第34話 冒険者シオン
トリカル魔法学園を首席で卒業したシオンは、冒険者登録をトリカル本部で済ませた。
優秀な人物が、冒険者になったとギルド内では噂になり、冒険者ファミリー、クラン、双方が彼女の入団を狙っていた。
うちに来てくれないか。
その誘いは、毎日のように来て。
「結構です」
と断っても、彼女の有望さから諦めきれないと、引くことを知らない冒険者たちが何度も訪れる事となる。
そして・・・。
◇
ギルド会館の休憩室にいたら、見知らぬ女性に声を掛けられた。
「あなた。うちのクランの入団テストに来てみない。実力を試す意味でさ」
「入団テストですか?」
そんな事をするクランは聞いたことが無い。
応募しても、面接で終わるのが、大体のクランがやることだ。
それなのに、入団テストがあるクランがあるなんて。
シオンは逆に興味が沸いた。
「ええ。明後日、今年の入団テストをするのよ。よかったら来てね。うちは、書類応募とか推薦じゃないから、来た人を審査するだけなの。場所はトリカルの西地区ね。中央区じゃないから気を付けてね。そこの船着き場にいるから」
「わかりました。ありがとうございました」
「じゃあね」
と言ってた人はまた別の人にも声を掛けていた。
だからシオンを狙っていたのではなく、全体に口頭で知らせているらしい。
誰でもよかったという事がシオンが興味を持つこととなった。
有望な新人だと今まで言われてきたけど、一体自分はどこまで有望なのか。
それが分からないから、試してみようと思ったのだ。
周りに同じくらいの人がいるのなら、そこで自分の立ち位置が分かるはずだと。
◇
入団テストをする冒険者ファミリーの名は巷でも有名な『時の行方』だった。
団長アールハイト・シュバイツァー。
黄金騎士と呼ばれる特級冒険者を筆頭に。
副団長エドナ・ホーフェン。
参謀タタラ・ミュラー。
A班班長テルマ・クライン。
B班班長オルトマン・ベルガー。
彼らによって名声を得ていた冒険者クランだ。
大陸でも一二を争うだろう実力集団が、大型入団テストを行い。
入団希望者たちを選抜する。
「入団テストをするぜ~。担当はオルトマンだ。適当に頼む」
やる気のない声で、適当な物言い。
シオンは若干怒りかけていたが、これ以上気にしないようにして、感情が出ないで置いた。
「時の行方のテストは、まず筆記だ。これだ。二十分で終わりだ。紙はここ。今からだ!」
「「「「「え?!」」」」
入団者もこれにはビックリ。
皆に紙が渡ってからじゃないのか。
慌てて紙を取ろうと前に出て行った。
シオンは。
「なによ。これ? 入れる気があるの?」
ぶつぶつ呟いていると、周りにいる人の中で、目が違う人物がいた。
受験者の中に、冒険者がいる。それも熟練の。
シオンは肌感覚で、この試験には何かあると思っていた。
始まりから一分後。
ようやく紙を受け取る事が出来たシオンは問題を見る。
最初。解くことはせずに、全てに目を通す。
これは、シオンの問題の解き方の癖のようなもので、トリカル魔法学園時代も同じやり方をしていた。
「あれ?・・・なにこれ?」
このテスト問題が、二十分で終わるような問題の量じゃなく、しかも後ろに行けば行くほど簡単な問題だった。
最後の問題など、1+1=2くらいに、簡単な問題だ。
「まさか。これって」
本来の意図は注意力を見る事。
難しい問題から簡単な問題を用意して、大量の問題があるから、最初から問題を解く人を落とす問題だとシオンは思った。
冒険者は、道を選ぶのが基本。
簡単な道、険しい道。
双方の道を進むのに状況判断をしないといけない時が来る。
だから、今がまさに、答えられるところから答えていく時。
冒険であるならば、体力を温存しながら、進む時だ。
「面白い。これを考えた人って誰だろう。あの人じゃないな。馬鹿っぽいもん」
試験官の男性じゃない。
誰がこんな事をと、シオンはそう思いながら、高速で回答できる部分から、一気に仕上げることとした。
◇
筆記の次は実技。
対戦形式で、魔法使いは魔法同士。
近接は近接同士で戦う事となる。
シオンは魔法使いなので、魔法勝負をする事となった。
覚えた魔法で勝負をすると、実力差が分かりにくいので、基礎魔法のみで勝負をする。
基礎魔法とは、六種の魔法の事。
火。水。土。風。光。闇。
これらの魔法で、自分が戦える魔法で、相手と戦うのだ。
シオンは全種出来るので、対戦相手が六人となる。
その戦う前にエルフの女性がやってきた。
知り合いでもないが、若干親しげだった。
「あなたは・・・まさか、こちらに来てくれたのですか」
「え? あたしを知って?」
「ええ。私の名はエドナ・ホーフェンです。トリカル魔法学園に通っていた者です」
「エドナ・ホーフェン・・・え!? あのまさか・・『賢者の跡継ぎ』エドナ」
大賢者の弟子だと称されるくらいに、トリカル魔法学園の卒業生の中でも、一二を争う秀才だ。
シオンとほぼ同じ立場である。
「はい。そう呼ばれていたりしましたね」
「まさかエドナ様がこのクランに?」
「ええ。そうです。副団長をしています。あなたはなぜこちらに?」
「あたしは・・・腕試しにです」
正直な話。それ以外の理由がない。
自分とはどういった者なのか。それを知りたかっただけだ。
「なるほど。でもそれでもいいでしょう。切磋琢磨するに、このクランは役に立つ。ハイレベルですよ。ここは」
「そうみたいですね。周りにいる人たちが、強いです」
「周り?」
「ええ。あそこと、あそこと・・・あの人もかな」
シオンの目は、受験者に向かっていた。
試験官よりも、こちらを見ている機会が多いので、あれらも既に団員ではないかと予想していた。
「・・・そうですね。先生があなたを褒めていたのも分かります」
「はい?」
「ジュリス様が目をかけている子がいると言っていたので、それがあなただとすぐにわかりますね。うん。優秀過ぎます」
「ジュリス様が!?」
「ええ。嬉しそうにおっしゃっていたので、あなたの優秀さに喜んでおられたのでしょう」
「嬉しいです。ジュリス様はあまり褒めてくれることがないので」
「そうでしたか。でもそれは私もなんですよ。あの方は、滅多に人を褒めません。基本的に、先生という方のお話するときだけ、嬉しそうです」
「あ。私も思っていました。エドナ様。先生という人はどんな人なんでしょう。聖人なんでしょうか」
「話を聞くにそんな感じですよね」
「はい! あたしにはそう聞こえてました」
「ええ。あ、始まるようです。私は控えるので、あなたは頑張って」
「はい!」
先生の先生とは。
この話題で盛り上がるとは思わなかった。
この人ともう少し話したい。
クラン活動に興味が無かったシオンは、彼女と出会ったことで、このクランに入りたいとだんだん思えてきたのである。
◇
魔法の押し合い。
それが試験だった。
魔力で六種の属性のどれかを出して、基礎状態で、相手の魔法とぶつけ合う。
己の陣地にまで魔法が移動してしまえば負けというシンプルな戦いだった。
学校でも活用する基礎訓練から発展した勝負だ。
元はジュリスが師と訓練していた時のものらしい。
彼女が全力を出しても、大賢者には全敗だったとの噂がある。
その大賢者を打ち負かす師とは・・。
さらに強いのか。
この謎はトリカル魔法学園の生徒でもわからない。
在校生でも卒業生でも皆等しく分からないのである。
六種の試験で、全て勝ったシオンは、エドナに呼び出された。
「シオン」
「はい」
「入団出来るのは確定でしょう。筆記など見ずとも、あの結果だけでもおそらくはね」
「そうなんですか」
「はい。そうですよ。それであなた、うちに入りますか?」
「え?」
「入らないなら、出て行った方が良い。あまりよろしくないでしょうから」
合格したのに、うちに入らない。
その噂が周りに伝われば、ここにいると白い目を向けられるかも。
トリカルを離れて、どこか別な場所にしばらく移動するといいでしょう。
せめて一年後の入団テストくらいの期間どこかにいればほとぼりが冷める。
有名なクランであるから、こういう事は起こりやすいのだ。
シオンを気遣った発言に聞こえた。
「・・・あたしは、エドナ様と一緒に冒険者をやってみたいです。入れるなら入りたい」
「私ですか!? 団長じゃなく」
「え。そ、そうですね。その方を知りませんし、あたしは大先輩のエドナ様と一緒が・・・」
上目遣いで申し訳なさそうにシオンが言った。
自分の言葉を相手に伝えるのは珍しいので、シオンとしては勇気をもって発言したのだ。
「ふっ。そうですか。いいですよ。私があなたを持ちましょう。出来る限り配慮します」
「本当ですか! ありがとうございます。あたし、頑張ります」
「ええ。頑張りましょうね」
こうしてシオンは伝説に近づいたクラン『時の行方』に入団したのである。
光陰のシオンと呼ばれるまでの成長は一瞬であったと言われる・・。




