第15話 冒険者を支援するのがギルドの役割
ヨミが冒険者となってから、数日後の朝。
職員の部屋で文字を読む学習をしているヨミの隣に、クロウが来た。
「ヨミちゃん。これをやってみよう」
クロウがクエストの紙を持っていた。
一枚彼女に渡す。
「これは・・・ただの紙に見えますけど。なんですか?」
文字がまだ読めないので、そう見えるだけ。
これは冒険者にとって重要な紙である。
「この紙は依頼書だよ。クエスト掲示板って会館にあるでしょ? 見てたりするかい?」
「あのぉ・・あれですか? 入口の脇にあるボードのですか?」
ヨミが会館の入口を思い出して答えた。
「そうそう。冒険者は、あそこに貼ってある紙から、依頼書を取って、受付に持っていって、クエストを引き受けるんだ。あそこの張り替えは、夜中に行われるから、次の日の十二時頃から争奪戦になるんだよ。覚えておいてね」
新着クエストの張り出しを見ることが出来るのは正午。
そして受付開始が、午後一番の一時。
なので早い者勝ちになっているので、十二時からが冒険者たちが集まりやすい時間帯だ。
ただ、新人登録の時のように、膨大な数が集まるわけじゃない。
理由としてはこちらだ。
クエストに期限というものは、滅多に存在しないが、このロクサーヌのクエストは、時限付きである。
例えば、素材クエストなどの簡単な依頼は一日を過ぎると再発行がされて、今度は達成の早い者勝ちになるので、クエストの管理に注意が必要となるのだ。
素材の屑鉄や、魔物のドロップアイテムのウルフの爪や、その他のレア素材などなど。
集めたは良いものの、早く提出しないと、誰かが達成している恐れがあるのだ。
だから、冒険者たちもこれを重々承知なので、是が非でも掲示板を見ようとはしない。
たまに確認するくらいがちょうどいい時がある。
この考えがあるために、『クエストで融通してよ』と、ギャル武闘家たちが言っていたのは、独占の事であったりする。
一度も表に出さない。
ギルド職員が冒険者に直接クエストを提示する。
裏クエストが存在するのだ。
「そうだったんだ。まだ読めないからわからなかったです」
「だろうね。まあ、そこはおいおいでいいから。とりあえず冒険者になったんだしさ。一つ訓練をしておいた方がいい。簡単だけど難しいものを見つけてきたから、これ、やってみるかい?」
「はい!」
内容を聞かずにして、返事をする。
勧めておいて、ちょっと不安になるクロウである。
「それじゃ、スライムを討伐してとあるアイテムを取って来て欲しい。アイテム名は、スライムの涙だよ。いいかな?」
「スライムの涙ってなんですか???」
その知識が無かった。
クロウが丁寧に説明する。
「うんっとね。こんくらいの」
クロウが親指と人差し指で大きさを示した。
三センチくらいの隙間である。
「涙型の硬い石みたいな奴。レア素材だから、滅多にドロップしないよ」
「へえ。レア! 覚えます」
これから冒険者として育っていくためには、こういう知識も必要だよ。
クロウの教えは、細かい部分にも配慮されていた。
「あと、色はそのスライムによるから、ここらのスライムが緑だから、緑色の涙だね」
「わかりました!」
「えっと、256分の1の確率の激レアアイテムだからね。結構大変だから、体力配分を気をつけてね。勉強する体力も残しつつ、モンスター狩りをしていこう」
文字学習を疎かにするな。
こちらにも配慮があった。
「はい」
「スライムの出現位置を記すから、君はここら辺を回っていこうね」
クロウがロクサーヌ周辺地図を取り出した。
各所を指差していく。
「まずは、ロクサーヌ周辺だ。普通に出てくるんだけどね。村人も倒せるくらいの敵だから、意外と倒しちゃってて、少ないんだ。だから探しにくいかもしれない」
ロクサーヌ周辺にもモンスターは出現してくる。
しかし、冒険者じゃなくても倒せるものばかりなので、彼らが倒してしまい、意外とモンスターが少なかったりする。
「次にお薦めは、ノール洞窟だ。ここから南西のノール山脈地帯の手前にある洞窟型ダンジョンだよ。階層は行っても三層まで。君はまだ冒険者になりたてだから、無理をしない。いいかな」
「はい。わかりました。ここですね」
クロウが指差した場所を彼女も指差す。
一個一個頭に入れる気だ。
『やる気があっていいね』とクロウは微笑んでいた。
「それで次にお薦めは、ケディアの塔だ。ここから北西の塔ね。ここも、三階まで。それ以上は駄目だ。無理をしない。一人でやるからこそ、慎重に冒険しよう。いいかな」
「はい! ここですね」
ここでもクロウが指差した場所を指差して、頭に入れようとした。
ヨミが健気である。
「それじゃ、今日は、ここからいってみよう。夕方くらいに帰っておいで。そこから勉強をするから、体力を残しつつ、冒険者の活動をする訓練をしておこうね」
「わかりました。いってきます!」
と言ったヨミは、猛烈な勢いで外に出ていった。
「ありゃ、あれで体力って残るのか? 大丈夫か?」
クロウは彼女の心配をして、お昼休憩に入ったのである。
◇
休憩中。
「あれ、クロウ。ヨミは?」
シオンが聞いてきた。
「ああ。クエストを渡したら、速攻で外に行っちゃったわ」
クロウが答えた。
「え? クロウがあの子に依頼書を渡したの」
「ああ。裏でな。表に出してないし、誰にも出してないから、彼女のみの依頼になってるから、無期限になってるぜ。こっちもその記録をしておいてくれ」
「いいけど。何の依頼?」
「スライムの涙を一個だ」
「え? あれを! あんなの一日やそこらのクエストじゃないわよ。長期のクエストじゃない」
「そうだよ。わざとだ」
「わざと?」
「ああ。あの子はまだ文字の学習が必須だ。だから、それと並行して続いていくクエストが必要だ。体力を使いつつ、頭も鍛えていくのが、今の彼女には重要なことなはずだ。これから先の冒険者としての心構えも備わっていくはず」
クロウの意見を最後までしっかり聞いたフランが言う。
「マスターにしては珍しく、最後まで理路整然としてますね。その答えは、完璧じゃないですか? もしかして、偽者ですか?」
本物かどうか怪しい。
フランが疑いの目を向けた。
「フラン君。失敬な。俺は正真正銘のクロウだぞ」
「だとしたら、この考えのマスターの元で仕事がしたいですね」
「してるじゃないか!」
「いいえ。普段はぐーたらですからね。別人です」
「ん!」
辛辣眼鏡の意見は鋭かった。
文句を言いたそうなクロウの顔を見て、フランはクスッと笑ってお弁当を食べていく。
会話の流れにリリアナが乗る。
「マスター。彼女の文字学習って、どれくらいかかる予定なんですか?」
「そうだな。どこかで、紐づいていけば、一気にいきそうだからな・・・まあ、長くても一カ月だろうな」
「一カ月で、スライムの涙って取れましたっけ? 激レア素材は厳しくないですか?」
「うん。厳しいね。だから、ちょうど良いと思うんだよ。達成できなくても、それまでの間はシオンが面倒見てくれるだろしさ」
シオンが答える。
「え。ええ。そうね。可愛い子だから、別にもう少しくらい、家にいてもいいわ」
「素直じゃないね。お前も」
シオンの本心を見抜いているクロウが肩をすくめた。
「なによ」
「お前のは、ツンデレってやつだろ」
「なによ。ツンデレって?」
「師匠の世界の・・・って言ってもわからねえか。えっと、師匠を説明しないと、この説明がムズイな。相変わらず師匠関連になると面倒だな。師匠を話に出すのはやめようかな・・・」
クロウが説明を考えている間に、皆はお昼ご飯を食べていた。
静かなメンバーは、クロウを中心としてお話をするので、各々だと黙々と食べることが多い。
やはり良くも悪くも、このギルドはクロウが中心で回っているのだ。
いかにダメダメぐーたらマスターでも、彼らはクロウを信じているのである。
「ん? 電話か。もしかして」
表の電話が鳴る。
マスターオブマスターからの電話かと思い、クロウが走っていく。
その姿を見たシオンが愚痴っぽく言う。
「珍しくキビキビ動くわね」
「そうですね。いつもこうだと嬉しいですね」
辛辣眼鏡も同意見だ。
「マスターって優しいですよね。ヨミさんをしっかりサポートしてますよね」
「まあね。あの人、案外面倒見がいいものね」
「はい! そうですよ。マスターは、優しいお父さんみたいな人です!」
「そ、そうかな?」
シオンとリリアナの意見は違った。
「マスターがお父さんは嫌ですね・・・」
フランの意見が鋭すぎたと思われたが。
「しかし、自分の父よりも、クロウさんの方が良いと思います」
最終的には同意であった。
◇
夕方。
「無理でした! 全然、涙が落ちません!」
笑顔のヨミがクロウの前に現れた。
裏のお勝手口から、職員の部屋に来て早々、元気一杯の報告である。
「だろうね。でも元気そうだから、勉強できるよね」
「はい! まだ出来ます!」
「そっか。じゃあ、早速やるよ。朝の続きからスタートだ」
「はい!」
こうして、心身ともに鍛えていく。
知力を伸ばすのにも、最適な行動である。
ヨミが席に座った。
「いいかい。ヨミちゃん。冒険者になったからには、ここから先は自分次第になる」
「はい」
「誰でもなれるから、誰にでもチャンスがある。だからこそ、争奪戦になっていくよ」
「争奪戦ですか? なんのですか?」
「依頼の争奪さ。新人の頃だと、特にね。誰でも達成できそうな依頼ばかりだから、早くに達成して、攻略できていく奴から伸びていくんだ」
「なるほど・・・」
争奪戦に勝ちあがっていく者が成長していく。
特にロクサーヌは、どんぐりの背比べに近いから、なおさらその傾向がある。
「そしてその先だと、知名度も重要となる。それと信用が絡んでくるから、依頼は達成するまで、しっかりこなしていこう。ギルド職員からの信頼を勝ち得るんだ。そうなればどんどん依頼が押し寄せてくる。それと、頭だって必要になるよ。取捨選択しないといけないからね」
闇雲に依頼を引き受けてもいいのは初心者の時のみ。
それ以外は、ちゃんと自分が出来る依頼かどうかを判断しないといけない。
「それと依頼には種類があってさ。ギルドから直属の指名や、依頼人からの直接指名があったりするからね。その時は莫大なお金が入ったりするからね。夢があるよ。誰にでもね」
「はい!」
「じゃあ、頑張っていこう。早くに文字を読めるようになるべきだよ」
「はい!」
これが、勇者見習いヨミの成長の始まりであった。




