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辺境のギルドマスタークロウ  ~ 目指すはスローライフ! でもどうやったらライフはスローになるんだ? ちょっと忙しくなってきたんだけど ~  作者: 咲良喜玖
クロウとの絆とロクサーヌ襲撃事件

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第23話 開幕戦はリリアナ

 二人が出て行った後。

 本部に連絡を入れたいがために、電話の前にリリアナが立った。

 彼女の護衛をするつもりのネルフィは、ここから始めようとしていた。

 隣に立って警戒態勢である。


 「リリアナさん。本部に連絡を入れるんですね」

 「はい! そうです。マスターが今、本部にいますからね。しかし、それが上手くいくかは私の交渉次第になります」

 「え? 上手く・・・交渉???」


 連絡って上手くいかないことがあるの?

 ネルフィは単純に疑問に思った。


 「はい。私たちと、アルフレッド大陸東地域のギルド会館は・・・お恥ずかしいのですが、すこぶる折り合いが悪いので。ちゃんと連絡を本部に送ってくれるかが問題となっています」


 キリリとした表情のリリアナ。

 普段の笑顔の彼女とは違うので、ネルフィはよほどの覚悟で電話するのだと思った。


 「そ。そうなんですか」

 「ええ。ここから、聞こえると思うので、ネルフィさんもすぐに事態が分かると思いますよ」


 と、話している間にリリアナの準備が終わった。

 電話をかける所だ。


 大きな受話器を片手に持って、彼女はメモも同時にしていく。

 記録に残しつつ、対話をするためだ。


 相手が電話に出た。


 「こちら、ロクサーヌ。ギルド職員のリリアナと申します。東地区に本部への連絡を取り次いでほしいです。緊急であります」

 「緊急? 田舎如きの緊急などどうでもいい。こちらの手を煩わせるな。今は忙しい。昼の時間に電話をするなど非常識だ」


 最初から門前払い。

 相手方の声が受話器から漏れて、そばにいるネルフィにも聞こえた。

 相手の対応の悪さに、ネルフィの顔が歪む。


 そもそも昼休憩以外に電話することの方がおかしいだろう。

 言いたい怒りは次々とたくさん出てくるが、どれも心の内にしまっている。


 「それはないでしょう。今は休憩時間かと思います! しかし、あなたがもし忙しいのであれば、休憩中の方に代わっていただけますか。こちらの連絡。私が今お伝えする情報は緊急のものだと申しています」


 嫌がらせのような相手の言い分に、リリアナも負けじと対話する。

 

 「ん!?」


 喉を詰まらせたような感じの言葉が、電話に伝わる。

 最初のやり取りは、言い負かしたようだ。


 「あなたが代わるつもりがない。ということは、お時間が宜しいと判断します。なので続けます」


 相手を上回る言葉で、リリアナは言葉を出し続ける。


 「緊急事態発生の為。ロクサーヌのマスター。辺境のギルドマスタークロウに連絡を入れて欲しいのです。用件は至急戻って欲しいとの連絡をお願いしたいのです。その理・・・」

 「一応聞く。なぜだ」


 彼女が理由を言おうとする前に、相手がリリアナの話をぶった切った。

 あくまでも自分たちが、話の主導権を持つのだと、東のギルド職員が思っているからだ。


 「現在。ロクサーヌは、魔族の襲来に遭っている可能性があります。その可能性はほぼ確実。9割超えをしていると思います。なので現在のロクサーヌは、この緊急事態に、迅速な対応が求められているのです。それには、私共のマスター。クロウの救援が必須。急ぎ、こちらへ向かって欲しいと連絡をして欲しいのです」


 ワープが使えるクロウなら、一気にこっちに戻って来てくれるはず。

 リリアナは、現状の情報から、決して間違ったことを伝えていないのだが。


 「嘘を言うな。魔族だと。そんなものリイン歴よりも前の事だ。ありえない。辺境にいすぎて

気が狂ったか」


 相手が馬鹿にしてきた。

 東の端で暮らしているから、頭でもおかしくなったか。

 ずいぶんな嫌味だった。


 「いいえ。本当の事です。人や魔物ではありえない高度。かなりの高さで飛行していると、冒険者が目撃したために、連絡をしてくれたのです。いいですか。高度のある飛行は、魔族にしか出来ない事なんです」


 その情報を知っていますか。

 相手の知識を測る言葉だ。


 「何の話だ? 高い高度? 飛行?」


 歴史は多少知っていても、魔族の特性を知らない。

 ならば、無知とは言わないが、知識が薄い人間が電話の相手だと、リリアナは認識した。

 そこで。

 

 「この話が分からないのなら、あなたではなく。どなたか! 魔族の知識がある方をこちらにお願いします。こちらの発言の整合性を取ってもらいたい。他にも特徴を言いたいので、お願いします」


 あんたみたいな馬鹿とやり取りできるか!

 そう言いたい気持ちを抑えて、リリアナは発言している。


 ちなみに、近くにいるネルフィは、口パクで邪魔にならないように言っていた。


 「ありえない。魔族だと・・・」

 「それがありえるんです。この問答も無意味だ。いいから取り次いでほしい!」


 今度はリリアナが相手の話をぶった切る。

 主導権を持っていく怒涛の言葉攻めだ。


 「もしくは、私のこの電話を直接本部に送れるように設定を変えて欲しいです。この時間帯だけでいいのです。五分ほど明け渡してください!」


 東のマスターのせいで、東のギルドが電話連絡を中継している。 

 だから、その中継点の仕事を放棄しろ。

 リリアナは、畳みかけた。


 「ぐ。そ、そんなこと。マスターに知られたら・・・」


 東のマスターは、辺境のマスターと関わるなと、普段から指導をしていた。

 その教育が、この会話となっている上に、どうしようもない判断と繋がっている。

 全ては、ノイルが悪いのだ。

 多少、電話を受け持つ職員も悪いのだが、結局はノイルが全体的に悪い!

 会議の時も、配慮の無さと思慮の無さが際立っていた。


 「わかりました。それでは、あなたのお名前は!」

 「ん?」

 「あなたのお名前をメモします」

 「何を言ってるんだ? そんな事をして何になる」

 「あなたが東のマスターから叱責や処分を受けた場合。私たち、ロクサーヌが保護します! 辺境のギルドマスタークロウが直々にあなたをお守りしますので、この連絡を繋げて欲しい」

 「・・・そんなこと。貴様らのような田舎者が出来るわけがない」 

 「できます! 私共のマスターは、マスターオブマスターと密な関係です。裏から手を回せます」


 と言うのも、出来るかどうかも分からない。

 そもそもクロウの口からでしか、マスターオブマスターの師である事を聞いてないから確証が持てない。それでも、リリアナは賭けに出たのだ。

 マスターを信じて、これで相手に意見を押し通すことを決めた。

 度胸がある女性である。


 「そんな馬鹿な。辺境如きが・・」


 言葉が揺らぎ、声にも弱さが出たから、完全に迷いが生じている。

 リリアナは更に押すと決めた。


 「わかりました。あなたが今の決断をしないという事はですね。いいですか。あなたが今すぐにこの連絡を本部にしてくれない場合はですよ。十中八九。ロクサーヌが消えると思ってください。魔族の襲来で、町が生き残るなどありえない。過去の現象から言ってそうなるでしょう」


 リリアナは、恐ろしい仮定を話していく。

 

 「そこでもし。このロクサーヌが消えたとなれば、次はどこか。お分かりになられますか! 極東が消える。その先をお分かりになられますか! 魔族がロクサーヌのみの攻撃で満足するとは思えない! 次に移動する場所はどことなるでしょうか」


 次に消えるのはお前の番だ!

 完全な脅しである。


 ロクサーヌの西は、北西と南西に連なる山があるのだが、ちょうど西にだけは、その山の部分が無い。

 平坦な道となっているために、最終防衛ラインとなるのは、ロクサーヌの町となる。

 つまり、ここが落ちれば、あとは西に進軍するのは簡単なんだぞ。

 地政学から、リリアナは相手を脅した。


 「ですから、取り次いでほしい。辺境のギルドマスタークロウに、大至急戻られしと!!!」


 端的に強い発言で願いを言い切る。

 命令にも近い言い方で、相手を圧倒した。


 「・・・わ、わかった。連絡を入れておくが、理解するかは知らんぞ。本部がこの連絡をどう捉えるか分からないからな! そこは俺の責任じゃない」


 嘘か誠か。

 魔族が来たなんて、信じてもらえないだろう。

 電話の相手方の正直な気持ちだ。


 「それでもいいです。早くお願いします! 時間が無いのです」

 「わかった。電話を切る」

 「はい。お願いします」


 ガチャンと切った瞬間。


 「ふざけんなああああ。このバカバカバカ!」


 リリアナが珍しく声を荒げた。

 よくぞイラつかずに最後まで対応が出来ていたとネルフィが賞賛する。

 

 「リリアナさん。あなたは立派です。私だったら、我慢できませんよ。あれ以上の会話なんて無理です」

 「ありがとうございます。ネルフィさん。私も我慢してませんでしたよ。途中から記憶がありませんし。ほら、見てください」


 リリアナは、自分の手元に置いていたメモ帳をネルフィに見せた。

 最初は文字が書いてあったが、最後には文字もなく、謎の線が書いてあった。

 徐々に太くなっていくので、筆圧が上がっている。


 「怒りが見えますね」

 「ええ。怒っていました!」


 しかし、怒っていても、リリアナの戦いは勝利だ。

 連絡は本部へと進んでいったのである。


 この事件の開幕は勝利を収めたのだった。

 

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