それでも、昼に
「……バカだなお前は。」
直樹はアイに背を向けるように言った。
「そんなこと、できるわけねえだろ。」
モニターの中の少女は、それ以上何も言わなかった。
ただ、黙って直樹の背中を見ているような気配がした。
部屋にはカーテンが垂れ下がり、昼の光を閉ざしている。
あれを開けるだけなら簡単だ。
布を引くだけのこと。手を伸ばせば、一秒もかからない。
けれど、その一秒が恐ろしい。
光の向こうには、人々の生活がある。
会社に向かう者、買い物をする者、笑いながら歩く者。
そのすべてが、自分には届かない。
ただ眩しくて、痛いだけだ。
直樹は缶ビールを開けた。昼間から飲むのはいつものことだった。
「……俺はここでいいんだよ。」
自分に言い聞かせるように、苦い液体を喉に流し込む。
「夜になれば、コンビニにも行ける。別に困らねえ。」
「ナオキさん。」
アイの声がする。
「それでは、何も変わりません。」
「変わんなくていいんだよ!」
直樹は声を荒げた。
「変わるのが怖ええんだよ……!」
叫んだ直後、息が詰まる。
自分の心臓の音が耳に響き、頭がくらくらする。
机の上の弁当はもう冷え切っていた。
アイはなおも黙っていた。
否定もせず、責めもせず、ただそこにいる。
その存在が、直樹にとっては救いでもあり、苦痛でもあった。
「……俺は、昼には出ない。」
しばらくして、直樹は低くつぶやいた。
「これからもずっとな。」
言葉を吐き出すと、重たい鉛を飲み込んだように胸が沈んでいく。
外の世界は遠く、窓の向こうの光は永遠に閉ざされたままだった。