第11話 面倒見のいい二人
業務終わり際。
「ちょっとクロウ、ちょっとこっちに来て」
シオンが、ちょんちょんとクロウの肩を叩いた。
「ん。どした?」
柔らかい言い方だ。
実は、この二人。
優しい空気感でも会話が出来る。
「いいから」
「わかった。ヨミちゃん。これが文字だからね。真似て書いて勉強しておいて、俺ちょっと席外すわ」
「はい!」
ヨミの返事がいつも元気。
真面目な話も出来る二人は、この子に元気じゃない時が無いんじゃないかと思った。
二人で別な部屋に入る。
「あのさ。クロウ。あの子をどうする気」
「どうするって。この先も字を教えんだわ」
「違うわ。そういうことじゃない。このままだと、夜を超えるわよ。全然覚えないでしょ。まさか、ここに泊まらせる気なの」
傍目から見ても、中々覚えてくれないがわかる。
「・・・んんんん。そうだな。金がないみたいだから、泊まってもらうか。あの子、野宿しそうな勢いだしな」
「ここに?」
「ああ。俺だって住んでるし、部屋ならあるから、しばらく泊めてあげるよ」
「駄目よ!」
強めの否定が来て、クロウの肩がビクついた。
喧嘩腰の会話じゃないので余計にビックリした。
「え? なんで。別にいいだろ。字を教える合宿みたいなもんだ」
「駄目よ。結婚してない男女が同じ屋根の下に住むなんて。絶対ダメ」
「あのなぁ。考えすぎだぞ。お前さ。あの子と俺がどうにかなるとでも思ってんのか? ありえんぞ。あの子、まだ子供だと思うぞ」
姿は女性だけど、まだまだ若い。
クロウは実年齢を見ていた。
「いいえ。何か起こるとは思ってません」
何故か丁寧な言葉でシオンが即答した。
「じゃあ、いいじゃねえかよ」
クロウの言う通りである。
違うと思っているなら、拒絶する必要もない。
「駄目なものは駄目!」
強い言葉に切り替わった。
シオンの感情が上下に揺れている。
「じゃあ、どうすんだよ。あの子。金ないって言ってんだぞ。あの子の学習ペースに合わせると、しばらくは字を覚えねえんだわ。そしたらその期間。宿に長期泊まらせるつもりなのか? あの子、働けねえんだぞ。まだ名前が書けないんだから冒険者になれねえの!」
今日中に名前を覚えさせることが出来るかと思ったら、まだまだ時間がかかるようで、そうなると、文を覚えさせるのはもっと時間がかかる。
冒険者としてやっていけるようにするには、一カ月くらいは必要となるだろう。
「・・・・だって・・・駄目でしょ。夜にあなたと二人きりにするの? 駄目よ」
何を言ってもダメダメばかりで、クロウがため息をつく。
「はぁ。いいか。二人きりって言ったって、部屋は別だぞ。ほら、臨時の宿直室でいいだろ。俺は俺の部屋で寝るからさ」
「・・・んんん・・・」
なんでこんなにシオンが悩むのか。
クロウの頭では分からない事であった。
「難色示すな。お前・・・そんじゃあさ、お前が彼女の面倒を見てくれるか」
「え? あたしが?」
「お前さ。部屋何個の家に住んでんの」
シオンが間取りを思い出す。
「・・・7?」
即答したかったから大体で答えた。
「げ!? マジで」
「荷物部屋みたいなのもあるから、使えるのがそれくらいかな」
「あり過ぎだろ。お前、結婚してたっけ?」
「し、してないわよ! してるわけないでしょ。まだ24よ」
「そうだったっけ? 若いんだなお前」
シオンの年齢を覚えてなかった。
「まあ、でもさ。一人でその部屋の量はねえわ・・・俺も住みてえくらいだ。一部屋貸して欲しいぜ。こんな狭い部屋じゃなくてさ」
ギルド会館の隅にあるクロウの部屋。
プライベート空間となっている部屋のサイズは、ギルドマスターという肩書にしては小さい4畳である。
ベッドと小さなちゃぶ台で満員みたいな環境になっているのだ。
「え!? あなたも」
「ああ。その数ありゃ、良い感じだよな。昔行った事があるディヴァンのお屋敷くらいあるよな。つうか。そのサイズだと家じゃなくて、お屋敷か?」
昔に行った事があるお屋敷は緑色をしていた。
鬱蒼とした森の中にあるので、擬態しているように感じるお屋敷だ。
「え。まあ、それくらいはあるかな」
「シェアとかじゃなくて、一人で住んでんの?」
「うん」
「掃除は?」
「魔法で」
「面倒だろ」
「たしかにね」
「もっと小さい家の方がいいんじゃね」
「たしかにね」
「なんでそんな場所にしたんだ?」
「安全かなって」
「そこが?」
「うん。治安が結構いいからね」
「なるほどな」
ロクサーヌは、治安がいい場所と悪い場所に別れている。
人の出入りが激しい場所は、治安が宜しくない。
シオンが住んでいる場所は、地元民のみで構成されている住宅街だ。
北地区が比較的安全で、南地区が宜しくない。
ちなみにギルド会館はその間の中央地区に存在する。
「まあそうだな。女の子一人なら治安が良い所がいいよな」
「そうね」
「お前もだいぶ美人だしな。男どもが寄ってきたら、あぶねえんもんな。でも強いからいいか」
「え?! び、美人!」
褒められると思わなくて、シオンの顔が赤くなる。
「ああ。黙ってりゃ超美人だ!」
最後の一言が余計だった。
「なんですって! このぐーたら男」
「ぐべ!」
ぶん殴られてしまった。
綺麗な右ストレートがクロウの左の頬に入った。
◇
だいぶ話が脱線したのでクロウが話を元に戻す。
腫れた頬のままで会話は進む。
「じゃあ、お前がヨミちゃんを預かってくれ」
「話が戻って、いきなりなのね」
「ああ。お前が見てくれるなら安心だ」
「それがあなたの命令なのね。マスターとして。人として?」
「両方だ。ただ命令じゃねえ。これはお願いだ。お前が無理なら、ここに泊めるだけだからな」
自分は最初からそのつもりだから。
クロウはギルド会館を指差して、シオンに伝えた。
「・・・わかったわ。あたしが面倒見る」
「よし。頼んだぞ。あの子、だいぶやらかすと思う」
「え?」
「あの子さ。たぶん、ドジだ! 気をつけろよ」
「は?」
「俺の人を見る目は、結構正しい! 家の中の物とかを壊されないように気をつけろよ」
「ええええ」
と半ば強制的に押し付けられたシオンである。
◇
そして、ギルド会館の仕事時間後。
PM8:00付近。
「お疲れ様でした。マスターまた!」
「お疲れ様でした」
リリアナとフランが帰る。
「ああ。またね~」
クロウが軽く手を振った。
「あたしたちもいくわ。戸締りしっかりしなさいよ。火とかも気をつけてよね」
「お前さ。俺大人だぞ。毎回毎回さ。子供に言うみたいに、疲れないか?」
「いいの。心配だから念の為よ」
「真面目だな・・・ヨミちゃん。シオンの世話になんな。気兼ねなくくつろいでくるといいよ。部屋余ってるだろうしね」
「でも・・・いいんですか?」
ここで遠慮するのか。
意外としっかりしてる子だな。
失礼にも二人は思った。
「いいわよ。あたしの家は一人や二人くらい増えても暮らせるもの」
「ありがとうございます!」
「うん。じゃあいこうか」
「はい!」
シオンとヨミが帰ろうと、ギルド会館から動いた。
三歩目あたりで、シオンが振り返る。
「いい。クロウ。気をつけなさいよ」
「うっさいな。口やかましい母ちゃんか!」
「違うわよ。会館が火事にでもあったら、あたしたちが路頭に迷うんだから!」
「はいはい。前向いて歩けよ。そっちこそ気をつけろ。夜道だからな。襲われないようにしろよ。それと襲われても殺すなよ。お前強いからな!」
お前は元特級冒険者なんだから路頭に迷うなんてありえねえだろ。
クロウの内心の言葉である。
「大丈夫よ。風魔法とかでぶっ飛ばすから安全よ!」
と言って帰っていった。
その去り際の様子を見たクロウが。
「だろうな」
苦笑いで呟いた。
本当にそう出来るから、襲撃者の方に同情しそうになるクロウであった。
面倒見の良い二人は、こうしてギルド預かりで、冒険者になりたいヨミを育てることとなった。




