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ライフモバイルユニバース  作者: 宅間晋作
一章 白虎同志
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孫とおじいちゃん

「ふわぁ」


 アムズは眠りから覚めて、顔を洗う。

 そして集落の皆が集う食堂に向かった。


「おう! アムズ家出は楽しかったか?」


「レイネア様を困らせてはダメよ」


「そうだそうだ!」


「……ぐっ」


 どうやら一昨日集落から無言で出ていった事は皆にばれているらしい。

 それが今はとても恥ずかしかった。


「わ、悪かったよ! 俺だってずっとこの地下神殿で暮らしているんだ! ち、ちょっとぐらい集落の外に出たっていいだろ!」


 アムズは周りの皆からやいやい言われて、恥ずかしくなってきたので顔を赤く染めて言葉を返した。


「………アムズ心配していましたよ?」


 すると肩に手が当たるのを感じて振り返るとライッツオが温和な笑みを浮かべていたがみるみると手に籠る力が強くなり、アムズの方がミシミシ言い始めた。


「い、痛い! 痛いです! ライッツオ様!」



「……これはレイネア様の慈悲を無視した罰です。 レイネア様がお前の事を考えず物を言っていると思ったか? ハリネ、リビトがなんの優しさもなくお前をしごいていると思ったか? 甘いぞ若造」


「……ライッツオ様?」


「……ふぅ。 やれやれ怒る事はいくつになっても嫌な物ですな」


 そうため息を吐いてライッツオは自身の部屋へと向かってしまった。


「……どうしたんだ?」


 いつも温和なライッツオの怒気にアムズは困惑した。


「……でも俺、ライッツオ様に心配かけたんだよなぁ」


 そう言ってアムズは一人状況整理の為に言葉を口にするも不安が胸に広がった。

 たとえ粗相をしても笑って許してくれたライッツオ。

 その優しさや寛容な心をアムズは踏み躙った気がして自己嫌悪が胸に広がった。


「……ご飯を食べる前に顔を見せてこい」


 そう言ってリビトが現れてアムズに言葉を告げる。


「……リビト様。 俺はライッツオ様の心を踏み躙ったのでしょうか?」


「……そうだな。 ライッツオ様は五百年を生きられるお方。 白虎同志の最古の人間にして設立当時から在籍している唯一のお方だからな」


「……そんなすごい方だったのですか」


「……基本的に私達モバイルは存在固定。 及びデザインの固定をしてもしてなくても約千年で寿命が尽きる」


「……そうなんですか」


「ああ。 どうしても魔法や加護の行使。 肉体の再生、食事、睡眠によって細胞が日々変化するからな。 だからこそ保って千年だ。 首や心臓を刺されようともある程度睡眠を取ればほぼ不死身な物だがそれでも死ぬ時は死ぬ」


「……そんな」


「……それを知っているからこそライッツオ様は人間であるお前を心配している。 あの方にとってはこの集落に住む者は皆孫であり、家族同然なのだからな」


 そう何者を言わせぬ威厳をもってリビトは言葉を口にする。

 だがそれはどこか無知な弟を諭す兄のようでもあった。


「……ところでリビト様は何歳なんだ?」


「私やハリネは二五歳だ。 レイネア様に至っては聖女の加護をもってらしゃるからな本当の年齢は知らん」


「……聖女の加護ってすごいの?」


「………大体五千年くらいまで寿命が伸びる効果があると言われているがよく分からん。 聖女の加護を持っていらっしゃるのはレイネア様を含め三人しか現代にはいないからな。 過去の聖女達は知らんが」


 そう言ってリビトは口を閉じた。


「へー」


「……もう追加の雑学はいいだろう。 さっさとライッツオ様と話してこい」


「はい!」


 リビトに催促されてアムズはリビトの部屋を訪れた。


「あら? アムズ来たのですね? 珍しい」


「うぉぉぉぉぉ!?」


 すると全身下着姿のレイネアが見えて扉を閉めた。


「な、なんでレイネア様がここに!? ここはライッツオ様の部屋でしょうに!?」


 扉越しでアムズは大きな声をあげてレイネアに声を掛けた。


「大体ライッツオは食事が早いので、ご飯を食べたらこの部屋で私とおしゃべりしながら一緒にお茶を飲んだりしてくれるのですよ」


 そうレイネアの温和な声が聞こえて怒ってはいないのだと察し、アムズは心を落ち着かせた。


「……す、すみませんレイネア様。 レイネア様の肌を肢体をまじまじと見てしまいました」


 そう言ってアムズは自身の失態を謝罪する。

 部屋にライッツオがいると思ってノックもせずに入ってしまった。

 自身の不注意と無礼さを反省してもしきれなかった。


「ふふ。 ほら服を来たので入ってきてください」


「……はい」


 レイネアにそう言われて、アムズは扉を開き部屋に入った。

 そこにはいつも通り、白い僧衣を来たレイネアがいた。


「……改めて謝罪しますレイネア様。 俺はあなた様の肢体をまじまじと見てしまい……」


そう言ってアムズは地面に座り、頭を下げた。


「大丈夫ですよ? ほらアムズ顔を上げて?」


 そう言ってレイネアはアムズの頬を包んで顔を上げさせた。


「……ふふ。 血は繋がっていないのにリビトみたいな事を言うんですね? 可愛い」


「……はい。 リビト様に叩き込まれましたからね。 この白虎同志はレイネア様の優しさとカリスマで出来ているのだと」


 そう目を伏せて、アムズは自身の胸にある気持ちを吐き出す。


「……俺は未熟者です。 たださえ人間である俺を拾っていただいたこの場所に俺は恩返しも力になる事さえも出来ていません。 ましてや皆に心配を掛けて、ずっと皆さんからの強さや優しさに甘え、依存しているクズです」


 そう言ってて、涙が出てきた。

 鍛錬を怠った事は五歳から初めて一度ない。

 魔法は全て無詠唱で唱えられるようにはなったが白虎同志は武器を大体使う傾向があるのに対し、アムズはいくら鍛錬を積もうとも武器を扱う才や努力の結果を生み出す事には至らなかった。

 盲目であるレイネアですら、魔力感知と鋭い触覚や耳で剣を振るうにも関わらずにだ。


「……比べなくても良いのです。 皆、まだまだ坂を登ろうとしている人達ばかりですし、アムズのように力を求めてここを去って強くなったら戻ってくる人もいればやはりここが心の故郷だと悟り戻ってくる方だっています。 それはあなたも同じ悩んで迷っていいんです。 あなたはまだ未熟。 だからこそ自分だけの熟した技を、知恵を、力を示して下さいね?」


 そう言ってアムズの頭をレイネアは撫でてくれた。


「う、うぅぅすみません。 レイネア様! レイネア様! ライッツオ様のお心を煩わせた未熟に嫌悪が俺は止まりません!」


 情けなく、子供のように泣きじゃくる。

 当たり前だ。

 アムズは十五歳の子供なのだから。

 レイネアはこの集落の聖女であり、母。

 その母の前で誰が強がりを言えるであろう。

 そうして泣きじゃくってアムズは眠ってしまった。




「おや? レイネア様?」


 するとライッツオがティーセットをお盆に乗せてやってきた。


「しーですよライッツオ。 今アムズが眠っています」


 そう言ってレイネアがアムズを膝枕してニコニコと笑っている。


「……レイネア様の膝を借りるとは軟弱ですな。 起きたら鍛錬を追加せねば」


 そう言ってライッツオが片目を瞑ってアムズを見る。


「ふふ。 やめてください。 ライッツオに対して謝りたそうにしてましたよ。 自分は未熟なのだと泣いていました」


 まるで子供の自慢をするようにレイネアはライッツオに話しかける。

 レイネアの言葉にライッツオも笑みを浮かべて頷く。


「ふ。 自省出来ているだけでも十分に未熟ではないと何故気が付かぬのか。 はぁ。 リビトに似て真面目が過ぎる奴になりましたなアムズは」


 いつもの温和な表情を崩し、威厳をもって言葉をライッツオは口にする。


「……ライッツオも影響あると思いますけど?」


「……それはどう言う事ですかな? レイネア様」


 レイネアが舌を出して揶揄う。

 その揶揄いに対してライッツオは困り顔を浮かべた。

 いつもレイネアの側近護衛を務め、白虎同志の冒険者達にさえ厳格なライッツオもレイネアに揶揄われる時は孫にイタズラされるお爺さんである。

 


「ふふ。 だってライッツオもハリネもリビトも姫を守る騎士のようになりますからね? それに倣ってアムズも頑張って勉強して、魔法覚えて、慣れない武器の扱いを覚えてふふ。 可愛い子ですね」


 そう言いながらアムズの髪をそっとレイネアは撫でる。


「……レイネア様。 アムズは人間百歳程度で死にますぞ?」


「……それはあなたも同じでしょうライッツオ。 あなたは死んで欲しくないだけでしょう? 友も家族も自身の技を伝授した弟子達にも」


「……そうですな。 私は長生きし過ぎて臆病になっているかもしれませぬなぁ」


「……落ち込ませたかった訳ではないのです。 だってそうしなければあんなに過激な鍛錬を皆に課さないでしょうに」


 どこまで穏やかな口調でレイネアが言葉を告げる。

 まるで懺悔する人を導く女神のような口調で淡々と言葉次々に出す。


「……まぁ。 私も三十歳ぐらいしか生きていない小娘ですがこのチームの誰よりも強いので死なないので安心して下さい。 て言うかもっと皆さんもたくさんおしゃべりしてもいいと思いますよ? イルズだってもう少ししたら帰ってきますから楽しくおしゃべりしてあげてくださいそしたらライッツオの不安なんて吹き飛びますよ?」


「………あの猪武者帰ってくるのですか!?」


 するとライッツオの顔が目を見開いて驚きの声を上げた。


「私に電話掛けて来ました」


 そう言ってレイネアはスマホを持ちながらひらひらと手を振るう。


「………あのレイネア様私魔獣退治か悪党共の駆除に行っていいですか?」


 全身冷や汗を掻きながらライッツオは自身の部屋から退場しようと扉に手を掛けたがものすごい圧を感じて振り返った。


「ダ・メ・で・す・よ?」


 笑みだった。

 殺気だった。

 圧だった。

 レイネアが笑みを浮かべてから両目を開く。

 青のハイライトの入っていない瞳がライッツオの全身を貫いた。



「……あのぉレイネア様。 私、お菓子を取りに行きたいと思っていましてな」


「……嘘言わないで下さい。 逃げないで下さい」


 ライッツオの苦し紛れの言い訳にピシャリとレイネアはノーを突きつける。


「……これからはちゃんと他のみんなともう少し関わってくださいね? 私だって盲目って言われてますけどうっすらとは見えますから」


「……それでも私はレイネア様が心配でして」


「……これでも?」


 いつの間にかライッツオの首筋に剣が当たっていた。


「……お見事」


 ライッツオは自身の敗北を悟って、目の前にいるレイネアに賞賛を贈る。


「これからは皆に優しく、そしてたくさんおしゃべりするように!」


「……はい」


 そう言ってレイネアの持っていた剣が消滅し、右手を腰に当て、左人差し指を立ててライッツオを叱る。

 ライッツオは聖女のわがままに頷く他なかった。




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