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こういう終わり方

 公園のベンチで、マルタは深く息をついた。


 秋の風が、優しく頬を撫でる。


 平和だ。


 この世界は、確かに平和になった。


 食神の民への差別は減り、マルタのいるこの国以外でも、あの国でも共存への道が開かれた。


 偽名で運営しているマルタの店は繁盛している。従業員たちは笑顔で働いている。


 だがマルタの胸には、違和感があった。


 本当にこの平和を享受すべきだったのは、自分ではない。


 夫であり、息子たちであり、エバであり、あの時代を、必死に戦った人々だった。


 だが彼らは、この平和を見ることなく死んだ。

マルタだけが、生き残った。

それは、正しいのだろうか。


 マルタは目を閉じた。

風の音が聞こえる。子供たちの笑い声が聞こえる。

平和な音だった。


 だが、マルタの耳には別の音も聞こえた。頭の後ろに。

この硬い音は、昔よく聞いた音だった。


 背後に気配を感じた。

誰かが、立っている。

マルタは振り返らなかった。


 なぜか、分かっていた。

 これが、終わりなのだと。


「私もこういう終わり方じゃないと、駄目よね。フェアじゃないもの」


 マルタは、小さく微笑んだ。

どこか安心したように、目を閉じた。


 銃口から乾いた音が、公園に響いた。


 一瞬の静寂の後、悲鳴が上がった。


 人々が駆け寄ってくる。


 ベンチに倒れたマルタの表情は、穏やかだった。


 まるで、長い旅を終えて、ようやく安らぎを得たような顔。


 膝の上の革の鞄が、地面に転がった。


 中から、写真が数枚滑り落ちた。

皺があり、掠れて、マルタが何度も何度も見返していたことが分かる古い写真。


 その一枚はエバとルイと、マルタが写った写真だった。


 三人とも、笑っていた。


 本当に幸せそうに。

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