家族だった
エバを呼び出した時、マルタの心はぐちゃぐちゃだった。
エバが可愛かった。何も知らなくて、何も出来なくて、それでもひたむきに、一生懸命に子どもの世話をして、身を粉にして働いていたエバに、マルタは娘のように接してきた。
その恩返しが、息子を生死不明の状態にしている敵の子どもを育てることなんて、あの時のマルタにとって耐え切れるものではなかった。
「久しぶりに新鮮なお肉が食べられるわね!」
マルタはそう言った。言わずにいられなかった。
同じ気持ちにしてやりたかった。息子が死ぬかもしれない恐怖を味わわせてやりたいという、とても汚い復讐心だった。
同時に、部下の報告があった以上、組織のボスとして、食神の民として、当然の対応を示さなければならない事情もあった。
だがエバは、震える声で答えた。
「私は……あの子を愛しています。食べるなんて、そんなこと出来ません、させません!!」
その言葉に、マルタの心は更にぐちゃぐちゃに掻き乱された。
何て勝手なことを言うのだろうと怒りが増した。
あの子の親みたいな連中のせいで、マルタがどれほど涙を流し、傷ついてきたか、エバが若さゆえに何も理解していないことが腹立たしかった。
エバを処罰することもできた。組織のボスとして、裏切り者を処分する権限があった。
ルイを無理矢理に食べてしまうこともできた。食神の民にとって、それは珍しくないことだった。
だが、マルタが怒りに任せて机の上の物をひっくり返した時、夫と息子たちの写真が倒れた。
その瞬間、エバとルイとの日々が、走馬灯のように蘇った。
初めてエバに会った夜。倉庫で泣く赤ん坊を抱えて、必死に育児をしていたエバ。
ルイが笑うようになった日。初めて「マルタおばあちゃん」と呼んでくれた日。
ルイの誕生日に、ケーキを囲んだ日。生まれてくれてありがとうと祝った日。
エバが仕事で、マルタがルイの面倒を見た日、ルイがマルタの膝の上で眠った、あの温もり。
息子たちは今まさに、食神の民でない者たちと命懸けで戦っている。
ルイは、その敵側の人間だった。
だが、マルタにとって、エバは娘だった。
ルイは、孫だった。
血は繋がっていないが、確かに家族だった。




