第31話 本当のフランと偽のフラン
決勝戦の前。
ここまで勝ち上がってきた二人がリングの中央に立つ。
「兄とは呼ばないぞ。フラン」
「それでどうぞ」
決勝戦は、弟との戦いだった。
高圧的な父、傲慢な母。
双方の悪い所を得た男性。それがルックだった。
「ふん。いつまで余裕の態度でいけるか。魔法学園を卒業した私に勝てるとでも思ってるのか」
「・・・・余裕ではありません。緊張していますよ。ここまで来ているのでね」
絶対に勝つ。
そう信じて訓練もして、ここまで戦ってきたが、まさか自分が決勝の舞台に立つとは思わなかった。
ここまで勝ち上がるような実力が着くとは、自身でも自分を信じ切れていなかった。
しかし、クロウの頭の中では、この光景が描かれていた。
観客からの喝采を浴びることで、フランの今後の人生の自信に繋がる。
それは、自分の元でギルド職員となる人生だけじゃなく、兄と一緒に国に残る決断をしても、この先を生きていける自信となればいいと、クロウはここまで考えていたのだ。
まあ、それを知らないフランは一生懸命、師と共に頑張ってきただけだと感じている。
「殊勝な事だな。貴様が私と戦えることなんてないんだ。この機会に感謝しろ。魔法が使えない出来損ないの愚図が!」
「ええ。そうですよね。魔法は使えませんね・・・でも、これが最後です」
「最後?・・・」
あなたの顔を見るのも、今日が最後だろう。
フランは、この弟の姿を目に焼き付けておいた。
「それでは開始するので、準備を」
アナウンスが流れ、二人は戦闘用意。
魔法を出す前にルックは前へと出る。
フランが戦ってきた敵が、全部遠距離で決着を付けようとしたために、近距離戦に持っていこうとしたらしい。
不慣れな突撃が見える。
「なるほど。クロウさんの言う通りか」
その行動は事前に教えてもらえたとおりの行動だった。
◇
「フラン君。戦いって読み合いがあるんだよ。特に人と人の戦いではね」
「それはそうですよね」
当然かなって思ったフラン。クロウの話は続く。
「特に実力差を覆す時は、その読みが必須だ。その読みを深堀するにはどうしたらいいと思う」
「それは・・・相手の癖とかですか」
「それもありだ」
「それも?」
「ああ。相手を観察した結果。相手の嫌がる所を突く。これも正解だ」
「なるほど。ですが、『も』とはなんですか?」
「俺はね。パターン読みってのが良いと思う。特に君の場合ね」
「パターン読みですか。それはどういった・・・」
クロウはフランの性格から、戦い方を教えていた。
「君に授けた攻撃方法。それと君の戦闘スタイル。これらはいずれもパターン化している。そういう風に俺も指導した。そこで、その中で最も相手を嵌めやすいパターンを作っていくのさ。それを教えておこう」
「はい」
「それがさ! これだよ」
授けられた作戦とは・・・。
◇
珍しくフランが微笑む。
師の教え通りに動く敵が面白可笑しかった。
「あなたは、僕に負けますよ。全ては師のお見通しという事だ」
今までとは違う動きのフラン。
足を動かさず、全闘気を右拳に集中させて、正拳突きをした。
しかし、それが当たる事はない。それは観客すらも思う。
なぜなら、ルックはまだまだ遠い位置にいるのだ。
数十メートルも離れている。
彼の腕がビョインと伸びない限り、その攻撃は空振りに終わるだけだ。
「フハハハ。馬鹿かが。私に恐れて、気でも狂ったのだな。愚図は、どこにいようとも愚図だ」
「ええ。あなたもね」
「なに?」
フランの必殺技が唸る。
「烈風!」
闘気を一点に集中させることで、物理的に空気を押し出す技。
圧縮空気弾。
それが、烈風だ。
こちらに向かって走行中のルックのお腹に烈風が当たると、そのまま彼は九の字に体を折り曲げながら、リング外にまで吹き飛んだ。
その防御方法ではただただ攻撃をもらい続けるしかない。
「な!? なにが・・・なにがあああああああ」
ルックは、起こったんだとも言えずに、壁に叩きつけられて気絶した。
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
勝利のアナウンスの前に観客から歓声が沸いた。
「今年の武闘大会。優勝者は、フラン・アランポーカーだ!!!」
ドンと花火が撃ちあがり、そこから更に花火が続けざまに鳴る。
しかし、次からの花火の音は聞こえなかった。
観客の声が大きすぎて、他の音が全く聞こえない。
「僕の勝ち? いやいや、違うか。ふっ。全部、クロウさんのおかげですよね」
リングの中央で、天を見上げたフランが、貴賓席の方に顔を向けて、勝利を噛み締めて言った。
◇
勝利後。最初に思い出されるのは作戦だった。
「次の戦いね。君は全部近距離で戦おう。相手は魔法を駆使して遠距離から来る。それを捌いて、相手と距離を詰めて殴り倒す。基本の路線をこれにしよう」
「え。いや、ほとんどが魔法使いが相手なんですよ。僕が不利なのでは?」
「そうだよ。でも君なら戦える。でもこれは駆け引きの一つだ。これも賭博師の特性に合ってる」
「・・・わかりました」
フランの顔が、ちょっと不満そうなので、クロウは教えることにした。
「いいかい。君は武闘大会で、賭博師で登録するけどね。その戦いぶりだと、大体武闘家だと思われるはずなんだ」
「そうですね。武器が拳ですからね」
「そう。そこが第一のポイントだ。皆、その拳を喰らいたくなくて、遠距離で無傷で倒したいと思うはず」
「なるほど」
人の心として、痛みの伴う攻防をするよりかは、リスクなしの攻撃に出るのがセオリーなはず。
クロウはそれを逆手に取ろうとした。
「そして、第二のポイントが、まあまあ強い者がそこに気付く。距離が遠い戦闘をしては、フラン君には一生勝てないってね。だから、相手はフラン君の勝利パターンを乱そうとするのさ。勝機は逆に近づいてこそじゃないかと思わせるのよ」
「そ、そうか・・・あらかじめパターンを構築する。そういうことですか。クロウさん」
フランは、クロウの作戦を理解した。
「そうそうそう。そうなんだよ。君の性分ならそっちが合う。絶対にね」
「なるほど。いくつものパターンをあらかじめ作っておいて、いざ本番でもそのパターンの選択をしていくんですね。ん、まさか。自分がカードを切るってことか? あれ、ポーカーなどで、勉強とは!? まさか、クロウさん。手札選択の勉強だったんですか?」
遊びじゃない。
全部が勉強だった。
クロウには無駄がない。
「そうだよ。さすが。君は、優秀だね。ここまで気付いてくれるか。君は頭の部分。ここは、ダリちゃんたちよりも凄いかもな。君」
「なるほど。では、次の特訓はそのパターンで最も難しい。遠距離攻撃を覚えるんですね」
クロウがニヤリと笑った。
全て理解しているとして、満足げなのだ。
「そう。相手が突っ込んで来るなら、逆にチャンス。こちらが近距離しか戦えないと思ってるはずだからさ。敵が逆に近づいてくるときは、遠距離が無いもんだと思って無防備に近い形なのさ。攻撃が来ないと思ってるからこそ、こっちから全力を叩きこむのさ」
クロウはその技を教えるために闘気を集中させた。
「ここからが闘気の真骨頂だ。魔法と同じくして、使いようのあるのが、闘気なんだよ。現代の子たちはこっちの使い方が甘い。だから、君が強くなるのさ。闘気の有用性を知る者としてね」
「わかりました。頑張ります」
「うん。これで勝利を掴もう」
クロウの考えた通りの結末で、修行も大会も終わったのである。
◇
大喝采の会場。
一部が静かになると、段々と静かになっていった。
エルリや王太子のライドも貴賓席から下に降りて、フランを労おうすると、それよりも先にリングの端から走り出した男がいた。
「イカサマだ。ズルをしたな。貴様なぞに私の息子が負けるはずがない」
エンダーが怒って出てきた。
自分の子が、出来損ないに負けるはずがないと駄々をこね始めた。
「優勝は取り消しだ。こんな戦い。無効だ。無効」
宰相の権限で無効を主張。白ける現場を無視して、国にとって無益な男は叫び散らかした。
「貴様。ズルをしたな。フラン。いい加減にしろ」
「いいえ。僕は、ちゃんと倒しましたよ。ですが、ズルをしたら、あそこまで吹き飛ばす事は誰にでも出来るでしょうね」
「ほらそうだ。貴様が・・・」
「ですが、そのズルい攻撃をもらったくらいで、気絶までいきますか? 騙し打ち程度で気絶した。そうなったらルックが間抜けだったという事になるのでは?」
これは、相手の発言を逆手に取った発言。
クロウ仕込みのやり口だ。
「き。貴様!」
エンダーはついにフランの胸ぐらを掴んだ。
小声になる。
「負けろ。ルックに恥をかかせるな」
「それはどうやってです。すでにこの状況こそが恥では?」
「いいから負けろ。我がアランポーカー家に泥を塗るな」
「いいえ。あなたが今まさに泥を塗っているようなものです」
家の評判を貶めているのは、僕じゃない。
あなたの方だ。
フランは父親に負けなかった。
「貴様。二度とこの地を踏めぬようにしてやるぞ。裏で指名手配をして、決してやる」
「ええ。お好きにどうぞ。僕はもう二度とこの地を踏まないでしょうから」
「なに?」
「ええ、それは・・・ん。え、クロウさん?」
フランが対抗しようとすると、隣におじさんがやってきた。
「せっかくのフラン君の勝利をさ。お前、水差すなよ。ボケ」
クロウが珍しく怒った顔をしていた。
エンダーの肩を掴んで、放り投げる。
グルグル回って、外にまで吹き飛ぶのかと思いきや、途中で宙に浮いた。
逆さ吊りの状態で、頭に血が上りそうだ。
「な。ななにが。私の体が」
「おい屑。俺は、どんな人間がどんな事をしようが、かなり我慢できるタイプの人間だ。かつて、色々あったからさ。結構耐えられる。それに、人間っておもろいからな。悪でも善でも面白さがある。だから、我慢できる!」
クロウの怒りが、隣にいるフランにも伝わった。
彼の感情が伝わるのは珍しい事だった。
「ただ、俺は我慢ならねえことがあるんだわ。そいつは、俺が技を教えた子たちが傷ついた時だ。それだけは許さん。誰かがダリちゃんたちを傷つけたら殺す。出来る限りの不殺の誓いに反しても、そう思ってる」
弟子たちを傷つけたら黙っちゃいない宣言だった。
「いいか。お前が、フラン君の親でも関係ねえ。この国の宰相だろうが関係ねえ。いい加減にしろ。屑が」
クロウが右手をかざすと、エンダーがゆっくり上に動いていった。
どんどん地面から離れていく。
「自分の代わりに世界を守れ。師匠から託された俺は、世界の管理者としての仕事を全うしている。そこで、極力、人を殺すという事はしないように誓っているんだが。俺はここでお前を殺してもいい。フラン君に謝らないなら、このまま地面に落とす」
と言ったクロウは、エンダーの位置をちょっとした高さなどではなく、天空にまで上げていった。
「ま。ままま。待て。お、降ろすな。死んでしまう」
「だから、殺すぞって、俺は言ったぞ。守護する管理を一時放棄とな」
「待て。何を言ってるか、わからんが。やめろ」
「欲しい言葉はそれじゃない! 死ね!」
クロウが、上空からその真下に向かって、エンダーを落とす。硬い地面に猛烈な勢いで落ちたら、顔からぐしゃっとなって、死ぬのは確定だった。
恐怖に駆られたエンダーが心の底から叫ぶ。
「すまない。謝る。謝るから、降ろしてくれ・・止めてくれええええ」
地面スレスレで動きが止まった。
もうすぐで鼻がぺしゃんこだった。
「おし。今の聞いたぜ。本心だろうからな。んじゃ。今の記憶を消すぞ。想いは消さんから、安心してくれよ」
「ん!?」
「すまんね。皆。俺の話は一部内緒なんでね。記憶障害」
クロウ付近から光りが放たれて、巨大な柱が上空に上がり、そこから霧散して小さな光が降りていく。
小粒の光が、観客たちやフランたちの体に付着すると、会場中の人々の記憶に障害が発生。
先程のエンダーがフランに詰め寄った所あたりの記憶からとなった。
ただし、想いが残っているので。
「・・・申し訳ない。すまない。私が悪かった。手間を取らせた。すまない」
ぺこぺこ謝る宰相が完成した。
呆気にとられたのはフランとエルリの二人。
父が謝るなど、生涯を通じても見た事がなかった。
「だろ。あんたもその気持ちを持ち続けろよ。いいな」
「わかりました。申し訳ありません。下がります」
クロウを見ると震えが止まらない。
そうエンダーには恐怖の想いだけが残っているから、逃げるように去るしかないのだ。
「うんうん。これでいいな。んじゃ、聞くよ」
クロウはフランに聞いた。
「どうする。俺の所に来る? それとも、この国で頑張るかな?」
「ええ。もちろん」
答えが曖昧に聞こえるからクロウはどっちだろうという顔をした。
「あなたの所に行きますよ。僕はもっとあなたと共にいたいですからね」
フランが笑ってくれたので、クロウは笑顔になった。
「そうか。じゃあ、決別宣言して、お兄さんとライちゃんに置き土産をするわ。君が出て行くからさ。君も不安なくロクサーヌに来たいじゃん。まかせといて」
「わかりました」
クロウが、会場の音を支配する。
魔力音声と呼ばれる。
魔力を使って声を拡張する技だ。
戦闘には、まったく無意味な技なので、誰も覚えない技である。
「ここで優勝したフラン君! こんなに優秀なのに、さっきの馬鹿宰相のせいで、監視生活みたいな感じだったのよ。可哀想だろ。こんなに強いのにさ。魔法が使えねえだけで、役立たずのレッテルだってよ」
ざわついていた観客たちが、話を聞き始めた。
「これさ。あんたらも同じじゃね? ほら、ここはさ。階級社会じゃん。相変わらずよ。いつまで経っても貴族様が一番でさ。実力主義じゃねえじゃん。まあ、実力主義が一概に全部正しいとは言えないけど、ただ、正当な評価は欲しいじゃんかよ。今のフラン君みたいに実力で勝ち取ったら、皆から賞賛されるって評価さ」
魔法が使えないってだけで、レッテルを張られて、今まで日の目を見なかった。
それはよろしくない。
そこはこの一般人たちにだって共感できることだった。
「だからさ。立ち上がるべきじゃね。皆でさ。俺たちもこの子みたいに評価を得たいってさ。普通のちゃんとした評価をもらえるようにだよ。貴族だから上乗せされるって奴じゃない。一般人だから、こいつの評価はしないとかじゃない。その人がちゃんと仕事したから評価されるって形なんだわ。目指すべき形はね。貴族社会が嫌だとかじゃなくてさ。まずはそういう部分から目指してもいいんじゃない。君たちはさ」
クロウは最後に声を掛けた。
「そうだろ。この子みたいに、頑張った分だけ評価される国家さ! それを目指す人たちは必ず出てくるんだ。だから、その時になったら、共に立ち上がりなよ。頑張れよ、みんな。この子みたいに出来るからさ」
フランを紹介したクロウは、王子たちがいずれ出てくるから頑張れと言った。
すると、歓声があがる。
割れんばかりの声が、この国が生まれ変わるきっかけの声となるのだ。
これにて、難しい立場であった改革派の強さが増す。
ライドとエルリの二人によって・・・。
その裏では、クロウの功績が輝いているのだが、それを自慢する男でもないので、功績は全て改革派が握る事となるのだ。
歴史の大きな唸りの時にクロウあり。
ただし、その歴史の一ページにはクロウの影すら無し。
大陸の大いなる変革の時。
そこに必ずいるはずの男は、なぜか歴史の闇に消えているのであった。
辺境のギルドマスタークロウは、世界の影に存在する。
◇
そして、月日が少しだけ経ち。
フランがギルドで初仕事をする時。
クロウは最初に会話をしていた。
「フラン君」
「はい。クロウさん」
「クロウさんをやめよう」
「え? なぜです」
「マスターにしようか」
「あ。それはそうですね」
これは自分が間違えていた。
フランはすぐに反省した。
「そして、ここで俺の事をマスターと呼ぶ君は、フランだ」
「それはそうですけど・・・」
「違う。ギルド職員のフランだ! 端的に言うとさ、別人になってくれない?」
「別人ですか?」
「うん。もっとそうだな・・・俺に厳しくいこう。冷徹な感じで役を演じてくれ」
「え。な、なぜです?」
「仕事モードって感じがするから!」
これが冗談だと気付いているフランは真剣な表情のまま聞く。
「クロウさん。それで、その本当の意味は?」
「む。君は・・騙せんか」
「ええ。もちろん。長く一緒にいてくれましたからね」
出来る限り共にいてくれたので、クロウの大体の動き方を掴めるようになったフランだった。
「まず、君のためもある。人を騙す。この場合は欺くだな。今あそこで仕事しているシオンを騙してくれ。今後も、入って来てくれる職員もだね」
「どうしてそんな事をするんですか。どんな意味があるんですか?」
「それはさ。君の為だ。君のスキルポイントの為でもある」
「え、ポイントの為ですか?」
「ああ。ギャンブラーって、人を騙している時にポイントが増えやすい。それも複数だとかなりになる」
「そうなんですね。知りませんでした」
「うん。それで、とっておきの技を習得して欲しくてね。ポイントを溜めておいて欲しいんだよね。すんげえ技だからさ。必要ポイントがめちゃくちゃ高くてさ。どんどん集めないといけないんだよ」
皆を騙す理由があった。
「なるほど・・・ああ、それで新天地なら人を騙しやすいという事ですね」
地元であれば難しいが、新たな場所では真の性格を隠すことが出来る。
「そうそう! 君は説明いらずの子だな。相変わらずさ」
「いえいえ・・・わかりました、やりましょう。辛辣な人になりましょうか」
「そうだね。君とは正反対だからな。他の人も気付かないだろうね」
「はい。ではマスター。あそこから始めますよ」
「うん。そうしようって。げ、やば!?」
「え? どうしました?」
フランが新たな自分を演じようと意気込んだ瞬間、急にクロウが慌てた。
そんな事は珍しいので、クロウをよく観察すると、クロウの視線はギルド会館にあった。
だからフランも会館を見る。
すると、一人の綺麗な女性が鬼の形相で走って来た。
「クロウ!!!! あんた。今来たの! 二か月もどこに行ってたのよ。信じられない。あんた。マスターなのよ! ふざけんじゃないわよ!」
「いや、俺。仕事してたから。マジで」
「どこがよ。ギルドにいなかったじゃない! マスターはギルドで仕事するもんでしょ。それにね。そもそもマスターがギルドにいないってどういうことよ!」
それはそうである。
「いなかったのは出張だよ。出張! つうか止まれって、そんな怒んなって」
「出張? そんなのあるわけないでしょ。いい。商売だってね。店を始めたばかりの時に出張なんてないでしょ。もしあったら、そんな店。どんな店なのよ!!!」
シオンが止まる気がないので、ここでクロウが逃げる。
「メデル王国に出張だったの。マジで。仕事だから」
「メデル? それって北の大国じゃない。そんなの休暇でしょ! 始まってすぐ・・・じゃないや。始まる前から、いきなり長期休暇って、ふざけんじゃないわよ。あたしは一人でね。辺境で仕事してたんだからね! 酷いわ!」
それもそうである。
「まあまあ。そこは待っててくれよ。って、魔法はやめろ。お前の魔法は、あいつらよりも強いんだからよ」
「止まれ! 止まれば撃たないわよ。クロウおおおおおおおおお!!! 死に晒せえ」
「いでえええええええ。止める気がねえじゃん。殺す気じゃんかぁ」
「おりゃああああ。まだまだ、喰らえ!」
「うわあああああ。やめろって。シオン!」
メデル王国の選手たちよりも、遥かに強いシオンの魔法。
あそこにいるのが、自分だったら、死んでるな。
フランは、魔法を当てられ続けるクロウを見て思ったのである。
こうして、とんでもない所に来たと思ったフラン。
辺境での仕事始まりから濃い時間を過ごしたので、ここから前途多難の道のりを歩むのだろうと思ったが、今までの辛さに比べれば屁でもなかった。
そして、今まで辺境のギルドで働いて、嫌だと思ったことは一度もなかったのだ。
それは心の底から信頼するマスター。
辺境のギルドマスタークロウがそばにいたからだった。




