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第4話:追放

 街には兵士が巡回し、夜間外出禁止令が出された。

爆発音が遠くから聞こえることもあった。

仕事は増えたが、それは子供にとって危険な環境を意味していた。


 エバは子供のために役所に何度も足を運んで、どうにか保護や、より良い仕事への就労支援をしてもらえないかと頼んだが、結果は芳しくなかった。


 酷い職員だと額の印を見ただけで帰れと言われたが、優しい職員もいた。一生懸命調べてくれたが、それでも厳しかった。


誰だって人を喰えるものの隣に住みたくはないし、一緒に働きたくはない。

被差別民向けの慈善事業のようなゆとりある活動が出来る状況でもない。


 徐々に店から食料品が消えた。

 内戦は貧民出身の反政府団体と軍が戦っており、戦場に近いこの地域に商人が近寄らなくなったのだ。


 コンクリートでもガソリンでも飲食できるエバと違い、子供の食事は入手困難となった。

子供はどんどん痩せていく。


エバはマルタにどんな仕事でもすると言って、とても子供には聞かせられない仕事もするようになった。


 そうしてやっと手に入れた食料でも、美味い不味いという次元ではなく、腹に溜まるか否かというだけのものだった。


ペースト状の灰色の肉や、硬すぎるビスケットや、国が配っている健康維持食品という名のゼリーなどだった。


 子供は五年もエバの側にいたが、まだエバのことを慕ってくれていた。


 痩せた腹を指差し「ママ、お腹空いた」と訴える子供を見ると、エバの心は締め付けられた。


◇◇◇


 ある日、マルタがエバを呼び出した。マルタの表情はいつもと違い、険しかった。


「エバ、あの子……本当はあなたの子じゃないのね」


エバは驚いた。

「どうして……」


 「そりゃあ、あんたが子供の食糧ばかり買うからよ。食神の民なら普通他のことに金を使う。

まあ他の奴らが子供のことなんか考えてない馬鹿ばかりっていうのもあるけどね」


 「久しぶりに新鮮なお肉が食べられるわね!」

マルタの言葉にエバは愕然とした。


約六年間、必死に愛情を注いで育ててきた。

子供のために自分の命も捧げる覚悟でいた。


マルタはそんなエバを間近で見ていた。

エバが仕事の時は子供の面倒を見てくれたりもした。


 それなのに、食神の民の子でないと分かった途端に非常食と見なすなんて信じられなかった。


 「私は……あの子を愛しています。食べるなんて、そんなこと出来ません、させません!!」


 マルタの表情がすっとなくなった。

「でも、あなたは食神の民よ。本能には逆らえないでしょう?

あれは、まあ本当の子供じゃないんだし、あんただってどこかで非常食だと思ってたんじゃないの?」

「子供を守るのが母親の本能です」


 組織のボスのマルタはこの状況下でも真っ赤な口紅をして、白い髪を後ろに撫でつけて、食神の民の印をむしろ見せつけるようだった。

タイトなスーツを着て、ハイヒールを履いていた。


マルタは煙草に火をつけた。


 対して脚を震わせながら抗議しているエバは、着古したワンピースに艶がなく広がった茶色の髪で額を隠していた。

 青白い顔は化粧など程遠く、スニーカーは穴が空いていた。


 「あんたがそんな生活をしているのは、食神の民以外の連中が私たちを差別するからよ、あの子の親があんたをそんな風に惨めにしてるのよ、喰われて当然でしょう」

「あの子の親は私です」


「満足にミルクもあげられなかったくせに、よく言うじゃない」

マルタは冷たく言い放った。


「食神の民は仲間で結束しなければ生きていけないの。私は今まで、あんたみたいな小娘に想像出来ないような泥水を啜って、組織を、食神の民の仲間を守ってきたのよ。あの子の本当の親みたいな連中から!」

マルタは机の上の物をひっくり返して激しい音を立てた。


 マルタの夫の写真が倒れ、息子たちとマルタの写真が転がった。


 「……出て行きなさい、この街から。今すぐ!私の前に二度と姿を現さないで!!」


 マルタの叫びを背に、エバは駆け出した。

 子供を守るためには、ここから逃げるしかない。


 しかし食神の民がマルタという大きな組織を敵に回し、食い荒らしの街を追い出されて、子供を連れて生きるのは不可能に近かった。

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