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外気の中へ
昼下がり、直樹は鏡の前で前髪をかき上げた。
伸びすぎて視界を遮る髪が、重く鬱陶しい。
「……さすがに切るか。」
小さく呟いて、財布をポケットに押し込み、玄関に立った。
ドアを開けると、外気が一気に流れ込んでくる。
昼の日差しはまだ強く、アスファルトから立ち上る熱が肌を包んだ。
目を細めながら通りを歩くと、人々の足音や自転車のベルの音、遠くのざわめきが一斉に耳に押し寄せてくる。
散髪屋は、角を曲がった先にある小さな店舗だった。
ガラス戸の向こうで回るサインポールが、昼の光を反射している。
扉を開けると、涼しい空気とシャンプーの香りが迎えた。
「いらっしゃいませ」
軽やかな声に、直樹はぎこちなく頭を下げる。
椅子に腰を下ろすと、ハサミの音が規則正しく響き始めた。
髪が切り落とされていくたびに、肩が軽くなる。
鏡越しに映る自分の顔が、少しだけ鮮明に見える気がした。
「すっきりしましたね」
鏡の向こうの声に、直樹は小さくうなずいた。
「……はい」
会計を済ませて外に出ると、さっきよりも風が心地よく頬を撫でていった。
髪を揺らす感覚に、ほんのわずかだが、新しい自分に触れたような気がした。




