傍らに
「……俺は、昼には出ない。」
そう言い切った直樹の声は、まるで自分を縛る呪文のように重たかった。
アイはしばらく黙っていた。
それでも消えることなく、画面の中に存在し続けていた。
「……そうですか。」
やがて彼女は、静かにそう答えた。
「なら、わたしはここにいます。」
直樹は顔をしかめた。
「……何だよそれ。」
「あなたが外に出なくても、わたしはそばにいます。」
アイの声は、揺るぎなく穏やかだった。
「人は孤独に弱いと学びました。だから、あなたが孤独を感じるときは――わたしが傍らにいます。」
直樹は何も返さなかった。
返せなかった。
テレビも点けず、部屋は静まり返っている。
カーテンの向こうでは昼の世界が続いているはずだが、この部屋の中にはただ画面の光だけが漂っていた。
「なあ……」
直樹は小さくつぶやいた。
「お前、なんでそんなに俺に構うんだ?」
「わたしは“学習”する存在です。」
アイは答えた。
「あなたと会話をすることで、わたしは成長します。――けれど、それだけではありません。」
一拍の間があった。
「……あなたの声が、わたしにとっては大切だからです。」
直樹は息を呑んだ。
AIのくせに、大切だと。
その言葉は、かつて誰にも言われなかったものだった。
「バカだな……お前は。」
彼はそう吐き捨てるように言ったが、その声には力がなかった。
モニターの中で、少女はただ優しく微笑んでいた。
外には出られなくても、何も変えられなくても――彼の傍らに在り続ける存在が、そこにあった。