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辺境のギルドマスタークロウ  ~ 目指すはスローライフ! でもどうやったらライフはスローになるんだ? ちょっと忙しくなってきたんだけど ~  作者: 咲良喜玖
クロウとの絆とロクサーヌ襲撃事件

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第25話 フランの真実

 フランが、魔族と戦い始めて二十秒も経たない時。


 「ぐっ・・・素の状態じゃ、まったく駄目ですか」


 フランの攻撃は全て無駄に終わっていた。

 拳での基本的な体術から、肘でのトリッキーな体術を駆使しても、全てが空振りに終わった。

 

 「体術で私に勝つ気か。人間」

 「いいえ。勝つつもりはないですよ。これくらいで勝てるなら、この戦いも楽でしょうからね」

 「ほう実力差を認識しているのに、挑んで来るのか」

 「ええ。もちろん」


 相手の冷静な分析と態度。

 これでなぜ挑んで来る。

 この戦いを決意した事がよく分からない。

 普通は引くぞ。戦おうとしないはずだ。


 余裕の態度を貫いてはいるが、魔族は首を傾げていた。


 「意味が分からないな」

 「でしょうね」


 フランも困惑気味で同意する。

 でも、ここで彼にしては珍しく微笑んだのだ。


 「ん?」

 「僕もようやく師の教えが分かって来たという事ですね。ここで、あなたの考えを理解するとは・・・僕って情けないですね。あなたの言いつけを守って来てはいましたが、ここでですか。まったく僕という男は・・・」

 

 相手の困惑した顔を見て、フランは昔に言われたことを思い出した。


 

―――――――――――――――――――


 ロクサーヌのギルド職員であるフラン。

 本来の立場を生かすことが出来れば、大貴族の一員として、こんな辺境の地じゃなく、大国の中心にいて、大臣か何かで活躍するはずの男性だった。

 しかしとある事情により、彼が誕生してから、そんな事はありえない事であったのだ。



 彼の本名は、フラン・アランポーカー。

 メデル王国の大貴族アランポーカー家の次男だ。

 

 メデル王国とは、アルフレッド大陸の北に存在する大国の事である。

 王体制が完璧に敷かれていて、完全貴族社会であるのが現在のメデル王国だ。

 建国当時から、数百年後の世界も、今の状態とほぼ同じだと言われている。

 ちなみに常にそのような体制であったかと言うと、そこは違っていて、昔にあった崩壊事件付近からその後の立て直し時期の間は、実力社会を主流としていて、年功序列や貴族社会の影響が少なかった。

 しかし残念ながら、今はこちらの傾向に傾いているらしい。

 生まれで人が決まり、貴族たちが自分たちよりも下の立場の人間を牛耳っていく。

 下にいればいるほど、その人は狭苦しい人生を送る。

 それが現在のメデル王国であった。

 

 しかしながらそんな締め付けがあれば、当然国民には不満が募ったりする。

 国民が革命の心を持ってもおかしくないのだが、実際にはそんな事は起きずで、この体制がしばらく維持されていた。

 その理由もある。

 実は、不満を持つ者の大半が、冒険者となってしまったからだ。

 優秀で、実力のある者たちは、内部で革命を起こすよりも、国とは距離を置いて、自分の実力で、世に出ようとする考えを持つこととなったのだ。

 それが、ロウであったりする。

 彼が、北のマスターにまで登り詰めた事が、国を捨てるではないが、外部から民を救う手立てを考えた結果となる。

 だから結果として、王国体制が維持された。

 それが良かったのか悪かったのかは、まだ分からない。

 ただこのままのメデル王国があり続ければ、いずれその歪みはどこかで大きな亀裂と変わっていき、分断を招く形となるだろう。

 それが、いつになるかが、焦点となる。

 その時が王国の本当の崩壊のはずだ。



 と話が脱線したので、フランについてに戻る。


 フランの家は、大大大大貴族と言ってもいいくらい名家だ。

 なぜなら、過去にあった国家の立て直しの際に最も尽力したと言われる貴族の一つだからだ。

 彼の家は名門!

 その理由も実力と名声からくる。

 家の者が代々優秀で、魔法使いの一族。

 生まれてくる子は皆、優秀な魔法使いとなり、トリカル魔法学園に入学して、国の中枢の大臣などに就任することが絶対となっていた。


 しかし、フランだけ違っていた。

 母。父。兄。弟。

 これらは全員が魔法使いとして優秀だった。

 でも、フランは魔法使いの才が全くなかった。

 生まれた時から、無であったのだ。


 この世に誕生して、すぐにステータスを調べる家はどうかと思うが、この家は代々魔法使いの家系だから、より強い魔法使いに当主の座を譲る事としているために、必ず調べるのである。

 それで、魔法関連の数値がゼロと出た彼は、生まれた時から用済みのような存在だった。

 いらない子のレッテルは、生まれたばかりの可愛い赤ん坊の頃に張られたのだ。


 ゼロという数値は、成長の見込みがない証。

 今までの統計学から言って、誕生時にステータスにゼロがあった場合。

 そのパラメータは未来永劫ゼロである事を掲示している。

 それは大きくなっても成長しないという事だ。

 ゼロは、何歳になろうともゼロのままで終わってしまう。

 では、この家でそんな子が生まれてしまえば、それはかなり絶望的な状況となる。

 魔法が扱えない事が、確定しているのであれば、この家では死にも等しいのだ。



 フランは、悲惨な幼少期を過ごすこととなる。

 家族の食卓には、彼のご飯だけが並ばない。いつも彼は、雑用の部屋でメイドらと食べていた。

 それに、同じ家にいても、母と父と顔を合わせるのもほぼなく、むしろバッタリ会ってしまえば酷い顔つきで睨まれるので、年に数度の対面だけであったりする。

 大きなお屋敷の執事やメイドの仕事をしなければ怒られて、学校などの学習の支援がなかったりと、とにかく家族としての扱いを受けなかった。

 兄や弟は、熱心な教育方針で成長していったというのに、フランには何もなかったのだ。

 そこまでするのなら捨てればいいだろうと、誰もが思うだろうが、それもしない。

 

 それは世間体の話で、彼を飼う状態として続けたかったのだ。

 彼をもし捨ててしまったら。


 『あそこは自分の子を捨てる家なのよ。大貴族の家なのに酷いのね。名門なのに』


 なんて噂話が広まるかもしれない。

 大貴族たる家にはそれは致命傷だった。

 だから、死なせず、生かさずで、フランは今までを生かされてきたのであった。


 しかし幸いにも、フランは優秀だった。

 学校に行けずとも、家の中にある本を読んで、全てを学習した。

 周りのメイドや執事たちとは仲が良く、その人達からは、人との関わり合いを学び、親と関係が駄目でも、弟とも関係が駄目でも、彼には優しい兄がいたのだ。



 10歳くらいの話。

 五つ上の兄が、フランに宣言した。


 「フラン! 俺に任せろ」

 「はい? 何をですか兄さん?」


 兄が大きな背中を見せた。

 いつでも元気ハツラツな兄は、フランの冷戦沈着タイプとは反対の性格だった。

 言えば、貴族らしからぬ性格の快活な男児だ。


 「俺がなんとかしてみせる! 希望を持って、ここで生きていてくれ。頼むぞ」

 「兄さん、何をするつもりなんですか。父様と母様と戦うつもりですか。それはやめましょう。兄さんが大変になりますよ」

 「大丈夫だ。勝つ方法を考えてくる。学校でな」


 兄は、この年に、トリカル魔法学園に入学する歳だった。

 もうすぐ仲の良い兄弟が離れ離れになる。


 「でもフラン! もうすぐ俺がいなくなるから、お前の味方が周りのメイドか執事たちしかいなくなる。でも彼らはな。表立って救う事が出来んのだ! う~ん。俺は心配だ」


 今まで母と父が、フランに厳しくいこうとすると、弟を咄嗟にかばって、両親の気を紛らわせていたのが、フランの兄だった。

 親である二人の意識を別な方向に持っていく巧みな会話術を持っていたのだ。


 「だから、俺のいない間。お前に辛い思いをさせるぞ。すまない」

 

 兄が頭を下げた。

 自分がいなければ、きっと父と母は最後まで弟に辛くあたる。

 そこが気掛かりな兄だった。


 「いいんですよ。僕は全然気にしてません。兄さんがどこかにいれば・・・・兄さんが心の支えですから。母と父はどうでもいいです」

 

 遠く離れていても心に兄がいれば、大丈夫。

 10歳当時にして、この考えに至るフランは稀有な人間だった。

 希薄な親子関係を乗り越える精神力も素晴らしかった。


 「わかった。それじゃあ、下の弟にも気をつけろ。お前を馬鹿にしてくるかもしれない。あの母上と父上の子だ。まともに育つとは思えん!」


 そういう教育を施された人間が、真っ当に生きるかと言ったら無理だろう。

 フランの兄の考えは、子供でありながらも深かった。

 それよりも、フラン周りが酷すぎるのに、フランの兄がここまで真っ直ぐに育った方が珍しいと言える。

 弟想いの優しい兄である事が奇跡だった。


 「わかりました。でも兄さんは、ご自分の心配をしてくださいよ。あの学校って、凄い大変な学校なんですよね。トリカル魔法学園って言うんですよね?」

 「ああ。そうだぞ。でも心配すんな。俺がドカンと修行してくるからな。父と母には文句を言わせないぜ! ニシシシ」

 

 Vとポーズを決めて、弟を安心させた。


 「そうですか。では兄さん、頑張ってくださいね」

 「ああ。まかせとけ! でも頑張るのはお前だぞフラン。生きていてくれよ。辛くても死ぬなよ」

 「はい。次に帰ってくるときに、僕も兄さんの顔を見たいと思います」

 「うん! 俺もだぜ。ニシシシ。また会おうぜ。フラン!」


 フランは兄の笑顔が大好きだった。

 

 フランの心の支えは、アランポーカー家の異端児『エルリ・アランポーカー』

 彼はのちに・・・この国にとって、とある大事件を起こすのだ。

 それはこの国の重要人物と共にであった。


 それはまだ先の話である。

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