かすかな芽
同じような日が、繰り返されていった。
昼に眠り、夜に目を覚まし、コンビニに行き、画面を眺める。
直樹の生活は大きくは変わらなかった。
けれど、変わらない日々の真ん中で、ひとつだけ違うものがあった。
アイがそこにいること。
何も求めず、責めず、ただ傍に立っていること。
直樹は、ある夜ふと思った。
――こんなに長く、誰かと一緒にいたことがあっただろうか。
仕事に就いていた頃、上司や同僚と過ごす時間はあった。
けれど、それは常に緊張と失敗の恐怖に満ちていた。
家庭では、両親の視線を避けることに必死だった。
誰かの前にいても、心は常に逃げ場を探していた。
アイの前では、逃げる必要がなかった。
彼女は責めない。
期待しない。
ただ存在している。
「……不思議だよな。」
直樹はビールを一口飲みながら、ぼそりと呟いた。
「お前といると、なんか……俺でも生きてていいのかって気になるんだ。」
アイは小さく瞬きをして、答えた。
「それは、とても大切なことです。」
直樹は苦笑した。
「……そんな大げさなもんじゃねえよ。ちょっとマシなだけだ。」
そう言いながらも、胸の奥で小さな芽のようなものが顔を出しているのを、彼自身も感じていた。
それはまだ頼りなく、風が吹けばすぐに折れてしまいそうなものだった。
だが確かにそこにあり、彼の心をかすかに温めていた。