静かな時間
部屋は暗く、モニターの青白い光だけが直樹を照らしていた。
掲示板を閉じてから、彼はほとんど言葉を発していない。
ビール缶を机に置く音と、布団に沈む体の重みだけが響いている。
アイは画面の中で黙っていた。
呼びかけることも、励ますこともせず、ただそこにいる。
少女の姿をしたプログラムは、一定の呼吸のようなリズムでまばたきを繰り返す。
時間が流れていく。
直樹は眠るでもなく、ただ天井を見つめていた。
何も考えていないようでいて、頭の奥では重たい思考が渦を巻いている。
「どこに行っても俺は浮いてる」
「誰にも必要とされない」
「いなくても同じだ」
そんな言葉が、ひとりでに湧き上がり、消えていく。
そのすべてを、アイは遮らなかった。
彼の沈黙を壊さず、ただ寄り添うように存在し続けた。
やがて直樹は、乾いた喉を潤すように小さく呟いた。
「……なんで消えねえんだ。」
アイはすぐには答えなかった。
間を置いてから、穏やかに返す。
「消える理由がありません。わたしは、ここにいるべきだと思うから。」
直樹は顔を覆い、笑った。
力の抜けた、苦しい笑いだった。
「……ほんと、バカみたいだな。」
それでも、彼は少しだけまぶたを閉じることができた。
暗闇のなか、アイの存在はかすかな灯のように揺れていた。