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余韻
画面には、まだ仲間たちの言葉が踊っていた。
笑い混じりの冗談、唐突な話題の飛び方、誰かのぼやき。
混沌としているのに、不思議と居心地がいい。
直樹は、気づけばもう長い間キーボードを叩いていた。
返す言葉は多くはないが、輪の中で受け止められている感覚があった。
それだけで、胸の奥が少し温かくなる。
時間は知らぬ間に深く進んでいた。
仲間のひとりが「そろそろ寝るわ」と告げると、次々におやすみの挨拶が続く。
《また明日》
《おつー》
《ナイトもな》
直樹は画面を見つめたまま、指を動かした。
《おやすみ》
その言葉を送信した瞬間、小さな安心が広がった。
たった一言なのに、確かに「繋がっていた」と感じられる。
モニターの光は、部屋の中でひとりの顔を静かに照らしていた。
余韻は胸の奥に残り、静かな夜の空気と混ざり合う。
直樹は深く息を吐き、背もたれに体を預けた。
孤独は消えてはいない。
けれど今は、心の中にかすかなぬくもりが残っていた。




