第32話 戦うギルド職員
「何故だ。なぜここまで戦える?」
魔族の男の疑問は、フランの粘りから。
二分を経過しても、人間を倒しきれなかった戸惑いがある。
圧倒的な力の差があっても、倒れずに立ち向かってくるのに、少しだけ畏怖していた。
「ええ。僕って、そんな簡単に倒れないんですよ。あなたのような強い方と戦ってもね」
「軽口まで叩けるとは」
心が強い奴なのか。
魔族の男は、観察するようにフランを見た。
「ふぅ。でも強いのはそちらの様でしてね。そこはしょうがないですかね」
「!? 当り前だ。私は魔人族でしかも貴族だぞ。人間などにやられるものか」
「へえ。そちらに貴族という身分があるのか」
フランは、僅かな休息を取るつもりだった。
呼吸を整えつつ、会話を広げる。
「当然だ。支配をするという事は、階級が無ければならん」
「それもそうでしょうね」
「お。話が分かる人間か。珍しいな」
貴族社会のど真ん中にいたフランではそちらの考えも理解できる。
だが本音の部分は嫌いだ。それでも、休憩を上手く利用したいがために駆け引きを続けた。
「ええ。僕もそっち側の人間でしたからね。いちおう!」
「ほう。貴族だったのか貴様」
「元ですけどね。その名を捨てましたから、元ですよ」
「身分を捨てるとは、もったいない。いや、馬鹿だったか。上に立つ身分を捨てるなど、おかしいだろう」
「ええ。勿体ないには勿体ないですが、僕にはそれよりも大切な身分がありますから、そちらを優先しただけです」
「どんな身分だ。少し気になるな」
貴族よりも良い身分が気になる男は、攻撃の手を止めて聞いていた。
フランの狙い通りに、そこで休憩となっている。
「ええ。僕は彼の弟子であるという地位を守りました! 貴族などよりもうんと良い身分です!」
会話の最中で、チラッと奥を見たフランは、シオンの姿を目で捉える。
もうすぐで決着が着きそうだったので、ここから自分の動きを全力に切り替えた。
戦いは白熱していく。
◇
フランに少しの時間をもらえたシオン。
魔族がいなければ、戦いに集中できる。
ガーゴイルの群れに一撃ファイアボムを食らわせて注意を引きつけた。
群れがバラバラに一般人を襲うと面倒だから、彼女は自分にヘイトを持って来させてから戦いに望んでいた。
ファイアーボールを撃ちながら、敵の攻撃を躱す。
その躱す動作も風魔法で移動しながらなので、二個同時に魔法を展開していた。
そしてさらに、彼女は大型魔法を出すために、体内に魔力を溜め込んでいた。
つまり、戦いながら、三つの展開を同時に行っていたのである。
さすがは、元特級冒険者。
魔法に関して、天才中の天才であった。
「ああ。うるさいわね。ちょこまかちょこまか。イライラするわ。ガーゴイル!」
気が散る。目の端でもその姿がチカチカ映っていて、イライラしていた。
「いくわよ。イーザレイ!」
ガーゴイルたちが飛んでいるよりも高い位置に光の球が出現。
大きな太陽の様に、丸い巨大な球から、光線が飛び出していく。
それらの光の軌道は、全てガーゴイルのコアを目指した。
「ぐぎゃああ」「わあああ」「ぬおおおお」
消滅していくガーゴイルを見てから、シオンは視線をフランに戻した。
まだ戦ってくれている。
時間が掛かったのに彼は見事な時間稼ぎをしてくれていた。
「ん? まずい。あれは・・」
◇
「弾けたな。死ね。人間」
敵の殴りによってガードが壊された。
両手の闘気付きのガードで、身を固めていたのに、見るも無残に破壊される。
ついに、無防備な姿を晒すこととなった。
「ええ。弾けましたよ。わざとね」
「なに!?」
魔族の男の攻撃は、既に出ている。
右拳を真っ直ぐフランに向けて、体勢的には全体重をかけているので、防御の意識が薄くなっていた。
「僕は、賭博師だ。駆け引きの手は、ほぼ見せない。手札は常に揃えているのが良い。そう師が教えてくれたものなのでね。こんな事も出来ます」
ここまでフランが行ってきた攻撃は、拳のみ。
上半身を上手く使った攻撃であったので、まさかの下半身が来るとは敵も思わない。
目線だって下を向ける必要がないくらいに上だけを攻撃してきた。
なので、ここでフランは、会心の攻撃を行うために、足を伸ばす。
右足の先に全闘気を集中させて、相手の腹を目掛けて、蹴り上げる。
これは、自分の防御も疎かになるくらいに、諸刃の攻撃だった。
ただそこも計算済みだ。
「賭博師のスキル。一か八か!」
一か八か。
賭けに出た時に勝率を上げるスキル。
分が悪ければ悪い程、パワーアップする特殊スキルだ。
今は完全に分が悪い。
フランの方が圧倒的に弱いから、このスキルが刺さる。
「ぐはっ。なに!?」
痛みが来る攻撃をもらう?
敵は自分の腹に痛みが走った事に驚き、心身共に衝撃をもらった気分だった。
ここで、体勢を立て直すために、距離を取る。
「ふぅ。ダメか」
フランの考えとしては、もう少し痛がってくれると成功だった。
「ん? 痣? 人間の攻撃で出来るとは・・・まさかだな」
お腹に痣が出来た程度の攻撃だった。
打ち身くらいではフランの賭けは成功とは限らない。
イメージでは、内臓破裂だったのだ。
それくらいのダメージを残そうと必死に蹴り上げたのだが・・・。
「フラン。離れて! あたしがやる。巻き込まれるわよ」
シオンの声が聞こえて、フランは咄嗟に距離を取った。
魔族から離れるとすぐに風魔法が来た。
「ウインドラッシュ!」
嵐のような風が敵を襲った。
でも、敵はその風に向かって手をかざすだけで、何もしなかった。
「うるさい風だ。ふん!」
猛烈だった風が、敵の手に当たると消滅。
魔力の違いで、魔法が消滅となった。
「「な!?」」
二人で驚く。
「まさか・・・魔力同調・・・それだけで魔法を相殺?」
魔法相殺。
これは魔法同士が当たって、互角だった時に起きる現象。
双方が消滅する。
魔力同調。
これは魔法に対して同量の魔力を流し込むことで相殺する現象。
だから、魔法相殺よりも遥かに難易度が高い技である。
滅多に起きない現象だ。
「し、シオンさん。やっぱりこれは・・・本物ですよね」
フランがシオンのそばにまで移動してきて、敵の確認を取った。
「ええ。本物だと思うわ。あたしの魔法が、全く意味ないなんて・・・」
「遠近で、余計だな。一人潰すか」
敵がそう言った直後。
フランの前に現れる。
あまりの速さに反応がしきれない。
「面倒だ。貴様は死んでおけ。は!」
「フラン!」
シオンの叫びも虚しく、フランが吹き飛んだ。
そばにあった住宅の壁を突き抜けて、フランは更に奥にまで突き進む。
あの威力ではおそらく助からない。
今すぐ生死を確かめたいが・・・。
冒険者として場数を踏んでいるシオンは、悔しい思いを押し殺して敵と対峙する。
「さて、武闘派はわかった。どれ、魔法使いはどの程度だ。人間の基準を知るべきだな」
「あ。あなた。魔族なのね」
人間の世界の基準?
この言い方は人間じゃない。
シオンは咄嗟の判断で聞いた。でも恐怖があったので、声が震えていた。
「私は魔族ではない」
「え?」
「魔人族だ」
「魔人族?」
「そうだ。魔を司る。これが我らだ。人間よ! 消え去れ」
「ま、まずい。ファイアボム!」
「遅い!」
魔力の塊が飛んできた。
ただなんの魔法かが分からない。
見たことのない白い球がシオンを襲う。
これに対抗するため、シオンはファイアボムで連続着弾させる。
「間に合ってよ!」
9個目にして、敵の魔法が消滅。
シオンのMPも、かなり消費されてきた。
効率化がされているシオンの魔法。
MPの量だってシオンは冒険者の中でも上位だ。
それでも、一度の戦闘でこれだけの魔法を放つことはないので、消費量が半端なかった。
「ふぅ。強い。強すぎる」
「人間はこの程度とみていいか」
「あんたね。だんだん腹立って来たわ!」
相手の言い分が最初から見下しが入ってる。
そこに腹が立つシオンは意地っ張りだ。
元来の負けず嫌いが発動する。
「完全に全部でいく。マックスの攻撃よ。これでやる!」
シオンが両手を前に出した。
発射の構えをして、彼女はオリジナルを出す。
「アクシオンキャノン!」
光陰のシオン。
この名を冠する彼女の得意魔法は光と闇。
その中で強く出せるのは闇。
敵を深淵に導く闇魔法を前面に出して、サポートとして光を添える。
アクシオンキャノンは、闇の光線に光を混ぜて発射される融合魔法だ。
オリジナル魔法なので、他の魔法使いは使えない。
シオン専用の魔法となっている。
「なに!? これは・・・さすがに駄目か」
魔力同調では相殺できない。
その判断をした魔人族の男は、退避しようと空に飛んだ。
魔法を途中で軌道変更など不可能だと判断したのだ。
だが。
「甘い! 追尾ありよ」
「ん? まさか。そんな器用な事を人間が!?」
高威力の魔法を曲げるのは珍しい。
しかも人間のレベルでやってのけるとは、魔人族の男は空を飛びながら驚いた。
「光が誘導すれば、闇みたいな強引な魔法でも曲げられるのよ」
「ほう。面白い解釈だ。これで押し込む!」
魔人族の男が、アクシオンキャノンを迎え撃った。
彼が飛んだ辺りが爆発する。
大きな音を立てて、煙を生じているので、何が起こったのか分からない。
次第に晴れていく煙で、結果が見えた。
「全力で攻撃したのに、あれで無理なの・・・ピンピンしてるわね」
シオンが見た先で、魔人族の男は悠々と飛んでいた。
「少しは痛かったな。吹き飛ばした男と同様だ。中々強いな。貴様も」
「・・・そう? お褒めに預かり光栄ね」
「ふん。強がりだな。これで終わるか。魔法使い」
ダークボール。
空を飛ぶ魔人族の男の上に、巨大な闇の球が出現。
高密度で巨大。
あれが落ちたら、ここら一帯は・・・。
シオンは、絶体絶命だと思った。
敵わない悔しさと命が消えかける絶望で、精神的にも追い詰められていく・・・。




