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第3話 日常

 「いや、危なかった。捕まったらボロ雑巾コースだったわ」


 町の中に姿を溶け込ませたクロウは、ぶらぶらと歩いていた。

 行き交う人々に。


 「よ。どもども」

 

 と挨拶をしていく。


 時々お店の人にも話しかけていく。

 ここは八百屋。

 全てが新鮮な野菜たち。

 さすがは田舎町だ。

 様々な野菜を栽培しているし、生鮮食品には定評があるけど、この町は、新鮮な食品を出荷しない。

 だが、美味しい食材が多いので、王都の人間が買い付けに来ることもあるのだ。


 「あ。おっちゃん。この間の野菜。おいしかったよ。ありがとね」


 人参とキャベツを貰ったのを思い出した。

 クロウは人当たりがよく、意外と人望もあったりするので、町民からの貰い物が多い。


 「本当かい。じゃあ、また持っていってよ。まだまだおいしいのがあるからさ」

 「ほんと! 食べ物なかったから助かるわ。ありがとね。おっちゃん、お仕事頑張ってね」

 「マスターも仕事頑張んなよ。シオンさんに怒られないようにしないとな」

 「いやいや、あいつが怒り過ぎなんよ。俺が仕事してるのを見てないんだよ。おっちゃん。俺、こう見えても、結構仕事してんだよ」

 「へえ、そうだったのかい?」


 八百屋の親父も、クロウの発言をあまり信用していなかった。


 「でも頑張んなよ。怒られないようにさ」

 「うん。そうするわ。おっちゃん。じゃあね」

 

 と今日も頑張ってないのに、いつも応援はされるクロウである。

 それと、シオンにいつも怒られている事に気付かれているのもセットだ。

 皆、意外と普段のマスターの生活を見ているのである。



 八百屋を通り過ぎた後。


 「ん?」


 歩いている途中。

 困った顔をした女性が右往左往しながら、辺りを見ているのが見えた。


 「どうしました。そこのご婦人」


 女性に優しい紳士。

 それが辺境のギルドマスタークロウである。

 丁寧なお辞儀から、カッコつけた声が出た。

 

 「あ・・・マスターさん! う、うちの子がいなくなっちゃって。行方不明に・・・」

 「え、行方不明!? このくらいの町で?」


 町で行方不明なんて、滅多に起きない。

 もし起こったら大問題だ。

 何かの間違いじゃないかと再度聞く。


 「えええっと。まあ、迷子ですよね?」

 「かもしれません」


 どっちでも結局結果は同じである。

 いなくなったことに変わりない。

 

 「最後に見たのがここですか?」

 

 クロウが今いる地面を指差した。

 

 「はい。一度家に戻って、こちらに戻って・・・」

 「なるほど。家に戻ったと思ったんですね」

 

 ご婦人が頷く。

 どうやらここが見失いポイントのようだ。


 「そうですか。それなら探せるか」

 「あの~・・・本当はギルドにでもクエストととしてお願いしようかと思ったんですが・・・マスターさんにお聞きするのもおかしい話ですが、息子を探せたりしますか? お金は出しますので、出来ますか」

 「ええ。もちろん。出来ますね。でもご婦人。お金なんていらないっすよ。俺が今から探しますから」

 「え? そ、そんな」

 「それよりご婦人。お子さんの私物を持ってます?」


 なんでそんなものが、息子を探し出すのに必要?

 女性は戸惑いながら、木のブロックを取り出した。

 クロウが受け取る。

 

 「おもちゃか・・・これに残ってるといいな。何らかの気持ちがさ」


 人差し指と親指でブロックを挟んで、じっくり眺める。

 

 「よし。思いの追跡(ストーカーウォーク)だ」


 クロウが持ったブロックから、黄色の輝きが出てきた。


 「うんうん。これを持ってる時。君は楽しいんだな!」

 

 黄色の輝きは、楽しい感情の表れ。

 遊んでいる時の楽しさから、光は導き出される。


 「追跡開始だ。進め」


 黄色の輝きが小さな靴に変わる。そこから歩き出した。


 「ん? お子さん、結構大きいんですか? 7歳くらい?」


 クロウは靴のサイズから年齢を言った。


 「は、はい。そうなんです。急にいなくなるにはおかしな年齢でして」

 「たしかに、7歳くらいなら、急にはいなくならないか・・・お家にだって、自分で帰れそうだしな」


 お母さんに一言くらい言える年齢だからこそ、買い物途中で、勝手に移動する年齢でもない。

 これほど、彼女が不安に思うのも仕方ないかと、クロウは一刻も早く探してあげようと軽く走り出した。

 女性が自分について来られる範囲で走り出す。


 「えっと。路地裏に行って、商店街通りを抜けて、また路地裏? どういうルートだ。これ?」


 この子はさっきからここら辺をグルグル回っている。

 というよりも、迷っているというより、走り回って遊んでるのか?

 クロウは考えを整理するために、周りを見た。

 だが、子供が遊ぶような場所じゃない。

 路地裏ルートだと、日の当たらない暗い部分が多い。

 

 「ん? 別に場所に向かったけど。ここで止まったな」


 クロウが顔を上げた。


 「ここは・・・」


 追跡の最終結果。

 ここに子供がいると予想された場所は、公園だった。

 

 「い。いた。いました。うちの子がいました。マスターさん」

 「おお、よかったね」


 クロウと会話していたお母さんは、息子を呼ぶ。


 「ノリア!」

 「あ、お母さんだ」


 ノリアと呼ばれた男の子は、公園にいる子供たちと遊んでいた。

 お母さんは、子供に向かって、走って近寄り、怒り出す前に抱きしめた。

 

 「どうしていなくなったの。お母さん心配したでしょ」

 「え? いなくなってないよ。友達と遊んでたんだ」


 ああ、やっぱり。

 クロウは親子の会話を聞いて、先程の周回の答え合わせが出来た。


 「お買い物、お母さんと一緒に出掛けたでしょ」

 「・・・うん」

 「今もその途中なのよ」

 「で、でも・・・」


 お友達と遊びたかったから途中で抜け出してしまった。

 実に子供らしい行動だった。

 でも、クロウが窘める。


 「おい坊主。これこれ、お母さんがたくさん心配したんだぞ。まず謝りな」

 「・・あ、マスターさんだ」

 「いいか。まず謝りな」

 「うん」


 ノリアがお母さんに謝る。

  

 「ごめんなさいお母さん」

 「ええ、無事だったから許すわ」


 お母さんは許した。

 しかし、クロウが前に出る。


 「いいか坊主。今度からは、お母さんにちゃんと言うんだ」

 「なにを?」

 「友達と遊びに行ってきますってな。ちゃんと言えば、お母さんだって、ここまで心配しないんだぞ」

 「そうなの」


 ノリアはクロウからお母さんに目線を移した。


 「そうよ。言ってくれれば、いつでも遊んでいいの」

 「じゃあ、遊びたい。まだ始まったばっかりだもん」 

 「そ、そうなのね」


 ワンパクさに手を焼いている様子の母だった。


 「よし。坊主。今度からは絶対に言うんだぞ。おじさんとの約束だ」

 「うん。マスターとの約束ね」

 「ああ。良い子だな」

 

 ノリアはクロウと指切りげんまんをした。


 「そうよね。ちゃんと言うのが大切よね。自分が行く場所をね!!」


 クロウの背後から声が聞こえた。

 いつもの声は、冷淡で冷酷だ。


 「げ!? なんで、お前がここに?」

 「あたしの勘が、クロウはここにいるって囁いたの」

 「ホラーじゃねえか。その勘!」

 「そんなんなんでもいいの。いい加減にしなさい! あなたも、あたしに出かける先を言いなさいよ。この子のように素直に言いなさいよ!」

 「俺は大人だぞ! 誰に言わんでもしっかりしてるから大丈夫だ。迷子になんかならねえ」


 道に迷わないのは良いが、仕事を迷ってもらっても困る。

 シオンの怒りが1プラスされた。


 「あなたのどこが大人よ! どうしていい大人が仕事をサボってるのよ」

 「サボってはいねえ。この子を見つける大事な仕事をしていたのさ。ふっ。ちゃんと見てろよな。シオン。俺の仕事ぶりをさ」


 カッコつけているのが更に腹が立つ。

 シオンの怒りが2プラスされた。


 「それはあんたの仕事じゃない。良い事をしただけ」


 ごもっともである。


 「いいクロウ。今までの所業は忘れないでよ。リリとフランの仕事を少しでも手伝いなさいよ!」


 正論である。


 「俺は・・・・あれだよ。町内調査って奴をしたんだ。皆に声かけて、元気かどうかを聞いてた」

 「そんなの町長の仕事でしょ。あんたは、ギルドの仕事をしなきゃならないの。もう、つべこべ言わずにこっちに来なさいよ」


 シオンがクロウの耳を引っ張った。


 「うわ、ついに捕まっちまった!?」

 「いくわよ」

 「助けてぇえええ。そこの少年・少女たち」


 子供たちに助けを求めたが、全員目を逸らした。

 なぜなら、シオンの鋭い眼光に恐れ戦いたからである。


 「嘘だろ。人助けしたのに!?」

 「あんたは、あたしたちも助けなさいよ。ちゃんと仕事をする事でね!!」

 「くそおおお。捕まっちまったぜ。逃走失敗だ!」

 「逃げてたんじゃない! この」

 「いでえ。殴んなよ」

 「黙って来なさい!」


 二人のやりとりの終わりがけにノリアが手を振った。

 クロウを見送ると同時に声も掛ける。

 

 「マスターもぉ。今度どこか行く時は、お姉さんにお知らせした方がいいんじゃないの!」

 「坊主。それは駄目なのよ。こいつはね。行き先を教えたって恐ろしい顔で追いかけてくるのさ。君の優しいお母さんのように、一生懸命探してくれないんだよ。まったく違うんだよ。これはよく覚えておきな。社会には、とても恐ろしい人間がいるのさ。気を付けろ。坊主。美人も怒れば鬼だからな」


 余計な会話をしてしまったクロウである。


 「なんですって。このぐーたらマスター!」

 「ぐべ!?」


 思いっきり頭を叩かれる情けないクロウであったとさ。

 めでたしめでたし。

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