第28話 気持ちを超えた先へ
「たしかこの子。職業が特殊だったよね」
手紙にそう書いてあった気がした。
クロウは、中身までは思い出せないので、エルリに聞いてみた。
「はいそうです」
「なんだっけ?」
「賭博師です」
「おお。すげえ珍しいわ」
クロウの口が丸く開く。
面白い存在だなと、興味が湧いている顔だった。
「・・・お恥ずかしいです」
自分のジョブに誇りを持てない。
魔法使いの一族だから、その他の職になってしまった事に、フランには後ろめたさがある。
「んな事ない。俺は面白いと思うね。フラン君さ」
「は、はい」
「君は基礎があるね」
「基礎ですか?」
「兵の訓練をしっかりやってるよね。君の肉体の感じが、そう見えるよ」
「あ。それはもちろんです。朝晩やっています」
「うん。そんな感じがするわ」
肉体のバランスが良い。
体の動かし方もキビキビしていて、メリハリがある。
「これは、すぐに強くなるよ。ライちゃん」
「はい。何でしょうか」
「メデルはさ。そろそろ武闘大会があるよね」
「ありますね。来月の中旬ですね」
「昔と変わらないなら、王家や貴族の代表者が、出る大会だよね」
「はい」
「それ、王太子のライちゃんの権利は、ライちゃんが出る感じでまとまってんの?」
「いいえ。エルリが・・・」
隣のエルリを見ると、静かに頷いた。
引き受けてくれると思っても、正式な打診をしていなかったから、ライドは不安げに聞いていた。
「エルリが出てくれるそうです」
「それさ。フラン君が出てもいい?」
「「え!?」」
ライドとエルリがほぼ同時に答えた。
「ライちゃんの代理人として、顔を売ろう! な、武闘大会の選手になろうよ!」
「それは、まずいのでは? クロウ殿。弟は魔法が・・・」
メデル王国は、武闘大会と言っても、ルールに魔法禁止が無い。
なので、魔法を使って戦っても良いとしている。
だから、近距離戦闘の者が、武闘大会を戦うのは大変危険なのだ。
この国は魔法が優れている者が組織の上位にいる。
だから、冒険者たちに肉弾戦が上手い人たちが集まった。
ロウなどはそういう立場の人間だ。
「そうだよ。使えないんだよね。手紙にあったから知ってるよ。当然さ」
クロウの答えと、ライドとエルリの意見が合致しない。
「で、ですから・・・弟には大会などで戦うのは・・・」
「無理だって? そう言いたいの」
クロウだって相手が言いたい事を理解している。
「大丈夫さ。エルリ君」
「はい?」
クロウの真剣な眼差しに、エルリは圧倒された。
「君より強いよ。この子」
「え?!」
「君は弟を過小評価してる」
「この俺がですか」
弟大好きな俺は、誰よりも評価してると思っていた。
でも、過小評価とは心外だ。
エルリは気付かぬうちに態度を顔に出していた。
「ありえない。俺は、弟は凄く優秀だと思って・・・」
「それは、魔法無しで考えてんだろ?」
「え?!」
「魔法というものを除外して、彼を評価したら、凄く優秀だという意味で、君はフラン君が優秀だって言ってんだろ」
「それは・・・そうですが・・・」
魔法という部分を除いて、弟は全てにおいて優秀。
それがエルリの評価だ。これはライドも同じである。
「違うぞ。エルリ君! フラン君は、魔法に負けないで戦える男だ。そこは君の弟を舐めないで欲しいね」
「え!? 負けない?」
「魔法がある世界の中でもこの子は強い。相当な力を秘めてる子だぞ。結局は、君たちもこの子を馬鹿にしてるな。魔法の世界にどっぷり浸かっている! 世界には、魔法だけが存在しているんじゃないぞ」
「ば、バカな・・・だ、だって・・・」
魔力もMPもない弟に、魔法込みの大会で勝つイメージが湧かない。
エルリは、やはり魔法を除いて考えているのだ。
「いいか。エルリ君。魔法なんてな。ただの遠距離攻撃だ。いわば、弓矢とかと一緒だ。当たらなければ、どうってことない。そう、当てなければ魔法は無駄なものなの。その当てるという点を工夫するかどうかが、魔法使いの腕の見せ所だ。その反対にだ。当てさせなきゃいいのさ。魔法使いを無効化にする動きをこっちが見せれば、それで終わりだ。そのいたちごっこが、永遠に続くのが・・・」
会話であるが、すでにクロウの指導が始まっていた。
「人類史の戦いって奴さ。戦士と魔法使いのね!」
妙に納得してしまった三人は、クロウの言葉を受け止めることが出来た。
先程の意見に反対しても、何故かクロウの言葉はすんなり入って来た。
「ぼ、僕がやってもいいんですか。強さの証明が出来る? 魔法が使えなくても?」
「おお。だから君はどうする。やる気があるなら、俺も本格的に教えるぜ」
クロウの声が、少し変わった。
柔らかい声から、キビキビとした声になる。
「・・・・勝ってみたいです。僕は、僕の力で魔法使いに・・・」
「いいね。いい顔だ。俺は好きだな。君のやる気!」
クロウのやる気スイッチも点火した。
「兄さん。王太子様。僕にチャンスをください! お願いします。やってみたいです」
「ふ、フラン!?」
弟が初めて何かをしたいと言った。
その嬉しさが内心にある兄に。
「フラン君。君は・・・そう来るのか!」
フランの本当の顔を見たと思った王太子ライドは、ここで覚悟する。
自分の代理を任せるとは、その結果が自分の結果となる事になる。
だからここで彼に託すとなると、その結果もその責任もライドの肩に全てのしかかるのだ。
改革派の名声にも響くかもしれない。
彼に任せるとは、かなりのリスクがあるのだ。
だが・・・。
そうここで、この決断をするライドという男は、器が大きい。
庶子でも王に相応しい漢であるのだ。
「わかりました。フラン君に代理をお願いします。クロウ殿。どうせだったら、物凄く強くしてあげてください。お願いします」
「まかせとけ。ビックリするくらいに強くしてやっからさ。二人とも、次会った時は、ビビんなよ」
クロウは、まずフランの強化を引き受けたのである。
―――――――
その後の流れは、フランの長期休暇が確定して、そこが大会に参加するための修行期間に当てられた。
その最初の修行の前。
フランを連れて、クロウは電話をしていた。
相手の声がフランにも聞こえる。
かなり怒っていた。
「ちょっとあんた。なんで帰ってこないの! ロクサーヌのギルド会館! ついに始まったのよ。あんたマスターでしょ。なんで、開幕にいないのよ!」
「まあまあ。大丈夫だって。始まったばっかじゃ、そんなにまだ人が来ねえだろ。冒険者たちも、そこにギルド会館がある事なんて知らねえって」
宣伝をあえてしなかったので、口コミで広まらない限りは、人が来るとは思えない。
クロウの読みだった。
「そういう問題じゃない! 示しがつかないでしょ。ギルド会館にマスターなしって!」
「大丈夫だって。お前の肩書きでバッチリよ」
マスターなしでも、元特級冒険者がいれば、信用問題は大丈夫だろう。
クロウの甘い見積もりである。
でも正しい見積もりでもあった。
実際に、シオンがいるからマスターがいなくても、ここを訪れた冒険者たちは不満に思っていない。
「ふざけないでよ。クロウ! 帰って来なさい」
怒りのボルテージは上がり続けていた。
「あのね。あたし一人だよ。たったの一人で仕事できるわけないじゃん。顧客4名同時なんてね。絶対に捌けないんだから。いい、手が足りないからね。あなた知ってる? 人間の手って、二つしかないの。四つもあったらそりゃビックリなんだよ。クロウ。いい加減に帰って来なさい! 言い訳しないで帰って来なさい。いい!」
子供に言うような言い方だった。
「悪い悪い。臨時を出すように手配したから、しばらくしたら応援が行くから。そこまで我慢してくれ」
「臨時? 応援? どういうこと?」
「俺さ。しばらく帰れなくなったわ」
「は!?」
「ちょっと用事が出来ちゃって、一カ月・・・ちがうか。二か月くらいの出張になったわ」
「はああああああ?」
「んじゃ。あとはよろしく。お前なら出来るよ。なんてったって。めちゃくちゃ優秀だからな。じゃあな」
「ちょ・・ちょっと。クロウ。電話切らないでよ。ちょ、あんた今どこにいるのよ。連絡がこっちからできな・・・・」
ガチャンとクロウが電話を切った。
「あの・・・・クロウさん。大丈夫なんでしょうか。今の電話の女性の方が怒っていたような気がしたんですけど」
申し訳なさそうにフランが言った。
「大丈夫大丈夫。フラン君は気にしないで、あいつ。ああいう語り口調なんだよ。普段からね」
「そ、そうなんですか」
嘘だろ。
明らかに怒ってたような・・・。
フランは、言いたい事を言えずにいた。
「そんじゃ特訓をしよう。君の基礎錬はそのままで、戦闘技術を俺が教える」
「はい」
「じゃあ、闘気出してくれ」
「こうでしょうか。感覚がわからなくて?」
全身に力を込めた。
薄い膜のような闘気が纏わりつく。
「うん。これは出す練習をしないとな。まだ中にあるな。でも、量的にはまあまあだ。やっぱり良い線いくよね。君」
「そうなんですか?」
「ああ。君は魔法がゼロだった分。闘気の良さがある。そこを生かそう。そんで、賭博師も生かそう。両方の良さを引き出せば、魔法なんていらないからさ」
「わ、わかりました。頑張ります」
「うん。気負わず頑張る。急いで頑張る。頑張る時は頑張って、頑張らない時は頑張らない。このバランスが大切さ。いいかな」
「?????」
よく分からない。
フランは首を傾げる所か、体も傾くくらいに疑問に思った。
「まあ、ここら辺は、やっていく内に慣れるよ。そんじゃ、闘気訓練をしよう。薄い膜を常に張り続ける特訓だ。最初は、体から一センチで出す。こんな風に」
お手本を見せるため、クロウの体から、厚さ一センチの闘気が出てきた。
「それで次の段階が、これを薄く研ぐイメージを作っていく。ミリ単位で削っていくよ。でもまずはここね! このサイズを維持し続ける事で、力の強化コントロールに長けた戦士になる。上手くいくと、これだけでもかなり強くなるよ。はい。頑張ってみよう」
「わかりました」
何度も試行錯誤して、その日の午後。
僅か五時間で、フランはこの技をマスターした。
「君は筋が良い。確実に成長した。僅か五時間でね」
「そうなんですか? 急にですか?」
「そうだよ。急にだ。若者は急に成長するんだ。三日会わないだけで、別人になるんだよ」
「え!? そうなんですか」
「そうなんだ。違う人になるくらいに立派になるのさ。若者の特権だよね。羨ましいね」
というあなたも、本当に若者にしか見えない。
自分の事をおじさんだと言い張るが、一体いくつなのだろうか。
フランは、冗談ばかりのクロウの本当の所が知りたかった。
◇
訓練はこれだけで終わらず、戦闘技術訓練も行われた。
腰にある剣を握ったフランにクロウが言う。
「違う違う。君の武器はこれね」
じゃんけんグーとクロウが拳を前に出した。
「え!? こ、拳ですか」
「うん。闘気を学習したら、あとは拳だけでいいよ。剣の太刀筋とかも結構良い線いってるけど、こっちの方が君の特性に合ってる」
「殴るんですか」
「そう。ボクシングだ」
「ボクシング??? それは何でしょうか?」
クロウがシュシュっと言いながらジャブを打った。
「これはね。俺の師匠の世界のスポーツなんだ。格闘技って技さ」
「え。師匠の・・・世界ですか?」
誰? それに世界ってここじゃないの?
フランは思った。
「うん。ちょっと説明を省くけど、俺の師匠は変わり者でね。変な技をたくさん開発して、この世界に組み込んだんだ。それで、闘気はボクシングと相性がいい。他にも柔道とか、レスリングとかも相性がいいんだけど、それらの組技をやるよりも、単純に殴った方が、覚えが早い気がするから、相手をぶん殴ろう!」
「は、はぁ」
クロウから知らない言葉がたくさん出てきた。
頭の回転が早いフランでも、会話に追いつけなかった。
「ここで、大切なのは、リズムとそれを繰り返す忍耐だ。飽きずに、何度も何度も。こうだ。左、左、右。左、右。このリズムでいく。ワンワンツー。ワンツーだ。逆でもいいけど、この二つを軸に攻撃だよ」
ジャブジャブストレート。
ジャブストレート。
クロウは、この二つを軸に攻撃をすることを教えた。
「は、はい。こうですか」
リズム感が良いみたいで、フランはすぐに出来た。
教える際の手間が省けて、クロウは次々と指示を出せた。
「いいね。それじゃ、それを三分間。休まず打って」
「え!? さ、三分も」
「うん。全部全力だよ。いいね」
「あ。はい。わかりました」
元々の基礎能力が高いみたいで、フランは三分間攻撃し続けることが出来た。
お試しが終わった後、本番はここからだった。
「よし。君はやっぱり基礎があるね。体力もある。んじゃ、これを12Rやるよ」
「12ラウ?・・・12回って事ですか」
「あ、ごめん。そうだよ。12回と、その間が休憩1分でね。慣れてきたら三十秒ね」
「そんなにやって、その休憩時間なんですか」
「ああ。君は超一流のボクサーになれる。辛抱すればね」
「・・・わかりました。ボクサーがよく分かりませんが、頑張ります」
「うん。やっていこう!」
謎の言葉ボクサー。
ジョブにもない名称に困惑しながらも、フランは一心不乱に練習し続けた。
―――――
このような基礎と、ボクシングスタイルを合わせて練習していく内に、フランは二週間を超えたあたりで、爆発的な成長をした。
自分の闘気を三ミリの範囲内で纏う事が出来るようになり、己の身体強化が上手くなった。それにより、パンチのキレも増して、風を切る音も聞こえてきた。
「いいかいフラン君」
「はい!」
「ワンワンツー。ワンツー。の他にも、ショートアッパーとフックを混ぜるぞ」
「アッパーとフック? それはなんですか?」
この世界にその言語が無い。
クロウは己の知識を授ける際に微妙に分からない事を言う。
「これがアッパー。でもショートだから、ここから振り上げるだけにしよう」
拳の位置をあまり下げずに、一気にそこから上に上げる。
基本は相手の顎を狙う。
「わ、わかりました」
「それと。フックはこう」
ジャブとストレートを打つ時とは、少しだけ拳をずらして、腰の回転を利用して、横に振り切る。
「これをさっきのリズムの中に入れる。これで、四種だ。君はこれらを使って攻撃する。いいかい」
「わかりました」
「うん。それでこの四種をそれぞれ使いつつ相手を攻撃していくと、結構な頻度で混乱するはずだ。どの選択で攻撃してくるかで悩むだろうからね。ただ、全部が同じリズムだから、強敵相手だと慣れてくるんだ」
「なるほど。ということは、攻撃が途中で相手に通用しなくなるんですね」
「そう。だから、ここからが君の考えや勘が必要だ」
「僕のですか。どんなでしょう」
「まあ、要するに騙しだ」
「え?」
「フェイントが重要となる。君は賭博師だ」
「はい。そうです」
自分を受け入れ始めていた。
強く返事が返せてる。
「賭博師の基礎は、博打打ちの技だけじゃない。相手を騙す技もある。賭博だぞ。イカサマもありなんだ。それに度胸もつけるしかないしね。あとさ、ポーカー勝負とかにも使えるよ」
「・・・・・で、出来ますかね」
「出来る。だから、ここから勉強にいくぞ!」
「勉強?」
「繁華街にいくぜ!」
「え!? うわああああ」
クロウに手を取られて、フランは繁華街の裏にある賭博場に行った。
ルーレット。ポーカー。丁半。ブラックジャック等々のありとあらゆる賭博がある場所に行き、二人は遊んだ。
しばらくして。
「クロウさん。これって遊んでるだけじゃ・・・」
「違うぞ。今、君は勝負に出るか。出ないか。そこを決めないといけない」
「え?」
現在はブラックジャックをしているフラン。
自分のでは、17。
完璧に微妙な立場だ。
もう一枚を得るべきか。ここで止まるべきか。
相手がAで、ブラックジャックの確率が高いからこそ、ここは降りるべきかもしれない。
「ほら、君はどうする。相手がビックチャンス。自分が絶体絶命。こうなった時、君はどうする」
「僕・・・は・・・」
21をオーバーする確率が高いから、フランは、すでに降りようかと及び腰だった。
「勝負するか。しないか。これは戦いと一緒だ。相手が自分よりも強いと、自分が認識した時、その時、君が取る選択肢が重要だ。そういう話に繋がるんだよ。だから今までの遊びは決して遊びじゃない」
なんか良い様に言っている気もするが。
フランは真面目なので、真剣に考える。
「ぼ。僕は・・・」
相手の手札。自分の手札。それを見て、フランは悩む。
「・・そうですね。どうせなら、飛び出しましょう。僕は、あなたの師事を受けた時から、博打に出たようなもの。後退はないですね」
「よし。いってみよう!」
確率を超えた先、不利を超えた先に、未来がある。
それが賭博師だ。
クロウのジョブの特性を生かした指導は始まったばかりだった。




