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第12話 大爺様・大爺様・大婆様のお話

 「あなたはなんで冒険者になりたいの」


 ネグリジェを着用中のシオンが、ベッドに寝転んでいる。

 部屋が広すぎて一人じゃ寝られないと言ったヨミの為に、二人で一緒の部屋のベッドで寝るらしく、なんだかんだで面倒見の良いお姉さんである。

 キングサイズのベッドなので、二人で寝ても余裕がある。


 ちなみにヨミはただの薄着である。

 お金がないので、ネグリジェを買えなかったらしい。


 「大爺様が教えてくれた勇者みたいになりたいからです!」

 「勇者みたいになりたい?・・・それって、どんな勇者の話?」


 勇者のお話はたくさんある。

 空想のモノから、実際にいた人物の話。その実際にいた人物を誇張したお話等々。

 ありとあらゆるジャンルで勇者の物語があるのだ。


 「えっと! 旅をして、世界を救うお話です!」

 「それって、いっぱいあるわよね」

 「はい!」

 「それじゃあ。有名な所だと、魔王を倒す寸前で終わるお話かな。作り話っぽい奴」

 「はい! でもそれは作り話じゃないですよ。大爺様が真実に基づくお話だって言ってました」

 「あらそうなの」


 大爺様という人がボケたのね。

 失礼にもシオンは思った。


 「各地を回った勇者様は、今まで悪事を働いてきた魔王の配下。並み居る強敵たちを倒して、魔王城の頂上に登る。そこで魔王に向かって!」


 ヨミの話には熱があった。

 勇者のお話が好きらしい。


 「俺的には、君が悪者に見えないんだけど、倒しても大丈夫か?・・・てな感じでお話が終わります」

 「なにそれ? あたし、それ聞いたことがないわ。変な終わり方ね」


 随分と斬新な終わり方ね。

 シオンは思った。


 「でも大爺様がこんな感じでお話を聞いたと言ってましたよ」

 「聞いた? 大爺様が作ったんじゃなくて?」

 

 新たな創作物じゃないの?

 シオンはそう思っていた。

  

 「いいえ。大爺様も、大爺様から教わったと言ってました。たしか、その大爺様も大爺様から・・・それでどこかで大婆様に」


 正直そこまで行くとどっちでもいい。

 大爺様だろうが大婆様だろうが、口伝に変わりない。


 「伝承のお話なのね。だから曖昧な形で終わるのね」


 相手の言葉の全てを否定しない。

 伝承にも真実が隠されている場合がある。

 冒険者だったシオンはその事を十分承知しているのだ。

 ヨミの言葉を馬鹿にする事はない。


 「そんな勇者になりたいのね。その勇者ってどんな感じかわからないけどね」


 魔王を倒さなかった勇者像ってどんなのだろう。

 シオンは予想が着かなかった。


 「はい! だから旅をしたいんです。その勇者は、魔王と会ってから、旅に出たって聞きましたから」

 「あら、そうなの。お話に続きがある感じなの?」

 「いいえ。ないんですけど、その後に旅に出たとかって、大爺様が言ってました。そこでたくさんの人を救ったとか。この世界を守ったとかで、この世界の為に色々としたらしいですよ」

 「へえ。そうなんだ」


 随分とそこもあいまいだな。

 相槌をしないのも相手に失礼だと思って、シオンは話半分で聞いている。

 

 「そうだ。その話は、絵本とかでみたんじゃないの? お爺さんの口から?」


 文字が読めないのは、そこのせいか。

 シオンが思い立った。


 「大爺様の演技です!」

 「紙芝居?」

 「違います。一人で劇をします!」

 「ずいぶんと手の込んだ・・・」


 勇者の劇を一人でやりきる精神力が凄い。

 シオンは、勝手にヨミの大爺様を尊敬した。


 「あのね。ヨミ。あなたさ。今まで字を覚えなきゃいけないって思わなかったの?」

 「思いませんでした。冒険者は誰でもなれるって聞いてたので」


 故郷の人や、そこに遊びに来る人、色んな人から冒険者の事を聞いてきた彼女は、他の職業は無理だろうと言われてきた。

 馬鹿だから、就職も出来ないだろうと言われ続けたのだ。

 ただ、冒険者にはなれないよとは、言われて来なかったので、簡単になれる職業なんだと思い込んでいた。


 「たしかにね。誰でもなれるんだけどね。さすがに字は覚えないと大変よ」

 「そうなんですか」

 「ええ。クロウも言っていたと思うけど、冒険者が字を見る機会って、案外多いのよ。クエストの受注もね。文字でしかお知らせがないからね。ぼんやりとして、口頭で聞こうものなら、情報が遅かったりするわよ。それにほら、受注する時に、ギルド職員に紹介してもらうってやり方よりも自分で考えてクエストを受けた方がいいでしょ」

 「たしかに、そうですね!!!」


 元気一杯の返事だ。

 寝る前なのに、こんな元気で大丈夫か?

 シオンのいらぬ心配である。


 「だから、ちゃんと勉強しておかないと駄目よ。ギルド職員が不正を働くってのは中々ないけどさ。万が一でも用心した方がいいわ。人間がやる事に絶対はないからね」

 

 シオンが、しみじみと言った。


 「ほら、クエストのお値段とかで、騙してくるかもしれないわよ。字とか読めないと、金銭とかを盗まれる恐れがあるかもしれないしね」


 文字が読めないのなら、何をしてもバレない。

 例えばだが、クエスト完了の金銭報酬を横取りできたりするのだ。

 ずる賢い職員なら簡単にできるだろう。

 ヨミのようなあっけらかんとして、大雑把そうな性格の子は騙しやすい。

 

 それと、これはもちろんだが、シオンたちはそんなことはしない。

 クロウを擁護するわけじゃないが、彼は人を見る目がある。

 真面目なフランに、大天使のリリアナ、元特級冒険者のシオンたちが、不正を働くような人間ではないのだ。


 「わかりました。気をつけます」

 「ええ。後はクロウから教わるといいわ。あの人、そういう事には長けてるからね」

 「はい!」

 

 どんなにぐーたらでダメ人間でも。

 なんだかんだ言ってクロウを信じることが出来る。

 人の騙し合いにも強い彼ならば、きっとこの子も立派な冒険者にするのだろう。

 今のシオンの言葉には、辺境のギルドマスターへの絶対の信頼があった。


 「じゃあ、寝ましょうね。電気消すわよ」

 「は~い!」


 こんなに元気だけど大丈夫かしら。

 こう思ったシオンの三秒後・・・。


 「zzzzzz・・・・zzzzzz」


 静かな寝息を立てて寝ていた。

 爆速就寝に苦笑いするシオンは、ヨミの成長がどの方向へと進むのかを楽しみに、眠りについたのであった。

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