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信じたかった未来

 マルタは気付かないふりをしなければならないことが多かった。

全てを認識していては、不安が多すぎて生き抜いていけなかった。


 行方不明の組織員の家族の今後、怪我をして働けなくなった組織員の未来、表の不動産業への公的機関からの嫌がらせ、敵対組織からの細々した嫌がらせ、顧客からの無茶な要求……。


 その不安の一つが、このまま食い荒らしの街で、エバが食神の民でない子供を育てることは不可能だということだった。


 治安は悪化し続けている。報告してくた部下以外にもいつか誰かに気づかれる。もしかしたら他にも気付かれているのかもしれない。


 報告してくれた部下は古参で、他の組織員からの信頼も厚い。

部下たちが彼に進言したのかもしれなかった。


 もし今後、ルイの正体に気付いた組織員や人が、食神の民以外へ恨みを募らせている者だったら、ルイは殺されるだろう。育てていたエバも一緒に。


それは食神の民にとって普通のことだった。

特に、組織の筆頭である息子たちが、食神の民以外との戦場にいる今は、マルタには庇いきれなかった。


 マルタは爆発しそうな思考の渦を抱えて、髪を掻き回しながら叫んだ。

「出て行きなさい、この街から。今すぐ!」

それがマルタに出来る最善だった。

「私の前に二度と姿を現さないで!!」


 エバは駆け出した。

マルタは、その背中を見送りながら、もう何が理由なのか分からない涙を流した。


 エバとルイなら、きっとどこかで生きていける。

もっと安全な場所で。もっと幸せな場所で。


 マルタは、そう信じたかった。


◇◇◇


 だが、現実はマルタの願いを裏切った。

亡命してから数年後、マルタはある新聞記事を見つけた。


 あの国が内戦の混乱の中で食神の民を一方的に処刑したことに対する、国際社会からの非難があり、その後国が罪を認めて大臣が謝罪したというものだった。


 殺害された食神の民のリストが、紙面を埋め尽くしていた。


 そこに、エバの名前があった。


 マルタは、その場で膝をついた。

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