第18話 マスター会議 報告での攻防
「今回は臨時の会議となったが、定期会議と同じで、まず報告から入ろう。前回からここまでの経過を教えてくれ。頼む」
ダニエルは北のマスターに目配せをして、お前から始めていいと報告を促した。
命令を受けたと認識をしたロウは、立ち上がって自分たちの業績と、問題点などの報告を開始した。
「北の担当の自分からは・・・」
と淡々と報告会から始まる。
北、西、南と来て、東と報告が進んでいく。
どうやら辺境は最後となるらしい。
極東の位置にロクサーヌがあるから、この順番のようだ。
そして、次々と報告があがる中で、クロウは話半分で聞いている。
彼はギルド関連の仕事はノータッチで、全てをダニエルとジュリスに任せているのだ。
「それでは私の報告は・・・」
東のマスターの報告の際に問題が起こる。
「・・・でして、我々どもの管轄では、新人が大幅減少となりました。こちらの辺境のせいですので、責任はそちらにあります」
東のマスターの主な報告は、責任転嫁の報告であった。
管轄内で、新人冒険者数の激減が生じたためだ。
ロクサーヌが想定以上の人気となってしまい、かなりの数を失ったそうだ。
以前までの新人たちは、ロクサーヌに一番近い大きな街の都市シャオラのギルド会館で、新人となり、実力者とお金持ちはそこに滞在して、ノール洞窟とケディアの塔でクエストをこなして、貧乏な冒険者はロクサーヌに宿を取って、一度に稼いで、そこに報告に行ったりしていた。
しかしここに来て、ロクサーヌ自体に会館が出来たのなら、そこで過ごせばいいだろうと、そちらが爆発的な人気となってしまった。
今まで東の管轄の新人冒険者の登録数は、ずっと横ばいだったのが、彼らがロクサーヌを目指す事となってしまったので、結果として東のマスターの管轄内は、激減となった。
これもそれも全部ロクサーヌのせいなのだ!
と彼の言いたい事は全てこの言葉に詰まっている。
そして、実際も、その要因はあるので、誰も反論は言わなかった。
しかし一概に、ロクサーヌが出来たからという要因だけで、新人が一挙にロクサーヌに来たわけではない。
実は、よく考えないと分からない。
隠れた理由があったりするのである。
新人が冒険者として過ごすのに、ロクサーヌは最も良い環境と言えるだろう。
周辺と、その近くのダンジョンのモンスターが弱いために、計画を立てやすいという利点があるのだ。
自分の実力から、クエストを取捨選択して、生計を立てやすいのが、ここを選ぶ一番の理由である。
それに宿も武器も、田舎町の雰囲気のあるロクサーヌは、大陸全土から見ても、格段に安く、食糧などの物価も安い。
これらも、ロクサーヌで新人になろうとする利点であるのだ。
でも、本当の所の理由としては、職員が優しく親切であることが要因だったりする。
受付業務をしているフランとリリアナは、事細かいケアが得意で、新人たちを安心させているのだ。
彼らは、午前はその仕事が出来ないが、午後になったら、各冒険者の相談に乗ったり、その人にあったクエストプランを提示したりと、顧客の満足度が異様に高い仕事を難なくこなしていたりする。
それと、なんだかんだ言ってクロウの面倒見の良さがありつつ、シオンという元特級冒険者がそこにいる安心感から、大人気の場所となってしまったのだ。
だから結論として、ロクサーヌが出来たから、東の新人たちが減ったのではなく、ロクサーヌにクロウたちがいるから、大陸全土の新人が、是が非でも行きたい場所となった。
この事が要因で、各地が減少していったのである。
そう、これが真実なのだ。
実は、北も西も南も、新人が減少傾向である事がその証明になっていたりする。
「ふわあ。で、もういいかい? 俺の番でもさ」
東のマスターの発言の終わり際。
クロウが我慢していたあくびを漏らしてしまった。
「貴様。今まで眠っていたのか。辺境のマスターの癖に、神聖なマスター会議を眠るだと言語道断だ! マスター失格だ! この場から消え去れ」
「おいおい。会議くらいで、そんなに鼻息荒くしなくたっていいじゃんか。興奮すんなって。ほら、せっかくの美肌が駄目になっちゃうぞ。カリカリしてたら、スキンケアも無駄になっちゃうんだよん」
「なに!? 馬鹿にするな!!!」
ここでその他のマスターに軽口を叩けるのはクロウだけだろう。
飄々としていた。
「はいはい。何だかさ。眠たい演説を延々と続けてたからよ。もっと要点をまとめて喋ってたら、まだ聞けたんだけどさ。話さ。もう少し短くならなかった?」
今の発言で、マスターたちが吹き出す。
「「ぶふっ」」
皆も同意見で、退屈だと思っていたのだ。
なにせ、新人のロクサーヌへの移動は、全員の共通認識でもあるからだ。
「お前さ。俺ん所に人が集まるのが、そんなに嫌なのか?」
「当然だ。新人の囲い込みをしている。それが目的なのだろう。東を追いやろうとして、卑怯だぞ!」
「お前、馬鹿か?」
クロウは自分のこめかみに、人差し指を当てた。
「俺の所に冒険者が集まって、全体がどうなったか。知らんの?」
「なにを言ってる? 私はさっきから、我々の所から消えたと言っただろ」
「そうじゃねえ。人は消えねえ。移動しただけだ。比較的、安全な場所にな」
「馬鹿を言え。ロクサーヌは、全体から見ても犯罪率が高かったはずだ。港町だから荒くれ者どもが多かったはず」
「それは、俺が来る前な」
ロクサーヌには治安が良い場所と悪い場所があるのは、以前にお伝えした通り。
しかし以前は治安が良いとはお世辞にも言えない場所だった。
ギルドという目玉になるような場所もなく、人の集まりが悪いので、宿の繁盛、繁華街の繁盛、これらも以前にはなかったのだ。
その上に、特産物の海鮮や野菜なども、極東という不利な位置によって利便性が無く儲からなかった。
海鮮などは鮮度が命なので、大陸各地に輸送したくても、その輸送期間で鮮度が落ちてしまうから、特産として売れなかったのだ。
現地で食べて、楽しんで欲しいものとなっていた。
だが、ロクサーヌは極東。
旅行などに行くにもなかなか勇気のある距離となる。
なので、何をしても上手くいかない地域だったのが以前のロクサーヌだ。
しかし、今は新人冒険者たちがひっきりなしに来るので、区画によっては治安の良し悪しが出たが、全体的には良い傾向が続いている。
「俺が来てから、犯罪率は減少してる。町長と協力して、荒くれ者どもは抑え始めた」
これも本当の事。
実際にクロウは町長と蜜に連絡を取り合って、町を改善してきた。
あの釣りも、町長とのコミュニケーションの一つだったのだ!
町長がそう思ったかは別としてだが。
「そんで、俺の質問に答えてねえぞ。美肌坊主!」
「ぬ? な。何だ質問って」
相手がよく聞いてなかった。
だからクロウは別なものに指名する。
「ミサちゃん。俺の言いたいこと分かる?」
「ええ。もちろんですわ」
クロウの質問の答えを知っている。
「答えてくれる? このバカに教えてやってくれ」
「ば、バカとはなんだ。バカとは」
「もういいから、ミサちゃん頼むわ」
クロウが答えを頼んだ。
「わかりましたわ。いいですわよ」
南のマスターミサリザが、淡々と答える。
「ロクサーヌに新しくギルド会館が出来た事で、全体に良い効果が起きた。それは、冒険者生存率でありますわ。冒険者に冒険は必須であり、そうなると死も隣り合わせでついてくるものですわ」
冒険と危険はセット。
死と隣り合わせは当然の事。
ミサリザは淡々と冒険者を説明していく。
「そして、その状況にもっともなりやすい者たちが、初心者帯と中級者になりたての者たちですわ。中級者の中盤あたりになると、その数がぐっと減りますので、そこまでが危険でありますわ」
完璧な回答。
北と西のマスター、それとマスターオブマスターと、隣の校長も頷いた。
「これを教えましたので。なぜ全体が良くなったかは、あなたが答えた方がいいのではありませんか? どうです。東のマスターノイル・ラルコードさん」
ここを教えたら、あとはもうあなたの頭でも分かるでしょ。
中々の嫌味攻撃だ。
「ん。そ、それは・・・」
答えが思いつかない。
結果を教えられても、その要因が分からなかった。
「あら、ここもワタクシが、教えた方が良い? 辺境のギルドマスタークロウ。いかがです?」
相手が中々答えを言わないから、痺れを切らして話をクロウに戻そうとした。
「いいよ。ミサちゃんが言ってくれ」
「わかりましたわ」
質問主から直々の指名を受けて、ミサリザは答える。
「この現象はひとえに、ロクサーヌが新人冒険者たちを鍛えているからでありますわ。ロクサーヌで育った。いわば、ロクサーヌ産の冒険者たちが、各地に移動することによって、中級者の中盤あたりの実力を着けた彼らがより難しいダンジョンに挑戦しても生存しているのです」
つまり、ロクサーヌで鍛えたことで、何事にも動じない。
生存力のある冒険者が誕生している。こういう事だ。
「だから、ロクサーヌは数値に現れない。大陸全土に対して、影の功労があるのですよ。おわかり? 東のマスターノイルさん」
「ぬ。そ、それは予想でしかないはずで・・明確な数字に影響を・・なら・・・」
何かをモゴモゴと言い始めた。
なんとなく聞こえるけれど、誰も理解しようとしなかった。
「たしかにそうですわ。では、あなた。ロクサーヌを再び東のマスターの管轄にしてみます? おそらく、生存率は今よりも落ちてしまいますわよ。ロクサーヌが出来る前、あなたの所では、新人研修などをしていましたか?」
手厚い支援をあんたはするのか。
儲からない新人にその時間を割くのか。
新人が受けるクエストなど、報酬は雀の涙のようなもの。
それでは、その仲介役のギルドにも、リターンのお金が入って来ない。
ロクサーヌが儲からぬことをほぼ無償でしてくれるおかげで、他の支部は冒険者の管理が上手く出来ている。
こういう考えを、東以外のマスターが持っているのだ。
「くっ・・い、いいえ。していませんでした」
声を振り絞った言い方だった。
「そうでしょう。あなたがやろうと思わなかった事を、ロクサーヌが担当してくれたのですわ。それでこちらに来た冒険者たちは、今も生きていますから、なにも損をしていませんの。あなたは、辺境のギルドマスタークロウからの紹介状が来ていないのですか?」
「紹介状だと。な、なんだそれは?」
「辺境のギルドマスタークロウからの直筆の手紙ですよ。そこには、冒険者の売り込みが書いていますの。あなたの管轄内なら適応できるだろうからと、預かってくれとね。冒険者側にも、こちら側にも、辺境のギルドマスタークロウはお勧めしてくれているんですよ。彼からの推薦状のようなものですわ」
ほぼ何もしないクロウの唯一の業務にして、最大の功績。
それが、紹介状である。
各地を周りに回って、世界を知り尽くしているクロウならではの。
冒険者の分配が彼の得意分野の仕事だ。
だから、普段の彼を見ていると、まったく仕事をしていないように見えるのだが、実際は、プラプラしながら、こちらの仕事をしていると言える。
現に、ギャル武闘家たちや、レオハーレムのメンバーの顔と名前を覚えているので、ここで成長していった後の次の行き先が、どこであるべきかを考えていたりするのだ。
行った先で一番近いダンジョンとの相性なども考慮していたりする。
「わ、私はもらっていない。除け者にしたんだな。辺境の癖に」
相変わらず責任転嫁が大好きだな。
クロウが答える。
「俺は、お前の所にも送ってるよ。つうか。東が一番多いんだわ。俺たちのそばだからな」
目と鼻の先なのだ。
当然、送り先の第一優先になるに決まってる。
「なに。み、見てないぞ」
「お前、職員にどんな教育してんだ? 俺の手紙、全部破いてんのか? 燃やしてんのか?」
お前の言葉が正しいのであれば、見る前に破壊してるんだろ。
クロウの予想だ。
「・・・・まさか・・な・・・まさか!?」
本当にノイルは知らなかった。
実は、手紙は確実に東の地域に届いているのだが、その職員たちが、憎き極東のロクサーヌからの手紙を無視していたのだ。
教育は大切である。
部下は上司の鏡なのであった。
上司が嫌いだと言えば、部下も次第に嫌っていくのである。
「その話。詳しく知りたいな。ノイル。ワシの部屋に来い。後で呼ぶ」
「え。ま、マスターオブマスター。お待ちください。今、確認を・・」
「いい、時間の無駄だ。それに次の議題が本来集まった理由だ。報告はもういいから、話を進めるぞ」
気が気じゃないノイルを置いて、話は本題へと向かう・・・。
自分の身を心配したノイルは、この後の会議に参加できるのか。
そこも乞うご期待である。




