第27話 自分の心を信じろ
「場所はどちらでしょうか」
「えっとたしか・・・お? だったような」
「お?」
中々思い出せないおじさんと、その一言じゃどこかも分からないフラン。
一緒に悩んだ。
「オレス・・・だったかな」
「ああ、なるほど。特別応接室ですか。行きたい所が、珍しい場所ですね」
「そうなの?」
「はい。滅多に使われないので、荷物とかが置いてある場所ですよ」
「へえ。んじゃ、そこお願い」
「わかりました。こちらです」
フランが先に歩いて、おじさんがついていく。
その間も、無言じゃなくて、おじさんが喋り続けて、フランが返事を返すのが続いた。
正直、無言で進んでいくのかと思ったフランは、おじさんの話が続いたことが嬉しかった。
誰かと会話できることが、ここまで楽しい事だとは思わなかったのだ。
途中。
「フラン君・・・なんか聞いた名前なんだよな。どうしてだ? 有名人だったりする」
「え。有名人じゃありませんし、あなたとは初対面ですよ」
「だよな」
「はい。僕はあなたを知りません・・・あれ、そうでした。お名前は?」
楽しすぎて相手の名前を聞くのも忘れていた。
「クロウだよ」
「クロウさんですね。わかりました」
「真面目だね。フラン君・・・もう少し肩の力抜いていいよ。俺に気を遣わないでいいって。俺、フランクな方が好きだしね」
「わかりました。頑張ります」
「全然抜けてねえわ」
クロウが苦笑いをした。
「そろそろです。あちらの部屋ですね」
「おっけ。んじゃ、開けてくれる。俺が開けちゃうとさ。なんか嫌じゃん。人の家に勝手に上がり込む感じがしてさ」
「わかりました。僕が開けますね」
クロウの前を歩いているので、そのままフランは扉を開ける行為に入る。
特別応接室のドアをノックして。
「クロウ様という方が、こちらに来ました。お通しします」
まるで執事のような流れで、フランはクロウの為に道を作った。
中からの許可が降りたので、扉を開けると、フランの目が泳ぐ。
「なに!? フランが、どうしてここに!!」
「え。兄さんこそ。どうしてここに? それに王太子様も?」
フランの目には兄の隣にいる王太子が映っていた。
二人がこの部屋にいて、普通にビックリだと、クロウの事を忘れていた。
だから、入り口付近で立ち止まってしまって、中に入れないクロウがフランの後ろから中に声を掛ける。
「お~い。ライちゃん。おじさん来たよ!」
「ああ、クロウ殿!! お久しぶりで、どうぞこちらです」
フランを押して、クロウが中に入る。
二人が入室する形になった。
「そうか。だったらこの子もここに必要だったか! ライちゃん」
「はい。そうです。後で呼ぶはずでしたが、まさかクロウ殿が連れてくるとは」
「やっぱ例の子なのね」
「はい。そうです!」
二人の間で話があったらしく、ちょうどよかったと三人が思った。
「ぼ、僕が・・・ここにですか」
「うん。フラン君もここにいな。そこらへんでくつろいでいて」
「そ、そんな事、出来ませんよ」
兄と王太子がいるのに!
おじさんの軽快な口調は気持ちが良いが、それは許されない。
「じゃあ、そこにいてくれ。俺たちの話し合いを聞いててね」
座っているクロウの裏に立ったので、フランの位置は、兄と王太子の正面となる。
「わ。わかりました」
クロウが王太子とエルリの前で、笑顔でいる。
「いや、久しぶりだね。ライちゃん。おっきくなったね。キャルバ君のお屋敷に居た時は、こんな小さかったのにね」
「はい。あの時は、5歳くらいですよ」
「ごめんなライちゃん、俺。十年やそこらの歳月は覚えられねえわ」
「そうですよね。すみません」
「いやいや、謝らなくてもいいぜ。ここは俺が悪い」
クロウとライドは知り合いらしい。
「キャルバ君は? 元気?」
「はい。隠居して、庭で盆栽を作っています」
「ああ。疲れたんだな。この国で色々あったもんね」
「ええ。そうですね」
「この国、相変わらず?」
「はい」
「そっか。じゃあ、この子。仲間か?」
「はい!」
「友達?」
「はい!」
クロウは満面の笑みになった。
「うんうん。いいね。キャルバ君には仲間がいても、友達がいなかったからな。君は色々とできそうだな」
「はい。この国は、私がなんとかします」
「うんうん。君なら出来るよ。それじゃ、こっちの君の名は?」
クロウは話を振った。
「おれは・・・いいえ。自分は、エルリと申します。クロウ殿。あなた様のお噂を、王太子から教わってですね。この度。わざわざ来て頂いて・・・本当に感謝します」
エルリが座っていても頭を深く下げた。
「うん。でも、まだ引き受けたわけじゃないよ」
「ええ。でも来て頂いただけでもうれしくてですね。弟を気にかけてくれる人物なんて、この国では、俺と王太子くらいしかいなくて」
「そうか。君も、真面目だね。兄弟だね。君たちさ」
クロウは、兄を見てから弟を見た。
双方ともに真面目さ全開だった。
「それじゃあ、本題をどうぞ」
クロウが振り返ってフランの目を見る。
「お兄さんからの話だよ。フラン君聞いててな」
すぐにエルリに戻す。
「え・・あ、はい」
手を振って、君の話をどうぞとした。
「はい。自分の今回の依頼は、弟をここから連れ出してもらえないでしょうかという依頼です」
「うん。聞いてる」
「え!?」
二人は違う反応を示した。
静かに聞くのがクロウになるのは珍しい。
「じ・・取り繕うのはやめよう。クロウ殿。俺でもでいいですか」
「もちろんさ。それと本心で言っていいよ」
「はい。ありがとうございます」
快活な男児なので、ハキハキと話し出した。
エルリの立場の枷が外れた。
「俺は、弟に広い世界を見てもらいたいと思いました。こんな狭い世界にいたらどうしようもない。人との関わり合いもない。これじゃ駄目です。いつまでも、アランポーカー家が邪魔して来たら、この子はいつまでも仕事が・・・恋愛が・・人生が・・・暗いものになります」
「そうだね。そのとおりだ」
エルリの辛そうな顔を見て、クロウが話を貰った。
「ですから、あなた様の下で、働く形はどうでしょうか。新しいギルドが出来たとかで。辺境のギルドマスターになられたと、ライドが言っていたもので・・・そこならば、人も欲しいはずですし」
「うん。キャルバ君がいるから、ライちゃんにもお知らせしといたのよ。冒険者の繋がりがあるでしょ。ライちゃん。クマちゃんと知り合いだよね」
クロウが聞いた。
「はい。ロウさんは、自分の事を気にかけてくれています」
「だよね。クマちゃん優しいから、何かあったら君を守ってくれるよ。それに、俺とか、クマちゃんに言えば、ダリちゃんも助けてくれるはずだから。思いっきり改革するといいよ。ドンとやろうぜ」
「はい。ありがとうございます。クロウ殿」
北のマスターロウは、改革派で知られるライドの協力者だった。
何か命を狙われる事があれば、北のギルド会館で保護するし、何か革命を起こすのであれば、個人として協力をすると、意気込んでいる。
政治的な事は出来ないが、命を守る事は出来る。
なので、彼らは常にそのクエストを緊急発注できるようにしているのだ。
「そうか。この子が来るのはさ。正直なところ助かるんだわ。俺のギルドには今さ。シオンって言う元冒険者しかいないの。だから、この子が人手として来てくれるのは助かるんだけど・・・フラン君。君はどうしたいんだ?」
「え。僕ですか」
話が急に自分に来て、フランが驚く。
てっきり兄とクロウで話が進んでいくと思っていた。
「君の意志が欲しいな。兄と王太子が言ったから来るってのは、俺的にイヤダ。君が、俺の所に来てみたいと思わないと駄目だ。強引になってしまうのなら、俺は君を許可しないわ。だからどう?」
「そ。それは・・・正直に答えた方が良いですか?」
「うん。頼む」
「では、正直に言うと、よくわかりません。あなたがどういった人か知りませんし・・それに・・・」
続きを言おうとしたら、兄が怒った。
フランが兄に怒られるのが珍しい事である。
「フラン。この方は!」
更に怒ろうとすると、クロウが止める。
「まあ待て。エルリ君。この子の本心が聞きたい。黙っててくれ」
「は、はい」
声は優しいが、表情に睨みがあった。
そこに凄みがあり過ぎて、エルリはあっさりと引き下がる。
「え。ええっと」
兄に怒られてしまい、少し話のトーンが下がったルフランは話せなくなった。
だからクロウが、声を掛ける。
「大丈夫。君が何を言っても、俺は怒らない。つうか、嘘つかないでくれ。頼む」
「わかりました。僕はあなたを知りません。でも、僕なんかとお話してくれた事に感謝しています。この城の中では誰とも会話なんてした事がありませんでしたから」
そうフランは、兄とも、王太子とも、城内では絶対に会話しなかった。
誰に見られているか分からないから、とにかく気をつけていたのだ。
自分のせいで、二人が更に追い込まれるのは避けたい。
その思いがあったのだ。
「うんうん。で?」
「それで、もう少し知りたいかなって・・・何も知らない人と仕事をするのも・・・それに、ここより遠い場所なのですよね」
兄と離れるにしてもどのくらいの距離だ?
本心からと言われたので、フランは気軽に聞いてみたのだ。
「まあね。結構遠いよ。ロクサーヌって場所だ」
「ん!? 極東ですか!」
「うん。おお。地図が頭に浮かんだか。これは勉強してあるね。この子、かなり優秀か。どうライちゃん」
クロウは、ライドの方に顔を向けた。
「はい。それも、とてもですよ」
「そうか。ライちゃんが言うなら間違いないか」
クロウが、ライドを信用しているのは、キャルバに似ているからだ。
姿も声も性格も全てが似ている。
ちなみに、キャルバはライドの祖父である。
三代前の国王である。
「じゃあ、俺がさ。もう少し君のそばにいれば、君は自分の心で、この先の判断が出来るってことか」
「え。いや、それだと、申し訳なく感じますが・・・」
「いいよ。いいよ。俺がここにしばらく滞在しよう」
要点をまとめると、クロウを見極めたいという話だ。
この発言をよく考えると上から目線のように思うが、クロウは全く気にしておらず、むしろフランの為に、ここに残ると言ったのだ。
「そうだ。この子をここで一時的に俺が預かろう。この子に休みをだしてくれ。その間に、ちょっと鍛えて、ここのアホ連中に実力を示そうか。この子を馬鹿にしてきた連中の鼻を折りまくろうぜ。バッラバッラに砕いて、再生できないようにしようかな。どう?」
「「「え!?」」」
急に思った方向の話じゃなくなった。
三人は、クロウの考えが読めなかった。
クロウとは突拍子もない事をするが、大切な事を抑えている男でもあるのだ。
フランの人生がどんどん変わっていくきっかけ。
それがクロウとの出会いだった。
ライドの祖父がキャルバ。
キャルバはクロウと知り合いで、仲が良かった。
彼も改革派だったが、貴族勢力に敗北。
王位を剥奪されて、次の長兄が王となったが、病死。
次の次兄も父同様に剥奪。
今はキャルバの弟が王となっているが、この人は中立派なので、静観している。
ライドは長兄の子。
キャルバの弟に子供がいないので、長兄の子供同士での戦いとなっている。
がしかし、ここは表向き上の話で、裏に貴族がいるので、貴族VS王族の戦いだった。
改革派が王子であるのも珍しい。




