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第2話 スローライフに憧れる

 田舎的雰囲気も兼ね添えている中規模の港町ロクサーヌ。

 空気は澄んでいる上に景色も良い。

 近くに海があって、山もあるので、当然川だってある。

 自然豊かな環境であるので、そういう面においては、子供を育てるのにも好影響であるだろう。

 ギルド会館もあるので、将来有望な若者たちが集まる町でもある。

 


 ロクサーヌの町の外れ、エイン川にて。

 今日の天気の良さを背に、気分の良いクロウは、のんびり魚釣りをしていた。

 竿を握って、魚の感触を確かめるが、まだ釣れそうにない。


 「スローライフってこういう事を言うんだよな。この長閑な時間が良いんだよね」


 まだお昼過ぎの話。

 元来、この時間帯は仕事をするのが当たり前の時間だ。

 マスターであるはずなのに、何故かクロウは仕事をしていない。


 「ええ、そうですね・・・それより、マスターさんはなぜこちらにおられるんでしょうか?」


 隣にいるのはロクサーヌの町長タシノ。

 クロウが町中を歩いている所で、たまたま出会ったことで連れまわされてしまった可哀想な人物。

 お話でもしましょうと、招待されてしまい、町長の仕事があったのだが、町の発展に寄与したマスターからの誘いなので断ろうにも断れず、ついには釣りにも付き合う羽目になった。

 ちなみに、町長は釣竿を持っていないので、クロウの隣で体育座りをしている。

 決していじけているわけじゃない。


 彼の歳は、大ベテランでもなく、若手でもない。

 町の町長にはピッタリの程よい感じの中年男性である。


 「それはですね。町長殿」

 「はい」

 「釣りをしたいからです」

 「・・・い、いや」


 そう言う事を聞きたかったわけじゃない。

 町長の言葉には感情が籠ってないが、顔だけは物語っていた。


 「あの、マスターさん。お仕事はされないんですか? ギルド会館の方たちは、大丈夫なんでしょうか? まだまだ大変な時間帯じゃありませんでしたか?」


 お仕事時間中のギルド会館にマスターがいないのは良くないのでは?

 当然の疑問だ。


 「ええ。彼らなら大丈夫なんですよ。俺も、ちゃんと仕事してますしね・・・」

 「いや・・・あのぉ・・んんん?」

 

 どう見ても遊びですよね。

 町長が言いたかった言葉だ。


 「それよりも町長。どうですか。町の調子は!」

 

 言葉の勢いで誤魔化してる!

 町長の心はそう思ってるが、町長はクロウと違って、大人なので話を続ける。


 「すこぶる調子はいいですよ。冒険者さんたちの出入りが激しいので、特に宿と繁華街が賑わっていますね」

 「ですよね」


 クロウが食い気味に肯定した。


 「はい。ですが、今、この町に問題がありまして」

 「ん? ええ、ええ。相談ですね。いいですよ。どんな問題です? 俺が相談相手になりましょう」


 クロウがマスターっぽい仕事をしている感じを醸し出しているが、結局はただの世間話である。


 「それがですね。ここ最近で宿が乱立してしまったようでして。そのせいで価格破壊が起きているようなんですよ。結構ばらつきが生まれまして、評判にもばらつきが出まして。それでもともとも治安の悪さのようなものが溢れたというか・・・」

 「ああ、なるほど。なるほど! それは厄介か」


 ロクサーヌは、新人冒険者の登竜門となっている町で有名だ。

 新人が一番集まる町とも言える。

 町周辺に出るモンスターが雑魚である事。

 それと、町の近くにある二つのダンジョンが初心者帯にオススメである事。

 この二つの理由によって、冒険者になりたい者たちの一番最初にいかねばならない場所と勝手になってしまっている。


 ロクサーヌは大陸の極東にある。

 大陸中央などから、こちらにも向かうにも不便極まりない場所なので、日帰りが出来ず、結局は、しばらく泊まる事が重要となるので、出来るだけ良い宿を取るのがマストとなる。

 ロクサーヌの規模に合わないほどの人数が押し寄せてくるため、お金が良く回ってくれて、経済面では助かるのだが、そこが意外にも厄介であったりする。

 冒険者がここを拠点にするための宿借りが、オーバーツーリズムに近い現象となっているので、町民にとっては大変な面もある。

 例えば治安などだ。

 荒くれ者も多い冒険者。新人たちだから余計に半端者が多かったりする。

 そこの治安維持などで難しい面もあったりするのだ。

 

 そして、そんな彼らも、新人としてここで成長すると、次なる舞台に挑もうと旅立つ。 

 でも、それ以上にまた新たな新人がこちらにやって来てしまうから、この町にいる冒険者の数は減る事が無い。

 なので、先程の悩みも永遠に尽きることのない悩みとなる。



 「どうしたらいいでしょうかね」

 「そうっすね」


 ヒットした!

 釣りながら答える。


 「・・・う~ん。そうっすね・・・安過ぎたら罰します?」

 「町が最低額を決めるんですか」

 「その方がいいんじゃないですかね。いったん一律に近い形で運営してみましょう。やっぱり、価格破壊は良くないっすね。サービスの低下に繋がり、顧客の満足度にも影響が・・・」


 中々粘る魚だ。

 クロウは、魚と格闘しながら町長と会話している。


 「たしかに、それが一番良い案かも知れませんが・・・どの額が適正かを調べないと駄目ですよね?」

 「ええ。そうですね。そこが悩み所になりますね」

 

 辛抱した結果、魚を釣り上げることに成功した。

 何の魚だろうと嬉しそうにクロウが確認する。

 

 「やった! って魚じゃねえ。なんだよもう。誰だよゴミ捨てたのはさ! ここは自然豊か場所だぞ。ゴミなんて、川に捨てんな。ボケ!!!」


 愚痴と怒りが同時に出てくる。


 「クソ、これも人がこっちに来過ぎたせいなのか! ロクサーヌの町民が長靴なんて捨てるわけねえもんな! 誰が地元にゴミなんて捨てんだよって話だわ!」


 ボロボロの長靴が出てきた。

 長い格闘の末の釣りだったので、余計に疲れるクロウである。


 「それで、いくらがいいでしょう。マスターさん」

 

 町長の話は続いていた。

 長靴に怒っているクロウでも、町長と話す時は冷静だ。


 「・・・あ、はい。それ、俺が調べておきますよ。ほら、うちの所に冒険者がたくさん来るから、懐事情を聞いておきますね。無理なく払える範囲がいいでしょうから」

 「ああ、なるほど。最低額もお客様基準で決めた方がいいという事ですね」

 「そうっすね。その方があまりに高い値段にもならないでしょうし、宿だって助かるでしょうしね・・・よし。釣るぜ」


 今度こそ釣ってやる!

 クロウが釣りを再開させようと、竿を振り切る手前で。


 「こらぁ! クロウ。あんた。こんな所で、何やってんのよ」


 大声が聞こえた。

 

 クロウは声だけで相手が誰であるかに気付いている。

 でも念のためにと、そろりと振り向いた。


 「やべ。しまった」


 カンカンに怒っているシオンが走って来た!

 いつもは美しい顔なのに、今は鬼の形相極まれりだった。

 

 「町長。これにて失礼します。あ、その件、調べておくので、あとで報告にいきますね」

 「え? え? え??」

 

 クロウが急に消えた。

 移動が速すぎて町長の目では、彼の動きを追えなかった。


 「待ちなさい! クロウ!」

 「俺は仕事してんだってば、怒んなってシオン」

 「どこが仕事よ。釣りしてんじゃない」

 「これはたまたまだ。たまたま釣り道具を持ってたのさ」

 「そんな事あるわけないでしょ! あんた。魚を最初から釣る気満々だったんでしょ! 釣り具なんてどこにでもあるものじゃないわ!」

 「いやいや、マジだから。俺、町長とお話してたから! ちゃんと仕事してたから!」

 「こっち来なさい。このぐーたらマスター!」


 川を挟んで向こう側へ。

 一瞬でそこまで移動したクロウの身体能力は高い。

 魔法使いであるシオンでは追いつかないのである。


 「また逃げられた! 今度はこうはいかないわよ! 絶対捕まえるからね!」


 日常での喧嘩は当たり前。

 クロウのスローライフは、どこにあるのか。

 それを探す旅は始まったばかりだ。

 

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