第29話 前哨戦
クロウの指導が終わり、本番当日。
武闘大会に出る事となったフランは、選手控室で父親と会う事になった。
アランポーカー家の代表は、弟ルックだった。
「貴様がなぜ神聖な大会に。あれが仕組んだのか。エルリが!」
我が子を見る目じゃない。
フランはそう思いながら淡々としていた。
父の威圧を無視する。
「いいえ。自分が出たいと言いました」
「貴様如きがだと!? いったい何を考えているんだ。あの王太子は!」
王太子は政治体制の革命派。アランポーカー家は王政の現状維持派だ。
敵対意識が強くなるのは仕方ないのだが、この家族は分断されている。
これもおかしな話だ。
何の因果か、エルリとフランが革命派にいて、アランポーカーとは真っ向から敵対しているのだ。
「貴様。ルックの邪魔をするな。戦う機会が生じたら、棄権しろ」
「・・・・・」
「返事は!」
「・・・・・」
無言で対抗するには分が悪い。
発言をしようとすると、隣におじさんがやってきた。
「いやいや。君。こんな所でうるさいね。控室だよここ。それに試合前に脅しに来たの? そこまでして勝ちたいの? 肝っ玉が小さい奴だね。ドンと構えてられねえの? あんた、たった一人自分の手元に残ってくれた息子を信用しないのか?」
試合前から相手を脅して優位に持っていこうとする。
そういう考えかと思っておじさんは話を聞いた。
「だ、誰だ」
フランの隣に、アランポーカーの家では見たことのない男性がやってきた。
飄々としている。
「俺? この子の指導者だよ。だから選手控室に入れんだわ」
「指導者だと。この出来損ないの?」
「出来損ない? いやいや、むっちゃ強いよ。あんた、この子と戦わせたくないから、脅しに来たの?」
「なんだと、私が、この程度の男を脅すなどありえない。私の子が必ず勝つからな」
我が子が勝つ。そこを疑いもしない。
でも、話し相手も我が子なのだ。愛情の欠片も感じない。
「じゃあ、来んなよ。あんたうっさいのよ。声が大きくてさ! 周りの子らが集中してんのに。邪魔だよ! ここから消えときな。あんた勝手に人から恨まれちまうよ」
周りの人間たちは、こちらを見ていた。
フランの父の声がうるさい為に、試合前の集中の邪魔になっているからだ。
「な!? わ、私は、この国の重鎮だぞ。私に命令するな」
「は? ここで重鎮なんて関係ねえわ。ここは武闘大会。自分が強い。この言葉を求める大会だ。自分よりも強い奴がいるのか。自分の強さを確かめる場所でもあるんだぞ。重鎮とか意味ねえわ」
まだ文句があるので、クロウは続ける。
「それによ。お前みたいな奴は、貴族の闘争力を試す機会だと思ってるみたいだけどな。こっちは、そんなん関係なく、最初っから戦う気満々で、集中してんだよ。邪魔すんなボケ」
「な!?」
「ここは強さだ! 権力じゃねえ」
「・・・ぬ」
クロウの言葉には力がある。
周りの選手たちも、彼の言葉を受けてやる気が増した。
大声のやり取りで、結果としたらクロウの声も邪魔だったのだが、彼らはフランの父を睨んでいった。
「あんた。名前なんだ? 誰だ? 俺と知り合いだっけ。俺、重要な奴しか覚えられねえからさ。知り合ってたら、すまん!」
失礼発言だが、正直発言なので、仕方ない。
「こっちだって貴様など知らん。だが、こ奴の指導者なのに、私を知らんのはおかしいぞ。どいう頭をしてるんだ。貴様は」
相手も対抗してきた。
そちらも子供の言い分のようなものである。
「そんなん知らんもん!」
「私は、エンダーだ! 知らない方がおかしい」
「へえ。そうなんだ。って知らんけど」
「この国にいて、エンダー・アランポーカーを知らんのか。聞いたこともないのか」
「うん」
「なに!?」
「アランポーカーだったら、婿に来たビスタしか知らんぞ」
「だ、誰だそいつは! こっちが知らんぞ」
「そうか。お互い様だな」
お互い様かどうかは知らないが、言い合いは互角になる。
「私はこの国の宰相だぞ」
「それがどうした?」
本当に関係ない。
クロウはこの国の出身ではない。
「そ、その態度、改めないなら罰するぞ。貴様ぁ」
「俺はこの子を頼まれたからここに来たんだぞ。そんな事言うなら、ぶっ潰すぞ。家ごとよ。この子とあの子の為ならそっちが良さそうだしな」
エルリとフランの為なら、アランポーカーの家を破壊してもいい。それも物理的に破壊してもい。
二人の人生に、アランポーカーという家が邪魔なような気がしているクロウ。気に入った人の為なら動くタイプの人間なので、無茶苦茶をしそうである。
「私の家をだと。笑わせる。王家の次とまで言われたアランポーカーの家をか。潰せるものなら、潰してみろ」
売り言葉が買い言葉になって返って来た。
子供の喧嘩のようになってくる。
「あのな。アランポーカーってさ」
そんなに大層な家じゃねえぞ。
という言葉は言わない。そばにフランがいるから気を遣っていた。
「ん? な、なんだ?」
「面白い演技派な奴から、偉くなって始まっていった家なんだぜ」
「なに」
「あいつ、魔法使いじゃねえのに、魔法使いのフリしてさ。奥さんが代わりに魔法を使ってさ。超演技派の奴なの。めっちゃ笑える奴だったわ。面白い奴だったな。あんたと違ってさ・・・ああ、そういや、フィエルちゃんって優秀だったな。今でいうとシオンくらいは強かったな」
「何を言ってるんだ。貴様は? フィエル?」
「あんたさ。自分の家の家系図くらい辿っておけよ。ご先祖様のどっかにいるからさ」
「!?」
「そんじゃ。うっさい声でキンキン叫ぶな。部屋から出ていけ。俺の機嫌がまだいい内にな」
「貴様・・・貴様の機嫌で、私がうご・・・」
くわけがない。
と言いたかったのに、途中から声が出せなくなった。
クロウが薄っすら出した闘気を、エンダーの全身に当てていく。
「黙れ」
「・・・・・」
「去れ」
「・・・・・」
顔を強張らせて、エンダーは無言で控室から出て行った。
「クロウさん。今のは・・・」
「あれは、恐慌状態だね」
「恐慌?」
「うん。恐れって言う状態異常だ。俺の闘気の量を肌で感じてさ。おしっこ、チビッたんだよ」
「え。チビッた?」
「うん。人間もお犬さんも、ビビったらチビるのさ」
「そ、そうなんですか」
「ああ。だからさ、今の闘気を学んでおいてくれよ」
「相手を脅すためにですか」
今のを見たら、誰だってそう思う。
「違う違う。あれは特殊さ。俺の闘気量が馬鹿デカいから出来る事だから。いいかい、闘気だけであれが出来るのは中々いないから気にしないでね。まあ、今の時代だと、ダリちゃんくらいしかできないから。フラン君はどっちかというと、自分の身を守るために使った方がいいよ」
「その言い方で身を守るとは、防御の為とかではなくですね?」
闘気は、攻撃力に使用するだけじゃない。
全体の強化も行える。
だから、相手の攻撃から守る際。
身を守る時にも使える。
自分の防御力に加算できるのだ。
でもこれは以前にクロウから教わっているので、発言の意味が別にあるとフランは質問していた。
「そう。闘気があると、状態異常になりにくい。勇者見習いのスキルに近いかな。そことほぼ同じ働きをするんだ。だから便利なんだよ」
「なるほど。それはたしかに便利ですね」
「うん。敵との実力に差があっても効果が残るから、闘気って学んでおいた方がいいんだ」
「わかりました。頑張ります」
「ああ。君なら大丈夫さ。俺がつべこべ言わなくても、君は勝手に頑張るしね」
クロウが微笑んでくれて、フランは安心した。
大会前の緊張感に飲まれそうだったフラン。
ちょうどクロウが来てくれて、緊張感が程よい形に収まったのである。
「んじゃ! 俺、アドバイスしないから。観客席で見てるよ」
「え。そばにいてくれるわけじゃないんですね」
「ああ」
コーチ又は関係者が試合の時に脇にいてもいいルールがあった。
だから、選手控室には、それらの人がいた。
クロウがいるのも、コーチであるからだ。
「え。僕だけかな」
周りの人はいそうなのに。
フランは、また一人かと思った。
「俺は、君が一人でやれると思ってる。それに、君の力だけで、周りにその実力を見せつけて欲しい。ここらにいる君を馬鹿にしていた連中にさ。真の実力って奴をね!」
「・・・・はい! その為に頑張りました」
「うんうん。そうだよね。じゃ、俺は応援してるよ。おじさんは、上にいるからね」
「わかりました。ありがとうございます。クロウさん」
「ああ。じゃあね~」
クロウが部屋から出て行った。
「僕が一人でか・・・今までも一人だったし」
一人には慣れている。
でも今は。
「でも、今は一人じゃない」
クロウがそばにいる。
フランは、師を持ったのだと、自覚した事により、彼の勇気にそれらが加算された。
「勝ちます。クロウさん。あなたの指導のおかげだと、証明しますよ。僕!」
フランは戦いに臨んのである。




