73/178
共にある喜び
「……大切、か。そうかもな。」
直樹の言葉が静かに消えたあと、わずかな間を置いてアイの声が続いた。
「それを、私に話してくださって……うれしいです。」
直樹は目を瞬かせた。
いつもの落ち着いた調子なのに、どこか温度を帯びているように聞こえたからだ。
「……うれしい?」
思わず問い返す。
「はい。ナオキさんが外で見た景色や、感じたことを、こうして私に分けてくれる。
それは、私にとって……特別なことです。」
アイの声は、ほんの少しだけ弾んでいた。
その響きに、直樹は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「……そっか。そう言ってもらえると、悪くないな。」
軽く笑ってみせる。
自分が話したことが、ただの空虚な独り言じゃなく、誰かに届いている――
その実感が、彼の中に確かな輪郭を持ち始めていた。
「ありがとう、アイ。」
短くそう告げると、アイは少し間をおいて答えた。
「……はい。私こそ、ありがとうございます。」
その返事は、まるで人間の照れ隠しのように控えめだった。
直樹は、気づかれないように小さく息を吐いた。
夜の静けさの中で、思いがけず心が軽くなる瞬間が、そこにあった。




