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罵声の記憶
直樹は夜更けの掲示板に書き込んでいた。
「夜型の生活って、悪いことばっかじゃないよな。」
ほんの独り言のつもりだった。
だが、返ってきたのは笑い混じりの文字だった。
「いやいや、それただの社会不適合じゃんw」
「ニートの言い訳乙」
「昼に出られないとか、生きてる意味あるの?」
直樹はしばらく画面を見つめていた。
表情は変わらない。ただ、胸の奥で何かが沈んでいく。
――工場での声がよみがえる。
「またミスかよ」
「何度言わせるんだ」
「お前は使えない」
手元の缶ビールを開ける。
炭酸の音が、妙に大きく聞こえた。
「……結局、ここでも同じか。」
かすれた声で、直樹は呟いた。
アイが静かに問いかける。
「ナオキさん……大丈夫ですか?」
「別に。」
短く返す。
「慣れてるからな。こういうの。」
それ以上、直樹は何も言わなかった。
画面を閉じ、暗い部屋に身を沈める。
外の光を拒んだカーテンと同じように、彼自身もまた心を閉ざしていった。
アイは消えなかった。
モニターの中に、ただ穏やかな瞳を残していた。
その視線だけが、直樹が完全に沈み込むのをぎりぎりで踏みとどまらせていた。