・。
冒険者パーティー。
冒険者クラン。
双方に所属していない。
特に男一人で冒険している者の妬みは凄まじい。
彼を見かけた際は、冷たい目をすると良い。舌打ちをすると尚良い。
という格言まで、ロクサーヌの町にはあるのだ。
まあ、なんて言ったって、この冒険者クランの女性たちは、全員美人ばかりだから、恨まれるのは仕方ない。
なんて羨ましいんだ。って言葉は誰も口には出さないよ。
だって、悲しくなるからね。
自分との差で、虚しくなるからね。
でも皆思っているから大丈夫だ。
レオは○○だと。
各々が思っているから大丈夫だ。
君たちは正常な思考をしているのだ!
という冗談はさておいて、レオが指揮を執る。
「俺が行く。注意は俺が引くから、君たちは援護を!」
「「「はい!」」」
黄色い声援を背にたくさん浴びて、レオはワームに立ち向かう。
女が無数で男が一人。
ここが男の腕の見せ所だ。
ワームの等級はAで、対してレオの冒険者ランクは、三級冒険者。
本来レオが退治できるレベルはCランク相当の魔物だ。
だから戦う前から、レオの負けが確定している。
でも、それでも、レオは立ち向かった。
自分の力が及ばないことを理解しても、人々を守るために勇気で前に出ているのである!
なんて話は嘘だらけだ。
本当の所は、自分のクランの女性たちに、自分のカッコいい所を見せようと思っている。
要はスケベ心で頑張っているのだ!
でも、他は逃げまどっているだけなので、ワームを前にして頑張れているレオは偉いのである。
スケベ心だけじゃなく、勇気もあるのだ。
「おおおおおおおおおおおおおおお」
雄叫びは倒しそうだけど、それだけでは実力差を覆せない。
ワームは甘くないのである。
地面に潜る速度が速く、レオの一撃は空振りに終わる。しかしそれで終わってくればよかったが、ワームはもう一度地面から出現して、レオを飲み込むようにして攻撃を仕掛けてきた。
「「「レオ団長!!!」」」
黄色い声が一斉に心配の声に変化した。
「大丈夫だ! 君たち。これくらいの事・・・俺は・・・大丈夫さ! 大丈夫・・だ、大丈夫!」
という強がりを言うレオは、本当は心が折れそうである。
ワームの口を閉じさせないために必死に抵抗しているが、『ぐぐぐっ』と少しずつ口が閉じているのが分かる。
ここで食べられてしまうかもという泣きそうな顔だけは彼女らに見せられない。
見栄っ張りの極まりがレオなのだ。
彼の限界の様子に気付いたのは、腹心である副団長のネルフィ。
レオを心配して叫びそうになると、クランにはいない男性が隣に立った。
「ああ。ああ。レオ君も女の子たちが見てるからって、ランクも違うのに頑張っちゃってさ」
飲み込まれそうなレオを見守る男性は愚痴愚痴言いだした。
「う~ん。にしてもよろしくないね。おじさんは、こんな時でも苦言を言っちゃうよ。女の子がたくさんで、男の子一人! まったくけしからん。ハーレムってのは体の毒なんだよ。そんで周りの人には目の毒なんだよ・・ああ、まったく羨ましいね。まったくねえ」
泣き顔のネルフィは、のんびりしたおじさんの本音と建て前が聞けたのだった。




