崩壊と師
「……あ」
「がぁ?」
「うっ?」
タリア王国は危機に瀕していた。
たった一匹の黒い竜の襲撃によって国の機能そのものが壊れていた。
『……これが強い冒険者チームと言われた騎士団? 弱者の間違いであろ?』
そう言ってから姿が変わる。
灰色の髪をした男だった。
そして何者も寄せ付けぬ強者の貫禄を持ち合わせていた。
「さて、他の皆はどうかな?」
そう言って黒竜は笑った。
「社長! もうここはだめです! 敵の軍勢を止める事が叶いません!」
一人のテクノックス社員が吠える。
「……大半を連れて逃げろ」
「社長!」
「ごっ?」
すると社長と言われた一人の男性の腹に穴が空いた。
「あーすみませんねぇ社長。 僕あっち側につく事にしたんですよ!」
「お前!? 社長になんて事を!」
「あーうるさいね。 君黙ってよ」
一人の研究員が近場にいた社員と社長を撃ち殺した。
「さぁて! みんな! 行こうか! 楽しいパーティの時間だよ!」
そう言って一人の研究社員はたくさんの死者達を引き連れて、外へ出た。
とある場所では冒険者の街クランが燃えていた。
人は全滅し、草や建物の形すらない。
「……いやはやここまでとはね」
そう言って一人の冒険者が虫の息になっていた。
「……私達の軍勢を知らなかったのか? 冒険者協会」
そう言って赤髪に赤い目をした男が協会の長を見下ろしていた。
「……騎士団も、冒険者協会そして、テクノックスが全滅とはお前達は何者だ」
既に会話が意味ないと悟りつつも、冒険者は会話を続けた。
「……いいだろう教えてやる。 我々は厄災。 名も形もない世界を破滅する因子」
「……はっ。 通り魔かごふぅ?」
「……俺達はただのバグだ。 壊す、犯す、侵食し蝕むそれだけに存在する」
「う、うぐぁぁぁぁぁ!?」
「手駒になって貰うぞ」
そう言って赤髪の男は冒険者の体を汚染し一つの化け物を生み出した。
「……後、我々に抵抗出来る勢力はスカルバンドと白虎同志か。 簡単だな」
そう言って赤髪の男は廃墟になった冒険者の街クランを去り、スカルバンドの元へ向かった。
「あーかったリィ」
そう言いながらスカルバンドのリーダーであるデモンはソファで寝転んでいた。
「ん? 騒がしいなぁ」
そう言いながら立ち上がり、外に出ると赤髪の男が現れた。
「……ようテメェ何しに来た?」
「………殺戮」
そう言ってから赤髪の男は手を鉤爪に変換させて、デモンの全身を吹き飛ばした。
「……冒険者。 大した事ないな」
赤髪の男は一日にして二つの冒険者チームを壊滅させたのだった。
それがアムズが昼寝をしている時に起きた出来事であった。
「……んあ?」
アムズは口に涎を垂らしながら目を覚ました。
「……俺寝てた?」
「そうだ」
振り返ると杖を持ったライッツオが立っており、アムズは背筋を凍らせた。
「……ライッツオ様。 おはようございます……レイネア様は?」
レイネアの傍付きにして、側近である老師を相手に思わず背筋を正す。
「レイネア様は今は皆とおしゃべり中だ。 それと夜に集落を出た事は不問にする。 その代わり、たくさんの鍛錬をお前に課す」
「……はい」
そう言ってアムズは俯いて頷いた。
祖父でもあり、魔法、体術の師を前にして意見出来るほどアムズは偉くなかった。
すると全体を揺らす揺れが響いた。
「……敵か?」
そう言ってライッツオが睨みながら天井を見上げた。
「立てアムズ。 敵襲の可能性がある! レイネア様を守るぞ!」
「はい!」
ライッツオの言葉に頷いてアムズはライッツオの背を追いかけた。
「うわぁ!?」
「ぎゃあ!?」
「ごっ!?」
槍を振るう一人の戦士を相手に白虎同志に所属する冒険者達が死体へと変わる。
「下がれ。 逃げろ! レイネア様を護衛する事だけを考えろ!」
ライッツオが声を上げて、全体の混乱を鎮め撤退を促した。
「ライッツオ様!? お、お一人で敵を倒すおつもりですか!」
「……それよりレイネア様は!」
一人の剣士を相手ライッツオは怒号を飛ばして、レイネアの生存確認をとった。
「はっ! リビトとハリネが護衛しレイネア様を含め皆を連れて逃げています!」
「よろしい。 ならばお前達も下がれ! 後は私が片付ける!」
「ら、ライッツオ様!」
「ライッツオ様!」
「おやめ下さい! あなた様が生きねばレイネア様は泣かれますぞ!」
「……分かっているそんな事は。 早く行け!」
「「はい!」」
ライッツオの指示を聞いた冒険者達は祖父と仰ぐ導師の最後を悟り涙を堪えてその場を立ち去った。
「……それでいい」
悲しみを理性で抑えてライッツオは目を伏せて、殺すべき敵を見据えた。
「久しいなイルズ! お前は単細胞なバカだが仲間を思う心はあったはずだぞ!」
集落を襲撃した相手の名を呼んでライッツオは杖を構える。
「う、うぐぅ! うぉぉぉぉ!!」
鎧武者の様な甲冑を着ているが既にボロボロ。
意識は既になく、死臭が強い。
見るからに死体を操られているとライッツオは悟る。
「……いや、詫びよう。 お前は今でも仲間思いだ。 三人しか殺さなかったのだなお前は」
大切な家族を殺されて冷静を欠いていた事を反省。
既に言葉にした通り、イルズは豪胆で優しくレイネアに対しても誠実な騎士と言うべき戦士だ。
その忠義に厚い男がどうしてレイネアが悲しむ行いを出来ようか。
「う、うぅぅぅ。 うぉぉどぉぉ!!」
イルズが吠えるがライッツオは悟る。
これは泣いている。
己の不甲斐なさを、仲間を殺した己を呪って泣いているのだと理解する。
「……安心しろ。 私も時期に地獄に行く。 今は私の炎で眠れ」
「うぁ」
そう言ってライッツオは杖から大きい火の球を発射してイルズを弔う。
その火の魂を掻き抱く様にイルズ両手を広げて受け入れて全身を消し炭にした。
「……今は眠れイルズ。 お前の仇は討つ」
そう言いながらライッツオは青筋を浮かべて背後から襲いかかって来た敵襲のを相手にノールックで棒術で応対。
まるで野球のバットの様に顔面をホームランした。
「……痛いな。 貴様ただの老人ではないな」
「黙れ。 我らが神殿を汚し、仲間を操り! 非道外道を尽くす奴め! 許さぬ!」
全身から殺気と魔力を滾らせてライッツオは怒れる獅子となった。
「……別にいいじゃん。 死んだら何もない」
襲撃してきた青髪の男はどうでも良さそうに口にしてため息を吐いた。
その態度にライッツオは更なる怒りを抱く。
「……ふざけるなよ若造が。 レイネア様のお気持ちがお前には分かるか!? 一人の一人が行き場所もなく絶望していた時に手を差し伸べられ! 誰にも汚されぬ聖域としてここはあるのだ! この私とてそうだ! ただの魔法使いである私が絶望し命を捨てようとした時に手を差し伸べてくれたのがあの方だ! それをお前は踏み躙った! 白虎同志の聖女傍付きとしてお前の命は私が奪う!」
「あっそう」
平行線の言葉を発して両者は走り出した。
赤髪の男の髪が硬化してライッツオを襲う。
だがそれをライッツオは氷の魔法で溶かした後、特大の炎で全身を消し炭にした後連続で電撃魔法をぶち込んで粉砕した。
「……とっとと、再生しろ。 この程度で終わる相手ではないだろ?」
「ひどいなぁ。 手心ってないの?」
「ちっ」
ライッツオの予測通り赤髪の男の体が再生している。
速攻で終わらせたかったがそうもいかないらしい。
「……お前達の目的はなんだ?」
「蝕み、犯し、殺す事」
「なるほど対話不可能の存在か……ならば嬲る!」
既に俊足を持って赤髪の男に棒術で五十発の蓮撃を叩きこむ。
それに加えて杖先で微量の電気を流して相手の体の自由を奪う。
「死ね」
そう言って顔面に連続で棒をぶち込んでライッツオは相手の命を奪った。
「これで! がっ!?」
すると気がついた時には背後から胸を刺されていた。
「あっ?」
「……痛いってば。 やめてよ暴力」
「……何故?」
「あー簡単な話ね? それ分身。 僕は分身の加護を持っているんだ」
陰惨な笑みを浮かべて青髪の男は笑った。
「そう……かならここで殺す必要があるな」
「……えっ?」
すると青髪の男目の前に杖が現れて呆けた顔をした。
「死ね」
ライッツオが一言つぶやくと特大の炎が青髪の男を燃やし消し炭にした。
「は……ああ。 体が再生しませんね……私も老いましたな」
ライッツオが膝から崩れ落ちると、地下神殿が揺れ始めた。
どうやら自身の魔法のせいで崩れかけているらしい。
普通モバイルは心臓、頭脳を潰されようとも再生するが百歳になった時から細胞の衰えが始まり再生が遅くなる傾向にある。
その為五百年生きたライッツオにはもう体を再生する術を持たずただ死ぬのを待つのみである
「ら、ライッツオ様!」
するとそこにアムズが駆け寄ってきた。
「ライッツオ様! ライッツオ様! 目を覚ましてください!俺はまだ教えを乞いたいです!」
十五の少年がまるで自身を祖父の様に接して涙する。
ライッツオは今はそれが少し嬉しかった。
自身は本当の意味で家族を持てなかったから。
「……アムズすみません。 どうやら私は死ぬようです」
「そんな! 嫌です! 俺はもっと教えを!」
そう言いながらアムズは涙する。
師匠にして、祖父であるライッツオを見捨てると言う選択を取れるほど彼は大人ではない。
「……仕方ありませんな。 アムズ手を出しなさい」
「は、はい!」
アムズはライッツオの言われた通り右手を出した。
「私の加護は譲渡の加護。 自身が持つ魔力を相手に引き継がせる事が出来ます」
「……それってつまり」
「……私の五百年分の研鑽で得た魔力をあなたに上げます。 自身の物にして高みへ至りなさい」
まるで孫を諭す様にライッツオは笑う。
最後に看取られる人生でよかったと心から思う。
最後に一人で死ぬのは少し心細かったから。
「すみませんライッツオ様! 俺命が惜しくて戦いに参加しませんでした! 臆病でした!」
ボロボロにアムズが泣いている。
別に泣かなくていいとライッツオは内心思うがそれを押し殺す。
今口にしたい言葉はそんな言葉ではないから。
「……アムズ。 レイネア様を……白虎同志を頼みます」
「……はい! 分かりました! ライッツオ様!」
「ふっ。 よかっ……た」
そう言って白虎同志の導師ライッツオは命の鼓動を止めた。
「う、うううぁぁぁぁぁぁ!!」
アムズの慟哭は地下神殿の崩壊音によって全て掻き消えた。




