第5話 本当の気持ちが分からない
「マスター。こちらに来てください。大変です」
リリアナが、ロクサーヌのギルド会館受付場で騒いだ。
彼女がそんなに大声をあげない人間だから、二人としても慌て始める。
「何かあったな。いくぞシオン」
「ええそうね。急ぎましょう」
激しい言い合いや喧嘩をしても、結局二人は、緊急事態にあれば協力関係になる。
二人一緒に、職員の部屋から出て、受付の方に回った。
◇
「どうした。リリちゃん」
クロウは話を聞きながら、倒れている人間の様子を窺う。
顔色が良くなっていくのが見えるので一安心だ。命に別状はないだろう。
「マスター。この人、怪我が凄くて・・・回復が追い付かないです」
と言っても、その傷口は徐々に回復している事は間違いない。
血は完全に止まっていた。
回復魔法は、魔法の中でも、群を抜いて難しい魔法だ。
扱える者も少ないので、それを上手にこなせるだけでも、リリアナはとても優秀だった。
「でも回復させてるね。リリちゃん流石だね」
リリアナのジョブは、神官。
人を癒す力を持つのに、ギルド職員である事が珍しい。
彼女の職場がギルドであるのが、少々勿体ない気もするが、彼女は訳があってクロウの元にいる。
「マスター。この人が倒れる前に緊急事態をお知らせしてくれたんです。ダンジョンにモンスターが出現した! って言ってました」
「それは出現するよね。ダンジョンだから!」
ダンジョンにモンスターがいなかったら、そりゃ大変だ。
そこがダンジョンじゃ無くなるわ。
クロウだけじゃなくて、この場にいる誰しもが思った。
「そ、そうじゃなくて、ノール洞窟にAランクのワームが出たそうです」
それだったら、先に本題を言え。
誰もが思った事だ。
「は? ワーム? あんなものが、あそこに? 嘘だろ。あそこは、深く潜らなければ、敵なんて大したことない。ここらの町人だって、超田舎の村人にだって倒せるレベルの雑魚ばっかだぞ」
ノール洞窟は、新人冒険者でも楽勝なダンジョンである。
「はい。それも浅い階層に出現したらしいです」
「えええ???」
浅い階層にワーム?
クロウが首を傾げていると、気を失っていた冒険者が目覚めた。
「ほ、本当です。ま、マスター。ワームが突如出現して・・・皆が逃げまどっています。新人しかいない状況ですので、中は悲惨な状況に・・・至急応援を・・・救援をおねが・・・」
「本当かよ」
冒険者が気絶しかける。
そこを見てリリアナが回復を急いだ。
「ねえ。クロウ。あなたが行ってきなさいよ」
「え。俺が?」
シオンの言葉にクロウが言い返した。
「あそこに出たのがAよ。Aなんて、ここらの子じゃ、誰も太刀打ちなんて出来ないのよ。あなた、行ってきなさいよ。強いんだから」
「いや、俺よりもお前の方がいいだろ」
「なんで」
「新人たちなら、お前の方が安心するはずだ。お前、元特級冒険者だぞ。現れただけで、安心だ。俺が行ったら安心なんてしねえわ」
特級冒険者。
この肩書きは、冒険者なら誰もが憧れる肩書きだろう。
5級から始まり3級が通常階級。
そこから2級と1級が上級階級。
そしてさらに上が、特別階級の準特級と特級である。
7段階の評価の最高峰が特級だ。
なので、特級になれる人間は極僅かである。
ほんの一握りの人間だけがなれる階級となっているので、元がついていても、憧れの対象となるのは間違いない。
シオンが、救援に適任だと言うのも間違いではない。
クロウは、自分が面倒だからという観点で物を言っているだけじゃないのだ。
「ギルドマスターなのよ。働きなさいよ。朝の分を帳消しにしてあげるから!」
「えええ。いや、それでもお前がいけよ」
「どうしてそんなに嫌がるのよ。あなた、強いんだから、行きなさいって!」
「だってよ・・・・」
「何が、だってよなの!」
倒れている人を気にかけて、皆が集まっている状況の中で、二人の言い合いが激しくなっていった。
「俺、金ないんだぜ。ここで戦っても金が入らねえんだわ。俺・・・対価がほしいわ。お給料プラスにならない?」
「は? そんな理由で行かない気なの!? 馬鹿言わないで頂戴」
全くそうだと周りの人間たちが頷いた。
「さっさと行ってきなさい! 行かなかったら、縄付けて仕事してもらうわよ。いいえ。明日から、鎖で縛って働かせるからね」
「・・・・んん。それはやだな。しょうがねえ。行ってくるか」
ブツブツ言いながら、クロウはノール洞窟へと向かった。
◇
冒険者のだいぶ顔色が良くなっているが、傷が深いために時間が掛かっていた。
リリアナは回復させている中で、シオンに気になる事を聞いた。
「シオンさん。マスターって強いんですか?」
「たぶんね。リリは、あの人が戦ったところ。見た事がないの?」
「はい。ないです。でも、見たことも聞いたこともない魔法を行使したのは、一度だけ見た事があります」
「へえ。そうなんだ・・フランは?」
リリアナから初出し情報を聞いたシオンはフランにも聞いてみた。
「僕はあります」
「そうなんだ」
「はい。マスターはとんでもないくらいに強いです。間違いないです。おそらく世界でも上位ではないかと思います。真面目であれば、世界最強クラスの人だと、僕は思っています」
「だよね。あの人、とっても強いもんね。やたらと実力を隠したがるけど、なんでだろうね」
「ええ。不思議な人ですよね。マスターは」
能ある鷹は爪を隠す。
それを実行しているのか!
それとも・・・・。
「ただの馬鹿なのかもね。理由なんてなくて、力を出したくないだけなのかもね」
シオンは微笑んだが、フランは真面目に答える。
「ええ、そうかもしれませんし。そうじゃないのかもしれません。全てはクロウさんの気持ち次第となりますね。その実力を見せるか見せないかは気分でしょうね・・・いつものように」
フランの最後の言葉は、普段の棘のあるような言い方じゃなく、どこか優し気な言い方だった。
シオンもそこに気付いていたが、彼が走っていくその後ろ姿を見つめて、新人冒険者たちを救うのだろうと信じて待つこととした。




