第24話 説得と一瞬の判断
シオンとフランの走行中。
フランは地に足を着けて移動。
シオンは足を若干浮かせて、風魔法で平行移動をしていた。
二人の速度は一緒だ。
「フラン。あなた・・・足が速いのね。相当鍛えているのね」
元特級冒険者の移動と互角。
これは強者の証だ。
「ええ。鍛えています」
「そうだったのね」
自分が思った以上に武闘派。
シオンは、フランの事を普通のギルド職員だと思っていた。
「それより、流石は元特級のシオンさんだ。その移動。風魔法のコントロールが素晴らしいですね。僕の実家の人間たちでも、それほどのコントロールは出来ないでしょう」
「あなたの実家?」
「ええ。忌々しい家系です。兄以外ですが」
「へえ」
苦い顔をしたフランを見て、家との折り合いが悪いのかしらと、シオンは思った。
「「ん!?」」
二人が同時に音に気付いた。
どこかで爆発した音だ。
「戦闘音?」
フランにだけ、爆発音の次の音が聞こえる。
「フラン、どこかわかる? レオかも知れないわ」
「これは、港方面で間違いないです。僕らが向かっている先ですね」
「じゃあ、急ぎましょう。迷っている時間が無いかもしれない」
「はい!」
二人は更に加速して、ロクサーヌの東。港へと向かう。
その途中で、さらに音が鳴る。
爆発音とは別な音だった。
『ウ―――――――――――――――』
耳を破壊するかのような警報の音が町中に響いた。
「これは、緊急退避の警報!?」
フランが音の意味に気付いた。
「レオたちのおかげね。最初の判断かも」
シオンはこの警報を鳴らせた理由に気付いた。
「ん!? 人がこっちに?! あ、そうか。港にいた人たちが逃げてきてますよ」
「まずいわね。あたしたちが巻き込まれちゃう・・・」
港方面から大量の人。
最高速度で東に行きたい二人は、この人たちを迂回して移動する事を考えられなかった。
「僕は、屋根でいきます。シオンさんは? 高く飛べますか?」
「出来るわ。魔族程はいけなくても、人の頭くらいは越せるわ!」
「じゃあ、このままいきましょう」
「うん!」
二人は向かってくる人の波に抗わずに、立ち向かっていった。
フランは家の壁を走って屋根に到達。そこからは家々を渡っていく。
シオンは飛ぶ高さを出して進んだ。
「見えた! フラン見えたわ。レオが戦ってる」
すれ違う中で、奥が見えた。
遠巻きだが、レオが羽の生えた人間みたいな敵と戦っている。
「急ぎます」
フランの蹴りが一つ一つ威力が上がっていった。
走る速度が異常に上がる。
魔法移動のシオンと同じく位置で、向かって行った。
こうして二人は、大激戦となる戦場へと移動したのであった。
◇
この少し前、敵を迎え撃つつもりのレオは港の端にいた。
団員たちに指示を出す。
「皆はここにいる人たちだけでもいいから逃がせ。とにかく西へ行けと、走れと伝えて欲しい。町から出るのが望ましいけど、出来なくても西へだ! 頼む!」
「「「はい!」」」
一緒に来てくれた仲間たちが、住民の移動を支えたのであった。
「来る! あれが魔族・・・恐ろしいほどの魔力量だ・・・あれは異常だぞ」
中級者の実力を持つレオ。
相手の力量が読めてくる頃合いだからこそ、恐怖も出てきてしまう。
恐れ知らずだった初心者の頃の方が今は良かったかもしれない。
でも、そこを持ち前の勇気でカバーするのだ。
「かかって来い。俺が相手だ。魔族!!!」
◇
上空にいた男は、その声に気付いた。
地上を見て、声の主を探し出した。
「ん。高く飛んでいたのに、私を見ていたのか・・・魔物を使う時間を稼いでいたが・・・中央から東に移動したのも見ていたという事だな。あの男、中々やる」
町の中心地で一旦町を見下ろしていた。
偵察行動のようなことをしてから、本格的に攻める際は東から行こうと思って、東に移動していたのだ。
今は海側にいるので、大声を出した男性は、自分のここまでの行動を見ていた事となる。
「いや、奴ほどの男はいないだろう。クロウと言う名の男だったな。たしか・・・」
要注意人物がいない今がチャンス。
町の制圧を目的としていた男性は、狙いをまず声出しした男性に搾ったのである。
◇
「俺に来い。相手になってやる」
攻撃を自分に集中しろ。
皆を守るために発した言葉だ。
「ふん。珍しいな。人間は自己犠牲などしないはず」
「俺を人間と言うあたり、お前が人間じゃない証明だ。お前は魔族でいいんだな」
人間が、人間に向かって、お前が人間だとは言わない。
レオは、ここまでの自分の予想が正しかったと思った。
「貴様らは、我々を魔族としか称せない下等生物。貴様らは、何千年経とうが、無能なままだ。無駄に抵抗しようと思うな。我々の支配下に入った方が楽だぞ!」
「何を? 魔族じゃないだと?」
敵の言葉を聞くに、魔族と言うのは不正解のようだ。
レオは、考えながら対話をしていた。
「ふん。我々側の歴史を知らない者に、教えてやる義理もない。間違った認識のまま死んでゆけ。人間」
「俺は戦う! 皆の為にだ!」
だって勇者になるのだから!!!
最後の言葉は行動で示した。
レオは、立ち向かっていったのだ・・・。
◇
戦闘が始まっている。
それも最初から圧倒的に負けているだろう。
レオはもう傷だらけのボロボロの姿だった。
二人が確認して、人の波を突破。
こちらの戦場に到着した。
シオンが指示を出す。
「まずい。フラン。レオを掴んで! こっちに飛ばす」
「了解です」
シオンが風魔法の移動を切って、遠距離発動に切り替えた。
「間に合え。ウインドラッシュ!」
シオンが出した風魔法が、魔族とレオの間に出現する。
◇
「む!?」
レオを完全に砕こうとした魔族は、拳を振り切ろうとしていた。
前に突き出し直後に、目の前に風魔法の卵が出現。
ここから大きな風になっていくのは、魔法の軽やかさから分かった事だ。
「魔法か。中々筋がいい魔法だ」
これほどの魔法を出す人物が、この地にいたのか?
手を引っ込めながら、魔族は自分の体重を後ろに傾けていく。
風が出現すると同時に、その風に乗って後ろに下がった。
「ぐあああああ」
レオは、風魔法に気付かずに、巻き込まれた。
後ろに勢いよく飛ばされる。
受け身なんて取れそうにない態勢で、吹き飛んでいる。
「よし。レオさん。ご無事ですか」
声を掛けられた。
と同時に自分が無事であった事を理解できた。
「ぐあ!? ん!? あ、フランさん?」
抱きしめられた感触で後ろを振り返ると、助けてくれたのは見知った人であった。
「ええ。よく無事で。ラッキーでしたね」
魔族が相手で、よく生きていた。
フランはレオの事を地面に降ろした。
「レオさんは離れていてください。僕たちが戦います」
「え。でも、それは無理かと、俺も!」
「いいえ。あなたの階級ではおそらく瞬殺です。生きていたのは、あの魔族が手を抜いていたからでしょう」
魔族と戦えるのは特級冒険者くらいなはず。
三級の冒険者が挑んでいい相手じゃない。
「でも、数があれば!」
「駄目です。ここは質が重要だ。無駄に散らせるよりも、あなたは生きて、この状況を大陸に知らせた方が良い。ネルフィさんたちと共に、ロクサーヌから脱出してください」
「・・・お言葉ですが、フランさん! 俺だって勇者未満だけど。冒険者の端くれ。こんな所で逃げ・・・」
「あなたはその勇者になりたいのでしょう。だったら生きてください。ここは任せて、退避を。それとギルド会館にいるリリさんとネルフィさんと合流して。二人を助けてください。あの二人なら、こっちに来ますから」
強さが桁違い。
目の前にいる魔族を見て、フランはあの二人の事を優先して、守る事を選択した。
おそらく、自分たちが戦っても勝てるどうか分からない。
それほど魔族が強い。
それも一緒にいるシオンよりもだ。
二人で協力して戦って、それでなんとか勝っても、こちらが五体満足でいられるかは・・・。
とにかく最悪を想定して、フランはレオに頼んでいた。
「で・・・でも」
レオが下を向いた。
ここから離れたくない。
逃げたみたいで嫌だ。
勇者はどんな事があっても諦めない。前を向く。
それが子供の頃に憧れた御伽噺の中の勇者だったのだ。
自分はそこを目指していた。だから逃げたくなかった。
「レオさん! あなたが頼りとなるかもしれないのです。成長して、魔族に勝つ可能性があるのは勇者だけだ。とにかく生きてください!」
フランにしては珍しい大声。
力強い後押しは、レオの行動を促した。
「わ。わかりました。二人を守ります」
「はい。お願いしたい。リリさんを頼みます」
「はい!」
レオはここで二人を守るために移動した。
ギルド会館を目指すために西へ移動を開始した。
「ふぅ。よくやったわ。フラン。よくあの子を追い返したわね」
「ええ。彼には生きてもらわないと、誰かがあの群れから、皆を守らなくては・・・彼しかいないと思います。このロクサーヌの戦力からいってもですけど」
目の前の魔族以外で、魔物の群れがこちらに来ている。
今ここで、二人で迎撃するにはするが、この数では撃ち漏らすのは確実だ。
そして、その撃ち漏らしたはずの敵が向かう先が予想ではなく、明確となっている。
当然、奴らは人間を襲うのだ。それも今、一生懸命逃げ惑っている人間をだ。
その時に魔物と戦える者がいなければ、町民が全滅となるだろう。
一瞬の判断で、正解を導いていたのが、フランだった。
「フラン。少しの間、あの魔族の相手が出来る? 時間を稼げる?」
「シオンさん・・・それは何かの策があるのでしょうか?」
二人が距離を詰めて、並んで立つ。
コソコソ話に切り替わった。
「うん。あたしがあれと戦うわ。群れを消す」
「出来るのですか。数がかなりですし、あれはガーゴイルでは?」
「ええ。でも出来ると思う。火力を上げて、魔法を放出してみる」
ガーゴイルが30。
モンスターランクはA上位。
一級冒険者であれば倒せるのだが、数が数だ。
これは特級クラスではなければ、太刀打ちできないだろう。
しかしそれは、他に憂いのない状態でである。
今は、未知数の魔族が近くにいることで、果たして、シオンの本領発揮となるのかは、分からない所である。
「わかりました。僕がやりましょう。全開で戦います! 五分・・いいえ、三分はなんとかします」
「ありがとう。ここで二手に別れるわよ。いい。頼むわよ。死なないでね。フラン」
「もちろんです。シオンさん、そちらを任せました」
二人が役割を明確にして、戦場を別々とした。




