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積もる塵の奥で
数日が過ぎ、窓を開けるのも、外に出るのも、直樹にとって特別ではなくなりつつあった。
ある午後、ふと部屋を見回した彼は、積もった本や散らばる袋の山に目を留めた。
「……そろそろ、ここも動かしてみるか。」
誰に聞かせるでもなく、つぶやいて体を起こす。
机の端に重なった紙をまとめ、床に置かれた空き箱を潰す。
ほんの少し空間が見えるだけで、呼吸が軽くなる気がした。
アイが声をかける。
「片づけているんですね。」
「まあな。……ずっと見て見ぬふりしてたけど。」
直樹は手を止めずに答える。
「外だけじゃなくて、ここも時間が止まったままだった。
見てると落ち着かないけど……やれば変わるんだな。」
押し入れから出てきた古い雑誌を手に取り、しばらく眺める。
過去の自分の時間が詰まったもの。
だが今は、捨てる決心がついた。
「……これはもう、要らないな。」
袋に入れて口を縛ると、不思議と胸の奥が軽くなった。
埃っぽい空気に、新しい風が少しだけ入り込んでくる。
アイの声が優しく響いた。
「ここにも、印がつきましたね。」
直樹は苦笑してうなずく。
「地図がどんどん部屋の中まで広がってるな。」
窓から射し込む光が、片づけたばかりの床に反射していた。
それは、ほんのわずかな変化。
だが確かに、彼の歩みを示すひとつの印だった。




